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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第3章 Reach
59/219

3-10

引き続き、

第3章を投稿いたします。

よろしくお願いいたします。

 この国のナンバー2の登場に、立ち上がって出迎えようとするアキラ達をリータが座っているように制した。まるで、あえてそうするかのように。

 ソファーの側に立ったミュールに、リータはローゼン商会の者達だと、一人一人と一頭を紹介していく。それへ立ったまま手を差し出して、握手を交わしていく。少し、顔がこわばっている。

 そして、紹介がすむと、最後と締めくくる。

「俺の友人達だ。歓迎しろ」

 ミュールの口角がひくりと一つ震える。

「リータ様、確認がございます。そちらの犬もでしょうか」

 それはミュールの精一杯の抵抗だったかもしれない。皮肉も混ぜたつもりだ。

 ちなみに、ミュールが現れてからは、ブルーは一言も発していない。犬のふりをしている。紹介された時も、自ら前足を差し出すこともなく、ミュールが足を取るのにされるがままだった。

 ミュールの質問に、リータは手を腰に当て、とても大きな胸を張った。

「もちろんそうだ。犬もだ!」

 その言葉に愕然とするミュール。あまりの堂々とした物言い、態度に自分は会長補佐であり、この国の舵取りを任されている一人だよなと自問する。

「お前、握手もしたよな」

 リータの追撃。

 ミュールはガクリと床に膝をつき、這いつくばって空いた椅子に座る。それに気の毒そうにツキが冷茶をグラスに注いで差し出していた。

 ツキほどの美人に優しくされて、少し持ち直したのか、礼を言いつつグラスに口をつけて自分を落ち着かせるミュール。

 皆が見守る中、犬だけは「けっ!」と言っていたが、幸いミュールには聞こえなかったようで、改めて口を開いた。

「失礼かと存じますが、ご友人方は本日はどのようなご用向きで?」

 リータは大精霊で、いわば公人だ。ミュールはたとえ私用であっても、訪問してくる者の正体や理由は知る必要があると判断している。私服で調査させていた者の報告では、ローダン商会の者達であることは、商会そのものから裏がとれた。

 しかも、ベイタからの報告によれば、先触れの者が言うにはリータとの約束で、ここを訪れているという。どちらかというと、リータはこの庭園より外については興味が薄い。

 逆に会える大精霊であるため、他の大精霊とは違って決められた日取り時間に国のトップである会長などと会うこともない。

 アキラの答える気配に、そちらを見るミュール。

「いや、遊びに来ただけで。申し訳ない、帝国との紛争中にお手を煩わせるようなことになって」

 政治家たるミュールは、自分が表情を隠すのに長けていると自負している。だが、今のアキラの言葉に、隠しようもなく「えっ?」、という表情が浮かんでいることに気づき、慌てて表情を引き締める。しかし、内心では「こいつ、何言ってんの?」という感情疑問でいっぱいだ。

 一般の民衆であれば、申し込み、審査を受けて順番さえ守ればリータには会える。そんな時に、リータが気まぐれに微笑みつつ子供の頭を撫でたり、抱き上げたりして、親が感激のあまり泣き出す場面なども見たことがある。

 だが、なんと言ったか今。財団(ファウンデーション)の最重要精霊に対して、詣るでもなく、用件もなく、ただ「遊びに来た」の一言で済ますだと。

 ミュールはふつふつとこみ上げてくる感情を鎮めるのに必死だ。

「しかし、紛争とは言っても、帝国のエリオットと話し合いで解決できるとは思うのですが。聞かない奴ではないですが」

 今度は政治に手を突っ込んできた、と怒りが増しかけたときにミュールは気づく。すっと心が静まる。

「帝国のエリオット王子とお親しいのですか?」

 そのミュールの言葉に、アキラはうろたえ、しまったという表情を浮かべ、ツキはこめかみに指をあて、リーネは馬鹿だねーと言う表情。ただ、ブルーはいいんじゃね、みたいな表情だったが。

 自分が蒔いた種だと、アキラは火消しにかかる。

「親しいわけではなくて、何度か会話を交わした程度で」

「それは帝都の宮殿でのことですか?」

 いやに、しつこく絡んでくるなと思い、しかし、シルを探した一件については口外する訳にもいかず、ペノンズの一件もいわば超法規的な部分があるため、これも話は出来ない。ましてや、境界内での戦いについて話すこともできない。

 そう言えば、キンボールとエリオット、このミュールは学生時代につるんでいたのだったか。それが敵同士で戦っていると言うのだから、凄惨な世界だなと、逃避するようにアキラは考える。

 考えても無駄だと悟ったアキラは、えいやと答える。

「じつは、たまたま道で出会いまして」

「嘘ですね」

 即看破であった。

 言葉に窮したアキラはソファーに座って固まってしまう。

 口を挟んでも、アキラと同じ結果になるので、ツキとリーネは明後日の方向を向いていた。ブルーはもとより犬であるため、役に立たない。

 じりじりと冷や汗を流す中、手助けは意外な方向から現れた。

「その辺にしといてやれ。人には話せない事もあるんだ」

「ですが……」

「一つ教えてやる。その男、アキラと仲間達は大事にしろ。お前のためでもあるし、財団(ファウンデーション)のためでもある」

 一旦視線をリータに向けていたミュールが、アキラへと視線を向けた。その瞳に浮かぶ感情は、この男がという疑問であった。

「リータ、買い被って貰っても困るぞ、俺は」

「心配すんな、アキラが困ったときは、俺が手伝ってやる」

 ミュールにとっては、いや、人や獣人など、大精霊を信奉するものにとっては愕然とする言葉だ。その言葉が意味することは一つ。

「リータ様、このアキラ、いやアキラ様と契約なさるおつもりか?」

 精霊との契約。これによって、人や獣人は契約者の称号を得ると共に、契約した精霊の能力と翼を獲得する。過去に数人が存在するが、その契約した精霊はほとんどが大精霊になったばかり。始原の精霊とも呼ばれるリータが契約するとなると、過去に例がないばかりか、アキラはどれほどの力を得るのか想像も出来ない。

 その重大さが分からぬアキラは戸惑う。

「ちょっ、ちょっと待って……」

「安心しろ、契約はしない。アキラ達は気の良い友人達だ。だから手伝ってやるんだ。盟約や契約は関係ない」

 そのリータの言葉に、目に見えて安堵しているミュール。

 そして、この機を逃さず、アキラは退散しようと、リーネとツキに合図を送ろうとするが、それはミュールによって阻まれた。

「そうならば、アキラよ、今から言うことを聞いておいてほしい。ただ、私が独り言を話すとでも思ってくれれば良い」

 現在、帝国と財団(ファウンデーション)は国境にて紛争状態にあるが、にらみ合っているだけだ。財団(ファウンデーション)としては早期の終結は望んでいない。ただ、帝国の苦境も理解しており、どこかで妥協点を見つけなければならないが、財団(ファウンデーション)が意味なく禁輸や買い占めをしているのではないことを知って欲しい。帝国の国力を削るためではなく、自国防衛、国民を守るために行っている事を知って欲しい。帝国で起こっていることは、財団(ファウンデーション)にとって対岸の火事ではない。

「まさか、災害の拡大を予測してのことか」

「私の独り言だ。これをどうやってエリオットに理解して貰うかが、私の仕事だ」

 ミュールの言葉に、「そういうことか……」とアキラは呟く。

 言うべきことは言ったのか、ミュールはリータに退出の挨拶をして、広場を出て行くのだった。それを見送ったアキラは、視線をブルーに転じるが、言いたいことが分かっているのか、首を横に振るブルー。

「自分で考えろ」

 その言葉に、アキラは考えに沈み込んだ。


社畜男:「会いに行ける○○○○」

わんわん:「推しは誰だ?」

幼女もどき:「(イラッ)…………」

私の推しは…………。


次回、明日中の投稿になります。

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