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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第3章 Reach
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3-11

引き続き、

第3章を投稿いたします。

よろしくお願いいたします。

財団(ファウンデーション) 商都リアルト 食堂

 炎の庭園を出た一行は、ペノンズと商会で合流すると、一件の宿に入った。

 宿に付属する食堂で、一行は夕食を取っている。ブルーはペノンズが持ち帰った水晶(クオーツ)を背中にくくり付けられて、床に寝そべっていた。

 炎の庭園では、個人では持て余すような話しを聞かされたが、幸い気にしている者はいなかった。それよりも、ペノンズの経過報告に耳を傾ける。

 検査の作業そのものは順調であるが、ペノンズ曰く良品率が低く、数を揃えるのに、三から四日はかかるとのことだ。

 宿は決まったことだし、明日からは商会ではなく、宿で合流してはとペノンズが提案するので、アキラ達は頷いていた。

「となると、ペノンズ以外は明日からしばらくは手が空くということだな」

「それじゃ、街を見て回ろうよ」

 アキラの言葉に、すぐさまリーネが提案する。特にする事は庭園への訪問くらいだったので、それはすでに済ませてしまっている。

「観光でもするか」

 リーネがそのアキラの言葉に手を上げて喜ぶ。よく聞いてみれば、リーネは商都にくるのは初めてなのだと。過去に来たことのあるツキも、特に反対する様子はない。

 ただ、アキラとしては、ベノンズに任せておくつもりだったが、良品率が低いと聞いて思い直し、工房の様子も見ておきたいので、出来れば倉庫での検品にめどがついてから後に工房行きは予定してほしいと、ペノンズに頼む。

「予定の調整をしておくわい」

 アキラの目的を理解しているペノンズの回答は早い。

 明日の予定を騒がしく、主にアキラとリーネが話していると、静かに一人の獣人がテーブルの脇に立った。獣人の中でもオオカミの特徴を備えた、人狼と呼ばれる種族だ。ライラとスノウと同じ種族に、記憶がよみがえる。アキラ達は会話を止めて、男を一斉に見る。

 視線が集中するも動じることなく、男は軽く頭を下げてから、アキラに視線を向けて口を開いた。

「ご歓談中に申し訳ございません。私はザロと申しまして、旅商人をしている者でございます。本拠はこちらのリアルトにございます」

「私はローダン商会に末席をおきます、アキラといいます。どのようなご用件で?」

 お互いの名乗りを終え、ザロはさっそくとばかりに、少し話しがあること、ここでは差し支えるのでアキラ一人で用意してある個室へと来て欲しいと告げる。ザロが指し示す方向には、食堂の一角に設けられたドアがあった。

 一人でと言われ、警戒はしすぎる方が良いと、アキラはツキとリーネ、そして床のブルーを見る。ツキは軽く頷き返し、リーネはテーブルの影で魔方陣を浮かべていた。恐らくは探知の魔術を発動させたのだろう。ブルーは耳をぴこぴこ動かすだけだが、行ってこいと合図しているようだ。

 ザロに頷くアキラ、ではとばかりにアキラを従えてドアへと向かった。

 まずはザロがドアを開けて中に入る。

 アキラはドアの外から中の様子をうかがう。いきなり入ったりはしない。

 中は意外と小さく、テーブルと二脚の椅子が置かれていた。恐らくは食堂の喧噪を嫌う客や、人目を避ける必要のある客、または商談に用いるなどしていると思しき内装だ。おかしな点は見受けられない。ザロの開けたドアの向かいの壁にはもう一つのドアがあった。恐らくは食堂を経ずして出入りできるようになっているのだろう。

 ザロはテーブルの横でアキラを待っていた。

 ゆっくりとアキラはザロに近づいて行く。

「さあ、そちらに座ってください」

 ザロの示す椅子に腰掛けるアキラ。手にしていた大太刀はいつでも抜けるように、自分の太ももに立てかける。

 アキラの目の前にザロは座った。

 お互いが値踏みするような間の後に、ザロが口を開いた。

「お時間を取らせて申し訳ない。お美しい女性達との食事を邪魔してしまいました」

「連れを褒めていただくのは嬉しいが、前置きはなしにしよう。場を温めたい気持ちは分かるが」

 恐らく話しとは商談であろうとアキラは判断していた。ただし、商人同士が初対面で商談を行うことは珍しい。何らかの紹介を得てからや間接的に商品をやりとりするなど、コネクションを商人は大事にする。場合によっては時間をかけて、ゆっくりと距離を縮めてからの商談なども珍しくもない。

 だから、何か裏があるとアキラは判断していたのだ。

 ザロは少し感心したような表情を浮かべる。アキラの見た目の年齢に、侮っていたのかもしれない。がらりと表で見せていた柔和な笑顔を収め、目つきを鋭くする。

「話しが早くて助かる。じつはあなたから買い取りたいものがある」

「ものとは何だ。はっきり言えないものか?」

「石だ。今日、ドワーフの鍛冶師がローダン商会に持って行ったものだ」

「何故知っているとは聞かないでおこう」

 アキラの言葉に、ザロは(とぼ)けたように両手を大きく広げる。

 ザロが言う石とは、水晶(クオーツ)の事だろう。ペノンズは移動の時には布でくるんでいるはずだから、情報が漏れたのは商会の支店、あるいは倉庫。

 倉庫は恐らく目撃者も多く、情報が漏れ放題だろう。アキラは、水晶(クオーツ)の存在を秘匿するつもりはあまりない。隠すべきは来歴であり、生命体である可能性であった。

「一応、理由を聞かせて貰いたい」

「教えられん」

「では、ただ欲しいと言うだけか。話しにならん」

 ザロ本人の希望ではないだろうとアキラは考える。価値の判断出来ぬものを、資本の少ないであろう旅商人が自分だけの判断で買い取るとは思えない。

 ザロの後ろには誰かがいるのは明白だ。ただし、誰の指示でザロが水晶(クオーツ)を買い取ろうとしているのかは、絶対に明かしはしないはず。だから、アキラは確認したにすぎず、ザロの返事も予想していた通り。いわばアキラとザロは、形だけの会話をしたに過ぎない。商談に入るための合図のようなものだ。

 ザロがテーブルに両肘をついて、身体を乗り出す。

「ざっくばらんに行こう。欲しがってるのは、さる高貴な方だ。価格もあなたにとって悪い値はつけん。ローダン商会のメンツも立てよう」

「売ることはできない。ローダン商会を通じて貰っても、あれの扱いは会頭自らが私に一任している」

 窓口はアキラ一つ。そしてそれを今閉じた。

 アキラはこれ見よがしに大太刀を掴んで立ち上がる。その姿を睨んでいるザロを残して部屋から出ると、そのままテーブルへと戻った。

 問いかけてくるツキの視線に、後でとアキラは返す。

 ふと見ると、床にいたはずのブルーの姿がなく、布にくるまれた水晶(クオーツ)はペノンズが抱いていた。

 頼むまでもなかったかと、アキラは椅子に座って皆と明日の予定を話し合うのだった。


わんわん:「さて、と」

幼女もどき:「おトイレ?お腹痛いの?」

社畜男:「……そのネタ、続くな」

みたいです。


次回、明日中の投稿になります。

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