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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第3章 Reach
54/219

3-5

引き続き、

第3章を投稿いたします。

よろしくお願いいたします。

 新たなログハウスの建設が、だいぶ形をなしてきた頃の昼休み。平行して進めていたかまどなどの設備が整ってきたのか、手の込んだ料理を作れるようになったツキが作った昼食を、休憩用のテーブルで食べていたアキラは、自分の昼食の皿を持って近づいてくるペノンズに気づいた。

「ここ良いかの」

 うなずくアキラの前に座るペノンズ。ペノンズのために冷茶をグラスに注いでやり手渡した。

 昼食なので、それほど手の込んだものではない。ショートパスタをそぼろ肉のソースで和えたものを、二人はフォークで言葉も交わさずに食べていた。

 やがて、皿が空になり、口をハンカチで拭ったアキラが、ペノンズに声をかけた。

「何か話しがあるんだろ」

「そうじゃ」

 アキラと同じように、口と髭をハンカチで拭い、皿を脇に寄せたペノンズが、ポケットから被覆されていないコードの一束を出して、テーブルの上に置いた。

 それは、とアキラが視線で問いかける。

「先日、お前さんが持ち帰ったものじゃ」

 トゥースピックの死骸を境界に運んだ際、ローダンから受け取った荷物であるようだ。リストすべての物品が揃ったわけではないが、手に入ったものから納品するとのことで、アキラとリーネで、新しく手に入れた荷馬車に積んで持ち帰っていたのだ。

「不良品でも混じっていたのか」

「厳密にいうと、そうではない」

 訝しげなアキラに、ペノンズは説明を始める。

 納品されたコードについては、普通の用途で用いる限りでは問題はない。ただ、今回ペノンズやディアナが求めている性能には達していないのだと。

 ペノンズ達が求めているものは、全体的に高性能なものが多く、量産品では性能を満たしていない場合が多い。そのため、リストには要求する性能も書いてあったのだが、出荷する工房が複数になるため、要求を満たしていない代物が混じる事になる。

「そういうことか。それじゃ、工房を指定するか?」

「いや、それをすれば、優秀な工房を独占する事になってしまうのじゃ」

 ただでさえ、高品質なものを作る工房は、引っ張りだこであるのに、ローダン商会などの大商人が指定しまうと、市場にとって良くないとペノンズ。

「そうか、他の商人や工房に迷惑をかけるか」

「うむ、それでな、わしが検査の上、選別したものを仕入れようと思うのじゃ」

 おそらく、ペノンズはローダン商会の購入したものを全数検査して、その中から欲しいものだけを購入したいのだ。

 通常であれば、抜き取り検査で済ましてしまうような品だ。それをペノンズほどの職人が全数を検査するとなると、コスト的にとんでもないことになる。

 しばらく、グラスを弄びつつ考え込んでいたアキラだが、とりあえずの思いつきを話してみることにした。

「こちらに届いたものを選別するのも手間だし、商会の在庫か仕入れ先の工房で、選別でもするか」

 工房へ行けば、ペノンズであれば、ある程度の技術指導をする機会も出来るであろう。もちろん、指導先の工房に受け入れる姿勢があればとなるし、指導するペノンズが技術流出を許容すればとなるが。

 ペノンズはアキラの意を汲んだようだ。

「良かろうて」

「そうか、それなら少し待ってくれ」

 すぐさま、近くに寝そべっていたブルーに声をかけ、ローダンに今の話しを伝えて貰う。すると、すぐに答えが返ってきた。

財団(ファウンデーション)の工房から仕入れているから、商都の支店に来てくれとさ」

「商都か、行ったことないけど、どれくらいで行ける?」

「王都へ行くのと変わらんだろう」

 その程度であれば行こうかと、アキラがペノンズに声をかけると、そのペノンズは呆れたような顔をしていた。

「まったく、ドラゴンとはすさまじい存在じゃな。遠く離れた者と、これほど容易く会話するとは」

 ペノンズはローダンが大精霊であることは知らない。だから、今の会話はブルーの能力だけで行われたと思っている。つまり、ブルーはローダンに思念を送り、遠く離れたローダンの思念を読み取った事になるのだ。双方向で思念を送り合うより、数段難しいことだと、ペノンズは理解したのだ。

 だが、アキラは逆にペノンズの、その理解力に驚いていた。やはり、超がつくほどの一流の職人はすごいと思う。

「すぐに手配にかかろう」

 そう言って、アキラとペノンズは、連れだって研究室にしているテントへ向かった。

 入り口を潜ったときに、アキラは風の流れを感じた。どうやら、上から下へのエアーカーテンを魔術で実施しているようだ。ドア代わりの布を巻き上げている時に、熱と埃、虫などを遮断できるため、精密な作業をするこのテントには必要なのだろう。

 テーブルで作業をしていたディアナが、アキラ達に気づいて振り返った。

「入り口に、エアカーテンを発動させているんだな」

「ええー、そうよー。リーネちゃんがー、精霊に呼びかけてくれたの-」

「なら、室内も上から下への緩やかな風を作ったら良いのに」

 なぜ、というディアナの表情に、埃が下に沈むから、室内の空気が清浄になると説明する。

 聞いたディアナはなるほどといった顔をした。やはりディアナも優秀で、工学製品を作る上で、埃は大敵であることは理解していた。

「アキラさんもー、精霊工学士の才能が、ありそーです」

 元の世界の知識があるだけで、変に褒められたアキラは釈然としない思いだ。

 今度、その件で相談があるからとアキラが告げると、分かったとばかりにうなずくディアナ。

 それよりも、全数検査で商都へ行く相談だ。

 性能のばらつきについては、ディアナも当然知っていたので、その解決にペノンズを商都へ連れて行きたいことを話した。

「構わないわー。それじゃ水晶(クオーツ)も連れて行くのね-」

 聞いた瞬間はなぜと思ったアキラだが、すぐに、検査を実施するのに必要かと思い至った。

「ディアナはどうする。多分、ツキとリーネ、ブルーは一緒に行くと言い出すから、残るとなると一人で留守番だが」

 うーむとばかりに、ディアナが右手中指を顎に当てて考える。

 境界の中であり、更にはリーネやブルーが設置している結界もあるので、安全面では大丈夫であろう。三本足や精霊喰いのトゥースピックは例外だ。あのような存在の来襲を考えに入れるとなると、無駄になる。

「留守番かなー。レインちゃんをー、調べるのにー、いま、いい感じだからー」

 そして、レインが時折反応を示す時があると告げてきた。それは、人が鞘や柄に触れた時が多く、記録を調べてみると、アキラの時がもっとも多いのだと。

 それを聞いたアキラは、テーブルの上でコードに繋がれたレインの柄を撫でてやる。

「絶対に元に戻してやるから」

 鞘の中の白刃が、ごく僅かに震えたような気がした。

 少し潤んだ笑みが浮かんだ。


突っ込みどころがないなんて……

精進いたします。


次回、明日中の投稿になります。

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