表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第3章 Reach
72/219

3-23

引き続き、

第3章を投稿いたします。

よろしくお願いいたします。

 交渉が中断した以上、アキラとスノウは話すこともなく、伝令から報告を受けているライラを見ていた。

 すると、ライラの視線がアキラに向けられると、先の獣人が慌ててアキラに向かって駆けてくる。

「ライラ様が、伝令の報告を一緒に聞いて欲しいとのお願いです」

 その言葉に、アキラはリーネとブルーに顔を向け、一緒に聞こうと誘う。

 二人と一頭でライラのもとへと向かう。そのライラは険しい表情だ。

「先の報告を繰り返せ」

 ライラが命じると、伝令の人狐が話し始めた。

「我らの族長からの言葉、女は預かった。返して欲しくば石を渡せ。我が町で待つ」

「期限は?」

「日が十沈みしまで。それまでは女は大事にいたしましょう」

 つまり、その後は命の保証はないと言うことかと、そう考えたアキラは大太刀を抜き放っていた。それをリーネが腕を掴んで止めた。ライラに抜き手を見せなかったアキラ、そのアキラの腕を掴んで止めたリーネ。どこまで化け物なんだと、ライラは顔を青ざめさせる。

「生かして返しましょう」

 リーネの諭すような言葉に、刀を収めるアキラ。だが、その唇からは血が流れていた。刀を納めて空いた手は握りしめられ、手の平からも血が流れている。

 指でリーネはアキラの唇から流れる血を拭った。その指で、リーネは自分の唇を赤く染めた。

「言葉を持ち帰れ。その女ツキノナミダに毛ほどの傷をつけてみよ。その時は約束する。この男アキラと私リーネの二人で人狐を滅ぼすと」

 そのリーネの言葉に、嘘はないと理解したのはライラだけだ。間違いなく、その時は人狐という種は滅びると。

 近々うかがうとリーネが告げると、理解出来ない恐怖にかられて、人狐の伝令は転がるように去って行った。

 それを見送るアキラの手を、リーネが胸に寄せて抱く。ブルーが慰めるように、アキラの足にすり寄った。

 アキラは黙って人狐を見送っていたが、その姿が見えなくなるとスノウに向き直る。

「話しはツキが戻るまで中断だ」

 そして人狐の町の位置を教えろと伝える。言葉を紡ぐのに苦労するように、ゆっくりとした喋り。スノウはそれに頷くが、その間に割って入ったのがウルだ。

「人狐との交渉を任せて貰いたい。伝手がある」

 ウルへと踏み込んだアキラは、大太刀が抜けないことに気づいた、柄頭をリーネが手の平で止めていた。斬らせろと言わんばかりのアキラの視線に、ゆっくりと首を横に振るリーネ。そして、ウルに向き直る。

「人狼の襲撃、人虎の襲撃、そして人狐の誘拐。絵を描いたのはあなたね」

 アキラとリーネは謎の賢者、あるいはその代理人はウルではないかと考えていた。そして、今回の騒動の大本は、三本足でログハウスを破壊させたものではないか。つまり、災いが納められるのも方便であり、真の狙いは水晶(クオーツ)の入手であると。

「人狼を使ったのは、奉納させれば、それを奪うのは簡単。そして万が一を考えて、人虎と人狐を予備にした。そして狼狽え、愚かな振りをして機会をうかがっていた」

「何を根拠にして。不当だ!」

「ええ、証拠はない。ただし私たちはローダンを信じている。間抜けや馬鹿を次期支店長候補にはしないと。あなたへの報酬は何?金銭ではないのでしょう。これほどのことをしたのだから」

 じっとりとウルの顔に汗がにじみ始めた。物的な証拠はなく、状況だけを積み重ねた答えだが、確信をついていたようだ。

 このままでは不味いと思ったのか、ウルが身を翻すが、そこにはライラが立ちはだかっていた。

「身の潔白を証明してみせよ」

 その言葉に、逃れられぬと悟ったのか、ウルはがくりと膝を地に突いた。

「石を奉納しても、災いは止められない。賢者は石が欲しいだけだ」

 ウルはローダンが会頭から失脚しうるだけの秘密を教えて貰うことを報酬に、今回の騒動を起こしたという。ローダンが会頭から失脚すれば、財団(ファウンデーション)支店長のハートリーが会頭となり、空いた椅子がウルに転がり込むという算段だ。

「その結果、ツキが危険に身をさらされているのか」

 アキラがギリギリと食いしばった歯の間から、絞り出すようにウルへと言葉を投げる。

 ウルがライラにいきさつを話している間に、リーネがアキラの腕を牽いて、その場から離れていく。

「とりあえずは、助けに行こう」

「当然だ」

 アキラの言葉に、声が聞こえぬ距離が開いていることを確認したブルーが話す。

「ローダンには伝えておいた。ゴサインと連絡がとれないのも気に掛かる」

 連絡さえとれていれば、事はもっと簡単に済んでいたのにとブルーがぼやく。

「それも、今回の件と関係があるんだろう」

「なるほど、となれば奴の身も心配だ」

 しばらく二人と一頭は考え込む。

 しばしの無言の後、アキラが口を開いた。

「まずは人狐の町へ行ってツキを引き取ろう。あとはそれからだ」

 それしかないかと、リーネとブルーがうなずく。

 町の場所は人狼達に確認するとして、などと相談していると、ライラとスノウがアキラ達に近づいてきた。

 二人はアキラ達の前で深々と頭を下げる。族長の一族と言えば、獣人の王族とも言える。その姫君二人が土下座せんばかりに頭を下げている。だが、その理由を知るアキラ達の目は冷ややかだ。

「虚言に踊らされて、まことに失礼した。この責任は私にある。好きに罰してくれ」

「ツキを助けて、それからだ」

「その件ですが、私と姉さんも同行させてください」

「役に立つとも思えん」

 スノウの言葉に、吐き捨てるようにアキラが返した。かなり苛立っている様子に、宥めるようにリーネがアキラの背を撫でる。

 アキラの言葉に唇を噛むライラ。侮っていた者が、実はとんでもない実力者であったことは、ライラにとっては初めての事だ。もちろん勝てないと思ったのも。

「武力ではそうだが、後方支援が必要だろう」

 確かにとアキラは気を静めて考える。人狼の姫姉妹の言うことだ。手放しの信用を与えることは出来ないが、ある一定の範囲、例えば情報収集などでは役立つことであろう。

 アキラはリーネとブルーを見るが、一人と一頭は大丈夫だと視線で語りかけていた。

「解った。ただし、ザロとその手下は使うな。ウルもだ。奴らの処分は後でするから、どこかで確保していてくれ」

 アキラの言葉に解ったと返事をして、ライラは人狼と人虎達の一団へと歩いて行く。残ったスノウがもう一度頭を下げて、礼をアキラに言っていた。


 人狐の町に出発するのは、明日の朝ということになった。ザロとその手下、そしてウル、人虎達を護送する者達や、ライラが提案した後方支援の部隊を呼び寄せるのに、伝書鳥を飛ばしたりでかなりの時間をとってしまった。

 日が落ち始めた時刻になっても動く事が出来ず、疲労をとることからも、今晩は休んで明日の朝に出発する事にしたのだ。

 食事は人狼から肉の差し入れがあり、ステーキにしてリーネとブルーで食べたが、アキラは何一つ味がしなかった。ただのゴムを食うような感触だった。

 明日早くに出発しようと、早々に毛布にくるまる。ブルーを枕にしたリーネがくっついてきた。

「ツキ、ちゃんとご飯食べたかな?」

「ツキはしっかりしてるから、きちんと食べてるよ」

「寝る場所は清潔かな?」

「もちろんだ。キレイなところで寝かせていなかったら、人狐ぶっ殺す」

「そうだね、ぶっ殺そう」

 スプライトとスピリットは不安がってないかなーと心配し、いざとなったら精霊に戻って逃げてるよとアキラが応えると、それで満足したのか、リーネの寝息が聞こえてきた。

 アキラは毛布にくるまり、空を見上げる。

 今日も、シルバーは銀色を降らせていた。

これにて第3章の投稿を終了いたします。

次回からは第4章の投稿になります。


次回、明日中の投稿になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ