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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第4章 ワンダフル・ワールド
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4-12

引き続き、

第4章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 船中で一泊した後、船室から甲板に出てみると、そこにはツキとリーネの姿があった。どうやら、一晩寝たら大丈夫だったらしく、リーネが元気いっぱいでアキラの胸に飛び込んできた。

「島が見えてきたよ」

 リーネが指差す方向には、島影があった。

 地図は見ていたが、実際にその目で見ると、よほど大きく見える。

 風に頼ることがないためか、ぐんぐんと島に近づいて行く。

 船は出航した港よりは、かなり規模の小さな港に向かっていた。

「思っていたより小さな港だな」

 これから、更にサインのいる島へと渡らなければならないのだが、無人島であるために航路がなく、船を手に入れなければならないのだ。

 そのアキラの不安を感じたのか、近くにいたラルセルが寄ってきた。

「昨日、伝書鳥を飛ばして船の用意を頼んでおいた。自分で操る必要があるけど大丈夫か?」

 他の獣人や人を乗せてサインの島に渡るわけにはいかない。

 アキラが大丈夫かとリーネに視線をやると、大きく頷く姿があった。

「昨晩の内に、精霊にやり方を確認しておいたから大丈夫」

 どうやら、精霊頼みになるようだ。

 本当に、精霊様々だとアキラは思う。ある意味、職人とかが育たない環境ではあると。しかし、それを一歩進めるとペノンズやディアナのような存在が生まれるのだがと。


 埠頭に船が着く。

 降り立ったアキラ達を、ラルセルが手配していた獣人が出迎えのために待っており、船が用意出来ていると伝えてきた。さっそく乗り込んでサインの島へと向かうことにしたが、何やらツキとリーネが騒いでいた。

 埠頭に下りたリーネが、まだ船に乗ってるみたいだと騒ぐのを、ツキがやれやれとばかりに引っ張ってきた。

「すぐに船に乗るから大丈夫」

 ツキは謎理論を展開してリーネを落ち着かせようとしている。関わると面倒になる予感しかないアキラは、黙々とラルセルと二人で荷物を積み込むのだった。

 この島からは、サインの島は近い。ここから道案内を予定しているライラとスノウの二人によれば、それほど時間をかけずに着くはずだと。道案内とはいっても、実際に行ったことはないので、あくまでも地図を見ての予測ではあったが。ただ、ここらには小さな島が多いために、地図はあっても現在地を知る方法がないので、最後は精霊達に頼るしかないのだが。

 ただ、そうはいってもサインの巫女であるライラとスノウがいて、竜の巫女姫のリーネとツキがいるのだ。迷うことはないとアキラは思っていた。ふと、ブルーの視線に気づいたアキラ。

「いや、ブルーも頼りにしているさ」

 その言葉に、ブルーが目に見えて機嫌を良くするのだった。もちろん、アキラは本心を言葉にしたわけではない。


 船を乗り換えて、ごく僅かな時間。

 一行は小さな島の砂浜に降り立っていた。

 アキラは砂浜に両手両膝を着けて項垂れていた。

「……まさか、最後の最後でブルーの世話になるとは」

 そう、島は結界に覆われていた。そのため巫女達の感覚が役に立たず、この辺りと見当をつけて探したのだが、発見出来なかったのだ。そこで役立ったのが、ブルーの記憶だった。

 実は、ブルーはこの辺りの上空を何度か飛んだ経験があり、地図をみて正確なものだと感心をしていたのだ。そして、いよいよ見つけられないとなった時、ブルーは地図とあたりの風景から今いる場所を割り出したのだ。

 現在地が分かれば、サインの島は判明している。あとは簡単なものだった。ブルーの上から見た光景を、水平に置き換える能力が役立ったというわけだ。

 どや顔のブルーが苛つくアキラ。

 アキラ以外の者達はすべてブルーをさすがにドラゴンと持ち上げている。そんな様子に、たまにはこういうことがあってもいいかと、自分に言い聞かせるアキラだった。


 サインの島は、海上から見たとおり結界に覆われ、侵入を阻んでいた。僅かに上陸した砂浜だけがその結界から外れているに過ぎない。半島のように島から飛び出したような地形が幸いした。

 結界を解除しようと、リーネが精霊に働きかけるが、精霊が張ったものではないためか出来ずにいた。そうなると思い出されるのが、水晶(クオーツ)を覆っていた結界だ。ただ、あの時は他者の侵入を拒むというより、隠蔽のために張っていた。ならば目的は若干違ってはいても、ブルーならば入っていけるのではと試したところ、やはりリセット期間で力を失っているためなのか、入る事は叶わなかった。

「あの時は格好良かったのに」

「仕方ないだろ!」

 多量のレーザー照射を浴びても、訳なく歩む姿をアキラは思い出していた。

「まぁ、犬だしな」

「犬扱いするな!」

 とりあえず、再び役に立たないことが分かって、アキラは結界に近寄れる際まで歩み寄った。すると、目前に広がる森の中で動くものがいる事に気づく。

 じっと目を凝らす。

 それは以前見たもの。

「サソリ型のやつだ」

 水晶(クオーツ)の回りにいた、あのサソリ型と同じような物体を一つ、アキラの目が見つけていた。あの時と同じく、レーザーを浴びせられるかと身構えるアキラだが、今回はじっとアキラ達を見ているだけで、何もしようとはしなかった。

水晶(クオーツ)を囲んでた時とは、状況が違うからか?」

 目を細めて、サソリ型を見つめるブルーが呟く。確かにあの時は、水晶(クオーツ)を囲んで他を寄せ付けないようにしていたが、今回は結界の中で入ってくるものを警戒しているかのようだ。

 先ずは結界をどうにか破る必要があったが、破った瞬間に例のレーザーの集中射撃を浴びてはたまらない。

 とりあえずは、一旦退くことにして、リーネ達のもとへとアキラとブルーは戻った。

 結界は精霊とは関係なく張られているとリーネは説明するが、一度体験しているアキラ達と違って、初めて見聞きする人狼姉妹とラルセルにはあまり理解が出来ないようだった。どうしても結界は精霊の魔術で張るものという先入観が抜けないのだろう。

「では、結界の解除は無理なのでは?」

 そのスノウの言葉は、この世界では当然のものであった。張った原因が分からないようでは解除のしようもないのだから。

 一行に手詰まり感が漂い顔を伏せる中、ツキだけが顔を上げてアキラを見ていた。

「結界と表現するから悩むのです。あちらとこちらを隔てる、見えない壁と考えましょう。こう表現すれば、方法を思いつきはしませんか」

 アキラを見る視線は、以前斬った事があるだろうとも語っていた。

 アキラは思い出す。

 シルの張った結界を斬った時のことを。

「しかし、あの時は半身とはいってもレインがあった」

「私の佩刀が信じられませんか、レインよりも」

 アキラは腰の大太刀に目をやり、柄を手で握った。初めてその柄を握ったときの事を思い出す。トゥースピックとの戦いのさなかに、ツキより手渡されたときを。そして、あの身体すべてが意のままに動く万能感を。

「この剣にもツクモガミが宿る、いや宿っているというのか?」

 そのツクモガミという単語に反応したのはスノウだ。伝承では聞いたことがある。理論的にはあり得ることも知っている。だが、あり得ないだろうと思っていたスノウは、問いただそうと口を開きかけるが、アキラとツキの間に漂う雰囲気に言葉を発することが出来なかった。

(たま)宿りとは、その(つるぎ)を信じるが時。その強き想いに応えし」

社畜男:「びっくり」

幼女もどき:「びっくり」

銀髪:「ワタシハ、シンジテイマシタヨ」

わんわん:「……いや、分かっていたよ」

いじられ慣れてきたようだ。


次回、明日中の投稿になります。

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