4-9
引き続き、
第4章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
アキラ達が通された応接室は、意外といっては何だが、まともだった。そして、これまた意外だが上手にノーミーが入れたお茶を全員で飲んでいた。そのノーミーにソファーの上で抱きしめられているブルーだが、嫌そうな、面倒そうな表情を浮かべて口を開いた。
「お前、忙しいんじゃなかったのか」
「忙しいよー。ここに来たのも、用事があったからさ。この後フロレンティーナに行くつもりだったの」
意外なノーミーの言葉に、ライラとスノウが驚きの表情を浮かべる。そのノーミーの視線がスノウに向けられる。
「スノウ、あんたさー、だいぶ弱ってきてるでしょ。だから、会っておこうと思ってさ」
その言葉の意味。
「私は、もう長くは持ちませんか?」
「いつ、とはあーしも分かんないけどね」
さっきまでの緩んだ表情は消え去り、真面目な表情を浮かべるノーミー。少し力を込めてブルーを抱きしめる。
長くを生きる大精霊にとって、もうすぐとまだ先は人の基準で判断出来ない。精霊にとっては時間は曖昧だ。
「獣人はあーしに良くしてくれる。大事に思ってる。特にスノウはあーしに優しくしてくれたし、話しても楽しい。ちょっと真面目すぎるけど。他の獣人はあーしが話し出すと逃げ出すけど、スノウはいつもにこにこして聞いてくれる。会っておこうと思ってフロレンティーナへ行こうかなーと思ってたら、なんか、ブルーとかツキやリーネ、ライラやスノウの気配がするじゃん。だから、ここに来た。で、さっきまでお風呂に入ってたのさ。そしたらその男に裸見られた。ブルー、金とって良い?」
じっとノーミーを見つめていたスノウの目から、ポロリと涙がこぼれる。それをライラが取り出したハンカチで拭い、そっと手を握りしめる。スノウの生は長くはないと言われていたが、大精霊に告げられるとなると、また更に悲しみが増す姉妹だった。
「それじゃ、俺らと会うつもりだったのかよ。言ってたことと違うじゃねーか」
「ブルーとは会うつもりはなかったよ。スノウに会いたかったの。だから、あーしは忙しい。って、あーしの裸を見たのって、もしかしてシルとかローダンとかリータの言ってたアキラ?って、よく見たらアキラじゃん。アキラなら見せてもいいかー。もっと見る?すごいよあーし。ってか知ってるか、見たもんね」
頭が痛い、抱え込みたいとアキラは思った。確かにブルー達が言うようにウザい。話題があっちこっちに飛ぶばかりか、支離滅裂だ。というか、大精霊にはどんなネットーワークがあるのだと。
とにかく、いたのならば聞くことは聞いておかねばならない。
「ノーミー、教えてくれ。サインが眠ったままになっているそうだ。何か知ってるか?」
「ごめん。それあーしも分かんない」
そう言って、ぷるぷると頭を左右に振る。サインに連絡しても返事が返ってこないし、行こうとしても、何かの結界が大きく張られており、移動することすら出来ない。心配だとノーミーは紆余曲折して話すのだった。
「手詰まりか」
ノーミーに会うことによって、何かの進展があるかと期待していたが、それも潰えた。ため息をついたアキラはソファーに身体を預けて天井を見上げた。
すると目の端で考え込むツキの姿が見えた。
ブルーを抱きしめ、いいこいいこと頭を撫でているノーミーにツキが視線を向ける。
「何故、サインを起こしておいた方がいいのですか?」
そうだった。ブルーが連絡をしたときに、予言めいたことをノーミーは付け加えていたとアキラは思い出す。
「ん?分かんない?」
抱きしめられ、その上背中の水晶が邪魔をして身動きのとれないブルー以外が首を左右に振る。
「サインはね、本当を言うと寝てるんじゃないの、裏返っちゃって止まってるの。サインは農耕っていう行為の精霊だよ。その精霊が裏返っているっていうことは、農耕に関してすべての事が負に働くんだよ」
「そういうことですか。だから、天候不順などの天災も起こるのですね」
「さすがはツキ。よーく分かってるじゃん」
つまりはとアキラもノーミーの言葉を理解した。天気も気温も農耕に関して言えば、すべてがサインが関与している、悪い方向へ導いているのだと。
「誰がそんな事を。サインは大精霊なんだよな。それを裏返すなんて」
「アキラも賢いね。そう、大精霊に影響を及ぼすのは、大精霊かそれ以上の存在」
その場にいる者すべてが言葉を失う。
過去に精霊が人や獣人に悪しき事を行うことはあった。ただ、それは理由あってのこと。では、今回は何が理由なのか。大精霊にまで手を付けるほどの事を精霊、あるいはそれ以上の存在が行ったのか。
「それ以上の存在……。まさか星の精霊……」
「それはない。星の精霊ニアは眠っている。それは確かだ」
スノウのつぶやきを、即座に否定するブルー。
「ならば、大精霊が我らを罰しようとしているのか」
そのライラの言葉に、答えを持たず、誰もが口を閉ざした。
予想以上の話しになったとアキラはため息をついた。
あまりにも重い、もう一人の大精霊を起こす起こさないの話しではない。このままでは、災厄の被害は広がり続けるだろう。その原因も大精霊の一人ゴサインだと分かった。そこまで考えたとき、アキラはこの世界が結構気に入りだしていることに気づいた。いつか、宿の窓から見た夜景。王都、帝都、商都の風景。今は崩れてしまったログハウス。守護地の湖。
アキラは思い出していた。
そして、それらの風景、人や獣人の営みが愛おしい。
ならば、すべきこと、なすべきは分かっていた。
心の中で、アキラはレインに詫びる。話しを聞くのはもう少し先になるけど、許してくれよと。
「それじゃ、サインの様子を見に行くか」
アキラの言葉に、リーネとツキが頷く。ライラとスノウが立ち上がった。ブルーはノーミーに抱きしめられて何も出来なかったが、視線でそうだ、それでいいんだと告げていた。
「ラルセル、ミッチェルに連絡。人狐に協力を頼む。人狼と人虎にも連絡を」
「はっ!」
「ライラ、スノウ、着いてくるか?」
人狼の姉妹は床に膝をつけ、アキラに頭を垂れる。
「どこまでも」
「いつまでも」
アキラは大きく笑った。大げさだなと。
J○?:「獣人はあーしに良くしてくれる。(中略)ブルー、金とって良い?」
わんわん:「Zzz」
社畜男:「Zzz」
J○?:「……殴っていいよな?」
ご自由に。
次回、明日中の投稿になります。
ただし、いつもより、
ちょっと早いか、
ちょっと遅いかもしれません。
ご容赦のほど、
願います。