3-15
引き続き、
第3章を投稿いたします。
よろしくお願いいたします。
アキラ達が駆けつけた時には、すべてが終わっていた。
床に倒れているペノンズを見つけ、急いで駆けつけてアキラは抱き上げた。しばらく身体を揺すったり、頬を叩いたりしていると、うなり声を上げて目を覚ます。
頭がぼんやりとするのか、しきりに頭を振るペノンズを椅子に座らせる。
「すまん、わしの責任じゃ」
何が起こったのかは、水晶が見当たらないことから明白だ。
「支店長も恐らくグルじゃ」
「理由は?」
偶然ではないと、まずペノンズは前置きし、警備から魔術師が外されていた事を告げた。
たとえ大きな取引があるからといって、警備でも重要な役割を果たす魔術師を外すわけがないと。ローダンのメンツがかかっているのだ。
「なるほど、支店長も脇が甘いな」
情報の漏洩は覚悟していたが、まさか支店長そのものが関わっているとは、予想以上だ。すぐさまブルーに頼み、ローダンに連絡をして貰う。
「さて、どうやって取り戻すかだけど、何か情報はあるかな」
アキラの質問に、ペノンズがしきりとあごひげを撫でて応えた。
「心配はいらん。水晶とはラインを繋げておる。それをお前さんに渡すから、それを辿ればええことじゃ」
そう言うなり、いきなりペノンズは持っていた槌でアキラの頭を叩いた。
「痛ってー、何すんだよ!」
「これでラインは渡せたじゃろ」
きょとんとするアキラ。槌で叩かれた割には、痛みはない。痛いと感じたのはアキラの錯覚だった。
首を傾げてみると、水晶が移動していく様が頭の中に浮かんだ。どうやら馬で移動しているようだ。すでに商都は出ている。
「わしは槌を使わんと、魔術の行使が上手くできんからの」
ペノンズは鍛冶師である。そのため、槌が魔術師の杖のような役割を果たすのだ。気配に異常を感じた時、ペノンズは真っ先に水晶を槌で殴ってラインを繋げておいた。
「ローダンは、もう支店に来ているぞ」
連絡を取っていたブルーが、アキラに話しかける。
「それじゃ一旦支店へ行こう。追うには精霊馬も用意しないと」
倉庫の作業者や警備の者を起こして回っていたリーネとツキにも声をかけ、一行は倉庫を後にしてローダン商会支店へと向かうのだった。
ローダン商会支店へと飛び込んだアキラ達は、会頭自らに出迎えられた。そして出会うなり、ローダンがさっそく口を開いた。
「ごめん。私のミスだわ。馬鹿な男を支店長にしていたなんて」
「いや、巡り合わせもあるだろう。仕方ない」
急ぎ、水晶とはペノンズがラインを繋げてくれていたおかげで、追うことは出来る、ただしあまり距離を置くと途絶える恐れがあるので、すぐにでも追いかけたいとアキラは告げた。
リーネとツキはそれではと、商会から出て、精霊馬達を引き取りに向かう。
アキラは閉じ込められているという、支店長のもとへローダンとブルーを連れて向かった。
先に支店で最初に訪れた部屋に、支店長は閉じ込められていたが、ドアの前には警備の者もいなかった。どうやら、ローダンは支店の警備を疑っているようで、警備はつけずに、魔術で結界を張って外へは出られないようにしているのだと。
中に入ったアキラを見た支店長は、何かを言おうと口を開くが、続くローダンの姿を見て慌てて口を閉ざした。
「偶然、私がここに来たから驚いているようね」
大精霊の力で移動してきたとも言えず、偶然を無理に装うローダン。
「事前におっしゃっていただければ良かったのですが」
恨みがましく支店長のハートリーは言うが、ローダンは容赦なく言い放つ。
「今回の一件はアキラから聞きました。魔術師を警備から引き上げた件、どういう理由から?」
「それは、金額の大きな取引がございましたので、そちらを優先しました」
「それで、今回の強奪を許す結果となったのね。明らかにあなたの判断ミスね」
「それは誤解です。たまたま運が悪かっただけで」
呆れたようにため息をつくローダン。たとえ大事な取引であっても、雇っている魔術師は一人ではないのだ。大商会であるローダン商会であれば、複数人は雇っているはず。足りないのならば、外部から雇い入れてやりくりすれば良かっただけの話しだ。
「あなたの底が知れたわ。それにはっきり言うけど、今回の件について、あなたの関与を私は疑っている。だから、すぐには解雇しない。覚悟しておきなさい」
そう言い残し、ローダンはアキラの腕を引っ張って部屋から出て行く。
そのまま、ハートリーが使っていた支店長室に入ると、ローダンは支店長用の豪華な椅子に座り、アキラとブルーにも座るように勧めた。
「今回の件だけど、ハートリーはメインじゃないと思う」
「どうして、そう思うの」
アキラに視線を向け、ローダンはテーブルに頬杖をついた。
「倉庫にウルの姿がなかった。あいつと、昨晩出会ったザロというのが繋がっていて、ハートリーはいいように使われただけだろう」
あくまでもアキラは自分の勘だと言う。ローダンも、ブルーから先に聞いていた話から、そうだろうと同意する。
「で、どうするの」
「もちろん追いかけて取り戻す。水晶がなければレインは戻せない」
リーネとツキが戻り次第出発するとアキラは告げ、ペノンズは境界まで送るか、ここで預かっておいてくれと頼む。
「それじゃ、いつものメンバーで追うのね」
「連れて行かないと怒られる」
「そりゃそうだ」
ブルーの言葉で、今まで険しかった皆の顔が和らいだ。
幸い商会の支店長室には、財団と周辺の詳細な地図が保管されていた。
執務用の机に広げて、アキラはローダンとのぞき込む。ブルーは椅子に乗り、前脚を机に乗せて上体を乗り出してのぞき込んでいた。
地図の一点をアキラは指差す。
「現在の水晶の位置だ。まだ商都を出て間もない」
「そちらから商都を出たとなると、アヌビアス族長協同国の方角になるけど」
ローダンの言葉に、アキラは顎に手の平をあてて、しばし考え込む。
協同国の国境へ一本の街道が書かれていた。アキラの指がそれをなぞった。街道はエズラ街道だとローダンがアキラに教える。やはり、文字が読めないのは不便極まりないなと、アキラは読み書きの修得を頑張らねばと思う。
少し思考がずれたが、アキラは考えを口にする。
「いまは街道を進んでいるけど、偽装の可能性はないかな」
その言葉に、ローダンが改めて地図をのぞき込み、ゆっくりと頭を左右に振って口を開く。
「想像だけど、水晶を強奪した奴らは急いでいるような気がする」
支店に水晶が持ち込まれたのが昨日、さっそくその日の内に買取の申し出、翌日には襲撃しての強奪。ローダンはどう考えても綿密な案を練っての行動には思えないと言う。逆に行き当たりばったり感が強く、何らかの理由があって、稚拙であっても動かざるを得ないのだろうと。
「そうなると、エズラ街道を行く可能性が高いわ」
エズラ街道とは、財団と協同国が協力して敷設した、かなり近代的な街道であり、片側三レーンで端から、歩行者、馬車と馬単体、速度を出す馬単体の専用になっており、馬であれば全力は無理であっても、それなりのスピードを出すことが出来る。
襲撃者達が駈歩と襲歩を交互に行って、馬に負担をかけないようにだが、それなりのスピードで進んでいることも考えられる。
ここにリーネとツキが精霊馬を連れて帰ってきた。二人に頷きかけたアキラはさっそくとばかりに口を開く。
「水晶が探知できる範囲から出ると面倒だ。さっそく出るぞ」
戻ってすぐにごめんよと、アキラはリーネとツキに詫びるが、逆に早く出ようと急かされた。
「早く取り戻さなくっちゃ!」
そうでないと、レインが戻るのが遅れていくことになるとリーネが言い、ツキはそれに頷いていた。
支店長室をアキラを先頭にして出て行く。ローダンはアキラ達三人を追いながら、支店の早馬で街道沿いの拠点への連絡を指示し、食料等の確保と連絡網の構築を命じていた。
外では精霊馬達が立ち、早く行こうとばかりに、前脚の蹄で地面を掻いていた。
黒毛のスプライトの首筋をアキラは撫でる。
「無理言うかもしれないけど、頑張ってくれよな」
もちろんだとばかりに、鼻をならすスプライト。
その間にも、どんどん商会の店員達の手によって荷物がくくり付けられていく。
作業を終えた店員達が引き上げ、支店の前にはアキラ達とローダンだけになった。
「相手は恐らくは普通の馬よ。こちらは精霊馬で休む必要もないから、焦っちゃ駄目よ」
スプライトの鞍にアキラは跨がり、リーネを引き上げ、自分の前に跨がらせる。精霊馬へ指示して貰うためにも、今回は前に跨がって貰う。ツキもスピリットに跨がり、ローダンからブルーを受け取り、自分の前に伏せさせていた。
「出来れば、財団国内で片付けたいが、万が一の時は国外に出る」
「分かったわ、一応の事は用意しておくから」、そしてブルーに向き直り、「しっかり頼んだわよ」
「分かってる、任せておけ」
「犬のくせに」
「犬言うな!」
皆が笑った。
「よし!行こう!」
街中であるため、可能な限り出せる速度で進む。
その背をローダンは見送っていた。
「サインと連絡がとれない。どういうこと……」
先の笑みを止め、ローダンは不安げな表情を浮かべるのだった。
ひげ:「こんなこともあろうか……」
社畜男:「いや、そんなのは良いから」
わんわん:「最後まで言わせてやれよ」
意外と優しいわんわんです。
次回、明日中の投稿になります。