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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第2章 My Hometown
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2-8

引き続き、第2章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

ブセファランドラ王国 王都パリス 王城クロビィア宮

 時は遡る。

 アキラ達がトゥースピックを倒した後と同じ時、ブセファランドラ王国の王城内に建てられた、国王が住まうクロビィア宮で騒ぎが起こっていた。

 宮殿の廊下を、キムボールが大股で歩く、その後ろから、姿勢良くも、これも大股で追いかける執事。

「殿下、お待ちください!」

 キムボールは無視を決め込んでいたものの、何度も、何度も止まれと命じてくる執事が煩わしくなり、足を止め、頭を左右に振ってから振り返った。

「何用だ。俺は忙しい」

「お忙しいのは存じております。この後、陛下と宰相とでカロニア伯爵の処遇を決めます会議がございます」

「そんなの陛下が適当にすればいいだろ。俺は他用で忙しい」

 それだけで、キムボールは再び行こうとするが、年齢の割には動きが機敏な執事が、回り込んでキムボールの前に立ちはだかった。

「成りませぬ。陛下との会議よりも大事な用でございますか?」

「ああ、そうだ。約束がある」

 肩を掴んで、キムボールは執事を横にやり、進もうとするが、執事の身体が動かない。むっ、としたキムボールが力を強くするが、それでも動かない。

「お前、意外と強いな」

「もちろんでございます。執事(バトラー)たるもの、この程度のこと造作もございません」

 執事は他用とは、守護地(フィールド)境界へ向かう件かとたずねる。

「お一人で行かれると聞いております。殿下は王太子にあらせますぞ。そのような方がお一人で動かれるなど、危険でございます」

「大丈夫だって、危なくなったら逃げるさ」

「ああっ、なんと情けなきこと」

 大げさに、天を仰いだ執事に、呆れたとばかりに視線を送るキムボール。

 とりあえず、この執事をどうにかしなければと。

「俺、花束も用意しないといけないんだ。通してくれ」

「花束なぞ、どこの女子にお渡しか?ますます、行かせませぬ。私、ここをテコでも動きませぬ」

「よし、聞いたぞ。そこ動くな」

 言うとすぐに、身を翻したキムボールは、脱兎のごとく駆け始めた。

 すぐに、他の執事に捕まったが。

 キムボールが境界へたどり着くのに、しばらく時間がかかりそうだ。


蒼龍の守護地スカイドラゴンフィールド 境界 キャリアー付近

 アキラ達は、待つこと以外に特にすることはない。まず、暇を持て余したアキラは、型稽古や魔術の練習をしていた。それに付き合うのが、リーネ。型を行うアキラを眺めたり、精霊への呼びかけ方などを教えている。

 ツキは、道中の途中で狩った獲物を、干し肉にしたりの加工で忙しそうだ。時間がたつと、痛むからとのことだ。

 そして、どうしても暇を潰せないのがブルーだった。

 最初はうとうと眠ったりしていたが、さすがにそれも長くは続かない。蝶のような昆虫が飛んでいたので、それを追ってみたりもしたが、「さすが犬だな」のアキラの言葉に拗ねて止めてしまった。

 だから、アキラが呼びかけたときは、大きく尻尾を左右に振って駆け寄った。

「どうした」

「この目印だけど、何の意味があるんだ」

 ブルーが知らないうちに立っていたんだろと、アキラはたずねた。

「境界の上にあるからには、目印なんだろ。誰が作ったかは知らんが」

「実はな、この形のものは、俺のいた世界では、神様、こっちで言う大精霊かな、いる印なんだ」

 あながち間違いではないなと、ブルーが応える。神様という概念がいまいち理解出来ていないが、場合によっては、世界を滅ぼすほどの力を持つ、ドラゴンが居る場所との印だというならば。

「それじゃ、誰が建てたんだ?」

「知らん!」

 精霊も、ブルーも関知出来ていなかったのだ。それこそ、場合によってはドラゴン以上の力を持つものの仕業なのかもしれない。

「俺以上となると、星の精霊か?」

 どこか自慢げなブルー。

 あえて、アキラはスルー。

 星の精霊は、この世界にいる、精霊すべてを生み出した存在だ。いわば、大精霊をもしのぐ。

「星の精霊はないな。今、寝ているみたいだし」

 アキラは思わず、「はぁー?」と変な言葉。

 星の精霊が眠りについて、すでに百年以上たっていると、ブルーは言う。

「なんで、それをブルーは知ってるんだ」

「寝る前に、言いに来たから」

 頭を抱えるアキラ。

 この世界の神様レベルの存在は、そのあたりをぷらぷら歩き回っているのか。いや、それを言えば、神様レベルのドラゴンも尻尾をふりふり歩き回っているが。今も会話しているし。大精霊も気軽にやってきたし。

「あの王子、大精霊をつれてこないだろうな」

 アキラがため息ついて、つぶやいた時、王都方向から馬が一頭駆けてくるのが見えた。近づくにつれ、その正体が分かった。

「噂をすれば、なんとやらか」

 幸い、キムボール一人だけのようだ。いや、王子であることを考えると、それも不味いのか。

「この世界の王族も、一人でぷらぷらしやがって……」

 そう言いながら、アキラが眺めていると、しばらくしてホーンホースに跨がったキムボールが鳥居もどきにたどり着いた。

 なぜか花束を抱えている。持っているのではなく、文字通り抱えるほどの大きさの花束だ。

 膝でもついた方が良いのか、アキラが戸惑っていると、幸いキムボールの方から声を掛けてきた。

「畏まらなくていいぞ、剣士殿の普段通りにしてくれ」

 気易い笑顔を浮かべて、キムボールはホーンホースから降りた。そのときには、リーネとツキも側にやってきていた。

 鳥居もどきの下までキムボールは歩いてくると、笑顔をツキに向ける。

「竜の巫女姫、今日は前とは違う衣装。お似合いです」

 巫女姫は二人いるんだが、そして、当たり前のごとく、流れるように口説くのかと、なぜかアキラは少し腹を立てた。その服は俺が頼んで着て貰ってんだよ、と心の中で毒づくアキラ。脳裏では、『斬ります、斬りましょう、主様!』とレインが騒がしい。

「約束どおり、花束をお持ちしました」

 差し出すキムボールに、リーネに押し出されてツキが一歩前に出る。戸惑うような視線をアキラとブルーへ交互に送るツキ。

 ギリギリとした音の元を見れば、ブルーが歯ぎしりしていた。

「犬って歯ぎしり出来るのか」

「出来るわ!」

 アキラとブルー、どこか現実逃避していた。

 役に立たない男一人と一頭を当てにせず、リーネが「貰っとけば」とすげなく告げる。その言葉に、ツキはおずおずと両手を差し出す。ぼすりと音が立つような花束を、キムボールはツキの手の平に乗せた。

 にこりと笑顔をツキに向けるキムボール。

 歯でも光らすもんなら、叩っ斬るぞと心の中で思うアキラ。出来ないけどと、それに続ける。

「二枚目は得だね」

「男は顔じゃないわ」

 アキラのつぶやきを聞きつけ、リーネが腕を絡めてくる。それでは何だと、アキラは聞きたかったが、何かとんでもない答えが返ってきそうで止めにした。

 さらには『頑張ってください!主様!』とよく分からない言葉が、青髪に銀色の目の少女が肩まで上げた両拳を握りしめた姿を脳裏に写し、脳裏で響いた。

 何を頑張れと、分かってんのか、こいつと、アキラはぼんやり思った。

「そこでは話しもできん。入って良いぞ」

 歯ぎしりしながら、ブルーが誘った。

「ブルー、お前器用だね」

「じゃかましいわ!」

 言葉を残して、ブルーがたき火の方へ、さっさと向かっていく。

 その背に向かい、キムボールが指さす。

「犬が喋った」

多分、同じ事を思っている。

社畜男:「犬のくせに、歯ぎしりできるんだ」

幼女もどき:「寝てるとき、うるさい」

わんわん:「…………」

申し訳ございません。


次回、明日中に投稿予定です。

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