表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第3章 Reach
70/219

3-21

引き続き、

第3章を投稿いたします。

よろしくお願いいたします。

 一方、精霊馬に乗り、街道を国境へと戻っていたツキだが、あるところで立ち止まっていた。

 前方には人狐達が街道を塞いでいた。一度見た光景が繰り返されている。

 強行突破のために、周囲をうかがうツキ。森の中にも濃厚な気配があり、後方にも人狐が展開を始めていた。前とは違って、今度の人狐には殺気が感じられた。

 自分が無手であることは不利だが、生半可なものは佩こうとは思わないツキ。じっと隙をうがっていたツキの前に、人狐の族長ミッチェルが前に進み出た。

「まだ街道を閉鎖しているのですか」

「いいや、閉鎖などはあなたたちが通った後、解除したよ」

「それでは、この様子は私に用があると?」

「しかり、だな。理解が早くて助かる」

 ミッチェルは人の良い笑顔を浮かべるが、ツキは警戒の度合いを一段上げた。人狐達は一見一枚の壁で道を阻んでいるように見えるが、それは見せかけだけで、ツキの動き次第では、幾重もの壁が出来上がるように配置されていた。

 よほどツキを警戒しているようだ。

「さて、乱暴はしたくない。一緒に来て貰おう」

「嫌だと言ったら?」

「あなたの良い人が悲しむことになる。たとえ、あなたが生きていてもな」

 その言葉には人狐の強い意志が込められていることに、ツキは気づく。ここでツキを逃がすことがあっても、決してツキは五体満足ではないだろう。四肢をもがれようが、ツキは命さえあれば良いのだが、それではアキラが悲しむ。

 ならば、ここは大人しくしておくことにする。ただし、情報は得ておかなくてはならない。そのために、ツキは時間稼ぎのように口を開いた。

「街道を閉鎖したのは人狼のため。では、私を捉えるのは、誰のため?」

「応えるかと思ったか?」

「いいえ、応えてくれたらいいなと思っただけです」

 喉の奥で笑い声を上げたミッチェル。

「頭の良い女だ。まあ、いろいろと自分で考えてくれ」

 どうやら、一片の情報も出さない様子にツキはため息をつく。ツキは頭を働かせ、人狐も水晶(クオーツ)とは無縁ではないようだと考える。恐らく、謎の賢者とやらは、人虎ばかりでなく、人狐にまで情報を流したようだ。いや、賢い種である人狐のこと、人狼からの要請に何かを感づき、独自で調べ上げたのかもしれない。

 とにかく、ツキの身柄を確保しようとしていることで、ここに人狐までが水晶(クオーツ)の争奪戦に名乗りを上げたことになるのだろう。

 ここは従っておくことにしたツキは、ため息をつく。どうやらアキラ達には苦労をかけるようだ。自分は死を与える者で、与えられぬ身。ここを逃れたとしても、ただそれだけ。ならば、人狐と行動を共にしておいた方が、後々に役立つであろうと判断したツキ。

「で、どちらに行けば?」

 そのツキの言葉に、ミッチェルは僅かに目を見開く。感情が見えない男だが、この時ばかりは驚いた事が分かった。

「ついてこい」

 そんなミッチェルを追いつつ、ツキは自分の失策に気づいた。

 どうやら警戒させすぎたようだと。


 都市とまで行かずとも、水晶(クオーツ)は人虎の支配する領域に入ってしまっていた。だが、もう目前までに距離は詰めていた。

 ライラは間違いなく、フォイルは他の人虎と合流しているはずだと言う。現に、先を進む速度が落ちているのは、手勢が増えてある程度安心出来る環境にあるのだろう。

 だが、その程度のことはと、リーネを背負ったアキラはさらに速度を上げる。追うライラが舌を巻くほどに。

 やがて、フォイルの周囲を固めているらしき人狼の背が見えてきた。その背の先には、フォイルがいるはずだ。繋がったラインも、水晶(クオーツ)はすぐそこにあると教えてくれる。

 背負っていたリーネを地面に下ろし、耳に口を寄せる。

「俺の後ろからついて来てくれ。俺とリーネへの防御結界と身体加速、俺が魔力を剥がすから、それを確認した奴への電撃。意識を刈って欲しい。大丈夫か」

「ええ、任せて」

 レインさえあればとアキラは思うが、今は無い物ねだりをしている暇はない。リーネと精霊達に負荷をかけることになるが、ここは頼らざるを得ない。

 そのアキラ達の会話を漏れ聞いたのか、ライラとスノウが顔を青ざめさせる。アキラとリーネへ各々への防御結界と身体加速、それと敵への電撃。これだけで五つの魔術同時発動になる。

「ライラとスノウはここで待機だ」

「……分かった」

 応えるライラはまさかといった表情を浮かべている。

 ライラを警戒しているブルーと視線を合わせた後、アキラは前を向き、大太刀の鞘を持って柄を握る。

 その時、鞘の中で白刃が静かに震えるのが感じられた。

 その手に伝わる感触に、アキラは眉を潜める。

「リーネ、何か感じるか?」

「うん、ちょっとツキが心配」

「そうか……」

 だが、ここで引き返すことは出来ない。

 一瞬、アキラはまぶたを閉じた。

「リーネ、今だけを考えよう」

「分かった」

 そう言って、リーネが大きく両手を挙げて、そのまま下ろしていく。その手の動きを追うように、六つの魔方陣が描き出された。防御結界を二重に張ったために、想定より二つ魔方陣が多い。呼びかけに応じた精霊が集中しすぎ、お互いの干渉によってリーネの手の平が光を覆い始めた。

 そのリーネの姿を見たライラとスノウが愕然とし、膝を地につける。

「これが竜の巫女姫……。尋常ではないぞ」

「まさしく、ドラゴンの代弁者……」

 ライラは今こそ知った。自分が見誤っていたことを。恐らく、リーネは平凡を装うことが出来るのだ。実戦をよく知っている。しかも駆け引きまでも。ならば、アキラはどうか?その答えが今解る。

「行くぞ」

 地を抉るようにして蹴ったアキラの身体が、前方へと駆け出す。それに僅かに遅れて、ワンピースの裾を翻してリーネが続く。もう隠れている必要はない。真っ直ぐ敵を斬るだけだ。

 人虎達は、後方で起こった爆発音に振り返る。敵襲とばかりに身構えようとする。

 アキラはぶつかる枝が閃切れる音も、地を足底が叩く爆発音も気にかけずに駆ける。そして、振り返った人虎達がまだ半身だけが後ろを向いている状態で、次々と刀を振るっていく。

 刀の一閃ごとに、人虎の魔力が剥がれ、そこにすかさずリーネが電撃を放つ。うめき声すら上げることは出来ず、人虎達が地に伏していった。

 それはまるで作業であった。アキラが魔力を剥がす、リーネが電撃を放つ、人虎が地面に倒れる。工程が決まっているかのように、順次こなしていく。

 フォイルを中心にして、ぐるっと一回転して、リーネが待つ、人虎達へと突入したところへ戻ったアキラ。すぐさま、身体を捻って地を足底が抉る。

 飛ぶように、フォイルとの間合いを詰め、抜き払っていた刀を担ぎ上段から袈裟に斬りつけた。

 配下達が倒れ伏す間に、フォイルは地に水晶(クオーツ)を下ろして、構えを取っていた。肩口めがけて振り下ろされてくる白刃を、フォイルは拳で迎えうった。

 鋼に斬りつけたかのような金属音が、周囲に鳴り響く。

 フォイルとて拳聖。

 今の迎撃に力押しは無駄とばかりに、アキラはすぐさま後ろへと飛んで間合いを取った。すぐさま刀を青眼に構える。中段に構えるときに、正眼ではないのはアキラの癖だ。剣を教えた祖父が直そうとはしなかったため、そのまま癖として残っていたが、そもそも、アキラは中段に構える事が少ない剣士である。

「どうやら、ちょっとは使えるようだな」

「そうだな、ちょっとだけ人よりも上手く棒振りが出来るかもな」

 フォイルがにやりと笑い、追撃の姿勢を解いて全身に力を滾らせる。

 青眼でフォイルの追撃を牽制したアキラは、刀を肩の上に担いだ。

幼女もどき:「ダーリンのために、頑張るだっちゃ」

社畜男:「いや、そういうのは、いいから」

その通りです。


次回、明日中の投稿になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ