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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第3章 Reach
57/219

3-8

引き続き、

第3章を投稿いたします。

よろしくお願いいたします。

 図らずも食後のティータイムとなって、茶と菓子を楽しみつつ時間を潰していると、一人の恰幅の良い男が入ってきた。

 つい、商社員の時の癖で、立ち上がって挨拶しようとするアキラだったが、その男は座ったままでと、手で制してきた。

財団(ファウンデーション)支店長のハートリーだ。会頭からは連絡を貰っておる」

 全員を見回した後、ほんの僅かではあるが、リーネとツキの身体を舐めるように見ていたことにアキラは気づき、嫌悪の思いに捕らわれる。二人とも、出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいるので、男の興味は引きやすいとはいえ、ハートリーの視線はあからさまであった。

 椅子に座ったハートリーが、さっそくとばかりに口を開く。

「用件については、会頭から聞いている通り、納入予定の製品を検品して良品を引き取る。これで間違いないな」

「その通り、検品は彼が行います。鍛冶師のペノンズです」

 アキラは手でペノンズを指し示すと、ハートリーは無言でうなずき、手元にあったベルを鳴らす。すると、入り口付近で待機していたのか、すぐさま一人の男が入ってきた。

 男は頭を下げる。

「彼は支店長補佐をしておるウルだ。製品の保管倉庫や工房へは彼が案内をする」

 頭を上げたウルが自らも名乗る。年齢は三十歳には届かない程度か、中肉中背で顔も特に特徴がない、平凡な印象なのだが、耳と尻尾があるので、未だそれが珍しいアキラ。ライラやスノウを思い出す。

 このウルはハートリーが説明するには、支店長補佐とは副支店長クラスの役職であり、ウルはそれなりに優秀なのだと。しかも、人狼の筆頭族長とは血縁があって、獣人と交渉する上で非常に役に立つと言う。

 しかし、紹介をされている最中に、ちらちらとリーネやツキに視線を送る様子を見ると、はたして本当に優秀なのだろうかとアキラは思う。ローダン商会内部であっても、支店と言うこともあって犬のふりをしているブルーが、床に寝そべりつつ首を小さく左右に振っていた。

 そんなウルは、ポケットから紙片を取り出した。

「製品は倉庫にて準備が出来ています。工房へも連絡済みで、いつ来て貰っても構わないとの返事を貰っています」

「ご手配ありがとうございます。では、手順を打ち合わせますので、私たちだけにしていただけますか」

 事実上、席を外せとアキラに告げられてムッとした表情になるハートリーだったが、抗う理由もないため、用があるときにはベルを鳴らせと告げて、ウルを従えて部屋を出て行った。

 ドアが閉まるのを確認し、しばらく無言のアキラ達。

 リーネがうなずく。

 廊下に聞き耳を立てる者がいないか、精霊を通じて調べていたのだ。

 背中の水晶(クオーツ)をツキに解いて貰いながらブルーが口を開いた。

「周囲を探知してみたが、警備はしっかりしているようだな」

 その警備については、もちろんアキラ達も警戒する対象になっているだろう。しかし、警備が厳重である事は悪いことではない。それだけ、外敵にも対応が出来るということだ。

「ペノンズ、どうする?」

「皆に来て貰っても、暇を持て余すだけじゃ。わしが一人で水晶(クオーツ)をかついで検品に行ってくるわい」

 水晶(クオーツ)をツキから受け取ったペノンズが答えるが、アキラとブルーは即答せず、視線を交わしあった。確かに手伝える事は少ないであろう。あったとして、恐らくは倉庫にいる者を使えば事足りることは予測できる。工房への対応ともなると、アキラ達に出番はなく、交渉もふくめてペノンズに任せてしまう方が、邪魔にならなくて済む。

 安全に関してはローダンの商会故に、彼女に恥を掻かせないためにも万全に行われるはずだ。問題は水晶(クオーツ)がこの商都で再び三本足に襲撃されないだろうかという点だ。

「ペノンズ一人に任せて大丈夫だろう。何かあってもすぐに精霊が知らせてくれるだろうよ」

「現場に多人数で押しかけるのも迷惑だな」

 特に工房などは、部外者がうろうろするのは、技術秘匿の面からも嫌がるであろう。アキラも商社員であった時、直接メーカー倉庫で納品を待っていて、あからさまに邪険にされたことを思い出していた。

「分かった。ペノンズには一人で行って貰おう」

 そのアキラの言葉に全員がうなずき、さっそくリーネがペノンズを守るように精霊へと呼びかけていた。今後も考えて、倉庫と工房に限度見本を渡すようにアキラがペノンズに頼み、ベルを鳴らした。

 皆でこれからどうするかと相談をしていると、ハートリーがウルを伴って部屋へと入ってきた。

 アキラはウルに、ペノンズ一人で行くことを伝えると、さっそく二人は部屋を出て行く。それを見送ったハートリーが、これからの予定を尋ねてきたので、アキラは皆との相談で決まった炎の庭園へ行くことを告げた。

「大精霊と会う約束をしているので、先触れを出してください」

「リータ様と約束だと。馬鹿をいうな」

「事実ですよ。とにかく、相手は大精霊だから、突然押しかける訳にもいかないので、すぐに先触れを出してください。それで拒絶されても恥を掻くのは俺だ」

 舌打ちしたハートリーは、しぶしぶといった様子で手配をすると、仕事があるからと部屋を出て行く。

 残された一行は、先触れが戻るまでこの部屋で待つことになった。

「目が気持ち悪かったよ」

 さっそくとばかりにリーネが身を震わせてアキラにしがみつく。普段はあまり嫌悪の感情を出さないツキもリーネの言葉に大きくうなずいていた。

 もちろんその後、アキラとブルーは先触れが戻るまで、さんざんハートリーの悪口を聞かされることになった。


財団(ファウンデーション) 商都リアルト 高級宿

 アキラ達一行が、商都リアルトに入った日。

 宿の最上階、豪華というほどのものではないが、明らかに貴族向けの装飾が施された部屋のリビングで、ライラとスノウはソファに座っていた。ただし、姉妹二人だけではない。

 姉妹の前には人狼の男が恭しく跪き、頭垂れていた。

「それは確かなのですか」

「はっ、此度に本国で見舞われた災害は来年も続く恐れがございます。それを防ぐにはある石を眠れるサイン様へ直接に奉納することが必要」

 その言葉に、姉妹は視線を交わし合う。

 サインとは、協同国へ農耕や牧畜をもたらした大精霊ゴサインのことで、協同国の国民が親しみを込めて呼んでいる名だ。

 今この人狼の言葉を鵜呑みには出来ないが、看過できぬ点があった。

 大精霊ゴサインは協同国から姿を消したことになっており、国民すべてがそれを信じているが、筆頭族長とその娘であるライラとスノウだけが、代々受け継いでいることがある。

 事実はサインは協同国を離れていない。協同国のとある場所に一人で住んでいたのだ。そして、帝国のシルや王国のディーネと同じように、決められた日のみ、しかも筆頭族長と巫女の役割をする娘だけの前に姿を現す。

 これは、サインが獣人達が自分たちの力のみで立つために行ったことだ。もちろん大事に思うが故に、日を定め、決められた者のみの前に姿を現すのだが。

 ただし昨年来、この決められた日にサインは姿を現さなくなった。

 見限られたかと、項垂れつつ筆頭族長と姉妹は相談していたところ、この年の災害だ。明らかに関連があるのではと、獣人達にとっては忌み嫌っている行為、サインの様子を精霊達にスノウがたずねる事になった。

 この先長くない命、禁忌に触れて、大精霊に嫌悪されるならば自分がとスノウが名乗りをあげた。獣人全体にタブーを犯した影響がでないよう、シャープスの名を捨て、耳をそぎ、尻尾も切り落として獣人であることを止めるとまで言い出したが、それは族長とその周囲の者が留めた。

 その結果、サインは住む地より去ったのではなく眠っているだけと分かった。しかし、この状態で良いわけがなく、僅かな可能性に賭け、ライラとスノウが方策を探すためにドラゴンの境界を一周することにしたのだ。

 そして、姉妹の目の前で、男ははっきりと言った。サインは眠っていると。それを知るのは姉妹とその父のみのはず。

 実は、この男の身元ははっきりしないがために、会うことは止めておこうと姉妹は話していたのだが、筆頭族長に血筋連なる者からの紹介状を持ち、事前にサインが眠っていることを書簡で伝えてきたのだ。会わずにはいられない。

「今のこと、どのようにして知ったのだ」

 前のめりにライラが尋ねる。おそらく、この男は善意でこの場に来たわけではない。では、なにがしかの謝礼欲しさであろう。金銭あるいは……。民のためであれば、身を投げ出す、あるいは捧げる事も惜しくはない。ただ、この男が真実を告げ、すべてが解決したならばだ。

「賢者に出会い聞きました。ただ、その賢者は人狼の族長に伝えるように言い残して、姿を消しました」

 その言葉に裏付けはないと、男ははっきりと口にした。

 そして、男は続ける。その石の有りかを掴んだと。

「どこだ、それは!」

 ライラは藁にもすがる思いで叫んだ。

 男は顔を上げ、にやりと笑う。

「ローダン商会財団(ファウンデーション)支店」

 姉妹は顔を見合わせる。

 先日、礼のために訪れた場所だ。境界を一周する旅に、ローダンは気を遣って、馬車を用意した。

 境界周辺の地形に詳しいローダン商会であれば、馬車での移動が可能であったが、本国から遠い地にやってきた姉妹は、馬や馬車を途中で捨てるのを避け、徒歩での移動を選択していたからだ。

 王都と商都間は頻繁にローダン商会のコンボイが境界を迂回しつつ往復しており、それへの同行を薦めたのだ。

 ライラはスノウの体調も考慮して、それを受け入れた。そして、移動途中で鳥居もどきに寄りつつ、すべてを終えて商都にたどり着き、宿を取ったのだ。

 今はスノウの体調をうかがいつつ、帰国の準備をしていたところだ。

「わかった、ではどのようにして手に入れる」

 姉妹と男、三人が相談を始めるのだった。


幼女もどき:「こっち見んな」

銀髪:「こっち見んな、です」

わんわん:「……もうちょっと、何というか、その……」

良いんじゃね。


次回、明日中の投稿になります。

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