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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第2章 My Hometown
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2-20

引き続き、第2章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

モス帝国 帝都ロンデニオン ロンデニオン城 秘密の小部屋

 小部屋に置かれたティーテーブルで、シルは一人でお茶を飲んでいた。

 ソーサーを持ち上げ、優雅にカップに口をつけた。

 香りを楽しみ、味を堪能する。

 吐息一つ。

「まさか、エリオットが呼び寄せるなんてな」

 すでにアキラ達一行が、王城入りしていることは知っていた。うれしくもあり、面倒でもあった。

「見つからないとは思うけども……」

 でもあの子がいるから。

 すぐ見つかるかな?

 シルは、怒るブルーへの言い訳を考え始めた。


モス帝国 帝都ロンデニオン ロンデニオン城 リーム宮

 アキラ達が案内されたのは、王城内部に建てられたリーム宮、王族が私的に使う宮殿の面談室であった。しかも出迎えたのは帝王と皇太子。二人は先日の境界侵入について謝罪した。

 謝罪についてはブルーは受け取っていると考えており、また犬が返答すると面倒であったので、ツキが巫女姫として受け取る。

 そうそうに帝王達は席を外したが、皇太子はツキとリーネに視線を向け、名残惜しそうに部屋から出て行った。一応、ブルーは皇太子がツキとリーネにおかしな態度や行為をした場合、「噛むぞ(ぶっころす)」とエリオットに伝えていた。

 エリオットに示されたソファーに座り、メイドが茶を給仕する。ブルーには深めの平皿に入れられたエール。

 事前の調査が行き届いている事を、褒めるべきかを悩むアキラ。

 全員が落ち着いたことを確認して、エリオットが口を開いた。

「来て貰ってすまない。さっそくだが、良いかな、剣士殿」

「アキラで良い。手早く行こう」

 うなずいたエリオットが、依頼の説明を始めて行く。

 ドラゴンのリセットがあった日より、シルの姿が見えないのだと。通常、特定の一日二日を除いて、ほぼ毎日、大精霊は王族から挨拶を受けることになっている。それに姿を見せないのだと。

「他でも見ないと」

「もちろんだ、あの日以降、シル様の姿を見た者はいない」

 当然、宮中や城内に常駐するもの、すべてにインタビュー済みであり、日々でも、見かけたときには、すぐさま報告するように指示してある。

「シル様の私室は?」

「それが隠されているので、誰も場所を知らない」

 ツキの質問にエリオットはため息をつく。

 私的な場を開放するのは嫌だ、とのことだ。ただし、だからだろう、必要な時には現れてくれるのだが、今回はそれもない。

 大精霊が私室を隠すのは、良くある事だ。

 ただ、財団(ファウンデーション)のリータだけは特殊で、リータの住まう庭園は一般開放されている。もちろん二十四時間ではなく、ごく限られた時間であるが。ただ、一般ということは、それこそ誰でもとなる。リータは、いわゆる会える大精霊様なのだ。

 盟約を結ばなかった財団(ファウンデーション)への、リータなりの詫びなのかもしれない。

 アキラは、すでに話しに飽きて、ブルーの背にもたれてだらけているリーネを見た。

「どうだ、リーネが精霊に呼びかければ、見つけられるか?」

「お待ちなされよ。いかに竜の巫女姫といえど、それは無理であろう」

 口を開いたのは、エリオットの後ろで控えていた男だ。アキラに合図を送ったエリオットは、声を潜めて宮廷魔術師の筆頭だ、どうしても同席させろと言うので、仕方なく、と言った。

「筆頭である、この私ですら無理であったものを」

 どこにでも、面倒なやつがいるなと、アキラはリーネに再度たずねた。

 リーネは眠そうな目をこすって答える。

「たぶん、こっちだと思う」

 リーネが先に立って歩き始める。その方向を見て、なぜかアキラは大丈夫だと思った。

 廊下を抜け、庭園へと出る。宮で働くメイドや執事達が、ぞろぞろと人を引き連れて歩くリーネを、何事かと驚き見ていた。

 やがて、花壇の一角にたどり着く。そして、指さす。

「ここだよ」「ここだ」

 リーネと同時にアキラも同じ場所を指さしていた。

 ふにゃりとリーネがアキラを見て笑った。やっぱりと。

 宮廷魔術師の筆頭が馬鹿にしたように鼻で笑う。リーネ、ましてやアキラが精霊に呼びかけるような所作を見ることはなかった。端から見れば、何を適当にと感じたのだろう。

 しかし、場所を特定したとして、どうやって中に入るか。

「アキラさん、空間を斬ってください」

 全員が、ツキの言葉に首を傾げる。ただしアキラだけが違った。

「ツキの言うことは分かる。だけど、レインは今意識を失っている。半身なんだ」

「なぜ、半身だけでもレインは残ったと思うのですか。それはあなたのために、力を少しでも残すためです」

 アキラとツキ以外には、理解出来ない会話だ。

 しかし、リーネとブルーには理解出来ずとも、分かる事があった。アキラとレインならば出来るということ。一人と一頭はアキラにうなずきかける。

 ならばと、ためらいがちに、アキラは腰を落とし、柄に手をかける。

 エリオットを守る騎士達が、用心のために鞘をたぐり寄せ、柄に手をかけた。

 アキラは心の中で半身のレインに言葉をかける。出来るかと。

 極度の集中に、視野狭窄が発生する。しかし、その見える一点こそ!

 聞こえた気がした。

 主様なら大丈夫、私が力をお貸しいたします。

 言葉にならない言葉。

 心と心でつながる。

 鯉口を切り、アキラはゆっくりと抜刀する。そのまま空間を斬りつけるが、剣速はゆるやか、なぞるような動きだった。

 そして、納刀。

 腰を落として残心するアキラの前で、空間がめくれ落ちた。

 ツキとブルーが満足げにうなずいた。見えないものも斬れるではないかと。

「さっそく、見つかったか」

 斬った先で、カップを手にしたシルが、ペロリと舌を出した。


 談話室にシルは連行され、エリオットから詰問されていた。

「では、スカイドラゴンに怒られるのが怖くて、隠れていたと」

「概ね、そうだよ」

 しれっと答えるシル。エリオットは頭を抱え込む。

「でね、ブルー。盟約の件……」

 それを前脚で遮るブルー。

「いいよ。大体分かるし。盟約に縛られてだろ」

「えっ、簡単に許しくれるね」

「なんかな、最近諦めるのが早くなった気がする。ただ、一つ言っておく。人との盟約だけではないだろ。上位の盟約だ」

 シルの顔が真顔になる。

「知っていたのか」

「ここで聞く気はない。話すな」

 うなずくシル。

 ブルーは、シルには人とは別の盟約があると明かした。ただ、内容をここで話すことは出来ないが、シルが盟約を結んだのは星の精霊とだけ伝えた。

「そんなことが……」

「努々広める事なきよう」

 シルが、大丈夫であろうが、念のためとクギを刺した。

 内容の重大さに、エリオットが絶句する。いわば神々同士の約束だ。人が口を挟めるものではない。

「しかし、うまく考えたな」

 ブルーがエリオットに声をかける。それを受けたエリオットがにやりと笑った。

「俺やリーネに依頼しても来ることはないが、アキラに依頼すれば、絶対にくっついて来ると。策士だな、今回は褒めてやる」

 だから、金とエールを早く寄越せと。

「分かりました。それよりも、竜の巫女姫、リーネ様ですが、我が国の宮廷魔術師になっていただけませんか。もちろん筆頭として」

 隅で項垂れている魔術師を指さしたエリオットは、あれでは使い物にならないので、リーネに代わって欲しいと。

「噛むぞ!」

「いや、冗談です」

 アキラはそれが冗談ではないだろうと、ぼんやり考えるのだった。

 変則的だが、前金と成功報酬が一緒に用意されている間に、ツキがエリオットにたずねた。ペノンズという鍛冶師が帝都に来ているはずだと。

 鍛冶師とは国家の礎であり、大抵は登録ないしは届け出が義務づけられている。もし、ペノンズが来ているならば、開示されていない情報でも、最高権力者に近しい存在がいるこの場であれば、調べることは可能だろう。

 シルの失踪を解決したこともあって、エリオットはやはり協力的だった。すぐさま担当部署へと、ペノンズなる人物が届け出ているかを調べるように命じた。

 結果はすぐに出た。

 騎士団長の地位を用意する、約束すると、エリオットがアキラを口説いているさなかに、一人の担当官が書類を抱えてやって来た。王族の私的空間に呼び出されて、緊張しているようだが、簡潔に情報を伝えてくれる。

 ペノンズはやはり、帝都に来てすぐ届け出たようだ。

 その内容を聞かされて、皆が驚く。

 ペノンズはディアナの工房にて、共同責任者になっていると届けられているのだ。ディアナと言えば、以前ログハウス跡へ戻る最中に出会ったエルフと同名だ。

 ディアナは精霊工学の工房を開いていたが、今度、鍛冶部門を開く際にペノンズを責任者に据えたのだ。だから、部門開設の登録と、鍛冶師としての登録が同時にされていると。

 気の利く担当官であったのか、ディアナの工房までの地図を用意していた。

「ここへ行けば、レインの事が……」

 アキラは、地図が書かれた紙片を、大事にポケットへとしまった。

 金は受け取ったので、すぐに、ディアナの工房へ向かおうと、エリオットに別れを告げる。するとシルがアキラの腕に絡みついてきた。

「見つけてくれて、ありがとう」

「……、見つけて欲しくて隠れたね」

 アキラへ、はにかむ顔を見せるシル。それを見たエリオットが驚愕の表情を浮かべる。見たことないぞ、その顔は。

「おいたが過ぎますよ、姉上」

 なぜだろうか、アキラは自分に驚く。自然とついて出た言葉だから。レインを戻すための一歩が踏み出せて、浮かれていたのだろうか。

 シルの顔が驚愕に彩られ、次にはほころぶような笑みが。

「……はい」

 シルは出て行くアキラの背に手を振る。そんなシルにエリオットが声をかけた。

「好きになられましたか?始原の精霊としてはお珍しい」

 それには答えず、シルは恥ずかしげにエリオットに微笑んだ。

 その夜、シルからの連絡で、近隣の大精霊達に激震が走った。

「自発的だ!」

 更に大激震が走った。


思う心は一緒。

わんわん:「ハーレムか、ハーレムなのか!」

社畜男:「格好つけて、申し訳ない」

わんわん:「許しません!」

そればっかだな。


次回、明日中に投稿予定です。

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