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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第3章 Reach
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3-16

引き続き、

第3章を投稿いたします。

よろしくお願いいたします。

 街の検問はあっけなく通過する事が出来た。すぐさま精霊馬を一番右のレーンに入れ、駈歩を始める。まだ、街近くのためレーンが込んでおり、駈歩で進むのが精一杯であった。

 (あせ)り、()れる気持ちを感じたのか、リーネがアキラの胸に背中をもたせかけた。

「スプライトとスピリットもやる気になってる。だって、レインのためなんだもの」

 そのリーネの言葉に、ふっと息を吐く。冷静にならなければと、アキラは自分に言い聞かせる。

「リーネはどう思う。何が目的だと?」

 んー、と声を上げてリーネが考え込む。すでにペノンズが繋いだラインは、リーネの手によってツキとリーネにも繋がれていた。

「そんなに悪い人達じゃないよね」

「ああ、倉庫では気絶はさせても、殺しはしていないから」

 ただしと続く。現場にいたペノンズが感じたのは、唯一対面した一人を除いて、他の襲撃者達はかなり危険な気配だったと。命じられていなければ、気絶などと言う面倒な方法を採らずに、あっさり殺す方を選ぶような雰囲気だ。

「だから、指揮した者には悪意を感じない。でもそれを信じちゃいけない。恐らく状況によっては、簡単に殺しにかかってくるぞ」

「アキラは怖い?」

 そのリーネの言葉を返すのにためらう。今回の相手はトゥースピックや三本足などではなく、獣人、つまりは人なのだ。恐らくリーネは相手が襲いかかってくるのが怖いかと尋ねてきているのだ。

 アキラは、逆に自分はためらいなく相手を斬るだろうということだ。それは良い。しかし、それを見たリーネやツキはどう感じるだろうかと。

 考えるのが怖かった。

 だから、黙ってやり過ごすことにする。

 ちらりと、前に跨がるリーネがアキラを見上げる。そこには、答えを促すようなものではない表情が浮かんでいた。

 大丈夫だよ。

 その視線に、自分は間違っていたことを知った。

 リーネはアキラと同じ事を感じていたのだ。人や獣人を斬るところを見せるのは、怖いと?

 少しアキラは悲しくなった。


 やがて、街道を行く人と馬車もまばらとなり、精霊馬達は駈歩(かけあし)から襲歩(しゅうほ)へと移っていた。街道脇にはなだらかな斜面の草原が広がっており風が吹き渡り、草を揺らしている。

 速度を上げて、全身に風を受け、リーネの漆黒の髪がなびくようにしてアキラの身体を撫でた。

 これが追跡などというものでなければ、どれほど良かったであろう。前に跨がるのは可愛い女の子、風は気持ちよいし、天気も最高だ。

 そうだ、あの時もそうだった。違いというのは、精霊馬ではなくバイクで、周囲の風景は薄汚れた建物。道にはコンクリート片などが転がっていたこと。

 女の子は通常のようなタンデムでは、後方から狙われて危険だったため、前に乗せてタンクに伏せさせていた。

 あの時とは何一つ違っているようだが、けれど風が気持ちよく、天気が最高で、女の子の髪が鼻腔をくすぐる、それは一緒だった。そして、追いかけている事も。

 だけど、最後に追いついて言われた言葉。

「Don't get close!Don't touch!Bloodthirsty killer!!」

 アキラは思い出していた。『俺の手は真っ赤なんだ』。

「アキラ!アキラ!」

 リーネとツキが叫んでいるのに気づいた。

「大丈夫、疲れたの、ぼーとしてたよ」

 リーネの振り返り見上げてくる心配そうな目を見て、アキラは頭を軽く振る。

「大丈夫だ、追いかけよう」

 そんなアキラの言葉にも、何度も振り返るリーネ。後ろを駆けていたツキも、追いついて横に並び、気遣わしげだ。二人が心配するほど、アキラの顔は蒼白になっている。

 しかし、アキラは立ち止まる事はしない。

 水晶(クオーツ)との距離は詰まっているものの、追いつくにはほど遠い。止まった形跡がないため、馬は替えていないはずだ。かなりの負担を強いているはず。きっとどこかでスピードを落とす、その機を逃さずに距離を詰める。幸いこちらは疲れ知らずの精霊馬だ。


 すでに、普通であれば二、三日かけてこなすような距離を駆けている。今は夜。襲撃者達が止まるが、アキラ達の体力も尽きた。距離を詰める機ではあったが、止まって一睡することにした。

 たき火を起こす暇もないため、ツキはリーネとともに魔術で濃いスープを温めた。

 ツキがカップをアキラに渡す。見れば、リーネは毛布にくるまって、ブルーを枕にして眠っていた。

 ツキに礼を言い、アキラがカップに口をつけた。そんな時、膝にツキが手を乗せている。いつかの夜、あの時も野営をしていた。レインがまだ大丈夫だったときの事だ。

 地面に胡座を掻き、一つの膝にツキを乗せ、もう一つにはレインの鞘先が乗っていた。首筋に抱いたレインの柄の感触を思い出す。

「早く聞かせてくれよ……」

 アキラのつぶやきを、ツキが聞き拾い視線をアキラに向けた。

「レインとの約束ですか?」

「ああ、話しを聞いて欲しいと言ってた」

 顔を伏せるツキ。

 アキラはカップのスープを口に含み、ツキは顔を伏せてアキラの膝を撫でていた。その感触は子をあやすような、安心させようとする仕草だ。

「焦っては駄目です。私たちもいます、存分に頼ってください」

 大きく頷いたアキラ。

「さぁ、寝よう。精霊に起こしてもらえるよう頼んでくれ」

 分かりましたと、ツキは精霊に二時間後には起こすように呼びかけ、リーネの側へと向かっていった。それを見送ったアキラは、胡座のまま、大太刀を抱いて枕にして眠るのだった。


わんわん:「知ってたか?左側通行なんだぜ」

社畜男:「えっ、当たり前じゃん」

幼女もどき:「こいつ、つまんねー」

日本生まれなもので……。


次回、明日中の投稿になります。

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