2-15
引き続き、第2章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
守護地境界のキャリアーを利用して一泊し、ログハウス跡を目指す。トゥースピックの襲撃から逃れるためにも、アキラが耐えられる程度で精霊馬を駆けさせた。
野宿も最低限に留め、テントも張らないこととした。
途中、襲撃現場である三叉路を通ったが、何事もなく通過。急ぎログハウス跡を目指す。
崩れたログハウスが見えてきた。
「帰ってきた、私たちの住む場所へ」
二人で握っていた手綱、アキラの手にリーネが自らの手を重ねる。
残骸の脇に二つの人影が立っていた。
「人がいる?」
「違うよ、あれは精霊だね」
アキラのつぶやきを聞き、すかさずリーネが返す。
精霊で人の形であるのなら、大精霊二体が立っていることになる。いわば、国レベルが敬う神様が立っているのだ。だから、神様レベルがうろうろするなと。
しかし、ローダンで慣れてしまったアキラには、何の感慨も沸かない。しかも、近づけば、一体は水晶を見つけたときに会ったことがあるディーネだ。さらに、なんとも思わない。
「ディーネの横にいるのは誰だ」
「あれは財団に住むリータです」
ツキから答えが返ってきた。
アキラは「ふーん」と返した。
背中の羽は良いのだが、二体とも、その薄衣は目に毒だと。考えてみると、ローダンの男装は、まだまともなのだなとアキラは思う。ちなみに、好きな衣装はと問われれば、白ないしは水色のワンピース、とアキラは答えるであろう。
蹄が草を踏み、二体が身体を二つに折っている。
側について分かった。二体とも声も出ぬほど大笑いしているのだ。遠くからは、よく分からぬはずであった。
「ディー姉、見ろよ犬だ、犬になってやがる!」
「これ、笑っては失礼よ」
よくぞ笑って息も絶え絶えの中、会話出来るものだ。しかし、ディーネ、言葉と態度が真逆だ。
薄らぼやけていたブルーの目が、生気を取り戻し、焦点が合う。大精霊二体の笑いが、ブルーの正気を取り戻させた。
「犬扱いするな!」
「犬だし」
「犬ですわ」
とりあえず、犬に変わって後のお約束をしているようだ。
大精霊の二体については、あれでも、犬でも、上位とされるブルーに任せるとして、アキラ達は荷下ろしを始めるのだった。
まずは、四人用大型の家形テントを立て、二人用小型の屋根型テントを立てた。もちろん、説明書なぞはないため、試行錯誤、四苦八苦をしながらとなった。アキラは幸い、学校での行事で体験していたため、おおよそのやり方は分かったが、手伝う二人が当てにならなかった。特にリーネ。
結局はアキラとツキの二人がテントやかまどを作り、リーネは精霊馬を放して、様子の確認をすることとなった。
かまどに煙が立ち上がるころには、へとへとになって疲れたブルーが、大精霊を引き連れてアキラのもとへとやってきた。
ログハウスが破壊された件は説明済みで、やはり、三本足については何も知らないとのことだった。
「アキラはディーネとは会ってるな」
ブルーの言葉を受けて、ディーネが一礼し、アキラをじっと見つめる。
「でだ、そっちの赤っぽいのが、財団のリータだ」
「赤っぽい言うな」
どこかで見たようなやりとりだが、ブルーに文句を言ったリータが軽く片手を上げる。
「リータだ、よろしくな」
お淑やかなディーネとは違って、リータは見るからに活発そうだ。
「アキラです。犬に世話になっています」
「犬言うな!」
ディーネが口元に手を当て、くすくすと笑い、リータはけらけらと声を上げて笑った。そこへ、リーネとともに二体の精霊馬がやってきた。
「二人とも久しぶりー。でね、いきなりで悪いんだけど、スプライトとスピリットが挨拶したいんだって」
やはり上位者には挨拶が基本なのか、それとも精霊馬二体がマメなのか。
精霊馬は二体並んで、大精霊達に頭を下げた。
ディーネが代表して、前に出る。
「努力して、位を上げなさい」
先ほどまでのやりとりはどこへ行ったのか、重々しくディーネが告げる。それに再び頭を下げ、二体の精霊馬はその場を離れた。リーネは気を遣ったみたいと、二体を見送る。
「今日はどのようなご用件ですか」
やってきたツキが、さっさと用を済ませろとばかりに、いきなり切り込んだ。
それでも茶は用意したようだ。
ツキの招きに、テーブルに向かう。椅子とテーブルは、ログハウスの残骸から探し出した、奇跡的に壊れていないものだった。
椅子が人数分ないので、リーネとブルーは草地の上に座り込み、残った二人と二体が椅子に座る。ツキがポットから茶を入れ、各々へと配る。配膳ではなく、文字通り配る。大精霊達も「おっ、あんがと」「ありがとう」と受け取っている。実に遠慮がない。ツキも含めて。
「それで、ご用件は?」
草地に伏せたブルーは、リーネのクッションと化しており、役に立たなそうなので、アキラは自分が仕切る事にした。
「遠慮はいらないぞ。普通に喋ってくれ」
どこかで聞いたような事をリータは言ってくる。ブルーやローダンなどは、野にいる、いわば野良のドラゴンと大精霊なので、あまり気にしていなかったが、目前の大精霊は国家あげて敬われている存在だ。
アキラはふむと、一拍おいて答えた。
「丁寧に喋っても疲れるだけだし。分かった」
応とばかりに、リータがにかりと笑った。とても嬉しそうだ。
「でだ、リセットが始まったんで、どんな様子か見に来たわけさ」
「そうことなら、見て貰ったまんまだ。犬だよ、犬」
ソーサーでカップを持ち上げて、優雅に茶を飲んでいたディーネから、ぷっという音が聞こえた。どうやら吹き出したようだ。しかも笑いが収まらないのか、アキラから顔を背け、ソーサーとカップが震え擦れてカチャカチャ言っていた。
隠すことなく、声を上げて笑ったリータ。
「直接見た感じだと、ある程度の力は残ってるみたいだし、大丈夫だろ」
「それだが、お前達に頼みたいことがある。でだ、シルも一緒に聞いて貰いたいから、呼び出してるんだが、返事がない」
その言葉に、ディーネとリータは眉をひそめる。
「実は、ここに来る前に誘ったんですが、私たちにも返事がないのですよ」
「抜け駆けがあったしよ、俺らも疑われたくないから、誘ったんだよ」
「リータ!」
ディーネが鋭い声を、リータに向ける。それに、「おっと、ごめんディー姉」とリータは謝った。ぺろっと舌を出すリータ。大精霊らしくない仕草なんだが、似合っていた。
何だ、何か隠している。しかし、今の様子では、聞いても誤魔化されるだけだと、ため息一つでアキラは諦める。問い詰めるのも、それは違うと。
「ここを留守にする件か?」
「そうだ、しばらく俺はここを留守にするから。お前達、注意しといてくれ」
シルには後から伝えておくとブルー。
二体の大精霊は、渋い顔をしている。しかし、「お前らねー」とブルーが少し怒ったように言うと、ふんふんとうなずく。どうやら、犬になってもドラゴンの権威は通用するようだ。
「そう言えば、先日見ました、あの透明なのは何ですか?」
しっかりとディーネは覚えていたようだ。
アキラとブルーは顔を見合わせ、うなずき合う。
ブルーの背中から外し、布を解いて水晶をテーブルに置いた。
「何だこれ」
「まさしく、何だこれだ。さっぱり何か分からない」
ブルーがお手上げとばかり。お前ら分かるかとたずねる。
しばらく、ディーネとリータはしげしげと水晶を上から左右からと、角度を変えて見ていた。
「ディー姉、こういうの調べるの得意だろ」
「そうですわね」
水晶に手をかざしたディーネ。幾つもの魔方陣が水晶を取り囲む。ディーネはまぶたを閉じて集中していた。
その間に、ブルー、ローダンには正体がつかめなかったけどと、ディーネなら大丈夫なのかとアキラがたずねた。
「ブルーはこういう、幾重にも複合した力は苦手だよな」
リータの言葉にブルーが不本意そうにうなずく。
「で、ローダンは俺たちとは、違うんだ」
シルも含め、ディーネとリータは大精霊として生まれた存在で、ローダンは精霊が幾つも合体した大精霊で、若くまだ経験が少ないのだと。
「俺たち、年食ってる分、いろいろ経験してるからな」
「年食ってる……、否定はしませんが」
ディーネがリータの言葉にため息をつく。どうやら結果が出たようだ。
「分かったのは、これは生命です。身体のつくりが根っこから違うだけで、人と同じように、考える事が出来ます。ただ、活発に動く事はできないようです。会話は、思考形態そのものが違うので、精霊の力による翻訳は出来ませんでした。ただ、何か言葉を変換したりすれば可能かもしれません」
詳しい回答が帰ってきて、驚くアキラとブルー、そしてツキだが、予測していた範疇に収まる。
「あと一つ。この世界のものではありません。どこから来たのかも分かりません」
転移、あるいは転生、そういったことすら分からないと。
「生きてるのは確定だな」
アキラの言葉に、ディーネがそれ以上は調べようがないと応えた。
「三本足の件もあるし、しばらくは今まで通りだな」
ブルーは背負って歩くことになるのかと、少し不満気味だ。
「それでは、長居してもご迷惑でしょうから、帰ります」
「えー、もうちょっと居ようよ」
抵抗するリータを引っ張り、ディーネはそれではと挨拶して、二体は消えていった。
ブルーとアキラ、ツキはやっかいなものが、まだ手元にある事に、ため息つくのだった。気がつけば、リーネは草地の上で、大の字で寝ていた。
大阪弁バージョン
社畜男:「犬に世話なっとりますねやわ」
わんわん:「金なら持っとるで、おっちゃんは!」
らしいです。
次回、明日中に投稿予定です。




