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引き続き、
第3章を投稿いたします。
よろしくお願いいたします。
街の検問はあっけなく通過する事が出来た。すぐさま精霊馬を一番右のレーンに入れ、駈歩を始める。まだ、街近くのためレーンが込んでおり、駈歩で進むのが精一杯であった。
焦り、焦れる気持ちを感じたのか、リーネがアキラの胸に背中をもたせかけた。
「スプライトとスピリットもやる気になってる。だって、レインのためなんだもの」
そのリーネの言葉に、ふっと息を吐く。冷静にならなければと、アキラは自分に言い聞かせる。
「リーネはどう思う。何が目的だと?」
んー、と声を上げてリーネが考え込む。すでにペノンズが繋いだラインは、リーネの手によってツキとリーネにも繋がれていた。
「そんなに悪い人達じゃないよね」
「ああ、倉庫では気絶はさせても、殺しはしていないから」
ただしと続く。現場にいたペノンズが感じたのは、唯一対面した一人を除いて、他の襲撃者達はかなり危険な気配だったと。命じられていなければ、気絶などと言う面倒な方法を採らずに、あっさり殺す方を選ぶような雰囲気だ。
「だから、指揮した者には悪意を感じない。でもそれを信じちゃいけない。恐らく状況によっては、簡単に殺しにかかってくるぞ」
「アキラは怖い?」
そのリーネの言葉を返すのにためらう。今回の相手はトゥースピックや三本足などではなく、獣人、つまりは人なのだ。恐らくリーネは相手が襲いかかってくるのが怖いかと尋ねてきているのだ。
アキラは、逆に自分はためらいなく相手を斬るだろうということだ。それは良い。しかし、それを見たリーネやツキはどう感じるだろうかと。
考えるのが怖かった。
だから、黙ってやり過ごすことにする。
ちらりと、前に跨がるリーネがアキラを見上げる。そこには、答えを促すようなものではない表情が浮かんでいた。
大丈夫だよ。
その視線に、自分は間違っていたことを知った。
リーネはアキラと同じ事を感じていたのだ。人や獣人を斬るところを見せるのは、怖いと?
少しアキラは悲しくなった。
やがて、街道を行く人と馬車もまばらとなり、精霊馬達は駈歩から襲歩へと移っていた。街道脇にはなだらかな斜面の草原が広がっており風が吹き渡り、草を揺らしている。
速度を上げて、全身に風を受け、リーネの漆黒の髪がなびくようにしてアキラの身体を撫でた。
これが追跡などというものでなければ、どれほど良かったであろう。前に跨がるのは可愛い女の子、風は気持ちよいし、天気も最高だ。
そうだ、あの時もそうだった。違いというのは、精霊馬ではなくバイクで、周囲の風景は薄汚れた建物。道にはコンクリート片などが転がっていたこと。
女の子は通常のようなタンデムでは、後方から狙われて危険だったため、前に乗せてタンクに伏せさせていた。
あの時とは何一つ違っているようだが、けれど風が気持ちよく、天気が最高で、女の子の髪が鼻腔をくすぐる、それは一緒だった。そして、追いかけている事も。
だけど、最後に追いついて言われた言葉。
「Don't get close!Don't touch!Bloodthirsty killer!!」
アキラは思い出していた。『俺の手は真っ赤なんだ』。
「アキラ!アキラ!」
リーネとツキが叫んでいるのに気づいた。
「大丈夫、疲れたの、ぼーとしてたよ」
リーネの振り返り見上げてくる心配そうな目を見て、アキラは頭を軽く振る。
「大丈夫だ、追いかけよう」
そんなアキラの言葉にも、何度も振り返るリーネ。後ろを駆けていたツキも、追いついて横に並び、気遣わしげだ。二人が心配するほど、アキラの顔は蒼白になっている。
しかし、アキラは立ち止まる事はしない。
水晶との距離は詰まっているものの、追いつくにはほど遠い。止まった形跡がないため、馬は替えていないはずだ。かなりの負担を強いているはず。きっとどこかでスピードを落とす、その機を逃さずに距離を詰める。幸いこちらは疲れ知らずの精霊馬だ。
すでに、普通であれば二、三日かけてこなすような距離を駆けている。今は夜。襲撃者達が止まるが、アキラ達の体力も尽きた。距離を詰める機ではあったが、止まって一睡することにした。
たき火を起こす暇もないため、ツキはリーネとともに魔術で濃いスープを温めた。
ツキがカップをアキラに渡す。見れば、リーネは毛布にくるまって、ブルーを枕にして眠っていた。
ツキに礼を言い、アキラがカップに口をつけた。そんな時、膝にツキが手を乗せている。いつかの夜、あの時も野営をしていた。レインがまだ大丈夫だったときの事だ。
地面に胡座を掻き、一つの膝にツキを乗せ、もう一つにはレインの鞘先が乗っていた。首筋に抱いたレインの柄の感触を思い出す。
「早く聞かせてくれよ……」
アキラのつぶやきを、ツキが聞き拾い視線をアキラに向けた。
「レインとの約束ですか?」
「ああ、話しを聞いて欲しいと言ってた」
顔を伏せるツキ。
アキラはカップのスープを口に含み、ツキは顔を伏せてアキラの膝を撫でていた。その感触は子をあやすような、安心させようとする仕草だ。
「焦っては駄目です。私たちもいます、存分に頼ってください」
大きく頷いたアキラ。
「さぁ、寝よう。精霊に起こしてもらえるよう頼んでくれ」
分かりましたと、ツキは精霊に二時間後には起こすように呼びかけ、リーネの側へと向かっていった。それを見送ったアキラは、胡座のまま、大太刀を抱いて枕にして眠るのだった。
わんわん:「知ってたか?左側通行なんだぜ」
社畜男:「えっ、当たり前じゃん」
幼女もどき:「こいつ、つまんねー」
日本生まれなもので……。
次回、明日中の投稿になります。




