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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第2章 My Hometown
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2-23

引き続き、第2章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 翌朝、夕食同様に部屋へ運ばれて来た朝食をとり、荷造りのために、馬房へと降りる。そこで見たのは、すっきりと満足げな精霊馬二体だ。なんと、たてがみまで編み上げられていた。

 どうよと、どや顔をかましてくる精霊馬達。

 アキラは「はいはい、かわいい、かわいい」と言いながら荷を積んでいく。リーネは「かわいくして貰ってよかったねー」とスプライトの首筋に抱きついていた。スピリットは「私も、私も」と両手広げて待ち構える姿を幻視したので、アキラは無視をした。その後、リーネに抱きつかれて満足した様子。

 アキラとリーネで手綱を引いて、玄関へと回ると、ツキとブルーが外で待っていた。

 ツキは、いくらかチップをわたしておきましたと、アキラに報告した。気のつく良いお嫁さんになるよと言いたかったが、絶対に面倒になるので、止めておくアキラだった。

 アキラはツキの後ろに跨がり、リーネは飛び上がったブルーを抱き留め、後ろからついて来る。

 アキラが、前で揺れる銀糸のごときツキの髪を見つめていると、ディアナの工房に着いた。この点、精霊馬は自分が道を覚えていると、勝手に目的地まで行ってくれるので、楽だ。

 玄関をノックすると、すぐさまディアナが扉を開けた。目の下にはクマが出来ており、明らかに寝ていない様子。

 無言で入ってと促される。

 テーブルの上には、様々なコードを取り付けられたレインと水晶(クオーツ)がある。レインのその姿に、瀕死の入院患者を思い出し、涙こぼれそうになるアキラだ。

 テーブルの前に集まったアキラ達。部屋の片隅では、大いびきを掻いて、大の字で寝ているペノンズの姿があった。

「結論から言います。精霊が元の姿に戻るのは可能です。しかも成功率も高いと思われます」

 アキラとツキはほっと胸をなで下ろし、リーネはブルーに抱きついて、良かったと泣いている。

「しかし、と続くんだろう」

 アキラが指摘する。それにディアナはうなずいた。

水晶(クオーツ)の内部には、光か何かを生命力に変換する機能があります。恐らく、生命力をエネルギーとする生命体だと現在推論しています。その生命力を、レインに注ぐ必要があるのですが、新たな設備が必要で、それは今から設計開発することになり、莫大な金額が必要です。さらには精霊が多く集まる場所での作業が望ましい」

「つまり、金が必要で、精霊の多くいる場所が必要だと」

「まさしく、おっしゃる通り…………。えっ、……犬がしゃべった!」

 いつも通り、ブルーがしゃべると驚く光景が見られた。

 ディアナが落ち着くのを待ち、ブルーがドラゴンであり、現在リセット期間にあって、犬の姿になっているのだとツキが説明した。

 意外にも、ディアナはすぐに納得した。精霊工学を学ぶ上で、歴史書などにも目を通しており、リセットらしき現象があることを知っていたのだ。

「これは、学会に発表すると……」

「間違いなく死ぬ。殺される。学会は潰される。聞いた奴も皆殺し」

 ブルーが国家と大精霊の暗部について、簡易に語った。歴史書がぼかして書いているのは、はっきり書くと命がなくなるからだ。詳しく書かれているのは、王家所蔵の閲覧禁止本くらいだ。

 片隅にうずくまって震えるディアナの姿があった。見れば、ペノンズもガタガタ震えていた、大の字で。どうやら、目を覚ましていて、しっかりすべてを聞いていたようだ。

「でだ、金なんぞはいくらでも用意してやる。精霊も守護地(フィールド)の中心なら、大量に集まる。やるのかやらないのか、どっちだ」

 結果、二人はブルーの前で頭を下げ、やらせていただきますと答えた。

 ペノンズは、帝都に来たばかりで、すぐに移る事になるが、仕事の内容から、喜んで行くと答えた。

「いいのか、守護地(フィールド)の中に、人を入れて」

「アキラが大事にしているレインのためだ。目をつぶる」

 すまないと、アキラはブルーに頭を下げた。少し、シュールな光景だった。

 さっそく、移動の手はずにかかる。幸い、ディアナの工房は、鍛冶部門開設のために、受注を断っていた状況で、仕事の面では問題ない。

「荷馬車はあるし、馬もいる。カスタムした実験道具はそちらに積めばいいし。工房閉鎖と鍛冶師、精霊工学士転出は役所に届ければ受理待ちはしなくて良いし。大丈夫、届さえすれば、すぐ出られます」

「届はローダン商会にやって貰おう。俺が姉さんと会ったときに手配する」

 それをディアナが聞きとがめた。

「アキラさんはー、ローダンさんと姉弟なんですかー」

 どうやら、研究モードが抜けたらしい。のんびりしたしゃべり方に戻っている。

 ローダンは、アキラの商いにおける師匠で、師匠と呼ぶと怒るので、姉さんと呼んでいると説明した。説明の間に、いろいろとディアナから突っ込みがあったのだが。


 旅立ちの準備がさっそく始められた。

 ディアナとペノンズは、持って行く実験道具を選び出し、運送に耐えられるように梱包していく。干し草を詰めた箱に入れたり、(むしろ)でくるんだりと、旅の途中で壊れたり、割れない工夫を施していく。残った道具は、後日にローダン商会に引き取って貰う予定だ。

 ツキとリーネは精霊馬に乗り、市場に出かけて食料や旅に必要なものを買い込み、補充していく。今回は荷馬車があるが、実験道具を運ぶ必要があり、旅のメンバーが二人増えていることを考えると、そう荷物を多く増やすことは出来ない。

 アキラとブルーは、エリオットにディアナとペノンズの二人を連れて行く事を、シルを通じて連絡していた。するとエリオット本人がやってきた。

 王子を前にして、ディアナとペノンズの二人は緊張し、恐縮し堅くなっているだけだ。優秀な鍛冶師がやって来たかと思えばさっそく、王家ですら名を知る精霊工学士の流出にエリオットは渋い顔をしていた。

「引き留めはしないが、帝国にとっては打撃だな」

「すまない、人材を引き抜くようなことになって」

 レインのためにも二人は必要だ。しかし、国家の発展と安寧のために、優秀な人材を増やし育てる必要も理解できる。アキラとしては、頭を下げるしかないのだが。

「提案がある。聞く気はあるか?」

「ドラゴン直々の提案か。是非聞こう」

 帝国に対して、ディアナとペノンズの研究結果について、優先的に渡そうとブルーは告げる。技術格差を作ることはしたくないので、帝国のみに公開することはしないが、先だって研究結果を渡す。ただし、非開示とせざるを得ない部分があることは理解するようにと、クギを刺す事は忘れない。

「俺は譲歩したつもりだ。気持ちよく、二人を連れて行きたい」

 ブルーの言葉は、帝国の事情など斟酌せずに、本人達の了承さえとれれば、問答無用で連れ出すこともできると暗に告げていた。ブルーにとって、国家と対立することなど、恐れる事ではない。

 考える余地はないと、エリオットは即座にブルーの提案を受け取った。ただ、文書にて明確にしておきたいと希望するが、それはブルーが拒絶した。

「文書化などしてみろ、盟約になってしまう。口約束ですら怪しいというのに」

 それをエリオットは受け入れ、ディアナとペノンズの二人は何一つ後ろ暗いことなく、帝国を出て行くことができるようになった。

 円満に出国出来る事になり、二人は目に見えて安堵する。

 荷物の積み込みなど、夕方を過ぎて終えることが出来た。この時間に出発は無理なので、翌朝早くに出ることとなった。

 その夜、他の皆はすでに工房の別室で眠っていた時、アキラは一人でテーブルに地図を広げていた。ログハウス跡まで、行きと同じ道中を進むつもりだが、気をつけるべき事はなかったかと、思い返していた。

 ふと、突然背中に気配を感じたかと思うと、肩に手と顎が乗り、地図をのぞき込んだ。

「何を見ているのかと覗いてみれば、地図か」

 背中に密着してくるのはシルだった。

「夜も更けて、どうした」

「明日出るんだろ。挨拶がてら、顔でも見ておこうと思ってね」

 背中から離れて、近くの椅子に座り、振り返ったアキラに微笑みかけた。

「手間かけさせたし」

「気にしないでくれ。実は、俺もペノンズに用事があってのついでだった」

「それでもね、正直探しに来てくれて、うれしかった」

 普段の雰囲気にそぐわない、はにかむような笑顔。先日の王城でのやりとりを思い出させる。そのかわいらしい様子に、アキラにいたずら心が生まれた。

「それは良かった、来たかいがあったね、姉上」

 聞いたシルが、ふにゃりと笑った。リーネみたいだとアキラは思う。

「いや、まぁ、そのなんだ、えーと、気をつけて行けよ」

 しどろもどろになり、帰った頃に行くから待ってろと言い残してシルは消えた。しっかり手は振って。


誰もが、そう思う。

わんわん:「金ならあるぞ」

社畜男:「ケチのくせに」

幼女もどき:「どケチのくせに」

だから、節約しろって。


次回、明日中に投稿予定です。

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