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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第2章 My Hometown
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2-10

引き続き、第2章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

ブセファランドラ王国 王都パリス

 王都へ向かっているため、食料購入の当てがあるので、狩りをすることもなく、予定通り昼には王都へついた。

 先日泊まった宿に入り、食事を済ませてから、ローダン商会へ向かった。今回は食堂でのトラブルは起こらず、一人怪しいのがいたが、アキラが睨み付けて追い払うことに。リーネが成長したねー、と褒めていた。

 ちなみに、ブルーは喋ることを禁じられ、どこまでも犬のふりをさせられていた。さすがに衆人環境の中、地面から食べるのは嫌だったようで、ブルーは何も食べずに床に寝そべっていたが。その様子、アキラ達には不満なのが分かったが、敢えて言わずに、放置されている。

 無事にローダン商会に到着し、さすがに今回は、アキラも落ち着いており、前回と同様の位置でソファに座ったが、ツキの隣には人ではなく、犬のブルーが座っていた。

 ソファーに座る犬。

 ローダンは身体を二つに折って、机を叩いて笑っていた。

「お腹、お腹痛い。お水ちょうだい!」

 自分の配下の店員が、水差しから入れた水をあおって、呼吸を整えたローダン。

「はー、笑った」

 笑いすぎて、目元の涙をハンカチで拭う。

「今回は犬なのね」とローダンはブルーの顔をのぞき込み、「よくよく見れば、馬鹿っぽい顔ね」

「馬鹿言うな!」

 再び笑い始めたローダンに、アキラ達はどうしようと、目配せし合う。そんな中で女性店員が、茶を配り、いつものように、そう、いつものように男性店員がジョッキに入ったエールをブルーの前に置いた。

 ピタリと笑いを止めたローダン、そしてアキラ達の視線がブルーに集中する。

 じっとブルーはジョッキを見つめる。

 どうなるのかと、息を飲む周り。

 そっとブルーの前脚が一本、ジョッキの握りを掴もうとする。

 出来ない。当然だ。

 ならばと二本の前脚で、挟もうとする。

 肉球が、ジョッキ表面の水滴で滑る。

 この時、周りにいた者達すべてが想像していた。ジョッキを呷る犬の姿を。背中に担いだ水晶(クオーツ)が、さらに滑稽を増長する。

 愕然とした表情を浮かべ、皆に助けを求めるブルー。

 まずはローダンが天を仰いで笑い始める。リーネがけらけら笑う。アキラも喉の奥で笑い、さらには、笑いを懸命にかみ殺し、こらえきれずに横を向くツキ。

 しばらく話しは出来なかった。

「はー、笑いすぎて死ぬかと思った。死ねないけど」

 精霊ジョークを快調に飛ばすローダン。前回のグレーターイーグルも笑ったけどと。もう、今日はこれで終わって、解散しても良いかもとローダンは言う。

 皆が笑っている間、店員達が懸命の試行錯誤の末に、深めの平皿が用意され、今はブルーが不機嫌そうに鼻面を突っ込んでいた。

 その前で、ローダンが立てかけてあったレインに挨拶をしていた。初めましてと。理由の分からないものが見れば、かなり滑稽な様子だ。

 初見の挨拶を終えて、ローダンが皆を見る。

「今回は、何が必要なの?」

「実は、ログハウスが破壊されまして」

 ツキの説明を、ローダンが真剣な面持ちで聞き入る。

「分かった、野営道具を取り急ぎ用意するわ。だけど、気になるわね、その三本足の正体が」

「私も、最初は精霊かとも思ったのですが、あれは違います」

「違う、あれは絶対に精霊じゃない。人でも獣でもない存在」

 何時になく真剣な表情のリーネ。それにうなずき返すローダン。

「手配して調べておくわ」

 請け負うローダンに、お願いとばかりに、リーネとツキがうなずいた。

「これはどうする。ローダンに預けておくか?」

 ブルーが背中の水晶(クオーツ)を示す。

「それが落ちてきたものの正体なのね」

 アキラがブルーの背から下ろし、くるんでいた布を解きほぐした。

 テーブルに置かれた水晶(クオーツ)をローダンがのぞき込んだ。

「これはまた、正体不明のものを拾ったわね」

「好んで拾ったわけじゃない」

 そう言って、ブルーは再び平皿に顔を突っ込む。

「預かりましょうか?」

「いや、三本足の目的が分からない。もし、これを狙っているとすると、王都にでも現れたら大変なことになる」

 アキラの返答に、それもそうかとローダンはうなずき、背をソファーに預ける。

 その時、扉が開く気配に、素早くアキラは水晶(クオーツ)に布をかぶせた。店員は守秘を誓っているからまだしも、部外者に見せるわけにはいかない。

「買い物は終わったか?」

 かつかつと足音響かせ、ソファーに歩み寄ってきたのは、キムボールだ。見上げるブルーの脇腹に両手を差し入れると、ひょいとばかりに持ち上げ、床へと下ろす。そして、空いたスペースにどかりと座った。

「わざわざ、ブルーを退けなくても、空いている椅子はあるだろう」

 んっ、という表情を浮かべたキムボールが、アキラの質問に答えた。

「知らないのか。犬の躾け方だぞ」

 犬に飼い主が上位者である事を教え込むのに、座っている場所をわざと退かせて、そこに飼い主が座るというやり方があるのだと。

「躾けるな!だいたいお前は、ツキの隣に座りたいだけだろ!」

 ブルーの抗議に、両手を広げて応えたキムボールは、さっそくツキの方を向く。ツキはそれに、腰をずらして距離を開け、かなり引いている。

「その、テーブルのものは?」

 手早く水晶(クオーツ)を布でくるみ、アキラは「お前には関係ないことだ」と話題にもならないよう、素っ気なく応えた。

 しばらく布にくるまれた水晶(クオーツ)を見ていたキムボールだが、アキラが視線から逃すように、床へ下ろすと興味を失ったようだ。

「で、終わりか」

 終わったのなら、王城へ来ないかと誘ってくるが、アキラは首を横に振る。

 話題を提供して、面倒になるかと思ったが、アキラの意図を察したのか、ツキがうなずいて応える。

 アキラは、血まみれになった布を背負い鞄から取り出した。

「なんだ、えらく物騒な物だな」

 その正体を知らないキムボールが顔をしかめ、獣の一部かとたずねてきた。

「そうだ、トゥースピックの眼球だ」

 布を剥いで出てきたのは、剣で貫かれた跡がある例の精霊喰いの眼球だった。血で汚れた布は鞄に戻し、新たな布を取り出してテーブルに敷いて、その上に乗せた。

 精霊喰いの眼球である事は告げず、処分の方法についてローダンに相談する。一目見て、さすがに精霊であるからか、普通のトゥースピックの眼球ではないことを見抜いたローダンは顔をしかめる。

「これを買い取ればいいのかしら」

 どうやら、精霊喰いである事を見抜いたローダンは、あまり乗り気ではない様子。さらにもともと、トゥースピックの骨や筋肉の腱などは武具などの素材として重宝されるが、眼球は素材ではなく、触媒として使用するため、扱える者が少なくて死蔵する場合が多いのだと。在庫として置いておくのは問題ないのだろうが、精霊喰いの一部である。扱いは難しいのだろう。

「ふむ、なるほど訳ありか。それなら、俺から提案がある。実は懇意にしている鍛冶屋がいてな、あいつなら扱えるはずだ」

「ドワーフのペノンズね」

 資金に余裕のある商会が悩む様子に、何やら事情があることを見抜いたキムボールの提案に、ローダンがすかさず応えた。知る人ぞ知るといった鍛冶師なのだろう。

「確かに、あの頑固者も、殿下の紹介なら、話しくらいは聞いてくれるかも」

 しばらく、キムボールの提案を吟味するように、手を顎に当てて考え込む。それに、ツキが声をかけた。

「その鍛冶師に一度見せたいのですが」

 どうやら、ツキに案があるようで、ならばとローダンが頷く。

「よし、さっそくだが出かけよう」

 言葉と共に立ち上がったキムボールが、エスコートしようとツキに手を差し出すが、それをツイと無視してツキは立ち上がる。

 行き場の失った手で、頭をかいたキムボールは苦笑いを浮かべた。


※ 話しの都合から、犬がアルコール飲料を飲むシーンがございますが、

  リアルでは、絶対に犬にアルコール飲料は与えないでください。

  わんわんは犬の形をしたドラゴンです。

  いや、まじで。


では、想像してみてください。

わんわん:「ジョッキが持てねーよ!」

社畜男:「持てたら、怖いわ」

ですよね。


次回、明日中に投稿予定です。

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