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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第2章 My Hometown
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2-21

引き続き、第2章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 王城を出て、ディアナの工房を目指す。帝都ロンデニオンでは、王都パリスと違って、工業区というものは持たない。商業は一定数まとまった方が効率も上がるので、細かくではあったが、集まる傾向にあるが、このロンデニオンでは工房の隣に住宅があったりする。

 これは都市の成り立ちが関係しているとツキが語る。

 王都パリスは、実は新都で旧都から遷都されてきた都市で、そのため、都市計画がしっかり施されているため、比較的まとまった印象だ。逆に帝都ロンデニオンは、広がるに任せて発展した都市であり、乱雑なイメージとなる。歴史という点では王国に軍配があがるのだが、いわゆる(おもむき)では帝都ロンデニオンが古色帯びて、歴史を感じさせてくれる。

「それでか、パリスとはまったく印象が違う」

 住んでいる人によっては、不便かもしれないが、これはこれで良いなとアキラは思う。初めて訪れるというリーネは、まとまった印象であるパリスの方が好きなようだった。今はアキラの前で精霊馬に跨がり、手綱を任せて周囲を見回していた。お上りさんそのものだ。

 都市の歴史を語るツキに、アキラはたずねてみる。

「ツキはどちらが好きなの」

 ブルーのところに落ち着く前は、旅をしていたとツキは話しており、ロンデニオンも幾度か訪れたことがあるとのことだ。少しだけだが、土地勘があるとのことで、アキラは当てにしていた。

「都市はあまり好みません。森や草原の方が好きです」

 今はツキに抱えられて、馬上にいるブルーが同じくとうなずく。雑踏の中で、人や馬に蹴られたり、踏まれたりした結果、ツキが抱え上げたのだ。

 目的地である、ディアナの工房は、ロンデニオンの外れにあった。城壁のないこのロンデニオンは、外へ外へと広がっている。その先端にあるような位置だ。

 馬用のバーが工房前に用意してあり、そこへ手綱を巻き付けてドアを叩いた。

 ドアはすぐに開かれ、出てきたのはディアナだった。

「あれ、どこかでー……」

「以前、パリス近郊の街道で会いましたよね」

 やはりあの時の、愛花(あいか)に似たエルフであった。アキラは懐かしさを感じる。もちろんそれはディアナに対してではなく、愛花(あいか)へのものだ。

 すぐに思い出したのか、「あの時の!」と手を叩く。

 中に招き入れられ、アキラ達は周囲を見回す。そこは工房というより、実験室といった様子だ。皆の視線に気づいたのか、ディアナが工房といっても研究室が正しく、新しい魔術の組み合わせや、精霊への呼びかけ方の技術等を売っていたのだ。

「今までは外部に売るしかなかったんですがー、鍛冶師の方がー、来ていただけることになりましてー」

 その言葉を合図にしたかのように、奥のドアが開いた。

「ディアナよ、やはりテーブルや椅子が高くて、作業がしにくい」

「ペノンズさーん、お客様がー来ていますので、後で聞きまーす」

 そこでペノンズは気づいたのか、アキラ達のもとへとやって来た。

「帝都に来たのか!」

「お久しぶりです」

 アキラの答えに、ディアナは目を丸くして驚いている。それへツキが、ペノンズを訪れてきたのだと説明した。それでは、後は任せると、今度はディアナが奥へと引っ込んだ。

「どうした、わしを帝都まで追っかけてきたのか?」

 髭をしごくペノンズ。見た目によらず、好奇心が強いのは変わらない。

 アキラは綻ばせていた顔を引き締める。

「実はお願いがありまして」

 腰のレインを机にのせる。すべてを話す前に、ツキを見るアキラ。うなずきが返ってくる。

「察しておられるかもしれませんが、この刀は精霊を宿しています。その精霊が精霊喰いに半身を食われました」

 ()はレイン。トゥースピックとの戦いを、ブルーの部分を除いて語るアキラ。すると、ペノンズは鞘を愛おしげに撫でつぶやいた。

「主のために、頑張ったんじゃのう。えらかったの、えらかったのう」

 まるで子や孫を愛おしむ様子。しばしの瞑目の後、顔を上げた。

「わしは、この精霊を元に戻せばいいんじゃな」

「お願いできますか?」

 しばし考え込むペノンズ。はたして可能なのか、答えまでの時間が、アキラにとってはとてつも長く感じられる。

「出来ぬ、とは言わん。ただし、わしだけではほぼ間違いなく失敗する。そこでじゃ、ディアナに手伝うてもらう」

 アキラの答えも待たず、奥のドアへ向かってディアナを呼ぶ。すると、茶の用意をしていたのか、盆を持ったディアナがドアから現れた。

「どうしましたー、大きな声でー」

「この刀を見ろ」

 茶を配り終えたディアナが、アキラに断りを入れて、鞘から刀を抜いた。白刃を目の前にしたディアナの表情が変わる。

 一転、真剣な表情で見つめている。

「過去に、精霊が宿った剣や防具の類いがなかった訳ではありません。ごく少数で、秘蔵されたりした結果、伝承されていないだけです」

 言葉が変わる。まるで別人のごときだ。

「では、過去に見たことが?」

「あります。会話を交わしたこともある。あなたたちは運が良い。私は精霊工学を修めていますが、その中でも、精霊本体が本来の専門なのです」

 つまりと、精霊に戻すことは可能だと。ただし、刀に宿る精霊であるから、ペノンズの協力が不可欠。

「ただ、成功の確率は、ごく僅かです」

 精霊に魔力だけを与えても、駄目なのだと。それでは完全ではなく、人や獣が持つ生命力というものを与えなければならないのだと。しかし、完成された生命からは、すでに形作られているため、生命力を抽出出来ない。

 今考えられるやり方では、成功したとしても、半身分の生命力しかないため、ただ、宿っているという存在になる。人でいう人格というもの、確たる意思は失われる。

 アキラは、生命と聞き、ひらめくものがあった。

 ブルーの背中から水晶(クオーツ)を下ろし、くるんでいた布を解いて、テーブルの上に置いた。

「これは?これは一体何ですか!精霊でも人でも獣でもない。しかし、存在は感じる!一体これは!」

 目を見開き、恐ろしいまでの表情で、アキラに迫る。手にレインがあるので、慌ててアキラはのけぞり逃げる。

「大精霊の見立てでは、生命体である事は確かです。それ以外は何も分かりません」

 空から落下した経緯などを説明する。そして、アキラかこの水晶(クオーツ)を狙う、これも正体不明の存在があると。

「触っても?」

「俺が触ったときは、何もなかったです。犬の背にあるときは、最初落ち着きを失っていました」

 ブルーが「背中がぞわぞわする」というのが難しかったので、表現を変えて説明した。通じたのかどうかは疑問だが。

 ゆっくりとディアナが手の平を近づけていく。

 そっと、触れた。

「何か波動のようなものが伝わってきます……」

 すぐに手の平は離され、ディアナは考え込んだ。

 しばらく無言で、ディアナの答えを待つ。

 やがて、抜き身のレインが鞘に戻され、テーブルに置かれた。

「今、波動が私を通じて、刀へ送り込まれるように感じました」

 そういえば、水晶(クオーツ)を触れるときに、レインが抜き身であったことがあるだろうか。あったとしても、緊急の時などで、その時の様子など覚えていない。

「一晩、この石と一振りをお預けいただけないですか」

「しかし、襲撃の件もありますし」

 帝都の外れとは言っても、あの三本足が暴れたら、とんでもないことになる。

「ところで、わしの居場所は誰に聞いた?」

 脈絡のないペノンズの質問に面食らうアキラ達だが、いち早く立ち直ったツキが応えた。

「エリオット殿下に依頼をいただきまして、その流れで殿下から教えていただきました」

「やはりな、あのキムボール馬鹿王子とも(よしみ)があるんじゃ。そうだと思ったわい」

 外にたくさん警備のものがいると。ブルーやツキ、リーネもうなずく。

「この工房は、恐らくエリオット殿下の注目を引いておる」

 だから帝国の金で警備しているから、大丈夫だと。

 襲撃の件もあるが、アキラはレインを離すのに不安を感じる。

 ツキとリーネがそっとアキラの肩に手をおく。

 なぜか、すっと、不安が溶けていく。

「分かりました、お預けします」

 レインをお願いしますと、深々と頭を下げたアキラ。大きくうなずくペノンズとディアナ。それを見たアキラ達は、翌朝訪れることを告げ、工房を後にした。


思うことは同じだと。

銀髪:「はーい、抱っこですよ~」

わんわん:「犬扱いするな!」

社畜男:「犬じゃん」

幼女もどき:「犬だよね、踏まれそうになってるし」

わんわん:「…………」

いや、踏まれただろう、蹴られただろう。


次回、明日中に投稿予定です。


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