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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第4章 ワンダフル・ワールド
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4-13

引き続き、

第4章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 初めてツキとあったとき、ツキは巫女装束に似た衣装をまとっていた。

 そっと、柄を握るアキラの手に、ツキの手が重ねられた。

「斬るのはあなたです」

 ツキの言葉に、アキラは目蓋を閉じる。

 斬る、そのイメージを作り上げる。

 あの時、帝国の王宮では斬れた。しかし、それは半身とはいえレインがいたためと思っていた。そうではなく、斬るのはアキラ自身の意志だった。トゥースピックの時もそうだ。その手にしているのが、なまくら、いや木の棒であったとしても、斬ろうと言う意志があれば斬れるのだ。

 ただし、アキラは自分がその域まで達しているのかという懸念があった。

 手にぬくもりを感じる。

 目蓋を開ければツキの顔があり、優しく微笑んでいる。

 大丈夫だと、ツキは頷いた。

「リーネ、結界を斬るから、サソリ型が攻撃してきたら防いでくれ」

「わかった!」

 両手を挙げて返事をしたリーネは、アキラが斬ると言った言葉を疑おうともせず、元気よく応えたが、ライラやスノウ、ラルセルは懐疑的な表情を浮かべている。いかにアキラが優れた剣士とはいえ、見えない物は斬れないだろうと。

 リーネを伴って結界の間際に戻ったアキラは、大太刀をリーネが作ってくれた剣帯から抜き、鞘を持ち、柄に手を添える。

 左右に足を開き気味にして、腰を落として重心を下げ、斬るべき何もない空間に視線を向けて、集中力を高めていく。息を飲んで皆が見守る中、リーネが手に魔方陣を浮かべて防御の用意を始めていた。

 ツキがアキラの背に近づく。

 アキラは背にツキの手の平から伝わるぬくもりを感じた。

 刹那。

 抜刀は緩慢に行われた。白刃の軌跡が光る。決して早いものではない。誰の目にも追える速度で大太刀は振るわれていく。

 一閃、二閃、三閃、そして四閃。

 目には見えなくとも、四角く空間にあった結界が切り裂かれた事が、見ている皆には感じられた。

 すかさず、結界の内部から光りがほとばしるが、それはリーネが腕を振って作り上げたシールドが防ぐ。

 シールドを全面にしてもらい、アキラは結界の中へと飛び込み、そのままサソリ型との距離を詰めて、改めて大太刀を一閃した。

 真っ二つになるサソリ型。

「リーネ!探知してくれ」

「始めてる!」

 シールドがまばゆい光を上げてレーザーを防ぐ中、背後にリーネを従えたアキラがリーネの指示に従い、次々とサソリ型を斬っていく。

 やがて、もう大丈夫とのリーネの言葉に、アキラは納刀し、リーネは魔方陣を消したのだった。

 ライラが信じられないものを見たと、結界に開けられた穴を見つめている。何を斬ったのだ。いや、結界という壁、膜そのようなものを斬ったのは分かっているが、目には見えないのだ。

 アキラが中へと入るように促し、ライラに続いたスノウが呟いた。

「……、あのアキラという人は、(えにし)とかも斬ってしまいそうです」

「馬鹿なことを。そんなことが出来たとしたら、もうすでに人ではないでは……」

 スノウの言葉を笑い飛ばそうとしたライラだが、その言葉はすべて口にすることは出来なかった。

 人ではないなら、何者か。大精霊か?ドラゴンか?いや、そのような気配はない。そして、ライラとスノウは気づいたのだ。だから、アキラという人は恐ろしいのだと。

「今は考える時ではない。サイン様だけを考えよう」

 そのライラの言葉にスノウは頷くしかなかった。

 全員が結界の中に入ったが、アキラはラルセルに砂浜で荷物や船を見ているように命じた。このまま同行させて、見せたくないことも起こるであろうからだ。一人で逃げ出す事もないだろうと、判断してのことだ。

 枝と下生えを掻き分けて森を進む。はっきりとサインのいる場所が分かっている訳ではないが、結界の内部へ一歩足を踏み入れると、サインの気配が感じられ、進むべき先を示していた。

「何か、変だよ」

 結界に入り、森を進みだしてから、リーネに落ち着きがなくなっていた。さかんに周囲に視線を向けている。最初は気にかけていたアキラ達だが、そのリーネ本人が変だという原因が分からないというので、やがては気にしなくなっていた。

 先頭を歩いていたアキラとブルーが、人の背丈ほどの崖を見つけ、その一部がぽっかりと穴が空いているのも見つけていた。

 立ち止まったアキラが、一息をついて呟いた。

「あそこみたいだな」

 それにうなずき返すブルーだが、次の瞬間に叫んだ。

「来るぞ。たぶん三本足だ!」

 その言葉が終わらぬうちに、地面が揺れて地割れを作り始めた。

 盛り上がる土は、木を根っこから持ち上げて倒していく。

 アキラ達は、その場から逃げて距離を開け、アキラは抜刀に備え、リーネは幾つもの魔方陣を周囲に浮かべていた。

「ライラとスノウは初見だ。自分を守ることに専念してくれ」

 アキラの言葉に分かったと返したライラとスノウが、更に盛り上がって行く土から距離を開けた。

 土埃舞う中を、地中からゆっくりと立ち上がる姿。まさしく、ログハウスを破壊した三本足だ。地中では足を曲げていたのか、堅い表面の見かけによらず、柔らかくしなやかに三本の足を伸ばして立ち上がっていく。エイの頭のような左右では触手がうねうねと蠢いていた。

「気をつけろ、もう一体来るぞ」

 地面の震動は続いている。そのブルーの言葉通り、二体目の三本足が姿を現した。その二体目の立ち上がるのを守るように、一体目が三角の頭の先からアキラ達目がけて光線を打ち出した。

 飛んで後方に下がったアキラ達の足下を光線が薙いだ。

「二体か、やっかいだな」

 自分を狙った光線を、抜刀した刃で防いだアキラが呟く。すでに、ブルーとツキは更に後方へと下がっており、リーネは魔方陣の数を増やして、アキラと自身をシールドで守り始めた。

 二体であっても、とにかく各個撃破しかないと、リーネのシールドを当てにして、一体目に向かって間合いを詰めるアキラ。足底が地面を抉って踏み込み、光線を防いだシールドが放つ光芒の中で剣を振るう。

 後方から付き従うリーネを気にしつつも、一本の足を切断して、三本足の真下へと潜り込んだ。ここならば同士討ちを恐れて、うかつに撃ってこないはず。実際、二体目はアキラ達を狙わず、後方に下がったツキ達を狙い始めていた。

 スノウが懸命に魔方陣を浮かび上がらせて、シールドで光線を弾いているが、リーネとは違って危うさがあった。

「もっと下がれ、もっとだもっと」

 潜り込んだ三本足が、自分の身体の下に触手を伸ばして叩きつけてくるのを防ぎながら、アキラは下がれと指示を送る。

 砂浜目がけて走るライラ達を、三本足の二体目は追う事はなく、アキラ達に注意を向けて、触手を伸ばしてくる。ただ、アキラは目の端でツキだけがその場に残っていることを見た。

 なぜと思うが、二体目が向かっていく様子もないため、この場は考えないことにする。

 叩きつけられる触手はシールドに阻まれており、二本目の足を切断すると同時に、リーネが光の矢を次々と三角の頭に向かって放ち始めた。

 残った一本では、さすがに立っていられず、傾いでいく異形は三角の頭を爆発させつつ地面に倒れていく。すかさず、下敷きにならぬよう、後方のリーネを脇に抱えて二体目へと向かう。「ひゃー!」というリーネの悲鳴がアキラにも聞こえるが、ここはしばらく我慢して貰うしかなかった。

 先ずは一本目とばかりに、脇に抱えたリーネを下ろして、大太刀を肩の上に構える。担ぎ上段から、踏み込みつつ間合いを詰め、袈裟懸けに刃を振ろうとしたとき、背中が泡立つ感覚に襲われる。

幼女もどき:「私が守る!」

社畜男:「いつもいつも、すいません」

わんわん:「…………」

私斬る人、あなた守る人。

とでも言いたいか、わんわん。


次回、明日中の投稿になります。

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