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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第3章 Reach
56/219

3-7

引き続き、

第3章を投稿いたします。

よろしくお願いいたします。

 リータの訪問から十数日、アキラが驚くような期間で新たなログハウスは出来上がった。さっそく研究室の引っ越しを行い、ディアナとペノンズは自室となる部屋に荷物を運び込んだ。しばらくは個人の作業場で寝泊まりする事になるが、二人は気にしている様子もない。恐らく慣れているのだろう。

 空いたテントを畳み、荷馬車へ積み込む。更には食料を積み込むと、財団(ファウンデーション)への旅の準備が整った。

 見送りに立つディアナに、戻ったら時間を取って貰うようにアキラは頼む。前に話したとおり精霊工学についていろいろと相談するつもりだ。

 手を振るディアナを残して、アキラ達は旅立った。

 この旅では、アキラは荷馬車の操り方を覚えるつもりで、ペノンズと二人で御者席に座って手綱を取っていた。ブルーは荷馬車の後ろで、水晶(クオーツ)のとなりで寝そべっており、リーネとツキは自分たちの精霊馬に跨がっている。

 前にも乗ったときにアキラは感じていたのだが、車輪からの衝撃が直接身体に伝わってくる。サスペンションの概念について、ペノンズに尋ねてみると、やはり色々研究はされているようだが、一般に普及するほどの価格にはなっていないようだ。材料の鉄を作る上で、量産の場合に恐らく炭素の含有量についてのコントロールが出来ていないので、バネ性などにばらつきが出るのだろう。

 そのような感じで、ペノンズからこの世界の技術について尋ねながらの旅となり、アキラにとっては有意義な時間になった。仲間はずれになっていたリーネとツキには不評で、その分は野営時に色々と相手させられることになった。ツキは料理や武器について聞きたがり、リーネは科学、もちろん化学についても聞きたがった。

 そして、道中問題もなく、商都へとたどり着くことができたのだが、遠くから眺めるアキラがぽつりと呟いた。

「どこの地方都市だよ……」

 そう、アキラの目には、商都リアルトは背の低いビルが乱立する、日本の地方都市に見えた。さすがに高層ビルはないものの、五階建て程度のビルは結構目につく数があった。

 商都に入る際、検問と言うほどのものはなかったが、帝国と国境紛争中ということで、旅の目的や所属を問われることになる。もちろん、ここではリータから受け取った通行証が非常に役立った。

 商都の中に入ると、更に近代的な都市である事がわかった。道路を走るのは自動車ではなく馬車であったが、しっかりとレーンが設けられており、歩道があるところまであった。大きな四つ角では、馬車の誘導をしている者までがいた。

 都市計画がきちんと機能しているのか、馬車が渋滞することもなく、道路も真っ直ぐで整然としている。遠くから見たビルは、石やローマンコンクリートをふんだんに使ったもので、しっかりとした区画整備がされており、レンガを使用した建物ももちろんあるが、周囲に調和したデザインとなっている。自然にも配慮しているようで、木々を植えた広々とした公園があり、様々な種族の人々が芝生に寝転がったり、ベンチに座っておしゃべりを楽しんでいたりしているのが見てとれた。

 到着が昼頃であったので、まずは昼食をということになり、馬車と精霊馬達を、それ専用のスペースを持つ業者に預けて食堂へと入った。もちろん、水晶(クオーツ)だけは下ろして、ブルーの背中にくくり付けたのだが、もう慣れてしまったのか、当たり前のようで、嫌がるそぶりすら見せない。

 昼時とあって、食堂は混雑していたが、すぐにテーブルに着くことができた。残念なことに、相変わらずブルーは床だ。

「驚いた、すごく発展している都市なんだな」

 全員同じ定食を頼み、それを食べながら話しをする。ブルーはウエイトレスに「かわいいワンちゃんだねー」と頭を撫でられ、平皿に肉の端を入れて貰っていた。一口試しにかじって、口に合ったのか、珍しく食べていたが、ドラゴンの誇りもどこへ行ったのか、かわいいと撫でられて喜んでいる様子だ。

「そうですね。商都リアルトは王国や帝国を含めても、最も新しい都市ですね」

財団(ファウンデーション)が威信をかけて作り上げた都市じゃ。その分、いろいろな物が集まる、商人にとって都合の良い街になっとる」

 財団(ファウンデーション)の発表では、まだ完成途上とのことであったが、確かに、将来が見込める街作りをしている。ただ、ペノンズの意見では、まだ王国や帝国に比べて工房などの技術は、若干遅れているのだと。その分、流通網をしっかり作っており、他国からの輸入が盛んに行われているため、製品の集積地としても大いに機能しているのだと。

 ローダンが財団(ファウンデーション)の支店へ向かえといった意味が、アキラはようやく理解出来た。

「商会支店へ行くのが楽しみになったよ」

 アキラの言葉に、思いついたように、ツキがウエイトレスを呼び寄せ、ローダン商会の場所を尋ねる。

 聞くと、支店の場所は歩いて行ける距離にあるようなので、このまま徒歩で向かうことにした。

 周囲の光景を見わたしながら歩くアキラ。王都や帝都とは違って、どうにも景色が見慣れた物に感じる。ここは異世界かと首を捻りたくなるが、道行く人々に目を向けてみれば耳の長いエルフや、背の低いドワーフ、耳と尻尾をつけた薄着の獣人がそこかしこを歩いている。

 やはり、異世界なんだと、アキラはため息をついた。

 そんな時、ツキがアキラの耳に口を寄せて、いま尾行がついたと告げてきた。アキラは少し考え、どうしようもないので、このままで行こうとツキに言葉を返した。ブルーも気づいていたようで、並んでいたのを、速度を落として後ろに回るのだった。


 ローダン商会財団(ファウンデーション)支店は、王国にある本店と同程度の店構えをしていた。

 贅をこらしたドアを開けて入る一行。アキラは少し気後れしているが、ツキやリーネは普段通り、意外にもペノンズも堂々としていた。やはり一流の職人ともなると、このような大商会にも入り慣れているのだろう。

 アキラ達の服装、特にアキラの態度と犬の姿をしたブルーに訝しげな視線を送ってくる店員達。そのうちの一人が踵の音も高く近寄ってきた。

「本日はどのようなご用件で」

 声色には警戒と少々見下すようなものが混じっていた。

「初めまして、本店に席を置いております」

 ツキが預かっていた所属を示す証を取り出して見せる。

 受け取った店員が、それを読むなり、いきなり背を伸ばして直立不動となった。

「申し訳ございません。会頭より連絡が来ております。遠路ご苦労様でした」

 そう言って、店先のソファーではなく、奥へと来るように案内を始めた。

 いきなり態度が変わり、アキラは店員の背を追いつつツキに尋ねる。

「彼、どうしたんだ?」

「書類に、会頭直属と書いてあったからでしょう」

 あっさりとツキが応える。

 なるほど、それは態度も変わるかと納得するアキラ。いわば、社長直下で肝いりのプロジェクトチームがやって来たのだ。態度も改まるし、便宜も図ってくれるだろう。

 そんなやりとりの内に、奥の会議室に入る。

 テーブルに着くなり、茶と菓子が給仕され、しばらく待つようにと案内をした店員が告げる。

剣と魔術の異世界に転生したと思ったら、

実家よりも都会だった件。

ではありません。

わんわん:「……デレてないぞ!」

社畜男:「そもそも、ツンしてないし」

幼女もどき:「女の子にはデレデレだもん」

わんわん:「…………」

ドラゴンの誇りはどこ行った。


次回、明日中に投稿いたします。

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