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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第2章 My Hometown
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2-22

引き続き、第2章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 工房から出ると、いきなり一人の男が近づいてきた。

 アキラ達は警戒するが、男は人の良い笑みを浮かべ、宿に案内しますと告げた。どうやらエリオットは宿にまで心配りしてくれたようだ。

 連れて行かれた宿は、とんでもなく豪華なものだった。玄関で精霊馬達を連れていこうとするので、精霊の正体がばれても問題なので、ついて行くことに。

 やはり、馬房も豪華だった。入れられた精霊馬達は、さっそく温めの湯で身体を洗われていた。人に触られるのが嫌なのか、助けを求めるようにリーネを見ていたが、害はないから、すべてここの人に任せなさいと、リーネが宥めて、ようやく落ち着いて受け入れていた。

 部屋に案内されると、リビングを中心に、二人用の寝室が二部屋と、トイレと風呂がついていた。ミニキッチンまで備わっている上、恐らくメイドや執事が待機する部屋まであった。

 皆で見て回った結果、今はツキが入れた茶をリビングで飲んで話し合う。

「今度、王都でもこんな部屋に泊まろうよ」

 リーネがブルーにお願いするが、いつも簡単にうなずくが渋い顔だ。

「他人の金で贅沢するのは問題ない。だけどな、俺は自分の金で無駄はしたくない!」

 今までの部屋で十分だと、叫ぶ。意外とケチな面を見せるブルーだ。

 食事が部屋に運ばれてくる。ブルーに配慮したのか、すべて自分たちで配膳出来るように、料理も温かいままになるよう工夫され、飲み物も精霊達が冷やしていた。給仕は必要あればベルを鳴らすように告げ、部屋から出て行った。

 配膳をしようとすると、ブルーの分も同じように用意されていた。

 至れり尽くせりの待遇だ。

「うーむ、王国の王子は馬鹿だったが、帝国の王子は出来るやつかもしれん」

 ブルーの評価が上がったが、エリオットに何か益があるわけではない。

 身内だけでの食事、わいわいと騒ぎながら、いつかのログハウスでの食事が思い出された。

 食事後、ベルを鳴らして片付けをお願いした後、順番に風呂に入る。「いちばーん!」とリーネが入り、その間にアキラはツキに文字を教わったり、エリオットからの報酬について、相談をした。その後、ツキに先に入るように勧めたが、帳簿をつけたいと、アキラとブルーに先に入るように進められた。

 さっさとブルーを洗って外に放り出すアキラ。残ったツキには悪いと思いながら、のんびりと湯に漬かっていた。

 風呂から上がると、魔術で乾かし終えたブルーを、リーネは自分の寝室へと引きずっていった。どうやら、今日も抱き枕にされるようだ。

 ツキがアキラと入れ替わるように、風呂へと向かう。

 それを見送り、冷えた果実水をグラスに入れて、ソファーに座る。

 外に視線をやると、ガラスにアキラが映っていた。いつものズボンに、下着代わりのTシャツ。風呂場にはガウンも用意されていたが、どうにも慣れないアキラはいつもの格好だ。

 窓の外は明るかった。以前の王都で見た夜景よりも明るいのかもしれない。

 昔見た、戦闘が今にも始まりそうな、渡航中止勧告が出ていた危険地帯での夜景を思い出した。

 銃撃を恐れ、現地の人々は明かりをつけない。街灯も同じ理由、いや貧しさもあって、灯すことなく無用の長物として立っていた。

 ホテルのロビーでは、警備の若者達が、国から配られたアサルトライフルや短機関銃で武装して見回っていた。夜中に部屋から出ることは、誤射の危険があるからと禁じられていた。

 夜景といって良いのか、どこまでも暗い光景。

 アキラも安全のために、鉄の棒と非合法に入手した拳銃を置いていた。模造やコピーをならべていたので、正規品を出させた。百倍ほどの値だったが、品質的にこちらの方が断然安全を担保してくれる。一回のストーブパイプで死ぬのは嫌だ。9パラではマンストッピングが弱いので、10ミリが良いと現地の売人のアドバイスに納得して従い、S&W社のM1086を購入した。連れて行かれた射場で試し打ちをしたが、なんとも扱いづらい銃だった。買ってしまったものは仕方ないと、そのままホテルに持ち帰った。

 ここは異世界であっても、安全で快適な都市だ。もちろん一歩出ればトゥースピックのような化け物もいて、危険なのだが、それはどこも同じだろう。

 やはり、レインが手元にないと不安になるのか、思い出も暗いものばかりだ。

 風呂場のドアが開く音に、アキラは視線をそちらへ何気に向けた。そこにはパイル生地のガウンを着たツキが立っている。ガウンからはみ出す白い肌が上気している様に、あわてて顔を背けるアキラ。

 ツキがクスリと笑うのが聞こえた。

 冷水をグラスに入れたツキが、アキラの隣に座る。

 しばらく無言で、グラスの中を二人は飲む。

「何を考えていたのですか?」

 無言の行を終え、口を開いたツキ。風呂上がりの匂いが、アキラにまで届く。

「暗い顔をしています」

「大した事ではないよ。昔のことだ」

 からりと氷が、ツキのグラスの中で音を立てる。そうだ、この世界の技術レベルからは想像出来ないが、魔術で生み出した氷が、裕福な層では日常的に使われている。

 不思議な感覚。アキラは昔を思い出し、グラスを呷って空にする。氷は入っていなかった。なぜ入れなかったのだろうと、空のグラスをのぞき込む。

 グラスが割れる音を思い出した。

 そうだ、入れる氷がなかったんだ。

 立ち上がるアキラ。

「もう寝るよ。明日も早い」

 ツキを残して、アキラは寝室に入った。

 一人残るツキがつぶやく。

「いつか、話してもらえるのでしょうか。聞く資格は……」

 ぽつり、一滴(ひとしずく)、ツキノナミダの雫が落ちた。


結構、ケチだったりします。

幼女もどき:「王都でもスイートルームに泊まろうよ!」

わんわん:「贅沢は敵だ!」

社畜男:「金持ってる奴ほど。ケチだよな」

いやいや、節約は大事ですよ。


次回、明日中に投稿予定です。

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