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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第4章 ワンダフル・ワールド
76/219

4-4

引き続き、

第4章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 簡単な食事を終えると、周囲の警戒を精霊達に任せて、アキラ達は僅かな時間眠りについた。途中、起こされることもなく、眠りから覚めたときには全員が疲れがとれている状態であった。

 しっかりと顔と手を魔術で出した水で洗ったアキラは、人狐の町に視線を送る。

「動きは無いか?」

「そうでもないよ。もう見つかってるみたいだよ」

 起きてさっそく遠見の魔術で町を見ていたリーネがアキラに教える。その横では、スノウが同じように魔術を使っているが、こちらは自分たちの周囲に焦点を当てているようだった。

「ええ、何人かが近くの草むらに潜んでいますね」

 やはりそうかと、アキラはスノウにありがとうと縦に首を振って合図した。

 その二人の様子に、ライラも周囲の気配を伺う。

「先手を取るか?」

「いや、大した気配でもないから、罠だけ注意して町へ進もう」

 手早く荷物を片付けて、自分の肩に担いだアキラを先頭にして、町へと進む一行。潜んでいた者達も、それに合わせるかのようにして移動を始めた。

 しばらくすると、アキラの耳が風切る音を捉えた。

 素早く片手を動かし、飛来してきた矢を指に挟んで止めた。片手に三本の矢があった。みれば、ライラの手にも同じように矢が挟まれている。

 アキラの背にはリーネの背が触れており、アキラに守られつつ、アキラの後ろを警戒しているのだ。一方、ライラはスノウを抱え込むようにして守っていて、ブルーは座り込んで、後ろ足で耳を掻いていた。

 かさりと、葉擦れの音がアキラ達の周囲でしたかと思うと、数人の人狐が草むらから立ち上がっていた。

 アキラと町の間には、族長の息子ラルセルが立っている。

「ふん、矢で魔力が剥がれていれば良かったものを」

 面倒くさそうに、ラルセルはアキラに視線を向ける。

「忌み色が二人だと。験の悪いことだぜ」

 けっと唾を地面に吐き捨てる。

「さっさと石をそこに置いて去れ」

「ツキはどうなる?」

「知るかよ」

 そのラルセルの言葉が終わらぬうちに、周囲の草が風に吹かれたようになびいた。

「そうか、知らぬ者なら殺しても大丈夫だな」

 いつの間にか、ラルセルは魔力が剥がれており、自分の首筋に刃が当てられていることに気づいた。慌てて前に逃げようとするも、一つ動くだけで自分の首が両断される事を理解し、大人しくなった。

「貴様、こっちには人質がいるんだぞ!」

 唾を巻き散らかして叫ぶラルセルだが、ふと周囲を見て唖然とする。

 すべての人狐が地に伏していた。ライラが口の端を上げて笑う。

「何を期待している。皆、寝ているぞ」

 そんな訳はなかった。すべての人狐がアキラとラルセルが会話を交わしている僅かの時間に、魔力を剥がされ、気を失わされていたのだ。

「お前は人狼のライラか?」

「ほう、今頃気づいたか。ミッチェルは不肖の息子だと言っていたが、多少の記憶力はあるようだな」

 ラルセルとて獣人の一人。族長同士の付き合いもあって、筆頭族長の娘で拳聖であるライラは知っている。逆にライラも同様だ。

「くそっ、なんでお前までいるんだ!」

「ああ、尻拭いだ」

 ライラの言葉をすぐには理解出来なかったのか、ラルセルが間抜けな表情を浮かべる。

 さて、この男をどうしたものかとアキラはラルセルの首筋に刃を当てつつ考える。別に必要もないので、人質にするつもりはないが、気になることを口にし始めた。

「ウルはどうした。奴が来るはずだぞ」

 アキラとライラが視線を交わす。

 ラルセルの首からアキラは刃を外して、鞘に納めて棒立ちだったラルセルの背を押して地に膝をつかせた。

「どうやら、ウルの言う伝手とはお前だったか」

「そうだよ。俺がウルと親父を繋いでたんだよ」

「で、ツキはどうするつもりだったんだ」

 背中から浴びせられる殺気を感じて、ラルセルの背に汗がびっしりと浮かび上がった。獣人として自分たちの町に居る時の習慣として、ラルセルはショートパンツしか身につけていなかった。

 恐る恐る振り返るラルセル。

 そこには柄に手をかけているアキラが立っている。

 視線で射貫かれ、身動きはもちろん、口を開くことさえ出来なくなった。

「もう、駄目だよアキラ」

 そこに現れたリーネが、アキラの腕を揺さぶる。

「怯えてるじゃない」

 そして、ラルセルに向かって微笑みかける。

 その笑みに救われるかのようにほっとしたラルセル。

「ツキはどこなの?案内してくれる」

 その言葉を合図にするかのように、アキラが鯉口を切る。剣に詳しくないラルセルであっても、それが抜刀の初動だという事は理解している。

 そんなアキラの手を、リーネが優しく包む。

「もう、焦っちゃ駄目でしょ。ここで教えてもらえないと、町の中で人狐さん達を斬って回らなくちゃいけないんだから」

 そんな事は面倒でしょうとリーネが笑う。

 二人の会話に、先に聞いていたツキの言葉が重なる。

 ラルセルは思い返す。族長のミッチェルの前で、あの女は確かに言った。「人狐が滅びる」と。それがいま実感としてラルセルに襲いかかってきた。

 これは本当に親切心だぞとライラが前置きして話し始めた。

「実際にやるぞ、あの二人は。そして、あの二人は私よりも強い」

「あいつ、剣聖かなにかか?」

 身体を震わせているラルセルの言葉に、ライラは顔を左右に振る。

「私にも分からん」

 まごうことなく拳聖であるライラの言葉、しかも嘘やはったりを言う質では無いことは、ラルセルも族長の息子として付き合いがあって知っていた。

 斬ろう斬るなと言い合うアキラとリーネに視線を向けたラルセルは、ここに至ってガクリと項垂れた。

「…………案内する」

 その言葉に、リーネはにっこりと笑い、アキラはやれやれとため息をつくのだった。


 ラルセルを先頭にして、町へと向かう。それに続いていたアキラにライラが耳打ちした。

「飴と鞭か?」

 本当は優しい警官に怖い警官なんだが、そう言っても通じないだろうとアキラは黙って頷く。それよりも、一種迫力のある美形なライラに顔を寄せられてドギマギしていた。案の定、腕を掴んで歩いていたリーネがむーと頬を膨らませていた。

 そんな二人の様子に、後ろに続いていたスノウがクスリと笑う。

「本当に仲がよろしいようで」

 そう言えば、ライラとスノウと初めて出会った時も、伴侶云々という誤解をされたなとアキラは思い出す。確かにリーネはアキラにくっついている事が多いが、端から見ればそう見えるのかと首を傾げる。

 前を行くラルセルが、近寄ってきた警備と思しき獣人に、客人の案内だと誤魔化す様子を見つつ、アキラは考える。リーネとツキ。二人ともいつの間にか大事な存在になっていた。

 だが、アキラはそれ以上を考えない。考えてはいけないと自分に言い聞かすのだった。

 ラルセルは一旦街道に出てから、町の正門とも言うべき場所から中へと入っていく。検問らしき施設はあったが、ラルセルの合図一つで何事もなく通過が出来た。

 町の中を歩きつつ、アキラは呟く。

「良く考えられている。一見して何もないようだが、道が侵入速度を遅くさせるようになっている」

 大きな道に面して建物は建てられているものの、ほとんどの入り口は脇の細い道に面している。その大きな道も蛇行し、時折カギ型に折れており真っ直ぐと進めるようにはなっていない。

 つまり、この大きな道は人狐の敵にとっては死地なのだ。

 進行速度を落とされ、左右の壁からは矢などで狙い撃ちにされる。侵入されることを前提に作られた町なのだ。壁を作らずに町を守るための知恵である。

「ふん、少しは分かるようだな」

 ラルセルが皮肉めいて答えるが、それには応えずアキラはリーネにたずねた。

「リーネはこの町だったらどうする?」

「どーん、って真っ直ぐな道を作って進む」

 その言葉を聞き、振り返って唖然とした表情を浮かべるラルセル。そう、リーネは魔術で建物や何もかもを潰して、安全な道を作って侵攻するというのだ。

「アキラは?」

「トップへ駆けていき、斬って終わり」

 さらに理不尽を言うアキラに、ブルーが足をぺしぺしと叩く。どうやらあまり言ってやるなと。そして、アキラはラルセルや人狼姉妹の顎が外れるかのような表情に気づくのだった。

 一つ咳払いして誤魔化すアキラ。

「まだ遠いのか」

「政庁は町の真ん中だ。もうしばらく歩いて貰う」

 平静を装い、ラルセルが言うには、ツキはその政庁に捕らわれていると。リーネがどんな様子かと尋ねるが、清潔な部屋に十分な食事、それに話し相手のメイドまで付けていると聞いて満足げに頷く。

 そんなリーネに、ラルセルはほっと胸をなで下ろす。親父は間違っていなかったと。


社畜男:「ぶっ殺す!」

幼女もどき:「駄目だよー。(ぶっ殺す!)」

馬鹿息子:「ぷるぷる」

あふれ出る想い、ダダ漏れだよ!


次回、明日中の投稿になります。

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