3-12
引き続き、
第3章を投稿いたします。
よろしくお願いいたします。
今回の投稿は、
話しの進行上の都合から、
かなり短くなっております。
ご容赦のほどをお願いいたします。
ザロは街灯が照らす大通りを避け、暗い小道を選んで歩いていた。さきほどのアキラを睨んでいた険しい表情は消えている。どころか、商談に失敗、いやその入り口にもたどり着けなかったというのに、足取りは軽い。
ただし、周囲への警戒は怠ってはいない。角を曲がる際には、自分の後方からついてくるものがいないかと確認し、時折は立ち止まり、懐の中を探すような振りをしてみせる。目にとまったのは野良犬らしきものだけ。
一つの建物にたどり着いたザロは、左右を見回してから階段を上る。
建物中の各部屋は、事務所として貸し出されているようだ。一部の部屋には明かりが灯っているが、多くはすでに仕事を終えているのか暗い。
二階から三階へと登り切ると奥の一点に目をやり、廊下を歩いて一つのドアの前で鍵を取り出した。一つではない、三つの鍵でドアを開けたザロは素早く中に入ると、鍵をかけた。
獣人の性なのか、ザロはワイシャツを脱ぎ、薄いシャツ一枚の姿になった。
テーブルに用意されていた水差しからグラスに中の液体を注ぐ。
勢いをつけて椅子に座ったザロがため息をついた。
「言われたとおり、買取は持ちかけた。結果は分かってたがよ、仕方ねーてもんよ」
そこでグイッとグラスを呷って、一気に飲み干す。
自分の腕で口を拭い、周囲を見回した。
「ここも引き払うか」
少ししかない荷物を見て呟く。
その時、ドアがノックされる。
まるで分かっていたかのように、ザロは鍵をいじりドアを開いた。
人目を避けるかのように、開いたドアの隙間から、大きなマントにフードを被った人影が中に入る。
「廊下で待たれるのは困ります」
「そうか、気をつけるとしよう」
声は女のものだった。フードを取る事なく、仕草でザロを促す。
意図を悟ったザロが、精霊に呼びかけて、遮音の魔術を発動した。今までザロをいろいろと助けてきた魔術だ。
「結果はどうだった」
「駄目でございました。申し上げましたとおり、一切手放す様子はございませんでした」
フードの影から、ギリときしむ音が聞こえた。
「では、次の方法、私のやり方で動きましょう」
「……分かった。ただし、私たちも同行する。いいな」
ザロは一瞬迷う様子を見せるが、フードの影からの視線の鋭さを感じ、やむを得ないように頷く。
「承知いたしました。世界の頂におられる方の腕前にご期待申し上げます」
そのザロの言葉に、フードが軽く揺れた。
「と言うわけで、中の様子は一切分からんかった」
ザロの後を尾けてきたブルーが宿の一室に戻ってきた。事務所のような部屋へと戻り、人影が一つ中に入るのを見ただけで、中の様子は遮音の魔術で分からなかったそうだ。聴音の魔術を使えば、精霊が戸惑い、外部からの干渉が露見したことだろうと。
「後で入った人は見たのか?」
「見たわけではない。気配を感じただけだ」
あれは気配が漏れたんではなく、隠しきれぬほどのものだと、ブルーは逆に感心するほどであった。
その後、フードの人影は出て行ったが、ブルーは自分の気配を察知されるのを恐れ、そのまま帰ってきたのだ。
「怪しい点はなさそうだけど、情報が漏れて、さっそく接触してきた奴がいる。ペノンズは一応警戒は強化してくれるかな。商会を当てにせず」
「分かった。何かあったら、すぐに逃げ出すわい」
「精霊に見張っとくようにお願いしたからね」
リーネの言葉に、ペノンズの表情がふにゃりとなる。子供か孫に言われたかのように、顔が崩れている。正直不気味だ。
「すぐに対応出来るように、商会倉庫の近くを観光しようか」
そのアキラの言葉に、いつの間にか手に入れたのか、リーネがパンフレットのような物を取り出した。
「ふふふっ、リアルトには『かふぇ』なるものがあって、甘味が抜群なんだって」
リーネが広げて指さすパンフレットの地図を、皆がのぞき込む。特にツキが興味深げだ。
王都と帝都にもあったような気がするが、カフェとは呼ばないのかと、アキラは思う。
カフェの場所を確認したアキラとペノンズが、倉庫近くである事から頷く。
「それじゃ、明日は朝飯とったら、ぶらぶらと行くか」
その言葉を合図に、皆は自分たちの部屋へと戻るのだった。
社畜男:「Cafe。はい、発音して」
幼女もどき:「かふぇ」
社畜男:「ちがーう。Cafe、はい、One more please」
幼女もどき:「……かふぇ」
社畜男:「ちがーう」
わんわん:「それ以上は止めておけ。泣くぞ」
社畜男:「すんません。調子こいておりました」
女の子には優しく……って女の子?
次回、明日中の投稿になります。




