表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第4章 ワンダフル・ワールド
81/219

4-9

引き続き、

第4章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 アキラ達が通された応接室は、意外といっては何だが、まともだった。そして、これまた意外だが上手にノーミーが入れたお茶を全員で飲んでいた。そのノーミーにソファーの上で抱きしめられているブルーだが、嫌そうな、面倒そうな表情を浮かべて口を開いた。

「お前、忙しいんじゃなかったのか」

「忙しいよー。ここに来たのも、用事があったからさ。この後フロレンティーナに行くつもりだったの」

 意外なノーミーの言葉に、ライラとスノウが驚きの表情を浮かべる。そのノーミーの視線がスノウに向けられる。

「スノウ、あんたさー、だいぶ弱ってきてるでしょ。だから、会っておこうと思ってさ」

 その言葉の意味。

「私は、もう長くは持ちませんか?」

「いつ、とはあーしも分かんないけどね」

 さっきまでの緩んだ表情は消え去り、真面目な表情を浮かべるノーミー。少し力を込めてブルーを抱きしめる。

 長くを生きる大精霊にとって、もうすぐとまだ先は人の基準で判断出来ない。精霊にとっては時間は曖昧だ。

「獣人はあーしに良くしてくれる。大事に思ってる。特にスノウはあーしに優しくしてくれたし、話しても楽しい。ちょっと真面目すぎるけど。他の獣人はあーしが話し出すと逃げ出すけど、スノウはいつもにこにこして聞いてくれる。会っておこうと思ってフロレンティーナへ行こうかなーと思ってたら、なんか、ブルーとかツキやリーネ、ライラやスノウの気配がするじゃん。だから、ここに来た。で、さっきまでお風呂に入ってたのさ。そしたらその男に裸見られた。ブルー、金とって良い?」

 じっとノーミーを見つめていたスノウの目から、ポロリと涙がこぼれる。それをライラが取り出したハンカチで拭い、そっと手を握りしめる。スノウの生は長くはないと言われていたが、大精霊に告げられるとなると、また更に悲しみが増す姉妹だった。

「それじゃ、俺らと会うつもりだったのかよ。言ってたことと違うじゃねーか」

「ブルーとは会うつもりはなかったよ。スノウに会いたかったの。だから、あーしは忙しい。って、あーしの裸を見たのって、もしかしてシルとかローダンとかリータの言ってたアキラ?って、よく見たらアキラじゃん。アキラなら見せてもいいかー。もっと見る?すごいよあーし。ってか知ってるか、見たもんね」

 頭が痛い、抱え込みたいとアキラは思った。確かにブルー達が言うようにウザい。話題があっちこっちに飛ぶばかりか、支離滅裂だ。というか、大精霊にはどんなネットーワークがあるのだと。

 とにかく、いたのならば聞くことは聞いておかねばならない。

「ノーミー、教えてくれ。サインが眠ったままになっているそうだ。何か知ってるか?」

「ごめん。それあーしも分かんない」

 そう言って、ぷるぷると頭を左右に振る。サインに連絡しても返事が返ってこないし、行こうとしても、何かの結界が大きく張られており、移動することすら出来ない。心配だとノーミーは紆余曲折して話すのだった。

「手詰まりか」

 ノーミーに会うことによって、何かの進展があるかと期待していたが、それも潰えた。ため息をついたアキラはソファーに身体を預けて天井を見上げた。

 すると目の端で考え込むツキの姿が見えた。

 ブルーを抱きしめ、いいこいいこと頭を撫でているノーミーにツキが視線を向ける。

「何故、サインを起こしておいた方がいいのですか?」

 そうだった。ブルーが連絡をしたときに、予言めいたことをノーミーは付け加えていたとアキラは思い出す。

「ん?分かんない?」

 抱きしめられ、その上背中の水晶(クオーツ)が邪魔をして身動きのとれないブルー以外が首を左右に振る。

「サインはね、本当を言うと寝てるんじゃないの、裏返っちゃって止まってるの。サインは農耕っていう行為の精霊だよ。その精霊が裏返っているっていうことは、農耕に関してすべての事が負に働くんだよ」

「そういうことですか。だから、天候不順などの天災も起こるのですね」

「さすがはツキ。よーく分かってるじゃん」

 つまりはとアキラもノーミーの言葉を理解した。天気も気温も農耕に関して言えば、すべてがサインが関与している、悪い方向へ導いているのだと。

「誰がそんな事を。サインは大精霊なんだよな。それを裏返すなんて」

「アキラも賢いね。そう、大精霊に影響を及ぼすのは、大精霊かそれ以上の存在」

 その場にいる者すべてが言葉を失う。

 過去に精霊が人や獣人に悪しき事を行うことはあった。ただ、それは理由あってのこと。では、今回は何が理由なのか。大精霊にまで手を付けるほどの事を精霊、あるいはそれ以上の存在が行ったのか。

「それ以上の存在……。まさか星の精霊……」

「それはない。星の精霊ニアは眠っている。それは確かだ」

 スノウのつぶやきを、即座に否定するブルー。

「ならば、大精霊が我らを罰しようとしているのか」

 そのライラの言葉に、答えを持たず、誰もが口を閉ざした。

 予想以上の話しになったとアキラはため息をついた。

 あまりにも重い、もう一人の大精霊を起こす起こさないの話しではない。このままでは、災厄の被害は広がり続けるだろう。その原因も大精霊の一人ゴサインだと分かった。そこまで考えたとき、アキラはこの世界が結構気に入りだしていることに気づいた。いつか、宿の窓から見た夜景。王都、帝都、商都の風景。今は崩れてしまったログハウス。守護地(フィールド)の湖。

 アキラは思い出していた。

 そして、それらの風景、人や獣人の営みが愛おしい。

 ならば、すべきこと、なすべきは分かっていた。

 心の中で、アキラはレインに詫びる。話しを聞くのはもう少し先になるけど、許してくれよと。

「それじゃ、サインの様子を見に行くか」

 アキラの言葉に、リーネとツキが頷く。ライラとスノウが立ち上がった。ブルーはノーミーに抱きしめられて何も出来なかったが、視線でそうだ、それでいいんだと告げていた。

「ラルセル、ミッチェルに連絡。人狐に協力を頼む。人狼と人虎にも連絡を」

「はっ!」

「ライラ、スノウ、着いてくるか?」

 人狼の姉妹は床に膝をつけ、アキラに頭を垂れる。

「どこまでも」

「いつまでも」

 アキラは大きく笑った。大げさだなと。


J○?:「獣人はあーしに良くしてくれる。(中略)ブルー、金とって良い?」

わんわん:「Zzz」

社畜男:「Zzz」

J○?:「……殴っていいよな?」

ご自由に。


次回、明日中の投稿になります。

ただし、いつもより、

ちょっと早いか、

ちょっと遅いかもしれません。

ご容赦のほど、

願います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ