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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第3章 Reach
53/219

3-4

引き続き、

第3章を投稿いたします。

よろしくお願いいたします。

蒼龍の守護地スカイドラゴンフィールド ログハウス跡

 トゥースピックの死骸の運搬を終えて、ログハウス跡に戻ったアキラ達は、次に小さいながらも新たなログハウスを建てる事にした。小さいとはいっても、以前のログハウスに比べての事だ。アキラの感覚では、個人で建てるものとしては、かなり大きく感じる。

 予定では研究室と食堂兼リビング、それにペノンズとディアナの個人で使える部屋を作るつもりだ。今後のことも考えて、拡張できるようにするとはブルーの案だ。アキラ達、先に住んでいた者達は以前としてテント暮らしを続けることになるが、今は研究優先だ。

 新たなログハウス作りには、幸い、ブルーが過去に切り出した丸太を乾燥させていたものが使える。

 ブルーは間伐と称していたが、その割にはしっかりとした太さのある木材だった。しかも、いったん湖で水中につけておいたものを、改めて乾燥させたもので、ブルーが言うには建てた後にゆがんだりしにくい方法なのだと。

 丸太の表面を整えたり、運んでいる間に、基礎をリーネが行った。設計がブルーで、リーネがその設計を元にして、精霊に呼びかけて穴を掘り、コンクリートを流し込む。

 そう、コンクリートが存在するのだ。

 ただし、アキラの想像するコンクリートではなく、いわゆるローマンコンクリートと言われるものであった。海がないため、魔術でわざわざ海水を作り出す手間があったが、ブルーが言うには、これが一番頑丈だと。

 基礎の設計といい、ブルーはさすがに長きにわたり生きており、過去に何度となく試行錯誤をして、スクラップアンドビルドを繰り返してきただけはあった。

 ブルーの犬の手では精密な図面は書けなかったが、それはペノンズが代わりに行った。

 瞬く間に、基礎ができあがり、魔術でコンクリートを乾燥させるが、あまり魔術で乾燥させてしまうと、木材も同様だがひび割れなどが発生するため、ある程度の自然乾燥期間を置くことになった。だからといって、リーネの手が空いた訳ではない。その乾燥の期間に、壁は丸太のまま積み上げるとしても、床や天井用の平板が必要であるため、木材を製材していた。

 作図指定していたペノンズも驚いていたが、渡された図面の寸法通りにリーネは正確に切り出していた。アキラがなぜと聞くと、ブルーに習ったの一言が戻ってきた。

 ユンボやクレーンの重機もなく、機械道具もないのに、どんどん新たなログハウスが組み上がっている様に、アキラは「絶対に科学文明より、魔術文明の方が優れている」とつぶやいていた。魔術文明が遅れて見えるのは、要素技術や基本技術が未発達で、マザーマシンの概念がなく、規格統一も出来ず、魔術は機械技術の旋盤に該当するからだ。魔術は便利すぎるが、精密に使いこなせるものが少ない。大量生産に不向きなのだ。

 精霊工学を、真の意味で工学として発達させれば、急激に社会は発展していくだろう。産業革命の影に隠れて語られる事が少ないが、農業革命さえ何とか起こしさえすれば、急激な社会変革に伴う反動も吸収するはずだ。そう、欧州で起こったことが、数倍の速度で起こりえる。

「そりゃ、完成形の見えている転生者や転移者が無双するわけだ」

 そこで、アキラはキャリアーを思い出した。

 やはりキャリアーを作り出したのは転移者あるいは転生者なのだと。大型トラックという形が見えているから、ああいうものが出来上がったのだ。

「俺と同じ立場の者がいたのか……」

「何の立場だ?」

 ログハウスが建つ有様を見つめていたアキラが、驚いて一瞬身体が跳ね上がりそうになった。

 慌てて声の方角に振り返ると、微笑むシルが立っていた。

「驚いた……」

「どうした、そんなに驚くほど呆けていたのか?」

 ふむと、アキラは顎に手を当てて考える。

 シルは大精霊。多少の事は話しても大丈夫ではないかと考えた。ローダンには色々相談に乗って貰っているが、シルとローダンでは生まれ方が違うという。ましてやシルはローダンを遙かに凌駕する年月を生きてきたと聞いている。相談相手の資格は十分に持ち合わせているだろう。

 考え込むアキラに見つめられ、シルがきょとんとした表情を浮かべる。普段は綺麗な印象が強いが、いまは可愛らしいの表現が似合う表情をしていた。

 小首を傾げるシルに待つように頼み、アキラは建設地の脇で監督をしているブルーに近寄った。アキラにまつわることをシルに話すにしても、世話になっているブルーに許可を求めるのが筋だと思ったからだ。

 近寄ってきたアキラに、どうしたという表情を向けるブルー。

「相談したいことがある」

 アキラの言葉に、シルへと視線を向けるブルー。何故か遮音の結界を張るブルーにアキラが、どうしてと驚きたずねる。

「聞かれたくないからだ」

 犬の顔であるため分かりにくいが、ブルーはとても真剣な様子だ。

 相談する上で害はない、いや、十分な配慮といえる対応なので、アキラは口を開いた。

「シルに、俺の事を話そうと思うんだが」

「そんな話しだとは思っていたが。判断が難しいな」

 簡単に許可をもらえると思っていたアキラは、意外なブルーの回答に驚く。

「シルは信用できないか?」

「逆だ。話すことによって、お前の信用がなくなるかもしれん」

 何故と問い返すアキラに、ブルーが説明をする。いわく、大精霊であれば、薄々アキラの今までなどを知っていても当たり前で、そんな情報を軽々しく話す者など信用に値しないと判断されるぞと。

「あいつは始原の精霊や長姉(ちょうし)精霊とも呼ばれる、最初期に生まれた大精霊だ。その分経験もあるし、知恵も深い上、星の精霊からの信頼も厚い。対応は注意しろ」

 それほどの大精霊であるならば、力を借りた方が良いのではと、アキラは考えるが、それを否定するブルーにも思惑があるのだろうと思い直す。

「俺に言えないこともあるか」

「聞くな……」

 顔を背けているが、悲しげな表情を浮かべているのが、アキラには分かった。

 膝を地に突いたアキラは、ブルーの首筋を抱きしめた。

「すまない、そしてありがとう」

 無言でアキラの首に顔をこすりつけるブルー。アキラにとって、それだけで十分だった。それはブルーにとってもだ。

 ブルーから離れ、アキラは立ち上がり、シルへと向かって歩き始めた。

 その背を見送るブルー。

 やがてアキラとシルは、連れだって歩き、休憩用に用意されたテーブルに着いた。その光景から、天へと視線を移したブルーがつぶやく。

「酷だな……」

 それっきり、ブルーは建設の現場へと戻っていった。


 テーブルには水差しが用意されている。作業している者達のために、ツキが用意したハーブティーを精霊達が冷やしていた。それをグラスに注いで、アキラはシルに差し出した。

 受け取ったシルは、それを一口飲む。

「美味しいな。作ったのはツキか?器用なものだ」

「器用っていうか、何でも良く知っている」

 自分のグラスに口をつけたアキラが答える。それから、今日は何用だと聞くと、ブルーが守護地(フィールド)を留守にするかもしれないと連絡してきたから、一度は見に来ておこうと答えが返ってきた。

「それに、前に別れた時に、来るって言っておいただろ」

 それもそうかと、更にはローダンも何か言っていたことを思い出した。

「そういえば、ディーネとリータが拗ねてるみたいだ。まぁ、理由は分かってるんだが、私が慰めるとこじれるからな。機会があったらで構わないから、相手してやってくれないか」

 ローダンの言葉を思い出していたときでもあり、アキラは大精霊間では思いやりの精神が強いのかと思った。まぁ、別に悪いことではないが。

 それからは新たなログハウスの建設など、聞かれるままに答えていたが、ふとシルが思い出したように口にした。

「ブルーから聞いているかな?魔王のこと」

「魔王って、魔族の王か?」

「マゾク?」

 アキラの答えにシルは疑問符を浮かべる。

 そこで詳しくたずねてみれば、魔族という存在などなく、魔王は魔術に人並み優れている者で、その魔術で世界を支配しようとする者なのだと。特異な点としては精霊に頼らずとも、そして精霊ではなく人であるにも関わらず魔術を行使できることだ。だから、精霊との交流もないのだと。

「つまり、どこかの国か勢力のトップということか」

「そうだね。帝国の西方に砂漠があるけど、その向こうに領地を持っている」

 砂漠という天然の要害があるため、現在は直接の紛争は発生していないが、最近では軍備を増強するなど蠢動をしているというのだ。

「魔王はなぜ世界を支配しようとしているんだ」

「分からない。それは私たち精霊も知らないことなんだ」

 魔王は唐突に現れ、瞬く間に現在の領地を平定すると、周囲に戦争を仕掛け始めた。しかし、結束した多国籍軍に対抗されると、すぐさま兵を納めたのだと。

「なんか、行動原理が不可解というか、本当に世界征服を狙ってるのか」

「それを標榜しているのは確かだ。前は何かの事情があってか兵を引いたが」

 ただの誇大妄想であるのか、それともとてつもない大規模な威力偵察であったのか。とにかく、魔王の動きには不可解な点が多いのだと。

「そんな訳が分からない存在には、関わらないようにするよ」

「そうした方がいい」

 その言葉を機会にして、シルは立ち上がった。

「それじゃ、そろそろ帰るとするよ」

「気をつけてな」

 言ってから、アキラは自分の言葉がおかしいことに気づいた。瞬間移動する大精霊が何を気をつけるというのだ。それはシルも同じ思いだったようで、少し困ったような笑みを浮かべて去って行った。

 とりあえずは、今の話しをブルーから裏付けをとっておこうと決めたアキラだった。

 夕食の席で、魔王についてブルーに聞いてみると、シルから聞いた内容がそのまま返ってきた。だが、それを側で聞いていたリーネの機嫌が悪い。気になったアキラが声をかけた。

「何か魔王について知っているのか」

 その言葉にリーネが首を横に振る。

「何故か、その言葉を聞くと、嫌な気分になるだけ」

 もう、その話題は止めて欲しいと。

 無理強いすることでもないと、アキラはその話題を打ち切った。何かがあれば、その時にたずねても遅くはないと。

 しかし、気になる点があった。

「魔王の名を聞いてない……」

 そのアキラの言葉に、誰も返事はしなかった。


もしかして……

わんわん:「出っ来るかな?出っ来るかな?」

社畜男:「ハテハテフム~」

えーと……


次回、明日中の投稿になります。

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