2-13
引き続き、第2章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
昼前、とは言っても、かなり早い時間に、指定された牧場についたアキラ達一行。すでに来ていたローダンは、牧場主と思しき朴訥そうな人物とともに出迎えた。
牧場主は、大手商会の会頭で、男装の麗人であるローダンと一緒にいるとあってか、緊張した面持ちであった。
昨晩は、商会を出て、宿に戻った頃には、夜中近くになっており、幸いシャワーのような設備が、遅い時間であるにも関わらずに使えたため、汗を流して全員すぐに寝てしまった。そのため、疲れもなく、牧場に着くことができた。
売ることが出来る馬は、すでにまとめて柵に入れてあるとのことで、場所だけ聞き出すと、牧場主には外して貰い、アキラ達一行だけで見ることにする。でなければ、ブルーが犬のふりをしなければならず、話せないからだ。
柵の前に集まって、数頭の馬が軽く駆ける姿を見る。
「馬の善し悪しって、俺には分からないんだが」
アキラの言葉に、自分も同じと全員がうなずいた。
「結局は、相性であったり、性格であったり。人を雇うのと一緒ね」
さすがに、買い付けに慣れているのか、ローダンの言葉に納得する。
するとリーネがにこりと笑った。
「なら、もう決まったかな」
アキラを除いて、全員がリーネの言葉にうなずいた。
事情が理解出来ないアキラはうろたえるが、構わずリーネが、馬達に向かって声をかけ、手を振った。
「おーい、こっちに来て」
それで馬に通ずるのかと、いぶかしむアキラだが、二頭の馬がこちらに駆けてくる様に驚く。
柵の上に座ったリーネの両脇に、行儀良く馬が並んだ。
両手をそれぞれの馬の鼻筋においたリーネが、「この子達、精霊」と正体をばらした。二体の馬も、うんうんとうなずいている。
「馬の選び方で偉そうなこと言って、ごめんなさい。最初からこの二体で決定よ」
実はローダンも、馬達を見て、精霊が二体混じっているのを見つけていた。となれば、魔術と同じで、呼びかけに応えてくれる精霊の馬、精霊馬の一択だ。特に、一行に精霊との相性が抜群のリーネがいるのだ。
「この二体を買うことにしましょう」
苦々しげな表情のローダンやリーネ、そしてツキ。そう、この二体に金を払うと言うことは、精霊を買い取る、売買する事を意味する。精霊であるローダンなどは、姉妹を買い取るようなもので、気分良かろうはずがない。
「精霊であることを明かすこともできないし、払える金があるのなら、穏便にそうしましょう」
牧場主は、あくまでも馬を飼育しているつもりでいたのだ。悪気もないだろう。
そう言って、ローダンは離れたところで待つ牧場主を呼び寄せた。
牧場主が来るまでの間、リーネがアキラの耳に口寄せた。
「あの二体の精霊に、お礼を言ってあげて」
それは、精霊を使う、働かせるのではなく、お願いする、一緒にしよう、という気持ちが大事なのだと。以前もリーネは強制的に精霊を使役する意見があると、悲しんでいた。
「分かったよ。感謝の気持ちは忘れないよ」
後で精霊達にお礼すると、アキラはリーネに約束した。
牧場主がやって来て、交渉を始める前には、アキラを呼び寄せ、一部始終を見ておくようにと、ローダンが指示をする。最初の教育ねと、ローダンが笑う。
まずは精霊馬の状態を確認。とはいっても、精霊であるから、悪いはずもない。牧場主の扱いがひどくとも、精霊に戻って逃げ出せば良いので、これはカモフラージュのためにしたことだ。
続いて、価格の交渉。アキラから見て、ローダンは適正だが、ある程度の安値をまずは持ちかけたようだ。牧場主が渋い表情で、あの二頭は性格はいいし、良く言うことも聞く。それに何より走って良し、運ばせて良しで、ローダンの言い値では決して手放さないと言い切る。
いくつかのやりとりを経て、ローダンと牧場主は握手で交渉を終えた。
「あとは、売買契約を結ぶだけ。昼でも食べて待ちましょう」
牧場主が用意してくれていたようだ。契約内容を確認するあいだ、アキラ達は牧場主の心づくしを堪能するのだった。この牧場には乳牛もいるのか、チーズづくしで、リーネがチーズのステーキが絶品だとはしゃいでいた。
食後に牧場主とローダンは、確認を終えた契約書にサインをいれた。一応、所有権はローダンにしておくようだ。
契約書を読んでおくように渡されたアキラ。
「すまない、読めない」
それに、だろうと思ったとローダンが返す。ツキから教わっておくようにと言いつけた。文字をまなぶと言うことは、言葉を学ぶと言うことで、アキラはそこから始めることになるのかと、うんざりとした。やはり、精霊ってのは便利だと、改めて思う。翻訳精霊ありがとうと。
牧場主に、食事の礼を述べて別れ、ローダンの馬車と一緒に来た荷馬車へと向かう。購入した精霊馬達は、手綱を引かずとも勝手について来た。
荷馬車に積まれていた馬装をおろし、御者に教えを請いつつ、アキラが取り付けた。その時、一体一体の首筋を撫で、手伝ってくれてありがとうと伝える。
「サイドサドルでなくても、大丈夫よね」
貴婦人でもあるまいしと、ローダンがツキとリーネに聞く。二人はうなずいていたが、ロングスカートのツキはどうするのかとアキラが見ると、今気づいた。スカートのサイドにスリットがある事を。深く重なっていたので、気づけなかったのだ。こうなっているから大丈夫と、チラリとツキがスリットをローダンにめくってみせる。
白いふくらはぎが露わになって、アキラはどきりとした。ごまかすようにリーネに声をかける。
「リーネは普通のサドルで大丈夫なのか?」
「うん、用意したよ」
そう言って、ふわりとミニのスカートをめくり上げた。慌てるアキラ。すぐに戻されたが、しっかりと見ていて、黒いショートパンツを確認した。しかし、言うべきことは言っておかないと。
「はしたないぞ、リーネ」
「大丈夫だって、アキラにしか見せないから」
照れて、言葉を返せないアキラは、ふとブルーを見た。
しっかりとリーネの艶姿を見たのか、顎が外れたように落ちて、驚愕に目が見開いていた。
「器用な顔をする。犬なのに」
「い、犬と違うし」
動揺を隠せないブルーは放っておき、アキラはローダンに声をかける。
「野営道具は持ってきてくれたのか?」
「荷馬車に積んであるわよ」
ローダンの指さす方向をみると、アキラの想像とは違って、とてもコンパクトな荷物があった。かなり大型の四人用と、小型の二人用のテントを頼んでいたが、そうは見えない大きさだ。
ローダンに理由をたずねると、帆布とは違って、ある特殊な蜘蛛が作る糸を利用しているそうだ。軽くて薄い、それでいて頑丈な布が織られる、それを使った高級品だと言う。
袋を開けて、アキラがのぞき込むと、ナイロンのような布であった。鍋も、いろいろな大きさのものが、重なって収容出来るようになっている。アキラは、テフロン加工で有名な、あの鍋を思い出していた。
「これは助かるな」
いくら精霊馬に乗せるとしても、荷が小さいことはありがたいことだった。サイドバックなどを取り付けたり、荷を括りつけたりと準備が整う。
「で、これはこのままか」
ブルーが示したのは、自分の背中の水晶だった。
「もう、そのままで良いよ。ないと何か変だし」
アキラの言葉にリーネが続けて「似合ってるからいいじゃない」と褒めると、まんざらでもないのか、ブルーはそれ以上言うことはなかった。ただ、アキラは知っている。リーネが言った後、横を向いて笑っていたことを。チョロいと。
「準備は整ったわね。小商いの件があるから、着いた頃合いに、そちらに行くわ」
とりあえず、ログハウス跡付近にいるのでしょとローダンが確認する。
「いろいろ荷物も置いてあるし、とりあえずはログハウスに戻るよ」
そうだなと同意するブルーとツキ。リーネは精霊馬を撫でていた。
「いろいろとありがとう、姉さん」
礼を言って、さりげなく去ろうとするアキラ。しかし、ローダンは許さない。
「姉さん!姉さんで決定ね!」
相手すると面倒になると、アキラは一つうなずき、そのまま精霊馬の手綱を取る。
初めて荷をアキラ達が乗せたことだし、しばらく歩かせて荷崩れしないか確認しようといったツキの提案に、そのままアキラ達は手綱を持って歩き始めた。
ローダンはそんな一行を見送る。アキラの言葉に頬を染め、しきりと手を振っていた。
それは唐突のできごと。
銀髪:ぴらっ
幼女もどき:ひらり
わんわん:ぽっ
社畜男:「犬のくせに」
まったく、うらやまけしからん。
次回、明日中に投稿予定です。




