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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第4章 ワンダフル・ワールド
82/219

4-10

引き続き、

第4章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

アヌビアス族長協同国 海辺

 砂浜に着いていた。

 この砂浜の先にある港から、まずは島に渡る予定だ。ライラ達姉妹が教えるサインのいる島は無人島であり、一旦近くの島まで定期航路で渡る予定をしていた。

 ブルーを介して、ローダンに連絡をとってペノンズに事情を話しもらい、守護地(フィールド)に戻ってディアナと一緒に作業を継続して欲しいと頼み、フロレンティーナに伝令を走らせる。

 そして、人狐は族長たるミッチェル、人狼はライラを族長代理として手打ちを行った。両種ともに石の強奪、ツキを拘束した償いとして、さまざまな便宜をアキラ達に払うことを約束した。もちろん、スカイドラゴンたるブルーの存在が大きかったので、ブルーはどや顔を見せていたが、リーネに自慢は駄目だぞと「めっ!」と怒られてしまい、逆に今は項垂れていた。背中の水晶(クオーツ)が哀愁をにじませている。

 今度の旅についても、信奉しているサインのためであり、全面的な協力を約束している。

 色々と雑事と連絡を済ませた後に出発したため、旅路も含めてルーミーの館での出来事から結構な日数が経過していた。

 ミッチェルは旅の細々とした事を助け、案内のために息子のラルセルをアキラ達に同行させていた。ラルセルとは初対面でこそ最悪のものであったが、こうして旅を一緒にしてみると、なかなかの好人物である事がわかった。

 砂浜を精霊馬で進んでいると、アキラの後ろに座っていたリーネが叫んだ。

「水がいっぱーい!」

 そういえば、ツキは色々と旅をしていたために、何度か船にも乗ったことがあると語っていたが、リーネは海を見るのは初めてだと言っていた。

「知ってるか、海の水は塩っぱいんだぞ」

「えっ、本当なの?」

 振り返ったアキラは、目を丸くして驚いているリーネの顔を見つけていた。どうやら、海とは湖を大きくしたものだと思っていたらしい。

 その様子が微笑ましかったのか、スノウが馬上からリーネに声をかけた。

「ええ、本当ですよ。ですから、飲むと喉が渇くんですよ」

「嘘だー。水を飲んで喉が渇くなんて!」

 その時、アキラは後方で風が広がるのを感じた。あわてて振り返ってみると、リーネが自分の黒い獣の羽を広げている。初めてリーネの羽を見た、人狼姉妹やラルセルが驚き、彼と彼女たちが乗っている馬も突然のことに狼狽えるように足並みを乱したため、懸命に手綱を操って落ち着かせようとしていた。

 ふわりと精霊馬のスプライトの背から飛び上がったリーネが、宙を舞って海へと向かっていく。慌てて精霊馬達を操り、後を追うアキラとツキ。ブルーは犬の本能が導くのか、砂浜を掘っていたが。

 波打ち際に舞い降り、靴を脱いで足を波で濡らしたリーネ。ワンピースの裾をたぐってしゃがみ込むと、片手で救った海水を口に含んだ。

 背中の羽がはたはたとと振れていたが、それがピンっと立った。

「塩っぱーい!」

「だから、言っただろう」

 アキラはスプライトに括り付けた荷から水筒を取り出し、リーネに渡してやる。それを受け取り、一口含んだリーネはぺっぺっと吐き出した。

「まだ塩っぱい」

 そのしかめた表情がおかしくて、皆が笑顔を浮かべる。

 改めて、アキラと羽を仕舞ったリーネがスプライトにまたがり、砂を踏んで港へと向かう。

 その途中、アキラは前にいたラルセルの横にスプライトを並べると声をかけた。

「船にはすぐに乗れるか?」

「大丈夫だ。定期航路は何隻かで運航しているから、一日一便は出ている。明日には必ず乗れるはずだ」

 そうかと返事をしたアキラは次にスノウを見た。先は元気そうにリーネに声をかけていたが、それは皆に心配をかけないためで、本当は疲れ切っていることをアキラは知っていた。だから、すぐに船に乗るのではなく、一泊でも宿で休めることに安堵する。

「天気も良さそうだ。運休はないだろうさ」

 空を見上げたラルセルに頷き返すアキラ。最初はラルセルもアキラにどう話せば良いのか分からなかったらしく、ギクシャクしていたが、今では普通に話せている。リーネやツキは信奉している竜の巫女姫であり、砕けて話して欲しい言われていても、どこかに遠慮があるのが分かる。しかし、アキラとブルーの関係がよく分からず、どう対応していいのか、分からなかったのだ。

 普通に話せているということは、何かが吹っ切れたか、慣れたのだろう。

 アキラが後ろでまだ「口の中が塩っぱい」と言ってるリーネを気にしていると、ラルセルが突然声を上げた。

「港が見えてきたぞ!」

 その声に、アキラ達はラルセルの指差す方を見る。精霊馬と馬が進むにつれ、恐らくは灯台か物見の塔らしきものが、先端だけから徐々に全容を見せ始め、港町も目に入ってきた。

 埠頭には船が停泊しており、多くの人々が荷を運んでいるのが見えた。あちらこちらで、細く煙りが上がっているのは魚を焼いて商っているのだろう。

「なかなか賑わってそうだな」

 そのアキラの言葉に、ライラとスノウ、ラルセルの獣人達が大きく頷いている。どうやら農耕と牧畜ばかりでなく、海運が盛んなのも獣人達の自慢の一つのようだった。


 港町に入り、まずは宿をとった。族長のラルセルが町一番だという宿へと案内する。すると、すでにミッチェルから伝書鳥か何かで連絡があったらしく、玄関で馬から下りていると、支配人らしき恰幅の良い獣人が奥から出てきて、一行を出迎えた。

 手綱を従業員に預けると、荷物も何も持たずにそのまま部屋へと案内されてしまう。アキラはリーネとツキと同室で、寝室が二つある部屋に案内された。ライラとスノウも同室で、ラルセルは他の一つの部屋を使う事になる。

 一旦は各々の部屋に入るが、すぐさまアキラ達の部屋に全員が集まった。

 精霊馬や馬に括り付けてあった荷物が運び込まれる中、先ずは船のチケットを手配してくるとラルセルが部屋を後にした。どうやら、自分がいては相談もしにくいだろうと気を遣った様子だ。

 ラルセルを見送った後、アキラはスノウに大丈夫かとたずねる。この先を進む上で、体調を確認する事は重要なことだ。場合によってはここに残すことも考えねばならない。

「お気遣いありがとうございます。幸い、私は治療魔術の心得がありますので、今夜一晩かけて回復に努めます」

「治療が使えるのか。ならば大丈夫か」

 スノウは体力が他人よりない分、親であるサイモンから命じられて、魔術を学ぶ際には治療から始めさせていた。

「それよりも、この先の島について話しをさせてください」

 言われて否もないアキラは先を促した。

 この港町もそうだが、今から渡る島は、どの種が支配しているというものはなく、獣人というくくりで管理をしている。そして、サインのいる島だが、そこからはそう遠くはない無人島だとスノウは告げた。

「実際に私たち姉妹が訪れた訳でないですが、地形についてはサイン様からうかがっていますので、案内は出来ます」

「それは助かるな。サインの島には俺も行ったことはないからな」

 ソファーに寝転んだブルーが尻尾を振って応える。その尻尾をリーネが捕まえようとしていたが、巧みに避けているブルー。

「恐らくは、今から向かう島で船を手に入る必要がありますが、ラルセルに任せて大丈夫でしょうか」

 ツキの言葉に、アキラは視線を天井に向けて考え込む。そして、僅かの間の後にツキに視線を向け直す。

「そのあたりは任せて大丈夫だろう。思っていたより、使えるようだし」

「そうだと良いのですが」

 そう言葉にするが、ツキの表情を見ればあまり心配そうではなかった。確認のために言葉にしただけであろう。

「とにかく、旅の後だ。休める時に休んでおこう」

「えー、町を見てみたい!」

 ブルーの尻尾を捕まえたリーネが、その尻尾をふりふり声を上げた。

 確かに、リーネの言うとおり、せっかくの機会だ。町を見てみたいとアキラも同意し始めていた。

「わかった、ちょっとだけな」

 わーいと両手を挙げて喜ぶリーネ。ツキにアキラがどうすると聞くと、当然のように同行すると応え、ライラとスノウは部屋で休んでいると返してきた。

 そんなやりとりの中、ラルセルがチケットの手配を終えて部屋に戻ってきた。

 アキラが町へ出ると告げると、ラルセルは案内したいが、他にも手配したいものがあるので同行できないと詫びてきた。

 一瞬、何かあるのかとアキラは勘ぐるが、ブルーとツキが大丈夫だろうと視線を送ってきたので、考えるのを止めた。

「それじゃ、出かけるか」

 さっそく立ち上がったリーネの手には、部屋に配布されていたパンフレットが握られていた。さすがと思うアキラだった。


銀髪:「海の水を飲むと、喉が渇きますよ」

幼女もどき:「本当に?」

社畜男:「本当です」

わんわん:「本当だ」

幼女もどき:「……信じられるわけないもん」

胸に手をあてて、考えましょう。


次回、明日中の投稿になります。

いつもの時間から、

前後するかもしれません。

ご容赦のほど願います。

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