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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第3章 Reach
50/219

3-1

本日から第3章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

?????

 人が一人通り抜けられるほどの横穴。

 赤茶けたローブに、それに付属しているフードを被って顔を隠した者が、その横穴を歩いている。

 このような横穴で、何に対してか、周囲を警戒しつつ歩を進めている。土と岩を踏みしめ、上から落ちてくる雫を時折浴びながら。

 水滴の落ちる音と、地を踏みしめ歩む音だけが周囲にあるだけ。

 やがて、横穴を抜けると広い空間に出た。

 横穴の岩肌から一変し、その広間とも呼べる空間の壁はキレイに均され、等間隔に開けられたくぼみには、光る石のような物が置かれて、中を照らしていた。

 横穴を抜けて中に入った者は、ここでは警戒を緩め、周囲には目もくれずに、足を早める。

 その者は、テーブル横に置かれた椅子へと、きしむ音がするほど乱暴に座り、置かれた水差しからグラスへと液体を注ぎ、中身を一気に飲み干した。

 テーブルの周りには、同じような姿の者達が椅子に腰掛けていた。

 そのうちの中で、何かを手で弄んでいた者が言葉を発した。

「結果は?」

 新たに入ってきたその者は、舌打ちを一つして、一拍を置いた。

「失敗だ……」

 それを聞き、周囲に嘲笑い、舌打ち、歯ぎしりが満ちる。

「手間かけて、卑しき竜をけしかけたのは、やはり時間の無駄だったな」

「お前こそ、疑似生物(イミテーション)はあっさりとやられたではないか」

 時間の無駄、資源の無駄とやり合うその者達に、割り込む者がいた。

「止めておけ、長き道を共にした者達で揉めるな」

 決して強い口調ではないが、それでその諍いは納められた。

 しばらくの沈黙。

「一つ、すでに打ってある手を使う」

 それを聞き、周囲に嘲笑い、舌打ち、歯ぎしりが満ちる。また時間と資源を無駄にするのかと。

「それは解らん。まぁ、尊き残されし物(フェレトリー)が手に入れば、運が良い。期待などせず、その程度の手だ」

 手間をかけたりなどしないと。


蒼龍の守護地スカイドラゴンフィールド ログハウス跡

 地面に横たわる、トゥースピックの死骸。

 リーネが精霊達に呼びかけ、腐敗を防いでいるおかげで、日にちがたっていたが、アキラが斬った時のままで残されていた。

 売却先はローダン商会と決まったものの、境界までどうやって運搬するかという問題があった。守護地(フィールド)に人を入れる事が出来ないため、この場所にいる者の力だけで、それを行わなければならない。

 トゥースピックの死骸ともなれば、商人にとって、売りさばく商品としては美味しいものなので、ローダンは境界からの運搬は問題なく引き受けようと約束はしてくれている。

「解体して、荷馬車で運ぶか、精霊に重さを軽減してもらって、そのまま精霊馬あたりに引っ張ってもらうか」

 死骸の前で、腕を組んでいるアキラ。その横にはブルーが座っていた。意見はないのか、それとも受けた傷がまだ痛むのか、ブルーは黙ったままだ。

 今の人の数では、この場で解体するのは現実的ではない。ならば、このままの状態で、リーネが重量を軽減させ、精霊馬に牽かせて運ぶか。多少引きずったりして、死骸に傷がつく恐れはあるが、そこは我慢してもらうことにしよう、そう結論づけた。

「俺とリーネで、このまま引っ張っていくことにするよ。ブルーはどうする?」

「任せる。俺は残るよ」

 外から見る分には、普段と変わりなく怪我をしているようには見えないが、内部の傷がまだ癒えていないのだろう。あまり長い距離は移動したくないようだ。

「ただし、言っとくが、リーネと二人っきりになるからと……」

 その後延々と、妹を心配する兄がするような注意を、アキラは聞かされることになる。ブルーがリーネやツキを大事にしていることはよく分かっているので、茶化すこともなく、文句も言わずに聞いていた。

 しかし、放っておくといつまでも続きそうなので、適当に切り上げるためにも口を挟む。

「リーネと打ち合わせをしよう」

 ブルーも言い足りない様子ながら、うなずいた。

 リーネは、ペノンズ達の手伝いをしているので、研究室として使っているテントへとアキラ一人で向かう。

 テントの入り口から覗くと、それを見つけたディアナが「入って~」と手招きした。

 中に入ると、テーブルの上には、以前見たように水晶(クオーツ)とレインが置かれており、多くのコードにつながれていた。抜き身のレインにじっと視線を注ぐアキラ。

「触っても大丈夫かな」

「ええー、今は何もしていないからー、良いですよ-」

 研究中ではないためか、ディアナの間延びした言葉に礼を言い、アキラはレインの柄に触れてやる。

「頑張れよ。絶対元に戻してやる」

 そんなアキラの腕を、リーネが寄り添うようにして掴んだ。

「レイン、可哀想だけど羨ましい」

 返す言葉がないアキラ。

「リーネ、死骸を運びたいから、手伝ってくれないか」

「いいよ!」

 ペノンズにも呼びかけて、連れだってテントの外に出る。

 死骸とその脇で待っているブルーのいる場所に戻って、手順を説明する。重量を軽減して、精霊馬に牽引してもらい境界へと向かう。それを聞いたリーネは、しばらく死骸に視線を向けて検討を始める。その間に、ペノンズに精霊馬を死骸にどうやってつなぐかを相談した。

 幸い、ペノンズ達の荷馬車用の装備が使えそうだ。精霊馬に試しに装備して、いじる必要があれば、すぐに直しておくと言い残して、ペノンズは精霊馬と馬を放している方へと向かっていった。

 道具を作ったり改造が出来る鍛冶師に来て貰い、とても助かっていると歩み去って行くその背にアキラは感謝する。

 アキラがリーネに向き直ると、検討を終えて答えを口にした。

「うん、持ち上げるのは大丈夫だけど、引っ張るのはどうかな?」

「精霊達に押してもらえないか?」

 動かす力は前で牽く精霊馬だけだとの思いに捕らわれていたのか、「あっ」と一声上げて、すぐにリーネは精霊達に呼びかける。

「大丈夫みたい、アキラのためなら頑張るって!」

 どうやら、精霊達の手伝いは得られるようだ。にこにこと笑うリーネは嬉しそうだ。

 それならば、明日の朝にも出かけるとして、さっそく牽くための縄を死骸にくくりつけることにする。そのままでは幅をとるため、太い材木を使い、テコの原理で手足を上に向けることから始めた。

 短いながらも旅の準備を始めていると、ブルーもローダンに連絡を取っており、すぐさま境界で合流出来る手はずをしておくとのことであった。


 日も昇らぬ内から、トゥースピックの死骸を運搬する準備は始められていた。装備を精霊馬達に取り付け、昨日の間に取り付けられておいた死骸の縄とつないでいく。

 日が昇りきるあたりには準備が整った。

 ツキが用意した弁当や食材を受け取り、すぐさま死骸を動かし始める。

 最初の出だし、精霊馬達の蹄は地面を掻いて空転するが、後ろからの精霊達の後押しによって勢いがつくと、スムーズに動き始めた。リーネとアキラは見送る者達に手を振り、森の中へと入って行く。

 森の中を順調に進み、昼食をツキ心づくしの弁当で済ますと、それまで元気に歩いていたリーネも疲れたのか、それとも眠くなったのか、トゥースピックの死骸によじ登って、その身体の上に座り込んでいた。どうやら、死骸への嫌悪感などはない様子だ。

 しばらくはうとうとと舟を漕いでいたリーネだが、やがて目が覚めたのか、自分の鞄をごそごそと漁って何やら手仕事を始めた。リーネが必要となるのは、動き出しと止める時、それと精霊に問題があったときだけだ。退屈せずに時間が潰せているようならと、アキラは先頭に立って、周囲に警戒を向けることに集中した。

 考えていた以上の速度で進む事が出来、明日にはローダンと落ち合う予定の境界につくという幾度目かの夜。ツキが持たせてくれた、ウッドボアのベーコンを分厚く切ってステーキにした夕食をとった後のことだ。

「これ、使ってね」

 リーネが革で出来たベルトのような物をアキラに差し出した。

 受け取ってみれば、それが剣帯だと解った。

「これを編んでいたのか。ありがとう、嬉しいよ」

 アキラの感謝の言葉に、リーネがはにかむように笑う。

「レインより、長いものね」

 そうだ、リーネの言うとおり、レインの時はベルトに挟むだけで良かったが、ツキから預かった大太刀は、その長さからベルトに挟んだだけでは鞘先が遊んでしまい、持て余してアキラは歩きにくそうにしていたのだ。

 それを見たリーネが、革をログハウス跡の残骸から探し出し、細く長く切ってから編んだ剣帯をアキラに作ってくれていたのだ。それが、この夕方に完成し、食事の後にプレゼントしたのだ。

 リーネが寄ってきて、剣帯を取り戻すと、アキラの身体に取り付けていく。

 大太刀を取り付けてみると、腰と太ももでゆとりを持って固定され、立ち上がったアキラは具合を確かめる。

 柄頭や鞘に触れているだけで、ゆとりを持って固定されているため、太ももと連動して動く事もなく、抜き出す角度もアキラが求めているものにできる。軽く引き出すことで、抜刀時に、鞘を引く動作もスムーズに行える。

「歩く時は邪魔にならないし、素早く抜く角度に出来るのもいいな」

 気に入った様子のアキラに、リーネも満足げだ。

 しばらくアキラとリーネは、剣帯を細かく調整してから、明日に備えて眠りについた。

 毛布にくるまったリーネが、甘えるようにアキラにくっついてきたが、好きにさせることに。スプライトが一つ小さくいなないた。まるで見ているぞ、というかのように。どうやら、ブルーからよほど言い聞かせられているようだ。

 大丈夫だと、アキラがうなずいてやると、安心したかのように、頭を前脚に乗せたが、時折まぶたを開けてアキラ達を見ている。信用がないなと、アキラは苦笑いを浮かべた。

 木々と葉の間から覗くシルバーを眺め、大太刀を胸に抱き、リーネの甘い匂いを嗅ぎつつ、アキラは眠りに落ちた。


保護者馬鹿。

わんわん:「二人っきりなんて、許しません」

社畜男:「じゃ、ついて来いよ」

わんわん:「……すいません」

無理しない方が良いよ。


次回、明日中に投稿いたします。

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