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引き続き、
第4章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
宿のパンフレットによると、この町には近くの漁師達が集まって商いをしている市場があると書かれていた。町そのものを見て回るのも良いのだが、宿から近いということもあり、そちらを見て回ることにした。
魚や潮臭いかとアキラは思っていたが、一歩市場の開かれている通りに足を踏み入れるとそんな事もなかった。よほど清潔にしているのだろう、これならば安心出来るというものだと、きっとリーネは何かを食べたがるだろうから。
案の定、もっとも売られている魚貝の類いに興味を示したのはリーネだ。
普段の生活圏である内陸では、あまり流通していない、したとしても高価で店頭に並ぶこともないからだ。
並んでいるものの名を聞いて、次に調理方法を尋ねるなど、リーネらしいと言えた。
「えっ、生で食べるの?」
「ああ、もちろんさ。お嬢ちゃんは食べた事はないのかい」
「お肉とかで、半生っていうのはあるけど」
そういえば、ストライプディアーの肝を生で食べると美味しいと話したときは、リーネとツキは若干だが拒絶反応を示していたことを思い出した。やはり、生の魚、アキラにとっては刺身という調理方法だが駄目なのであろうか。
「まあ、機会があれば挑戦すればいいさ」
無理して食べる必要はないとアキラが言ってやると、リーネは明らかにほっとしていた。どうやら、この場で挑戦するつもりでいたようだ。
まさか、魚をそのままばりばりと頭から食べることをイメージしていたのではなかろうかと、アキラはふと思いつくが、それを頭を左右に振って打ち払う。
「少し、干物を買っておきましょう。保存食に出来ますし」
旅の途中で食べるつもりで、ツキが幾種類かの干物を選んで買っていく。どうやら、アキラにとっては、旅の途中の楽しみが増えたようだ。
そして、市場も終わりに近づいた時、ふとアキラの鼻を刺激する匂いがした。
ふらふらとそちらに誘われるように向かっていくアキラ。その様子に首を傾げて続くリーネとツキ。
アキラがたどり着いたのは一軒の屋台。どうやらスープを売っているようで、老いた獣人が寸胴鍋をかき混ぜていた。
「おっちゃん、それはもしかして……」
「おっ、人にしては珍しい。気づいたかい、協同国でも最新の料理、味噌スープだ」
「おっちゃん!それ一杯!」
「あいよ!」
木の椀に注がれた味噌スープをアキラは受け取り、鼻腔一杯にその匂いを吸い込む。
「ああ、味噌の香りだ」
よくよく考えてみれば、アキラは海外赴任から戻って、何も食べずに実家に戻って、そのまま転移してきたのだ。
どれほどぶりであろうか。
拝むようにして持った木の椀からスープをすする。
「おおっ、昆布だしだっ!」
「兄ちゃん、よくぞ気づいた!俺の工夫って訳じゃないが、最近のこの町の流行さ!」
さすがに箸はなかったために、スプーンでほぐした具を口にする。煮込まれた魚に野菜が絡んで舌を刺激する。
「おっちゃん、具も最高だ!」
アキラの言葉にがははと豪快に笑う店主。そこまで行くとリーネとツキも黙っていない。私たちもと店主にスープを要求する。
「ちょっと塩っぱいけど、美味しい!」
「食べ慣れない味ですが、確かに美味しいです」
どうやら使用されている味噌は、悪くならないように塩分過多で造られているようで、リーネには塩辛く感じたようだ。しかし、アキラにとっては、子供の時に近所のばあちゃんが作っていた味噌を思い出させる塩加減だった。
これはぜひともライラとスノウから、罪滅ぼしの代価として頂かねばとアキラは決心する。
アキラにとっては懐かしく、リーネとツキにとっては新たな味覚に舌鼓を打ってから、宿へと戻るのだった。ちなみにアキラは二回おかわりをして、計三杯飲み干した。
宿に戻って、さあ夕食となったのだが、そこで出されたのが刺身だった。
ラルセル曰く、町の名物で特別に用意させたとのことだ。アキラはもちろん問題なく美味しくいただき、ツキは一口食べて美味しいと感じたのか、瞬く間に食べつくしていた。そして、リーネは刺身を前にしてしばらくうんうん唸ることになったのだった。
ちなみに、最終的にはリーネも食べて美味しかったとのことであった。醤油とわさびがあったので、当然といえば当然、問題は見た目と食感だけであるのだから。
アヌビアス族長協同国 定期航路 船上
刺身を堪能した翌日、朝早くに出港した定期航路の船上にアキラ達の姿はあった。すでに港からは遠く離れており、陸地はかすかに見えるような距離にあった。
精霊馬と馬は港の一角にある馬房に預けられ置いてくることになった。連れて行ってもサインの島では乗る余地がないためであった。預かり所のような施設が用意されていることから、アキラ達のような場合も頻繁にあるのだろう。
精霊馬達に帰ってくるからと安心させたリーネ。
それより問題は陸に残してきた馬達ではなく、リーネにあった。
海が初めてなら、船に乗るのも初めてらしく、船酔いにやられて甲板で大の字になっている。船室で寝ておけばとツキが言うが、どうやら閉鎖された空間が駄目らしい。風に当たっている方がマシなのだと。
船は帆船ではなく、魔術で推進しており揺れが少ないのだが、まったく無いわけではない。ブルーの背中の方が上下する分よほど揺れている。
「ブルーの背中で空を飛んでも、大丈夫なのにな」
「……ブルーの背中とは、全然違う……」
どうやら、揺れ方が違うとリーネは言いたかったようだが、似たようなもんだとアキラは首を傾げる。恐らくは、リーネはブルーを信頼しているという、感情的なものが影響しているだろうとアキラは思うことにする。
意外と大丈夫なのがスノウで、今も簡単な治療をリーネに施していた。スノウ曰く、気休め程度だというのだが。
慣れてしまえば大丈夫なのだが、今度は陸に上がったときの感覚に悩まされることになるはずで、いわゆる陸酔いというものだ。
リーネに何もしてやれないアキラは、甲板に設けられた手すりにもたれかかって風景を眺めていた。すると、リーネの世話をしていたツキが、その横に並んだ。
「リーネは大丈夫か?」
「慣れるしかないので、寝かせておきましょう」
風がツキの銀色の髪をなびかせる。それを手で押さえるが、毛先が揺れて海特有の陽光がキラキラと輝かせていた。それに気づいたアキラは見惚れるようにツキの毛先を見つめていた。
その視線にツキが頬を染める。
「珍しいものでも見るみたい」
「ああ、月光みたいだ」
「……ありがとう」
アキラの言葉に礼を言うツキだが、先の表情に比べて少し暗さがそこにはあった。
その反応に、名前に月の文字があるのだから、喜んでもらえると思っていたアキラは、少々失敗したかと思うのだが、取り繕う言葉が出てこない。
二人の間には沈黙が流れる。
それを破ってくれたのがラルセルだった。
昼食だと、サンドイッチを詰めたバスケットを持ってラルセルがやってきた。
「行きましょう」
「そうだな」
アキラとツキは、沈黙を誤魔化すように言葉を交わしてその場を離れていった。
幼女もどき:「……前に、わんわんからもらったのを飲んだときと一緒だ」
わんわん:「…………」
社畜男:「何を飲ませた、そして何をしようとした?」
わんわん:「……まさか、コーヒーを飲んで、酔うとは……」
社畜男:「グ○グ○ガ○モかよ!」
……古い……。
銀髪:「ご○う○」
あったね、そういうことも。
次回、明日中の投稿になります。
いつもの時間から、
前後するかもしれません。
ご容赦のほど願います。




