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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第3章 Reach
64/219

3-15

引き続き、

第3章を投稿いたします。

よろしくお願いいたします。

 アキラ達が駆けつけた時には、すべてが終わっていた。

 床に倒れているペノンズを見つけ、急いで駆けつけてアキラは抱き上げた。しばらく身体を揺すったり、頬を叩いたりしていると、うなり声を上げて目を覚ます。

 頭がぼんやりとするのか、しきりに頭を振るペノンズを椅子に座らせる。

「すまん、わしの責任じゃ」

 何が起こったのかは、水晶(クオーツ)が見当たらないことから明白だ。

「支店長も恐らくグルじゃ」

「理由は?」

 偶然ではないと、まずペノンズは前置きし、警備から魔術師が外されていた事を告げた。

 たとえ大きな取引があるからといって、警備でも重要な役割を果たす魔術師を外すわけがないと。ローダンのメンツがかかっているのだ。

「なるほど、支店長も脇が甘いな」

 情報の漏洩は覚悟していたが、まさか支店長そのものが関わっているとは、予想以上だ。すぐさまブルーに頼み、ローダンに連絡をして貰う。

「さて、どうやって取り戻すかだけど、何か情報はあるかな」

 アキラの質問に、ペノンズがしきりとあごひげを撫でて応えた。

「心配はいらん。水晶(クオーツ)とはラインを繋げておる。それをお前さんに渡すから、それを辿ればええことじゃ」

 そう言うなり、いきなりペノンズは持っていた槌でアキラの頭を叩いた。

「痛ってー、何すんだよ!」

「これでラインは渡せたじゃろ」

 きょとんとするアキラ。槌で叩かれた割には、痛みはない。痛いと感じたのはアキラの錯覚だった。

 首を傾げてみると、水晶(クオーツ)が移動していく様が頭の中に浮かんだ。どうやら馬で移動しているようだ。すでに商都は出ている。

「わしは槌を使わんと、魔術の行使が上手くできんからの」

 ペノンズは鍛冶師である。そのため、槌が魔術師の杖のような役割を果たすのだ。気配に異常を感じた時、ペノンズは真っ先に水晶(クオーツ)を槌で殴ってラインを繋げておいた。

「ローダンは、もう支店に来ているぞ」

 連絡を取っていたブルーが、アキラに話しかける。

「それじゃ一旦支店へ行こう。追うには精霊馬も用意しないと」

 倉庫の作業者や警備の者を起こして回っていたリーネとツキにも声をかけ、一行は倉庫を後にしてローダン商会支店へと向かうのだった。


 ローダン商会支店へと飛び込んだアキラ達は、会頭自らに出迎えられた。そして出会うなり、ローダンがさっそく口を開いた。

「ごめん。私のミスだわ。馬鹿な男を支店長にしていたなんて」

「いや、巡り合わせもあるだろう。仕方ない」

 急ぎ、水晶(クオーツ)とはペノンズがラインを繋げてくれていたおかげで、追うことは出来る、ただしあまり距離を置くと途絶える恐れがあるので、すぐにでも追いかけたいとアキラは告げた。

 リーネとツキはそれではと、商会から出て、精霊馬達を引き取りに向かう。

 アキラは閉じ込められているという、支店長のもとへローダンとブルーを連れて向かった。

 先に支店で最初に訪れた部屋に、支店長は閉じ込められていたが、ドアの前には警備の者もいなかった。どうやら、ローダンは支店の警備を疑っているようで、警備はつけずに、魔術で結界を張って外へは出られないようにしているのだと。

 中に入ったアキラを見た支店長は、何かを言おうと口を開くが、続くローダンの姿を見て慌てて口を閉ざした。

「偶然、私がここに来たから驚いているようね」

 大精霊の力で移動してきたとも言えず、偶然を無理に装うローダン。

「事前におっしゃっていただければ良かったのですが」

 恨みがましく支店長のハートリーは言うが、ローダンは容赦なく言い放つ。

「今回の一件はアキラから聞きました。魔術師を警備から引き上げた件、どういう理由から?」

「それは、金額の大きな取引がございましたので、そちらを優先しました」

「それで、今回の強奪を許す結果となったのね。明らかにあなたの判断ミスね」

「それは誤解です。たまたま運が悪かっただけで」

 呆れたようにため息をつくローダン。たとえ大事な取引であっても、雇っている魔術師は一人ではないのだ。大商会であるローダン商会であれば、複数人は雇っているはず。足りないのならば、外部から雇い入れてやりくりすれば良かっただけの話しだ。

「あなたの底が知れたわ。それにはっきり言うけど、今回の件について、あなたの関与を私は疑っている。だから、すぐには解雇しない。覚悟しておきなさい」

 そう言い残し、ローダンはアキラの腕を引っ張って部屋から出て行く。

 そのまま、ハートリーが使っていた支店長室に入ると、ローダンは支店長用の豪華な椅子に座り、アキラとブルーにも座るように勧めた。

「今回の件だけど、ハートリーはメインじゃないと思う」

「どうして、そう思うの」

 アキラに視線を向け、ローダンはテーブルに頬杖をついた。

「倉庫にウルの姿がなかった。あいつと、昨晩出会ったザロというのが繋がっていて、ハートリーはいいように使われただけだろう」

 あくまでもアキラは自分の勘だと言う。ローダンも、ブルーから先に聞いていた話から、そうだろうと同意する。

「で、どうするの」

「もちろん追いかけて取り戻す。水晶(クオーツ)がなければレインは戻せない」

 リーネとツキが戻り次第出発するとアキラは告げ、ペノンズは境界まで送るか、ここで預かっておいてくれと頼む。

「それじゃ、いつものメンバーで追うのね」

「連れて行かないと怒られる」

「そりゃそうだ」

 ブルーの言葉で、今まで険しかった皆の顔が和らいだ。


 幸い商会の支店長室には、財団(ファウンデーション)と周辺の詳細な地図が保管されていた。

 執務用の机に広げて、アキラはローダンとのぞき込む。ブルーは椅子に乗り、前脚を机に乗せて上体を乗り出してのぞき込んでいた。

 地図の一点をアキラは指差す。

「現在の水晶(クオーツ)の位置だ。まだ商都を出て間もない」

「そちらから商都を出たとなると、アヌビアス族長協同国の方角になるけど」

 ローダンの言葉に、アキラは顎に手の平をあてて、しばし考え込む。

 協同国の国境へ一本の街道が書かれていた。アキラの指がそれをなぞった。街道はエズラ街道だとローダンがアキラに教える。やはり、文字が読めないのは不便極まりないなと、アキラは読み書きの修得を頑張らねばと思う。

 少し思考がずれたが、アキラは考えを口にする。

「いまは街道を進んでいるけど、偽装の可能性はないかな」

 その言葉に、ローダンが改めて地図をのぞき込み、ゆっくりと頭を左右に振って口を開く。

「想像だけど、水晶(クオーツ)を強奪した奴らは急いでいるような気がする」

 支店に水晶(クオーツ)が持ち込まれたのが昨日、さっそくその日の内に買取の申し出、翌日には襲撃しての強奪。ローダンはどう考えても綿密な案を練っての行動には思えないと言う。逆に行き当たりばったり感が強く、何らかの理由があって、稚拙であっても動かざるを得ないのだろうと。

「そうなると、エズラ街道を行く可能性が高いわ」

 エズラ街道とは、財団(ファウンデーション)と協同国が協力して敷設した、かなり近代的な街道であり、片側三レーンで端から、歩行者、馬車と馬単体、速度を出す馬単体の専用になっており、馬であれば全力は無理であっても、それなりのスピードを出すことが出来る。

 襲撃者達が駈歩(かけあし)襲歩(しゅうほ)を交互に行って、馬に負担をかけないようにだが、それなりのスピードで進んでいることも考えられる。

 ここにリーネとツキが精霊馬を連れて帰ってきた。二人に頷きかけたアキラはさっそくとばかりに口を開く。

水晶(クオーツ)が探知できる範囲から出ると面倒だ。さっそく出るぞ」

 戻ってすぐにごめんよと、アキラはリーネとツキに詫びるが、逆に早く出ようと急かされた。

「早く取り戻さなくっちゃ!」

 そうでないと、レインが戻るのが遅れていくことになるとリーネが言い、ツキはそれに頷いていた。

 支店長室をアキラを先頭にして出て行く。ローダンはアキラ達三人を追いながら、支店の早馬で街道沿いの拠点への連絡を指示し、食料等の確保と連絡網の構築を命じていた。

 外では精霊馬達が立ち、早く行こうとばかりに、前脚の蹄で地面を掻いていた。

 黒毛のスプライトの首筋をアキラは撫でる。

「無理言うかもしれないけど、頑張ってくれよな」

 もちろんだとばかりに、鼻をならすスプライト。

 その間にも、どんどん商会の店員達の手によって荷物がくくり付けられていく。

 作業を終えた店員達が引き上げ、支店の前にはアキラ達とローダンだけになった。

「相手は恐らくは普通の馬よ。こちらは精霊馬で休む必要もないから、焦っちゃ駄目よ」

 スプライトの鞍にアキラは跨がり、リーネを引き上げ、自分の前に跨がらせる。精霊馬へ指示して貰うためにも、今回は前に跨がって貰う。ツキもスピリットに跨がり、ローダンからブルーを受け取り、自分の前に伏せさせていた。

「出来れば、財団(ファウンデーション)国内で片付けたいが、万が一の時は国外に出る」

「分かったわ、一応の事は用意しておくから」、そしてブルーに向き直り、「しっかり頼んだわよ」

「分かってる、任せておけ」

「犬のくせに」

「犬言うな!」

 皆が笑った。

「よし!行こう!」

 街中であるため、可能な限り出せる速度で進む。

 その背をローダンは見送っていた。

「サインと連絡がとれない。どういうこと……」

 先の笑みを止め、ローダンは不安げな表情を浮かべるのだった。


ひげ:「こんなこともあろうか……」

社畜男:「いや、そんなのは良いから」

わんわん:「最後まで言わせてやれよ」

意外と優しいわんわんです。


次回、明日中の投稿になります。

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