表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第2章 My Hometown
31/219

2-7

引き続き、第2章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

「血まみれだ。それと自分で自分が臭い」

 アキラの言葉に、残りの全員が頷く。うなだれるアキラ。分かっていたがと。

「そんなに、俺は臭いのか」

「仕方ない、脇に逸れるが、水浴びに行こう」

 ブルーの提案に全員が賛成した。

 実は、トゥースピックの鼻息を浴びて、全員が臭かったのだが、それには誰も触れなかった。


 何度も王都へ行く途上、ブルーは上空から見たと、この近くにある小さな湖を。

 そこで、一行はブルーを先頭に道案内として、森へと入った。

 密生しているわけではないので、それほど苦労もせず、森を抜けた。

 開けた目前に湖面があった。小さくさざなむ透明な水。白い砂浜には、微かに波が引いたり寄せたりを繰り返していた。

「わー、こんなところあったんだー」

 リーネが先頭切って湖面へと駆け寄った。そのまま水に入る勢いに、慌ててツキが追っていく。

「変なもの、いないよな」

「いても、大丈夫だよ」

 先のトゥースピックとの出会いで、疑心暗鬼にかられるアキラ。精霊に頼る気まんまんのブルー。

「それではあちらへ、私たちは行きますので」

 目隠しとなる岩場の影へと、ツキはリーネを引きずっていく。ジタバタと抵抗するリーネ。あちらにも湖面はありますよと、問答無用でツキは引きずっていった。

 それを見送ったブルーとアキラ。

「俺たちも、さっさとするか」

「そうだな、洗ってくれ」

 はいはいと応えるアキラだった。

 荷物を下ろし、レインをそこに立てかける。

 女性二人がいないのだ、構いやしないと素っ裸になったアキラは、そのまま湖面に飛び込む。あまり沖へと行くと、岩陰の向こうを覗いてしまうかもしれず、砂浜近く、注意深く水中に沈んだ。

 脳裏で、青髪銀目の少女が、『はぁ~ん、主様の……』とくねくねしていたが、気にせずにおいた。

 ブルーが犬かきで近づいてきた。

「犬かきは止めろよ」

「他にどういう泳ぎ方があるんだ!」

「犬っぽいぞ」

「犬だよ!」

 ごしごしとブルーを洗ってやるアキラ。

「洗う前に、ブラシ掛けた方が良かったな。今度ローダンに用意してもらおう」

「犬扱いやめろ!」

「どっちだよ!」

 なんとかブルーを洗い終わったアキラは、自分もと、全身を洗う。頭についた血が固まっていて苦労したが、なんとかさっぱりとはした。

 砂浜にブルーと上がったアキラの、「俺の近くでぷるぷるしないでくれよ」との言葉を無視して、ブルーは全身を振った。飛び散る水滴から逃れたアキラは、文句を言いつつ、服を洗い始めた。さすがに裸は不味いと、下着とズボンは履いたが。

 拾ってきた棒を深く突き刺し、簡易の物干しを作って洗ったものを干す。アキラとブルーは砂浜に寝転んだ。正確には、ブルーは伏せた。

「戻っても大丈夫ですかー」

 アキラは「良いですよー」とツキに応える。

 しばらくして、二人は戻ってきた。乾ききっていない髪が、なんともいい雰囲気だ。

 そして、アキラの目はツキの姿に釘付けとなる。

 水着ではないだろう、持ってきてはいないはずだし。裸で来るはずもないし。アキラは砂浜で寝転びながら、いろいろと想像していたが、それは裏切られた。

「そ、そ、そんな服も、き、着るんですね」

「ええ、何着か持っていて……」

 頬をうっすらとピンクに染めるツキ。

 着ているのは、白いロングのワンピース。

 言葉が出ないアキラに、「あまり似合っていなくて」ツキが恥じ入る様子。

「いえ、出来れば、今後はその服でいてください」

 そのアキラの言葉に、一瞬きょとんとしたツキだが、すぐに耳まで顔を赤くして、「はい……」と小さく応えた。

「私はー」

「えっ、リーネはいつものだよな」

「ぶー、デザインが違う!」

 その言葉に、アキラはじっとリーネを観察。

「あっ、襟がある」

 確かに前はなかった。

「やっと気づいた……」

「ごめん。だけど、その色好きだねー」

 襟のあるなしだけで、色は全く同じ薄い水色だった。リーネは不満げな顔を、笑顔に変えた。

「あれ、服は?」

「精霊に乾かしてもらったよ」

 アキラもそうすれば良かったかと考えたが、昼食の用意を始めたツキをみて、この日差しなら、食べてる間に乾くだろうと思った。

 昼食を食べ終えて、皆で砂浜に座り込んでくつろぐ。今後の予定を相談しながら。とりあえず、キムボールと会うことは決定済みだが、その後についてツキが提案した。

「いろいろとなくなったので、ローダン商会へ行きませんか」

 その言葉に、すこしだけリーネの顔が暗くなった。

「首輪とか、散歩用のリードを買う必要もありますし」

「ツキっ、お前まで犬扱いか!」

 暗かった顔を消し、けらけらと笑うリーネ。それを見たアキラは、適わないなと思い、一緒に笑うのだった。

 いろいろと時間を食ったので、ペースを上げようと、ブルーが立ち上がった。砂を払い落とし、荷物を持って、皆はブルーの後に続く。

 道へと戻り、ペースを上げたため、全員大丈夫かと、幾度も振り返るブルー。大丈夫と返す、アキラ、リーネ、ツキ。

 その後、二回野宿をして、何事もなく、境界にたどりついたが、キムボールは、まだ到着していなかった。

 俺を待たせるつもりかと、暴れるブルーを、日にちは約束していなかったと、なだめるツキ。放っておけばいいかと、アキラは周囲を見回した。

 もうすぐ夕方になる。

 キムボールがいつ頃来るのか分からないが、そろそろ野宿は避けたい。テントでもあればいいのだがとアキラは思案に暮れる。

 ふと気づいて、キャリアーに視線を送る。

「リーネは、キャリアーに入ったことはあるのか?」

「ないよ。ここに来ても、すぐに帰っちゃうから」

 実は王国の使者と会うことがあり、竜の巫女姫としてブルーに同行するのだと。顔がばれると面倒なので、精霊に変装を頼んでいたそうだ。髪色は金、目の色は青に変え、顔はそれほど変えなかったとリーネ。

「それは、それで見てみたい気がするけど」

「ほんと!今、やってみせようか」

 その言葉に、じっと、リーネを見るアキラ。

 はにかみ、少し顔を伏せ上目遣いでアキラを見る。腕は後ろで組んで、腰をもじもじさせるリーネ。

「いや、やっぱり、その髪色と目が、俺はいいな」

 たとえ、忌み色と言われようと。

「わかったー!」

 リーネは両手を天に突き上げ、にっこり笑った。

 ふむとうなずいたアキラは、未だに暴れるブルーをなだめているツキに、キャリアーを見てくると告げた。

「一緒に行くか?」

「行くー!」

 元気よく返事するリーネだった。

 キャリアーに向かいつつ、精霊が保存していると、ブルーが言っていたことを思い出し、リーネにどういうことかをたずねる。

「物は放っておくと、腐ったり錆びたりするよね?」

 頷くアキラに、リーネは刀はどうなってると聞く。

 あっと声をあげ、納得するアキラ。

 確かに、鞘に納めた刀は錆びや汚れを、精霊達が取り除いてくれる。

 一応、アキラも時間があるときには、紙で拭いたり、ツキから貰ったオイルを薄く塗ったりはしている。だが、これは手入れというよりも、レインが喜ぶからと言うことの方が大きい。レインを渡されたとき、ツキが言っていた手入れとは少し違うかと思う。

「なるほど、時間を停滞させたりするんではなく、純粋に手入れをしていたのか」

 一通り、リーネを連れて、キャリアーの外周を回る。確かに、錆びなどは浮いていないが、古びた様子は隠せていなかった。

 運転席の後部、荷室にドアがあったため、開けて覗くと、片側の壁に寄せて、二段式ベッドが取り付けてあった。

「わー、ベッドだ」

 積載量が減ってアキラの感覚では無駄だが、馬車が通る街道でも、宿泊施設などが未整備なのだろう。必要なコストというわけだ。

 上のベッドに登ったリーネが、取り付けられた窓を開け閉めしていたが、戻ろうと促し、外へと出た。

 暴れていたブルーをなだめ終わったのか、ツキが夕食の準備を始めている。

 夜はキャリアーで、リーネとツキは眠るようにとアキラが告げると、ツキは自分たちだけというのは申し訳ないと言い出した。夕食をとりつつ、その遠慮はアキラとブルーで押し切った。

 片付けも終わり、皆でたき火を囲む。

 ブルーが背負い続けてきた、水晶(クオーツ)をくるんでいた布をほどく。

「これは何だろうな」

 そのアキラの言葉に、全員が首を捻る。

 たき火の揺らめきが、水晶(クオーツ)を照らし、きらきらと輝かせている。

 ただの結晶体であるならば、きれいだね、で済むのだが、ツクモガミのレインが生きていると言うのだ。そうすると、どこから来て、どうやって来て、何しにきたのかが問題になる。

 何の手がかりもないのだ。

「しばらくは、持ち歩くしかないな」

 ブルーがローダンに見せてみると決めた。

 とりあえずは、再び布でくるんでおく。何かあったときのために、リーネが精霊に夜番を頼み、旅で疲れていることから早くに眠る事にした。キムボールも朝一番には来ないであろうから、ゆっくりするようにと、ブルーが皆に告げるのだった。


皆が多分思っていた。

幼女もどき:「……臭い」

銀髪:「……臭い」

わんわん:「…………(言葉に出来ない)」じたばた

犬の嗅覚は人の数千~一億倍優れていると言われている。

社畜男:「俺は悪くない」


次回、明日中に投稿いたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ