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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第3章 Reach
58/219

3-9

引き続き、

第3章を投稿いたします。

よろしくお願いいたします。

財団(ファウンデーション) 商都リアルト 炎の庭園

 アキラ達一行は、戻った先触れから訪問の許可を聞き、炎の庭園の入り口へやって来ていた。

 庭園の入り口というには、物々しい警備と豪奢な門扉であった。

 近づくアキラ達を見つけたのか、警備の騎士二名を背後に従えた、オレンジ色のテールコートを着た女性が近づいてきた。

 女性は一行を一瞥しただけで、すぐさま軽く頭を下げた。

「アキラ様ご一行でしょうか?」

 そうですと頷いたアキラに視線を向けた女性。

「初めてお目にかかります。リリス会長補佐の秘書長を務めております、ベイタと申します。リータ様がお待ちでございますので、簡単なご挨拶で申し訳ございませんが、さっそくご案内申し上げます」

 ベイタは更にもう一度頭を下げ、身を翻して先に立って歩き始めた。

 警備の騎士が、一行の後ろについたことから、ベイタの護衛ではなく、アキラ達を警護、あるいは監視対象とするようだ。特に何かをしでかすつもりもないが、騎士達は犬であるブルーの存在が気に食わないようだ。

 豪奢な門扉を潜り、緑に囲まれた小道をベイタの案内で行く。

 小道を行くにつれて、緑の中に赤が混じり始めた。アキラは最初は花が咲いているのかと思ったが、木が燃えているのを見て、これは違うとツキに尋ねるように視線を向けた。

 すると、やはり知っていたのか、ツキは説明を始めた。

「火炎樹や火炎花と称されるもので、この庭園でしか見ることは出来ないそうです」

「よくご存じですね」

 ツキの説明を耳にしたのか、ベイタが前を向きながら声をかけてきた。それへツキが言葉を返す。

「私も初めて見ます。物の本で読んだことがあるだけです。本とは言っても観光案内ですが」

「庭園はリアルトの名所ですが、一般に開放されているとはいえ、なかなか入る機会は少ないのですよ」

 リータの住まう場所、いわば座所であるため予約制にして制限をかけているのだと。まるで、突然尋ねてきて入れろと言ってきたアキラ達を咎めるような口調だ。

 このベイタという女性、どうやら規則にうるさい性格のようだと、アキラは苦笑を浮かべた。

 やがて小道は大きな円形の広場に出た。広場の真ん中には大きなソファーが置かれており、リータが頬杖をついて寝転んでいた。

 アキラ達が広場に入ってきたことを知ったリータは、寝転びながら大きく手を振る。ベイタが来客を告げる暇さえ与えない。

「おーい、こっちに来て適当に座ってくれ」

 特に遠慮も必要ないだろうと、アキラ達は言われたようにソファーに適当に腰掛けた。その様子を見ていたベイタは、もっと敬意を払えと言わんばかりの憮然とした表情を浮かべている。

「何かご用意いたしましょうか」

「おうっ、適当に持ってきてくれ」

 そのリータの言葉に、一礼を残してベイタは広場を出て行く。入れ替わるようにメイド数人が手に手に水差しやらグラス、焼き菓子を乗せた皿を運び、テーブルへと置いて配膳をしていく。

 手の空いたメイドはすぐさま広場の縁へ行くと、そこで直立して微動だにしない。どうやら、そこで指示を待つようだ。

「下がってくれ、俺たちで勝手にやるから」

 瞬く間ほど、戸惑いを見せたメイド達だが、広場から全員が出ていった。

 それを確認していたリータがブルーに対して片目をつぶった。

「邪魔だろ?」

「気が利くこった」

 そう言って、床に寝そべっていたブルーが、ソファーの一つに飛び乗り、にかりと笑ったリータは身体を起こし、ソファーに座り直した。

「だけど、来るって言いながら、全然来ないから心配したぞ」

「ログハウスを建てているのは知ってただろう。あれが完成してから来たんだ」

 リーネに咥えさせて貰った焼き菓子にブルーは夢中になっていたので、アキラが代わりに答えた。

 グラスから冷茶を一口含み、リータは頷く。

「そうか、でも来てくれてありがとうよ」

 長く会えなかった旧友が遊びに来たときのように、どこか懐かしげに、うれしさに満ちた、柔らかな笑顔をリータは浮かべる。

「しかし、立派な庭園だな。リータが自分で作ったのか?」

「そうだ、ベースは財団(ファウンデーション)が作ったから、そこへ俺がアレンジをしていった」

「けど、あの燃えている樹とか花は、他へ燃え移らないのか?」

 もちろん、リータが何らかの細工を施しているのだろうが、火炎樹や火炎花に隣接している樹や草が燃え上がる様子がないことをアキラは不思議に思っていた。

 その言葉に、いたずらっぽい笑み浮かべたリータが、指を鳴らして、一つの方向を指さした。その指に導かれて、アキラが視線を向けると、火炎花の横に魔方陣が生まれ、見えない指が花を手折り、それをポーンと投げた。

 燃えさかる花は、アキラの膝の上に着地した。慌ててはね除けようと手を動かすアキラだが、にやにやと笑うリータの顔が目に入り、その手を止めた。

「熱くないし、燃え移らない」

「そうだ、俺が命じない限り、燃え上がる事も燃え移ることもしない」

 この炎を纏った樹や花は、すべてリータが生み出したもので、管理下に置いているので大丈夫だと。

「人や獣人、獣、精霊なんかは無理だが、似たようなものは俺ら大精霊になれば生み出せる。なんか疑似生物(イミテーション)て言われてるみたいだけどな」

 すべての精霊を生み出したという、星の精霊ほどの力はなくとも、偽物程度は大丈夫だと。だから、ここで見られる火炎樹や火炎花は他で見ることはできないのだ。

 燃え移らないと言われてはいるが、恐る恐るアキラは燃える花をつまみ上げる。顔まで持ち上げて、じっくりと見ていたが、隣のツキの視線を感じ、差し出された手の平にその燃える花を乗せた。

 手の平に乗せられた花をのぞき込むツキ。

 燃えていようと、花は花。

 嬉しげな表情を浮かべるツキ。花を愛でる女性そのものの美しさがあった。

 いや、あり得ぬものだけに、より一層に凄惨な美しさがあった。

 しかし、アキラは気づいた。ブルーに焼き菓子を咥えさせるのに夢中になっていたはずの、リーネが真剣な顔でツキの手の平にある火炎花を見つめていることを。

 どうしたと、アキラがたずねようとしたとき、先にリーネの口が開いた。

「ごめん、それをどっかで見たことがある気がして」

 誤魔化すように笑ったリーネが、胸の前で盛んに手を振る。

「作れるのは俺だけじゃないから、他の大精霊、シル姉やディー姉が作ったのでも見たんじゃねーか」

 焼き菓子をブルーの鼻先に差し出し、咥えようとすると逃げるといった事をしつつリータが答えた。

「そうかも!でも、この花は本当にキレイだね。なんか、核の部分が優しい感じがする。リータみたいに!」

「ばっ、馬鹿言ってんじゃねーよ!」

 一瞬にして、リータの顔が真っ赤に染まる。さらには頭から蒸気が出ていた。比喩ではなく、文字通りそのものが。さすがに炎を操る大精霊と言うべきか。

 この隙にとばかりに、ブルーがリータの手にある焼き菓子に飛びつくが、さっと避けられて、ブルーの顎は空を切る。その悔しげな姿を、けらけらと笑ってリーネが指さしていた。

 その時、広場の入り口から声が聞こえてくる。何やら「お止めください、お立場を考えていただかないと!」、「馬鹿を言うな。そこを退け」と揉めている様子。

 アキラ達一行とリータがそちらへ視線を向けると、長髪の男が中へと入ってきた。それに追いすがるのは、ベイタだ。

 男は腕を掴んでいたベイタを、優しく振り払い、軽く頭を下げた。

「騒がしくして済まない。リータ様に客人と聞いて、挨拶でもと慌てて来たので。私は、財団(ファウンデーション)会長補佐のミュール・リリスと言う」

 諦めたのか、ベイタは入り口脇で立ち、それを残してミュールは近づいてくる。

社畜男:「アツクナイデース!」

わんわん:「また分かりにくいことを……」

すんません。


次回、明日中の投稿になります。

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