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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第2章 My Hometown
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2-14

引き続き、第2章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 牧場から街道へと出て、一路小屋を経由して、守護地(フィールド)境界を目指すことにした。出発が昼を過ぎていることだし、夕方までには着くはずの小屋で、まずは一泊する予定だ。

 ツキによれば、明日は小屋からは精霊馬に乗るとして、半日かからず、境界に着くであろうとの事であった。そんな、今日明日の予定を話したり、途中、精霊馬に乗りたがったリーネを乗せたりして、のんびりと街道を進む。急ぐ旅でもないし、精霊馬の様子や荷の状態も見なければならない。

 そろそろ小屋へ向かうのに、街道を外れようかとしたとき、木陰に人影一つがうずくまっていた。精霊馬から飛び降りたリーネが駆け寄る。

 人影の肩に手をおいたリーネ。

「どうしたの、お腹痛い?」

 なぜ、必ずお腹の状態を聞くことから始まるのか。一度、リーネに詳しく聞きたいと、そんなことを考えつつ、アキラも手綱を手放して人影に駆け寄る。

「持病のしゃくが……」

 えらく古風な言い回しが来たものだ、翻訳してくれている精霊、大丈夫か。でも、この世界だと、病の原因が特定できないだろうから、妥当な表現なのか?ひとしきり、心の中で突っ込んだアキラがしゃがみ込む。

「いえ、もう治まりましたので、大丈夫です」

 すっと人影が顔をあげた。

 アキラの動きが固まる。

「……愛花(あいか)姉……。どうして……」

 人影の顔を見た、アキラに動揺が走る。言葉が続かず、じっと顔を見つめる。見つめられた方は、何を言われたか理解出来ず、きょとんとした顔をしていた。

「アキラ、エルフさんに知り合いがいるの?」

 リーネの言葉に、はっとした表情で、耳を見る。細く長く伸びた耳があった。

愛花(あいか)姉じゃないのか……」

 よく見れば、髪も金色、目は濃い緑。アキラの知る人物は、純粋な日本人で、黒髪黒目であった。

 リーネに助けられて立ち上がったエルフに合わせ、アキラも立ち上がる。

「申し訳ない。似た人と間違えました」

「いーえ、構いませんわよー」

 リーネが誰と間違えたのか聞いてきたので、アキラが簡単に説明する。幼い頃から世話になっていた、近所に住む寺野愛花(てらのあいか)という人物にそっくりなのだと。保護者の祖父が、いろいろ問題があったので、とても助けて貰ったと語る。

 愛花(あいか)という人物、顔はのんびりとした、性格ものんびりした人であった。美人でスタイルも、性格も良い人だったが、結婚せずに、のんびり暮らしていた。

 このエルフものんびりした顔立ちだ。

「見れば見るほどそっくりです」

「そうですかー。あっ、私はディアナっていいますー。よろしくですー」

 お気遣いいただきありがとうございますと、頭を下げるディアナ。

 この頃には、追いついたツキが、二体の精霊馬の手綱を持って、アキラの後ろでたたずんでいた。視線はディアナに向けられている。足下にはブルーが同じようにディアナを見上げ、視線を向けていた。一人と一頭、とても警戒している様子。

 振り返ったアキラは、その警戒する様子に、何があるのかと、ディアナを見直す。

 すると、額から、というか顔面に冷や汗をびっしょり滴らせたディアナがいた。

「どうしました、おびえる必要はないですよ。顔が怖犬ですが、大丈夫です」

 反論したげに、アキラをじろりと睨むブルー。ディアナがいるので、喋ることが出来ない。

「女性お一人のご様子。どこへ行かれるのですか」

 危険ですよとばかりのツキ。

 両手を胸の前でふるディアナが、いえいえ大丈夫と答えた。

「王都のー、友達のところへー」

 それでは、ご心配かけましたと、礼を述べたディアナはそそくさと、小走りに王都へと向かった。

 アキラはディアナを見送りつつ、ツキにたずねる。

「珍しいね、人を睨むなんて」

「変わった方でした。怪しいのですが、怪しいところが一つもない」

 ツキは不思議な方でしたとつぶやいた。

 街道を外れた一行は、それ以降は何事もなく小屋にたどり着き、そこで一泊することに。

 夜、小屋の外で、たき火の番をしていたアキラ。

 リーネはすでに、ブルーを連れて小屋で眠っている。ブルーは今頃抱き枕にされているだろう。

 膝を枕にして、ツキが眠っている。

 最初は、二人でたき火を見ていたのだが、そのうち舟を漕ぎ始めたツキが、小屋で寝てはと言う前に、アキラの肩にもたれかかって眠ってしまった。それが、だんだんと下がってきて、今の状態に至っている。

 ツキは寝相が悪いのか。

 あまり女性の寝顔をのぞき込むのも失礼かと、アキラは思うのだが、ふと目についた。普段は落ち着き、凜とした表情を見せるツキだが、こうやって眠っている顔はかわいいものだ。

 あぐらを掻いて、膝の片方をツキに貸してやり、もう一つの膝にはレインの鞘先があった。

 背中に気配を感じる。

 柄を握って用心するが、精霊の結界が追い払ったようだ。

 レインを再び胸に抱き直す。

『主様、私は幸せにございます』

 柄を首筋においたからか、レインの思念が、耳元でささやかれるかのごとくだ。

 ツキを起こさぬよう、身じろぎ一つせず、アキラはたき火を見つめていた。

 膝に甘えるように頬をすり寄せるツキ。首筋に顔を埋めるかのようなレイン。

 それは夜半に、ツキが目覚めるまで続いた。

 アキラの膝を枕にしていたことに、うろたえ、耳まで真っ赤に染めている。

「小屋で寝たら良いよ。俺もしばらくしたら、精霊に任せて眠るから」

 一度頭を下げて、ツキは駆け込むように小屋へと入っていた。

 それを見送ったアキラ。

 鞘を一撫で。

「今日は甘えるね」

『……いつか、一振りの刀の話しをしたいです』

 聞いていただけますか?とたずねるレインに、アキラは「いつでも、良いよ」と答え、毛布にくるまり、地面に寝転がった。胸には一振りの刀を抱いて。

 それを、炎を反射させ、キラキラ輝く水晶(クオーツ)が見ていた。


 翌朝、小屋から皆が出てくると、アキラは目覚めた。

 ツキの顔が少々赤い。それを隠すように、いそいそと残り火を熾し、朝食を作り始めた。今回は精霊馬のおかげで、野菜が豊富にある。どうやら干し肉と野菜でスープを作るようだ。手伝おうかとアキラが声をかけるが、大丈夫と答えが返ってきた。

 小屋から出てきたリーネは、両の拳を天高く突き上げ、大あくびをした。あくびでこぼれた涙をこすりつつ、起きてあぐらを掻いているアキラの隣に座る。顔を見れば、しっかりと眠れたようで、すっきりとした顔をしていた。

 反面、リーネを追って出てきたブルーは足下がおぼつかない。どうやら、しっかりと枕の役割を果たしたおかげで、あまり眠れなかったようだ。

 昨夜はツキとレインのおかげで、愛花(あいか)の事を考える暇もなかった。出会ったディアナのおかげで、忘れていた愛花(あいか)の記憶がよみがえっていた。思い出した記憶のため、もしかすると郷愁に駆られていたかも。そうなると、アキラは苦しんだかもしれない。

 ツキとレインの情けだったのか。

 心の中で、一人と一振りに礼を言った。

 しっかりと顔と手を洗ったアキラは、朝食をとり、精霊馬に荷を乗せた後、馬上の人となった。もちろん前にはリーネが跨がっている。

 最初、リーネとツキのどちらと一緒に乗るかで揉めかけたのだが、リーネの精霊については私が一番との宣言によって決定した。

 アキラの前で、ひらりと精霊馬に跨がるリーネ。しっかりとアキラの目は、スカートの中を捉えていた。パンツじゃないよ。ショートパンツだから大丈夫。

 ショートパンツは大丈夫、見えてしまっても問題ないと、ドキドキしながらリーネの手助けで、その背の後ろで跨がる。リーネが持つ手綱に、その背から手を伸ばして一緒に持つ。

 身体がリーネと密着して、ドキドキが止まらない。

 こんなんで、馬に乗れるようになるのか?

 そんな疑問は無視して、出発というリーネの言葉に精霊馬は歩み始める。

 風にそよぐリーネの髪が、アキラの鼻をくすぐる。良い匂いが鼻腔に広がった。頭くらくら、身体ドキドキ、ってそんな歌があったなとアキラは思い出していた。

 時折、哀れむように振り返ってくる精霊馬の目が、アキラはつらかった。

 何か話しをして、誤魔化さないと。

「そういえば、精霊馬に名前つけてなかったな」

 うんうんと、歩みながら、首を縦に振る精霊馬。

「リーネは何か考えてるか?」

 自分に命名のセンスはないと、リーネに丸投げたアキラ。

 うーんとうなり声を上げるリーネ。少し考えているようだ。

 そして、しばらくの後に、ぽんと手を打つようにアキラに応えた。

「それじゃ、ヒンヒンとブルブル!」

 そう言えば、こういう子だったなと、アキラは遠い目をする。

 聞こえたのか、目を見開いて、精霊馬二体はリーネを見た。

 アキラにも明確に分かった。

 二体の声が。

 だから代弁をしてやる。

「それじゃ、あんまりだよ」

「いいと思うけどなー」

 精霊馬に揺られているが、その背からは動揺と拒絶が伝わってくる。リーネには伝わっていないようだが。精霊との相性はどこいった。

「だって、ブルーがわんわんだよ。おそろいで良いと思う」

 愕然とした表情のブルーがリーネを見る。あれは名前だったのか!

 それからは、侃々諤々(かんかんがくがく)のやりとりが続く。ただし、ツキは冷静にも加わらなかったが、乗られている精霊馬は気が気でないようだ。

 ヒンヒンとブルブルを譲らないリーネに、止めてあげなよと、名付けをしたくないアキラ、ツキは加わらず、ブルーは「名前……」とずっと呟いている。

 もうすぐ、次の経由地である守護地(フィールド)境界に着く。別にそれまでに決める必要もないのだが、切りが良いという意味で、アキラは決めてしまいたかった。

 仕方がない、諦めるかと。

「少し、卑怯なやり方だけど、俺のいた世界では、精霊はスピリットやスプライトと呼ばれていたんだ。どうだろう、これを名前にしないか」

 翻訳してくれている精霊が、「精霊は精霊や精霊と呼ばれて……」としたら、通じないだろうなとアキラは不安になるが、どうやら頑張ってくれたようだ。

「スピリットとスプライト……。良いと思うよ!」

 何が刺さったのか、リーネが賛成。ツキも良いんではないですかとの意見。ブルーは未だに驚愕から抜けられぬようで除外された。

「それじゃ、ツキの乗っている葦毛、灰色の精霊馬がスピリット。俺とリーネが乗っている黒い精霊馬はスプライト。もう、これで決定な」

 異論は認めません、とアキラが宣言。リーネは「おー!」と拳突き上げて同意した。ツキも恥ずかしげに「おー」と言うが、ブルーの心の傷は癒やされていないようだ。


皆さん、ご一緒のお気持ちかと存じます。

幼女もどき:「ハーレムか!」

わんわん:「ハーレムなのか!」

社畜男:「すんません、調子乗ってました」

くそっ。


次回、明日中に投稿予定です。

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