表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第3章 Reach
52/219

3-3

引き続き、

第3章を投稿いたします。

よろしくお願いいたします。

 機能一辺倒の荷馬車の中にあって、その豪華さから浮いていた馬車からローダンが降り立った。すぐさま姉妹の元へと向かうと、深々と一礼し名乗りを上げる。姉妹が協同国の姫達である事は、見るなりすぐに解ったようだ。そのあたりの情報通ぶりもそうだが、いつもながらの、高い身分の相手でも臆する事がない様子にアキラは感心するが、それよりも驚いたのは姉妹の慌てぶりだ。

「あの大商会のローダン会頭自ら、このような場所に?」

 スノウの言葉に、ローダンがにっこりと笑いかける。

「ええ、スカイドラゴンにはご贔屓いただいておりますので」

 更には、この件はご内密に願いますとウインク一つ。

 男装の麗人の、その可憐な仕草にスノウがやられる。白い頬が真っ赤に染まって挙動が怪しい。

 そんなやりとりの間に、リーネに死骸を守護地(フィールド)から外に出すようにアキラは頼み、精霊馬へ向かって走り出したリーネの背を見送った。

 ライラとの握手を終えて、ローダンがアキラに視線を向ける。

「坊や、ここで解体を始めるけど、最後まで監督するのでしょうね?」

 それは商人として、売主として当然の行為だろうとばかりに。

「もちろんだ、姉さん。今、リーネが境界から引っ張り出すから」

 その会話を聞いていた姉妹に、再び誤解が生じる。ローダンとアキラが姉弟であるのかと。これには対応が慣れ始めたアキラが、すぐに商売上の師匠と弟子の関係だと簡単に説明する。

 しかし、ドラゴンが世話をする者であり、大商人ローダンの弟子であるアキラは何者かと、姉妹は疑惑を深めている様子。

 まさか異世界転移してきたと言うわけにもいかず、いろいろと説明が難しくなるので、放置するアキラだった。

 解体の段取り打ち合わせを終えたアキラは、姉妹達の状況を説明してから、ローダンと姉妹に提案を行う。

「妹姫の体調から、一度王都で休まれては?」

 旅は続くのであろうが、解体を終えて引き上げるローダンに同行して、設備の整った王都の宿で、一度休まれてはどうかとアキラがローダンに相談し、いかがですかと姉妹にたずねる。

 ローダンはもちろん快諾し、少し相談した後で姉妹もうなずく。

「お忍びになるだろうけど、姉さんどうする?」

「王子へ、それとなく伝えておくわ」

 ぼかして伝えたつもりのアキラだったが、しっかりとローダンは理解して、手はずを整えると約束した。

 さっそく立ち上がったテントへ、休ませるために姉妹達を送り出したローダンが、アキラに顔をしかめて見せた。

「またやっかいなのを拾ったわね」

「拾ったわけじゃないけど、出会ったものは仕方ない」

 ローダンの情報によれば、姉妹達の言うとおり、協同国は内紛状態にあるという。現在の段階では、族長レベルで揉めているだけで、戦闘までには至っていない。ただ、帝国と財団が各々族長達に援助しているため、複雑怪奇に入り乱れた代理戦争の様相を呈しているのだと。

「けっして劣った国力じゃないけれど、それは協同国としてまとまっているからよ。獣人各種族が独立となると、帝国と財団に良いようにされるわね。だから、協同国本国と関わるのは、出来るだけ避けなさい」

「解った、気をつける」

 その時、死骸を作業者達に引き渡したリーネが、精霊馬と共にやって来た。解体作業と荷造りに明日いっぱいかかるようで、ここを出発するのは明後日になるようだと報告してきた。

 それを聞いたローダンが、いやもともとそうするつもりだったのだろうが、テントの提供を申し出てきた。アキラとしては、リーネをローダンに預けて、自分はキャリアーで寝るつもりだったのだが、それをリーネが反対してきた。

 反対する理由が、一人になるのは嫌だ、といったものだ。いや、もう大人なんだから大丈夫でしょう、とアキラは言いたかった。ちなみに、この世界、十五歳で大抵は大人と見なされる。リーネはどう見ても十代半ば以上、時折出る落ち着いた言動の時は、十代後半どころか、二十代半ばでも通用するとはアキラの意見である。言動だけで言えば、十代未満の時もあるのだが。

 あまり強くも反対できず、しぶしぶアキラはうなずいた。それをリーネとローダンが満足げに笑っていた。


 夕食はローダンや姫の姉妹、もちろんリーネと一緒のテーブルでとった。食事の内容は、作業者達と一緒のようだが、その作業者達の一部が、しきりにアキラやリーネの髪に視線を向けてくる。向けてくるばかりか、当てこすりのように大声で嫌みを言っていた。これがアキラは嫌で、キャリアーに一人で泊まろうと思っていたのだが。

 作業者は、王都で集めたフリーの者達が多く、当然中にはローダン商会に初めて雇われる者もいるわけで、そう言った、いわゆる事情がよく分かっていない者が視線を向けてきたり、嫌みを言っているようだ。

 さすがに、ローダンが同席しているので、絡んで来る者はいない。絡んで来たとしても、それがたとえ暴力沙汰になったとして、アキラやリーネにとっては問題ない。

 そういった周囲の騒がしさも、食事が終わる頃には静かになっていた。

 食後の茶を飲んでいるとき、話せる事が少ない、また聞かれても困るアキラやリーネは、必然と獣人姉妹への質問が多くなる。

「俺の偏見かもしれないけれど、協同国で農耕が盛んなのは驚いた」

「あながち、偏見ではないのですが。獣人はもともと狩猟で生きてきましたが、大精霊のゴサイン様やノーミド様との出会いで、農耕を知り、特にゴサイン様の指導で農耕を発展させました」

 スノウが獣人の歴史を語る。狩猟で生きてきた獣人は、大精霊の「このままでは、獣人に進歩と進化は望めない。より安定した暮らしをしたいなら、自然に寄り添った農耕や牧畜を行うべきだ」との言葉に、それを受け入れた種族から豊かになっていき、次第に農耕と牧畜を主にする生活へとシフトしていった。

 ただ、やはり、根っこが狩猟を行う種であるため、狩猟のうまい者が尊敬されたり、文化的にも狩猟に関するものが多いそうだ。

 もともと精霊への信仰が獣人は強く、大精霊の言葉を受け入れられやすい土壌はあったのだろう。

「なるほど。それじゃ、協同国にはゴサインやノーミドが住んでいるのか?」

 王国や帝国に大精霊が住むのと、アキラは同じだと思っている。

 だから、それに首を振ったライラとスノウの悲しげな表情は意外だった。

「協同国に住まう大精霊はいません。ゴサイン様は去り、ノーミド様は時折訪れてくるだけです」

「だから、ノーミド様が来られたときは、国をあげての騒ぎになるんだ」

 精霊への信仰が厚い獣人だ。それだけでは悲しかろう。

 沈んだ雰囲気を変えようと、ローダンが口を開いた。

「スカイドラゴンの事を話してあげれば」

「うーん、食べては寝ての繰り返しだから、話せることはないかな。基本、怠け者だし」

 こてんと首を傾げたリーネが答える。その答えた内容を意外と思いつつも、精霊と並んで信仰の対象であるドラゴンであっても、そう、大げさなことをしている訳でもなく、普通に暮らしていると聞いて、獣人の姉妹は微笑んだ。


 作業の監督と言っても、ただ見ているだけで、何か指示したたりするわけでもなく、アキラはリーネと一緒に椅子に座っていただけだ。それでも作業から目を離す訳にもいかず、アキラは座り続けていた。リーネはというと、アキラの話し相手をしていたかと思うと、「魔術の練習-」とか言い出して、自分が練習するのではなく、アキラに発動させて、いろいろ教えていた。

 アキラも努力をしているのだが、未だに魔方陣が出てこない。魔術そのものは発動して、火を指先に灯したり、手の平から水をちょろちょろと出したりしていたが。

 獣人の姉妹達は、ローダンと一緒にいることが多かった。大商会の会頭と知り合ったことで、話しを聞くばかりではなく、いろいろな商談の可能性を探っているようだ。ただ、それもスノウが主で、ライラは護衛のような位置取りであった。

 解体された死骸の一部は馬車に積まれ、いっぱいになれば、すぐに王都へ送られており、最後の一台が先ほど出発したところだ。

 ライラとスノウはローダンの馬車に同乗するために、最後まで残っていた。

「それでは、また会う機会があれば」

 出会った時とは違い、ライラとアキラはしっかりと握手をして分かれた。いつの間にか、大分仲良くなったようで、リーネとスノウが抱き合って別れの挨拶を交わしていた。

 ローダンの馬車を見送り、アキラの腕に抱きついていたリーネが顔を見上げていた。

「さあ、帰ろう」

「ああ、帰ろう」

 二人で我が家へ。言葉を合わせて。


 ローダンの馬車には、ライラ、スノウが同乗していた。何気ない様子で、ローダンが二人にたずねた。

「どう、アキラとリーネちゃんの腕前は?」

「気づいておられましたか」

 ライラは苦笑を浮かべるが、スノウは真剣な表情だ。

「姉さん、私も聞きたいわ」

「そうか。率直に言うならば、アキラは大した事はない。剣が振れる程度の腕前だ。リーネ様は、巫女姫とはこの程度かといった印象だな」

 敵対することはないだろうが、万が一戦ったとしても大丈夫だとライラは答えた。

「姉さんの言うことだから、信じるわ」

 スノウにも微笑みが戻る。

 その二人を見たローダンがにっこりと笑った。

 ばれてはないようだと。


こんな感じでしょうか。

姉狼:「チョロい」

妹狼:「チョロいのか」

会頭:「にやり」

てなことで。


次回、明日中に投稿いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ