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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第3章 Reach
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3-20

引き続き、

第3章を投稿いたします。

よろしくお願いいたします。

 水晶(クオーツ)を欲しているものがいる。それも恐らく、落下前からだ。

 ならば、その賢者は水晶(クオーツ)が落下する以前から、それをゴサインに奉納すれば災いが収まることを知っていたのか。

 だが、それならばなぜそれをアキラ達に告げずに、ザロに告げたのか。アキラ達には知られたくない、何かがあるためか。

「一つ確認だ、ザロ。お前は何のために、その情報をライラに渡した」

「もちろん金のためだ」

 なるほど、うなずける話しだ。ここで民のためと言われたら、対処のしようにも困るというものだ。

「それで、なぜ襲撃をした。ライラに情報を売って、それだけでも良かったんじゃないか」

「それは、私が答えよう」

 ライラがザロの代わりにと話しを引き継ぐ。最初、ザロがアキラに買取を打診したのは、ライラが望んだからだ。これは平和的に事が済めばという、ライラの配慮だったが、これが出来なかったために、強奪という手段に出たのだが、すぐに使える者がいなかったため、ザロを巻き込んだのだと。

「だから、今回の件に関しては、すべて私の責任だ」

 命じたのも、仕組んだのも自分の責任によってなされたとライラは言い切った。

 しかし、その言葉の流れにアキラは違和感を感じる。

 どこか、出来すぎているような。

 ならば、なぜ人虎が襲撃をする。そして、人虎は水晶(クオーツ)の情報をどこで得た。

 なるほどとアキラはある事を思いつく。その謎の賢者は、人狼の他に予備として人虎にも情報を流したのだ。ならば、何故。

 その謎の賢者そのものが水晶(クオーツ)を欲しているのだ。災害を収める云々は抜きにしてだ。

「事情は分かった。俺たちは俺たちの理由があって、水晶(クオーツ)を追う。今は罪は問わない。ここでお別れだ」

 そう言い捨てて、アキラはリーネとツキを従えて身を翻した。一刻の猶予もない。急いで支度がしたい。

 フォイルは森の中へ逃げていった。となれば、精霊馬では追うことが出来ない。しかし、ここで放置しておく訳にもいかず、出来れば財団(ファウンデーション)の支店まででも戻しておきたい。

 ライラ達からは離れたために、ブルーに相談する。

「ローダンに来てもらえないか?」

「いや、今は支店の掃除に忙しいから、離れるのは無理だとさ」

 アキラと同じ事を考えていたのか、すでにブルーはローダンに連絡をしていてくれたようで、すぐに答えが返ってきた。どうやら、支店の不穏分子のあぶり出しをしているようで、それは早急にしておくべき事だろう。

 ならば、精霊馬のみで返すかと考えるが、それも心配だ。誰かを付ければとアキラが悩んでいると、ツキが腕を引っ張った。

 何かと、アキラがツキに視線を向ける。

「精霊馬なら、私が財団(ファウンデーション)まで戻します。戦力的にも、私が一番抜けても大丈夫でしょうから」

「しかし、女性一人では……」

「問題ありません。少々のことなら、精霊馬に振り切ってもらいますから」

 なるほどとアキラも思う。リーネほどではないが、精霊馬達はツキにも懐いている。ならば、ツキを守るためにも懸命に駆けてくれるだろう。

「分かった。ブルー、ローダンに国境まで向かえを寄越すように、伝えてくれるか」

 そのアキラの言葉に、ブルーは応えない。じっとアキラを見るだけだ。

「何か、不安でもあるのか」

「……いや、ローダンに言っておく」

 そう言い残して、ブルーは連絡のためかアキラから離れていった。

 何か言いたいことでもあったのかと、アキラはブルーの背を見つめるが、それも一時、すぐにフォイルを追うための準備を始めた。

 必要最小限のものを精霊馬から下ろし、リーネと分担して荷物を作る。

 荷物を背負い、出るぞというときにライラがアキラに声をかけてきた。

「手前勝手とは思うが、我が国の民のために、恥を忍んでお願いがある。あなたに同行させて欲しい」

「俺は俺で追う。そっちは勝手すればいい」

 何を馬鹿なことをと、吐き捨てるようにアキラは応えた。しかし、ライラは引き下がらない。

「そうしたいが、あなた達は何らかの理由で、あれを追う術を持っている。私たちを的確に追ってきたのがその証拠だ」

「だから、同行したいというのか。いい加減にしろ!俺たちに迷惑をかけておきながら、何を都合の良いこと言ってるんだ!」

 アキラの応えに自覚があるのか、唇を噛むライラ。そこでスノウが話しに加わった。

「姉さんの言いようが勝手なのは、お詫びします。しかし、私たちも民のために必死なのはご理解ください」

 それを聞き、アキラはため息をつく。突き放すには、あまりに重い言葉だ。

 どうしようかと、連絡を終えたのか、戻ったブルーを見ると、耳をぴこぴこ動かしている。自分で考えろという合図だ。

水晶(クオーツ)を取り戻したときにどうする。俺たちと戦うか?」

 改めて奪って逃げる気かと、アキラは確認をするとスノウが応えた。

「私も同行します。もし、姉さんが奪って逃げたのなら、私の身命を差し上げます。一度は覚悟した身です。好きにしていただいて結構です」

 ただし、水晶(クオーツ)が戻った時には、それをどうするかは話し合いの機会を設けて欲しいと。

「あれは、もともと俺たちのものだ」

「分かっています。それだからこそ、改めて話し合いがしたいと申しています」

 アキラは、スノウの言葉は信頼に足ると感じていた。実際、ライラとスノウが追跡に加ると、前衛と後衛の一チームが増える事になり、アキラにもメリットはある。

 その時、視線を感じてそちらに目を向けると、精霊馬の手綱を持ったツキがアキラを見ていた。

 視線が合うと、ツキがゆっくりと頷いた。それでアキラはツキの言葉を思い出した。『高みに登りなさい』と。

 度量を示せというのか。

「分かった、その条件で良い。同行を許そう」

 スノウが安堵の表情を浮かべるが、ライラは悲しげだ。

「また、私は妹の命を利用せねばならないのか……」

 そのライラの言葉に、アキラは何も応えなかった。

 人狼と人虎の獣人達は、ここで待機しているようにライラに指示をさせる。へたに動き回られて、背後から強襲されるなどの事態は避けたい。

 スノウとリーネは不運な再会ではあったが、戦闘時における魔術の発動について打ち合わせている。共闘する上で、お互いの最低限の情報を開示しあっているようだ。一時のものであっても、精霊に呼びかける際に無駄が出ないようにするためだと、以前リーネがアキラに教えていた。

 ただ、スノウがいかに優れた魔術師であっても、リーネ以上に精霊との相性が良いとは思えない。恐らく、その気になれば、リーネは周囲すべての精霊を自分のために動かしてしまうだろう。だからこそ、スノウの出来る事を確認しておき、それが出来る余地を残しておかねばならないのだ。

 アキラがリーネとスノウの様子を確認していると、自分の準備が整ったのか、ライラが近づいてきた。

「追うのは、アキラが先に立つ方が良いだろうが、戦いになれば私が前に立つ」

「いや、戦いになった場合、俺が判断したときだけ、前に出てくれ」

「それは、戦いになっても己一人で大丈夫ということか」

 どうやら、戦いにおいて、大分に評価が低いようだ、いや、見くびられているかもしれないとアキラは感じた。ライラを同行させることによって、確かに戦いの手札は増えるだろうが、それを積極的に切ろうとはアキラは思わなかった。

 とにかく、主導権は自分にあると、アキラはライラを押し切った。

 不満げなライラから離れ、リーネを呼び寄せて耳に口を寄せる。

「いざというときは、シールドを全面に張ってくれ。前方だけじゃなく、すべての方向から守ってほしい」

 つまり、後方からの攻撃にも気をつけろと。リーネは黙ってうなずいた。

 後はブルーと視線を合わせる。万が一の時は頼むとばかりに。

 ブルーの微かなうなずきを確認したアキラは、出発を宣言して、先頭に立って歩き始めた。

 まばらな木々の間を抜け、木々が密になっている空間へとためらいもなく身体を入り込ませた。枝を避け、足下の落ち葉と根に注意しつつ進んでいく。チラリと後方を伺えばスノウ、リーネ、ライラの順でついて来ていた。ライラの脇にはブルーがついている。徹底的にマークするようだ。

 ライラは後方の監視を怠らずにしていた。その様子に満足したアキラは、追う速度を上げた。スノウの体力が心配だったが、いざという時はライラが背負ってでもついてくるだろう。リーネの意外な健脚ぶりを知っているアキラは、容赦なく速度を上げた。

 アキラは確実に距離を詰めていると感じていた。水分補給のために、幾度目かの足を止めた際に、ライラがアキラに小さく声をかける。

「このままでいくと、人虎の都市にたどりつくことになる。入られると面倒だ、急ごう」

 まったくだと、アキラはそれにうなずき、グラスを荷物に入れる。リーネに水の礼を言って、歩くではなく、走り始めた。追う事は難しいと判断したのか、リーネが何も言わずに、アキラに負ぶさってきた。後方を確認すれば、ライラがスノウを背負っている。相も変わらず脇にはブルーが駆けている。

 アキラは枝を避け、足下に注意を配りつつ、更に速度を上げた。


わんわん:「この耳をピコピコと、この耳のピコピコの違いが分かるか?」

社畜男:「分からん!」

幼女もどき:「分かりたくない!」

わんわん:「…………」

当たり前だと思う。


次回、明日中の投稿になります。

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