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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第3章 Reach
62/219

3-13

引き続き、

第3章を投稿いたします。

よろしくお願いいたします。

財団(ファウンデーション) 商都リアルト カフェ「エッジ」

 翌日、朝食を終えてからペノンズを送り出した後、アキラ達はゆっくりと用意を調えてから、外へと出かけた。

 商都は一見するとビルのような建物が多いイメージであり、見かけもそうなので無機質な光景が続くかと思われたが、道をのんびり歩いていると街路樹であったり、商店の壁にツタが這っていたりなどして緑が意外と多いことに気づく。やはり、人が住まう場所では景観などにも気遣っているのだろう。

 もちろん公園も大きなものばかりでなく、民家にある坪庭程度の広さの緑地も設けられており、きめ細かく配慮されている事が分かった。

 アキラなどは、歩いていて元の世界に戻ったかのような錯覚さえ覚える。ただ、昨日に街に入ったときと同じように、道を歩いているのが時折獣人であったり、エルフやドワーフである事が、異世界である事を改めて思い出させる。

 リーネやツキが、気になる店などを覗きつつ歩いていると、リーネが一つの店を指さした。

「あったよ!あそこが『かふぇ』だよ」

 ついとリーネが示す方向にアキラが視線をむけると、そこは石畳に面した、濃い青と白を内装の基調とした店があった。面した石畳の上には、テーブルが置かれ、大きなパラソルが差し掛けられていた。

 アキラは赴任地へ赴く際に、欧州で乗り換える場合が多く、決まってストップオーバー、つまりは二十四時間以上の滞在を強いられることが大抵で、けっこう欧州各地の町並みを見ているが、そこで見た光景を思い出す。

「エッジと書かれていますから、あそこがリーネがパンフレットで見たお店ですね」

 掲げられた看板をツキが読み、目的地である事を確認した。

 三人と一頭で入り口へと向かう。

 中を覗くとガラスケースの中に、焼き菓子などが並べられており、テイクアウトも出来るようになっているようだ。

「早く入ろう!」

 リーネがアキラの手を引いて急かすが、それに待ったをかける。

「いや、中には入らず、オープンスペースの方へ行こう」

 なぜ、と言うように首を傾げるリーネに、アキラがブルーを指さす。

「犬が一緒だから」

「えー、いつも食堂には一緒に入っているよ!」

 ブルーも抗議の目を向けるが、もし一緒に入って、犬お断りなどとなって、何も食べられずに退散するとなると、リーネが可哀想だとアキラは考えたからだ。オープンスペースであれば、多少の融通は利くはずだ。

「そうですね、今日は天気も良い事ですし、日差しを遮るパラソルがありますから、外の方が気持ちいいでしょう」

 どう答えようかと迷っていたアキラに、ツキがフォローを入れる。言われてみればそうかと、リーネもその気になってくれたようだ。

 リーネがへそを曲げずに、素直に石畳の上のテーブルに向かうのを追いながら、アキラはありがとうとツキに感謝の言葉をかけた。

「どういたしまして、出来れば機嫌良くすごしたいですから」

「まったくだ」

 そのアキラの言葉にも、ブルーは不満そうではあったが。

 テーブルにつくと、すぐにウェイターがやって来て、メニューを全員に配り、注文の際には呼ぶように言い残して去って行った。

「……メニューがある」

 異世界へ来て、初めて目にするメニューではないだろうか。良くて壁に掲示されている木札や、お任せしか経験していないので、当たり前のように差し出されたメニューが新鮮だった。リーネとツキも意外だったようで、興味深げに内容を見ている。

 ただし、アキラは文字がまだ完全に読める訳ではない。勉強中だ。

 リーネとツキにメニューの内容の説明を受け、コーヒーがあることが分かった。これも、異世界では初めてのことで、アキラは頼むことにする。

 更に、一つ一つの内容を聞いていると、素材単体での提供が多いことに気づいた。

 アキラは二人が注文を決めた事を確認すると、ウェイターを呼び寄せる。アキラは当然コーヒーで、二人はハーブティーと焼き菓子を頼むことにしたようだ。

 注文を受けたウェイターが一礼の後に去ろうとするのを、アキラが呼び止める。

「トイレを借りたいのだが」

「こちらでございます」

 しっかりとした教育を受けているようで、ウェイターは案内すると言う。

 アキラは立ち上がって、リーネとツキに行ってくると告げて、ウェイターの後を追った。

 店内に入るなり、アキラはウェイターの腕を取った。

「すまない、オーナーか店長、責任者に会わせてくれ。クレームとかではないから安心して欲しい」

 それと、先の注文を一旦キャンセルしろと。

 訝しげな表情を浮かべるウェイターだが、アキラを奥のドアへと案内する。ドアには従業員専用と書いてあるのだが、アキラには読めない。

 中へと入ると、廊下があり、その奥にはドアがいくつか並んでおり、その一つをウェイターはノックし、返事を確認した後に開けた。

 中は執務室になっており、一人の男が机に向かって書類を確認していた。ウェイターは机へと歩み寄ると、机越しに男の耳に口を寄せた。

 ウェイターから耳打ちされた男は柔和な笑顔でアキラを見るが、明らかに値踏みされているとアキラは感じた。

「どういったご用件で?」

「突然で申し訳ない、ローダン商会のアキラという。ひとつ提案があって、そのために厨房の一角を借りたい」

 責任者らしき男は、アキラに先を促す。

 厨房を借りて、アキラは一つの食べ物を作りたい。そのレシピはもちろんローダン商会が秘匿するが、この店には無料で提供して、それを厨房と食材を借りる代金としたいと提案した。もちろん気に食わなければ、食材と厨房の借り賃は現金で支払うと。

 アキラの提案を聞いた責任者は、少し考えたが、店にも迷惑がかからないのであればと了解した。

 先のウェイターに連れられ、アキラは厨房へと入る。驚くシェフ達を横目に、食材を探す。目当てのものは揃っていた。さっそく、取りかかるとして、アキラはしっかりと両手を洗い、容器四つを魔術で冷凍し、その中に材料を入れていく。ついてきたウェイターにレシピを口授筆記させつつ、それは簡単に出来上がった。

 二つをプレートに載せ、一つはシェフ達に、一つは先ほどの責任者へ持っていくように指示した。

 プレートを持たせたウェイターを後に従えて、アキラはリーネとツキが座るテーブルへと戻る。

「遅かったね、お腹痛かったの?」

「大丈夫だ、リーネ。それより、いつも世話になっているからお礼だ」

 ウェイターに合図して、プレートの上のものをサーブさせた。

「えっ、何これ?」

「初めて見ますね」

 二人の前には、パフェやサンデーと呼ばれるものが置かれていた。ワイン用と思しき大きめのグラスには、底からグラス半ばまでシリアルとクリームとジャムを交互に敷き詰め、その上に生クリームをグラスの縁近くまで入れ、さらにその上にカットした果物とソフトクリームを飾り付け、湯煎して溶かしたチョコレートを糸のようにしてまぶしてあった。

 改めてコーヒーを注文したアキラが二人を促す。

「食べないと、溶けるぞ」

「えっ、えっ、このキレイなの食べて良いの?」

「食べ物なのに、食べないでどうする」

 アキラに言われ、スプーンを手にした二人がすくって口に運ぶ。一口二口と食べ進める。

「これは驚いたわ。ソフトクリームだけで食べるより、フルーツや他のものと食べると、味が良い方向に変わりますね」

 実はけっこう甘いもの好きであるツキが、感想を述べる中、リーネは言葉もなく夢中で食べていた。時折気づいたツキが、リーネの口の周りを紙ナプキンで拭ってやるのが、とても微笑ましい。

 アキラはメニューの説明を聞いていて、一つ気づいた事があった。それは単体での提供が多く、完成された、例えばソフトクリームなどは、ソフトクリームだけで提供されており、他の料理と組み合わせるという発想がなかったのだ。いや、その一歩手前までは出来ているかもしれないので、ならば先にと試してみたのだ。

 案の定、先ほどの責任者が飛ぶようにやって来て、ぜひ店で出したいとアキラに頼んできた。所詮は組み合わせただけで、独占は難しいであろうから、簡単に許可を出してやる。また、そういう約束であったので。

「いいのですか、あんなに簡単に許可をして」

 ツキが心配そうにアキラを見ている。技術は設備設定、料理ではレシピは秘匿すべきものだ。アキラは大丈夫とツキに言う。

「俺にはまだ、プリンとかシュークリーム、ケーキがあるから」

「ぷりん?しゅーくりーむ?けーき?」

「落ち着いたら、作ってあげるよ」

 すでに、パフェの虜になっていたリーネは、更なる甘味の予感に両手を挙げて喜ぶのだった。

 ちなみに、食べさせてもらえないブルーは憮然とした表情を浮かべていた。可哀想に思ったのか、ツキがソフトクリームを乗せたフルーツを、食べさせていたが。


幼女もどき:「風に当たりながら食べるのもいいね」

わんわん:「……すまん」

あなたがいなければ……


次回、明日中の投稿になります。

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