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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第2章 My Hometown
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2-17

引き続き、第2章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 結果、森に入ってすぐのところに、前足二本は落ちていた。

 ツキがもげたところに押しつけ、布で縛る。しばらくすると、前足の先がピクリと動き、つながったことが分かった。恐るべきドラゴンの生命力。

 縫うと抜糸が出来ない恐れがあると、ツキは傷口に布を巻いていく。リーネは焼け焦げた顔を、ぬらした布で拭っていた。

 治療?が行われている間、トゥースピックに出会ったこと、レインが半分食われたことを説明した。

 ツキがレインを受け取り、抜刀して刃をじっと見つめる。その横で、ブルーの頭を膝に乗せたリーネがぽつりと呟く。手は、焼け焦げた顔の毛を、整えるように撫でていた。

「半分残っただけでもすごい。多分、レインは何としても、アキラのところに残ろうと、頑張ったんだよ。すごく、とてもすごく抵抗したんだよ」

 普通は、精霊喰いに食われると、一瞬ですべてが失われる。それが、半身が残るのは、精霊、ツクモガミの意志の強さだと。

 ツキが首を横に振って納刀、アキラに戻す。

「存在は感じられますが、ラインがつながりません。今、レインは、ただ存在しているだけです」

「戻す方法は?」

 アキラの質問に、ツキは分からないと答えを返す。

 意識を失ったブルー。

 アキラ、リーネ、そしてツキ。無言で一頭と一振りを見つめていた。ブルーは毛布にくるまれて寝かされ、その横では、アキラが作った刀立て台にレインは立てかけられていた。

 そして、トゥースピック!残された者は皆、怒りを滾らせていた。

「精霊達が怒ってる。みんな、ブルーが大好きだから」

 リーネがぐっと涙をこらえる。それを見るのが辛くて、アキラとツキは目を背ける。

 草を踏む音がした。

 皆が振り返る間もなく、ローダンが駆けより、ブルーの側で跪いた。

「何があったの!ブルーがこんなになるなんて……」

 くるまれた毛布から出ている焼け焦げた顔の上で、手をおろおろと動かすローダン。撫でて良いのか迷っているようだ。横にあるレインにも気づいた。

「レインちゃんまで……」

 何があったのか、問い詰めるような視線をアキラに向けてくる。

 それに応えて、トゥースピックの件を話す。

 一通り静かに聞いていたローダンだが、立ち上がり、叫ぶ。

「今から、ぶっ殺してくる!」

 待ってくれとアキラ。トゥースピックは認識阻害の結界で覆われており、探し出すのは無理だと告げる。それに、恐らくあいつは再び現れる。だから、その時は俺が斬るとアキラ。

 厳しい顔を和らげるローダン。

「分かった。でも、覚えていて。いま、ブルーは死ぬ以上の苦しみを与えられている。ドラゴンは死なないけど、痛みを感じないわけじゃないのよ」

 ローダンの言葉にうなずくアキラ。しかしと続ける。

「レインの様子があれでは……」

 自分の技に自信が無いわけではない。しかし、アキラは斬れるものと斬れぬものがあることを知っている。トゥースピックが生身であれば、手段はある、斬って見せよう。しかし、目に見えぬ魔力をまず剥がさねばならない。

 ふむと、ローダンが顎に手を当てて考える。

 レインをそこいらの鍛冶師に見せても、状態すら理解できないだろう。

「ペノンズに見せようかと思います」

 そこでツキが口を挟んだ。

 アキラも、なるほどと思う。あのドワーフならばと。

「でも、ペノンズは帝都へ移住したのでしょう」

 商会へ、若いエルフの精霊工学者をつれて、王都を離れる挨拶に来たと。さすがの大商会で、ペノンズともつながりがあったようだ。だから、キムボールが紹介するときに考え込んだのだ。ローダンはペノンズが帝都へ行くかもしれないと聞いていた。

「帝都に行こう。それでレインが直るなら」

「無駄足かもしれないわよ」

 ローダンの言葉に、アキラは首を横に振る。

「それでも、可能性があるのなら」

 リーネとツキもうなずいている。

「それじゃ、私を褒めてちょうだい」

 にっこりと笑って、上着の内ポケットから封筒を出す。

「小商いの件、アキラには帝都へいってもらうわ」

 用意といっても、ご指名だけどねと笑った。


 ローダンから封筒を受け取ったものの、ブルーが大けがで起き上がれない状態なので、様子を見てから開封することとなった。ローダンには、受注の回答については、しばらく待って貰うことに。

 ローダンはブルーの側にいたが、いても回復に役立ててる訳ではないので、切りの良いタイミングで帰った。

 リーネは、ブルーに着きっきりで、布で顔を拭いてやったり、食事を匙で食べさせてやったりと世話を焼く。アキラとツキは、そのための食事を作った。押し麦があったので、牛乳で炊けば良いかと思ったが、犬にはやらない方が良いことを思い出し、干し肉がほぐれてしまうまで炊き込んだスープを食べさせることにした。

 献身的にブルーを助けるリーネ。それを端で見ていたアキラは、レインにしてやれる事が無くて歯がみする。とにかく手入れはしっかりと、ツキに言われ、時間があれば、手にして刃を拭ったりした。

 ただ、一点の悔いがあった。もし、精霊喰いの耐性が付与出来ていれば、きっと状況は変わったであろう。もっと、手を尽くして鍛冶師を探すべきだったかもしれない。

 しかし、今更と、アキラはレインの柄を強く握るだけだった。

 やがて、三日、四日と過ぎ、ブルーの傷が塞がり、立っても大丈夫になった。

「犬の生命力って、すごいよな」

「犬じゃねー、ドラゴンだ!」

 一日ほど動き回り、旅に出ても問題ないとブルーは判断。それを見ていた皆もうなずく。ただ、アキラはレインが変わりないことが悲しかった。しかし、それを解決するために帝都へ赴く。

 ブルーの回復を受けて、ローダンの小商いについて、アキラは皆に相談する事とした。

「商いというより、何かをしてほしいようだな」

 封筒を開けると、ローダンと帝国の王子であるエリオットからの書状が入っていた。ツキが読み上げた内容は、頼みがあるので帝都に来て欲しい。簡単に要約すれば、それだけ。ローダンもエリオットも同じ内容が書かれていた。

 エリオットからの依頼をローダンが仲介するものとなっている。ただし、依頼はアキラへの指定。

 身の安全については、国家を上げて保証するとなっているだけで、頼みの内容が書かれていない。ただ、国家の機密に関する事なので、帝都で説明すると書いているだけだ。

「依頼の内容を説明なしに、帝都に来いって、怪しいと言えば、怪しいな」

「いや、怪しくないぞ。たぶん、シル絡みの依頼だろ」

 アキラにブルーは、シルと連絡が取れないので、その件だろうと教える。大精霊に関わることだ。国家機密に指定されるのも、分からなくもないと。

 支払われるのも、前金、成功料ともに十分で、経費も持ってくれるから、問題ないだろうと、ツキも大丈夫と言う。

 アキラへの依頼だから、アキラが決めれば良いと、リーネ。

「レインの件もある。行くのは確定だな。ついでで依頼も受けよう」

 アキラが決断する。

 そして、封筒には、王国と帝国についての地図が同封してあった。簡単な地形と、街道しか書かれていないものだが、旅するには十分。同封したローダンはさすが、大商人の心遣いだ。

 テーブルに地図を広げる。

 帝都への道のりは、境界を抜け、そのまま帝国に入るのが近道だ。しかし、それでは密入国になり、王子からの依頼であるので、よろしからざるとはツキの意見。

 それにトゥースピックの件もある。今の状態で遭遇したくないのは事実だ。

「遠回りになるが、王都と帝都をつなぐ、主要街道を通る方がいいか」

「そうですね。両国の威信にかけて安全を保証している街道ですし」

 常に兵士たちが巡回しているので、盗賊や獣に襲われることはないだろう。

 ツキはアキラの意見に賛成。ブルーは特に意見もない様子。リーネは帝都へ旅行だーとはしゃいでいるだけ。

「決まったな、姉さんに受ける旨を連絡してくれ」

 大精霊とドラゴンが居るのが便利だと感じるのは、こういう時だなとアキラは思う。


極道バージョン。

会頭:「ぶっ殺す!!」

社畜男:「姐さん、お待ちなせぇ」

会頭:「あんたは悔しくないのかぇ」

社畜男:「兄弟(きょうでぇ)やられて悔しいのは俺ですぜ」

会頭:「だったら!」

社畜男:「俺が、きっちり片取らせて貰います」

こえーよ!


次回、明日中に投稿予定です。

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