2-18
引き続き、第2章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
翌朝、暗いうちからテントを倒し、荷を積み込む。
ツキが作ったスープとパンで朝食をとり、さっそく出発した。
ブルーの回復を待つ間、リーネはブルーに着きっきりであったため、アキラはツキに乗馬を教わっていた。短い期間ではあったが、一通りの事が出来るようにはなっていた。 短期間での技術の取得は、アキラに才能があったのではなく、乗せていたスプライトのおかげだろう。かなり気を遣っていた。
最初はツキが教えることもあって、スピリットに乗るつもりだったが、誰も乗せていなかったから良かったものの、突然後ろ足で立ち上がったり、伏せたりと奇行が目立つので、スプライトに頼んだのだ。
アキラは、そのうちスピリットがカードでピラミッドを組んだりしないだろうな、と変な不安を感じた。
精霊馬を御する事が出来るようになったため、今回はアキラの後ろにリーネが乗っている。
補助は私がすると、リーネが宣言。ツキは不満そうであったが、途中で交代することで受け入れた。
アキラは背中に当たる、柔らかい双丘にどきどきしながら、スプライトを操る。そんなことに、お構いなしに、ぐいぐいと身体を押しつけてくるリーネは、とても上機嫌だった。
帝都へ続く主要街道は、整備に尽力した王国の偉人の名前をつけられ、アラーダイス街道と呼ばれている。まずは、街道の起点である、王都を目指す。
ローダンは商会で待つと連絡があった。
契約書等の書類作りもあるため、寄らざるを得ない。
森での入り口。
「トゥースピックは認識阻害の結界を張ってる。目視だけが頼りだ」
ブルーが注意を皆に告げ、駆け抜けるぞと吠えた。
精霊馬二体と犬一頭が森の中を駆けた。
森の中での野宿は見通しも悪いため、無理をして眠らずに駆け続ける。疲れを知らぬのか、精霊馬二頭は、アキラ達の期待に応え、駆ける足を緩めることなく走り続けた。
眠り避けと称して、ツキが配る、苦い小さな果物を口にしつつ駆けるが、森を抜け、鳥居もどきとキャリアーが見えてくる頃には、皆が半分眠っているかのような状態だった。
キャリアーの中なら安全だろうと、一応交代で見張りをたて、丸一日を使って癒やしと睡眠をとった。
元気を取り戻した一行は、境界を越えて王都を目指した。
今回は、小屋に寄ることもなく、直接王都を目指した。
ブルーはトゥースピックは境界からは出ないと言うため、それを信じて、のんびりと進んでいく。
ちなみに、今、アキラが跨がっているのは、スピリットで、当然アキラの後ろにはツキが跨がっていた。リーネとは違って、押しつけてくる事はないが、すりすりと触れてくる双丘の感触に、また違ったドキドキを感じるアキラである。
検問での手続きも無事終えて、ローダン商会へと向かう。
何度目になるか、王都パリスの光景も見慣れてきた。今度向かう帝都ロンデニオンはどのような光景を見せてくれるのかと、心の片隅にレインの事を置きながらも、アキラは期待に胸を膨らませた。
商会に着くと、すぐに店員が飛び出してきて、精霊馬の手綱を預かった。つながれに行く二頭を見送り、中へと入る。
すでにローダンはソファに座り、書類を手にしていた。
どうやら、検問にて手続き中に、ブルーが連絡をしたようだ。
いつもの抱き枕はごめんだと、先にローダンが座っている事を良いことに、アキラは前に座ろうとする。
結局、ローダンに腕を捕まれて、隣に座らされた。そして、そんなアキラの空いた横にはリーネが座った。いつもと同じ配置だ。
契約書を広げ、ローダンが指示する場所にサインを入れていく。真っ先にツキには名前の書き方を教わっていたため、支障はなかった。ただし、内容はツキに読み上げて貰ったが。
すべての作業を終えて、カップに口をつけて一息入れるアキラ。
「カロニア伯爵の処分が決まったわよ」
「王国にしては早い決断だな」
エールの入った平皿から顔を上げたブルーに、ローダンが、国王がびびりまくってたようで、だいぶディーネが宥めてたみたいだと。
「今度お礼を言っておきなさい」
「なんで俺が礼を言わんといかん。知るか!」
ローダンが鼻息一つ吹いて、再び平皿へ顔を突っ込む。代わりにとばかりにアキラがたずねた。
「処分はどうなったんだ」
「隠居を命じられて、息子が後を継いだわ」
財産没収の上、お取り潰しにならなかっただけマシだとローダン。
「さて、時間も頃合いよ。夕食にしましょう。旅の途中は良いもの食べられないから、豪勢にしたわ」
ローダンの宣言に、アイスクリームっと両手を挙げるリーネだった。
商会を後にして、すぐに宿へと入った。
疲れていたのか、皆部屋で寝ていたが、アキラはベッドを降りて、外へと出た。もう一つのベッドで、犬のくせに一台を占拠して眠るブルーを起こさぬように静かに。
宿の裏口から外に出る。まだ従業員が作業しているのか、鍵は掛かっていなかった。裏にあった馬房の一部。二体の精霊馬が足を折って眠っていたが、アキラに気づいたのか、顔を上げていなないた。
精霊は眠らない。しかし、人などの生き物の形を取ったときには、その生物の生態をなぞるのだと言う。
精霊馬達の前でしゃがんだアキラは、鼻筋を撫でてやる。
気持ち良さげに目を細める二体。
だが、それをするアキラの表情は険しい。
背後の気配にアキラが声をかける。
「眠れませんか?」
「アキラさんこそ……」
そっとツキがアキラの肩に手をおく。アキラは精霊馬の鼻筋をなで続けた。
「レインのこと、焦ってはいけません。きっと、帝都では、何か出来るでしょう」
撫でる手が止まる。ツキの目には、その手が震えていることが見えた。
静かな時間。
「……、俺は悔しい。俺の手で何もしてやれないなんて」
「あなたは使い手です。作るでもなく、治す手でもありません」
「そうだ、それもある。俺は良き使い手であっただろうか」
アキラが拳を握る。
今にもそれが地に打ち付けられる、それを感じたツキが、アキラの頭を自分の腹へと抱き寄せる。その柔らかさに、アキラは驚き身を引くが、ツキは構わず抱きしめた。
「私は何も言えません。レインに聞いてください」
そして、ツキは天上に輝くシルバーを見上げる。
そっと、つぶやく。
「きっと、レインと私は同じ意見ですよ……」
握った拳が開き、腰を引き寄せ、柔らかさに顔を押しつけた。
いつもと同じように、日が昇りきる前に旅立ちの用意をし、出発する。
入ったとは別の検問を通り、アラーダイス街道を行く。
朝も早い時間だが、主要街道だけあって、多くの人が検問をくぐり、旅立っていく。商人に時間は貴重だ。一刻で値が動くこともある。だから、商人は早起きで、朝早く旅立つ。街道を行くのはこの時間帯、商人がだから多い。
希に、ブルーへと餌をやろうとする者がいる。しかし、大抵は犬にやるものだからと、食料のあまりであったり、食べさしだ。そんな物食えるかとブルーは無視するのだが、身勝手にも生意気な犬だと怒る場合がある。いや、主人以外からは餌を食べない、賢い犬とは思わないのか。
そんな時は、リーネが振り返って、手を振ってやると機嫌を直すのだが。
進む速度の違いから、街道上も人がまばらになっていく。
気をつければ、喋って良いぞとアキラはブルーに告げようとして、ふと思いつく。
「ブルーを精霊っていうことにすれば、多少は人前で、しゃべっても良いんじゃないか」
「いえ、精霊が犬の形をとっても、しゃべりません」
ツキの回答に、精霊馬達がうんうんとうなずく。しゃべれるもんなら、しゃべっているとばかりに。
「犬は犬ですから」
いつものごとく、言い返そうとするブルーだが、口を閉じる。
見れば、前から街道警備の兵士がこちらに向かっていた。特に咎められる事はないのだが、アキラは身体を硬くする。だが、兵士の一人がアキラの顔を二度見、三度見して、慌てている。声こそ掛けてこないが、怯えているようだ。
「カロニア伯爵と境界に侵入してきた兵士じゃないですか」
兵士たちが行ったあと、ツキが少し考え、自分の想像を口にした。
「怯えるようなことしたかな?」
「したと思うよ」
アキラの後ろでリーネが、「こいつ何言ってんだ」みたいに言ってきた。
「俺は、レインの助けを借りただけで、全部レインのおかげだよ」
これには、精霊馬を除いて皆が、「こいつ駄目だ、なんとかしないと」みたいな表情になった。
黙ってしまった皆に、「えっ」というような表情で見回すアキラ。
「いいですか、レインは確かに優秀な刀です。しかし、それを使いこなすアキラさんも優秀なのですよ」
「俺なんて、優秀じゃないさ」
「あっ、鬱入った」
リーネが突っ込む。
「ツキの言うことは、聞いておいた方がいいよ。おだてるなんて、しないから」
そうだなと、アキラが返す。
そんな話しをしていると、前方に小さな村が見えた。村とは言っても、国家が厳重に管理している街道沿いにある村だ。当然宿泊施設がある。
時も夕方で、旅の一日目はここで泊まることにした。
同じ気持ちだと思います。
銀髪:「……ポッ」
社畜男:「……ポッ」
わんわん:「許しません!」
その通りでございます。
次回、明日中に投稿予定です。




