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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第2章 My Hometown
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2-19

引き続き、第2章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 男女別の部屋を望むべくもなく、一室に押し込まれた一行は、ベッドだけは三台あっため、リーネとブルーは一緒に寝ることとした。一日馬に揺られていたこともあり、全員が熟睡して朝を迎える。

 部屋もベッドも貧相だったが、食事も固いパンと、適当な物を煮込んだシチューだけで、リーネなどは文句を言いながら食べていた。香辛料の類いがないのか、工夫する気がないのか、とにかく不味かった。

 さっさっと朝、出発をする。

「他の宿もあのレベルだとすると、野宿の方がましかな」

「ええ、街道沿いには、それ用のスペースもありますから、そうしましょう」

 ツキも堪えていたのか、アキラの背後でうなずく。そう、今日はアキラの後ろはツキの番だった。

 大きめの村や街では宿に泊まることとし、それ以外は野宿することに決めた。昨晩の宿の食事がよほど嫌だったのか、リーネも「ツキの作ったのが良い」と賛成だ。ブルーには誰も意見は聞かなかった。やはり、犬だからだろうか。

 アキラにとって、珍しい物を見れば、ツキやリーネの説明を受け、歩くことに飽きてきた精霊馬の不満の解消のために、時折駆けたりとして進んでいると、前方で国境に作られた検問と砦が見えてきた。

 出国の際には、書類の作成などで、手続きに少し手間取ったが、王国に本店があり、王家の御用達である、ローダン商会の身分証が力を発揮して、問題なく通過出来た。

 ローダン商会は本店を王国においており、各国の首都、主要都市には支店を置いているため、何か問題があったときには頼るように、アキラはローダンから言いつけられていた。

 ちなみに、ブルーへの誰何はなかった。犬だけに。

 次に、帝国の検問へと向かう。

 アキラは職業柄、地続きの国境線を越えたことは何度もあるため、戸惑いはなかった。大抵の日本人は、空港、あるいはごく希にある港での入出国なので、旅を挟んでの入出国の手続きがほとんどで、出国、すぐに入国手続きなどは戸惑う場合が多い。

 特にアキラは、一般より難易度の高い、商品とともに国境を越えることが多かったので、身一つではスムーズに済んだ。

 ただ、ここは異世界だ。

 別の窓口で手続きをしていたリーネが、絡まれた。

 係員はリーネが黒髪である事に、難癖をつけている。

「帝国王族、エリオット殿下の招待となっているが、殿下が黒髪を招待するはずがない。招待状は偽造だろう!」

 面倒を避けるためにも、アキラは商用の一点張りで、エリオットの招待状は、ついでとばかりに最後に見せたのだが、リーネは最初から差し出したのだろう。

 下卑た係員がリーネの身体を舐めるように見ていた。

「偽造って、帝国の書類って、そんなに簡単にできる物なの?」

 馬鹿じゃないと、リーネが煽る。

 額に手の平をつけ、アキラは天を仰ぐ。煽ってどうするよと。

 案の定、激高した係員は別室で取り調べると言い出した。かなり下品でいやらしい視線でリーネを見ている。

「もう、斬ってもいいよな」

 その視線に腹を立てるアキラ。本気だと感じたのか、あわててツキが前に立つ。

「何を騒いでいる」

「いえ、この小娘が殿下の招待だと言い張るので」

 騒ぎを聞いて、駆けつけたのか、上司らしき男がやってきた。普段はあり得ないことなのか、係員は慌てている。

 男はリーネとアキラの髪色に視線を送り、係員の手元に視線を落とした。

「話しはうかがっております。帝国にようこそ」

 ぽかんとしたのは係員ばかりでない、アキラとリーネもだ。唯一冷静だったツキが応える。

「エリオット殿下のお心使い、感謝いたします」

 にっこり笑った男は、ゲートを開けるように指示をするのだった。

 入国審査を無事?に終え、帝国側のアラーダイス街道を行く。

 文句を言う、リーネの言葉を聞き流し、人が少なくなってきたところで、ようやくツキが口を開いた。

「どうやら、エリオット殿下はトラブルを予想して、手配していたようです」

「無礼な奴だと思っていたが、意外と心配りができるじゃないか」

 ブルーは根に持っていたらしい。

「これで、エリオットの本気が分かったんだ、あとは心配せずに帝都を目指そう」

 安全を保証するとは言ってきていたが、どこまでするのかと心配だったが、それも解消された。

 精霊馬に揺られて、アラーダイス街道をのんびりと進んでいく。


 帝国領に入って、幾度目かの野営。珍しく商人と一緒になった。

 ツキとアキラが食事の用意をするのを目にしたのか、商人は声をかけてきた。食材を提供するので、食べさせて欲しいと。

 商人は荷馬車であったため、多くの食料、特に野菜を持っていた。

 怪しい点もないため、アキラとツキは受け入れた。

 携帯食料ばかりで、普通の食事に飢えていたのか、商人はよく食べた。食材の提供をして貰っているので、アキラとツキに文句はない。笑っておかわりをよそおってやる。

 食事も終わり、ツキが食後の茶を商人に差し出す。

「いやー、こんなきれいな方に食事を作って貰い、茶まで入れていただけるとは」

 商人は茶飲み話とばかりに、続ける。

「帝国と財団(ファウンデーション)の国境での対峙は続いていて、あちらの街道は荒れているようです」

 禁輸の件もあり、ほとんど人が通っていない状態で、さらには交代の兵士たちが通るおかげで、盗賊達がこちらのアラーダイス街道にシマを移動させている、用心した方がいいですよと、商人は注意を与えてくる。

「で、あんたは、獲物を探しにきた、盗賊の偵察役、手引き役かな?」

 茶をすする商人が、アキラににやりと笑う。

「何を根拠に」

「根拠はない。かまをかけただけだよ。ただ、一人で旅していて、宿に泊まった形跡もない。怪しいと思ったんだ。昔、何度か同じ目にあった」

 危険地帯を行く、特に商社が扱うような代物を持って旅することなど、何度もあったアキラだ。痛い目にもあった、返り討ちもしている。慣れたものだ。

 もう一度茶をすする商人。

「逆だよ。俺は盗賊団に潜り込んだ帝国の役人だ」

 商人の言葉を信じるなら、これはアキラも始めての経験だ。目を丸くして驚く。

 商人が指さし、あちらに潜んでいると告げる。それを聞いて、そっとブルーが離れていった。

 遠くから悲鳴が聞こえてくる。何事かと商人が目を剥いて、自分が指さした方向を見た。

「どうやら信じて良いみたいだな。盗賊は全滅かな」

「犬がいない……」

 商人がブルーは、犬はどうしたとたずねてくるので、アキラは惚けるように両手を広げた。小便だろと応える。

「化け物みたいな奴等とは聞いていたが……」

「エリオットの指示か」

「そうだ。あんた達の、安全を確保するように命じられている」

 そうかと、アキラはエリオットの本気具合を改めて思い知らされた。

 しばらくすると、何事もなかったかのようにブルーが戻ってきた。リーネの隣に伏せると、さっそくクッション代わりにされている。

 殺したのかと、視線を送るアキラ。それに首を僅かに横に振るブルー。

 アキラは商人に、明日の朝にでも捕縛するように頼んだ。

 翌朝、捕縛という片付けがあると残る商人に別れを告げて、先を進んだ。

 街では宿に泊まったが、どうやら帝国は黒の忌み色への忌避が強いのか、見る物もないので、部屋に籠もることにした。

 幸い、大きな問題もなく、帝都に着いたのだが、入る手続きをしようとした検問で問題が発生した。

 一行は横に避けられ、有無を言わせずに別室へと連れられた。

 会議室らしき部屋の前。促されて、ドアを開けて中に入ると、跪いたエリオットがいた。

「ようこそ帝国へ。本来、こちらからお迎えに参上しますところ、更に先日のお詫びもしておりません事、まことに申し訳ございません」

 そう述べた後、更に頭を下げた。

「楽にしゃべれよ、面倒だ」

 ブルーが告げる。それをエリオットは驚きの目で見た。

「犬がしゃべった」

「お前ら、ほんと友達同士仲いいな」

 キムボールと同じ反応に、ブルーは渋い顔だ。

「聞いてはいましたが、いざ、目の当たりにしますと。いや驚きました」

「もう、いいよ」

 早く中に入れろとブルー。

「いいえ、このまま王城へ向かいます。話しはそこで」

「面倒だな、ここで話してくれ」

 王城なんぞに連れて行かれたら、緊張とかするので嫌だとアキラは告げた。

 しかし、それにエリオットは首を横に振る。

「事件は王城で起きてるんだ」

 と告げる。


同じ事を思いました。

殿下:「事件は会議…………」

社畜男:「いや、そういうのはいいから」

わんわん:「うむ!」

同意します。


次回、明日中に投稿予定です。


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