2-7
引き続き、第2章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
「血まみれだ。それと自分で自分が臭い」
アキラの言葉に、残りの全員が頷く。うなだれるアキラ。分かっていたがと。
「そんなに、俺は臭いのか」
「仕方ない、脇に逸れるが、水浴びに行こう」
ブルーの提案に全員が賛成した。
実は、トゥースピックの鼻息を浴びて、全員が臭かったのだが、それには誰も触れなかった。
何度も王都へ行く途上、ブルーは上空から見たと、この近くにある小さな湖を。
そこで、一行はブルーを先頭に道案内として、森へと入った。
密生しているわけではないので、それほど苦労もせず、森を抜けた。
開けた目前に湖面があった。小さくさざなむ透明な水。白い砂浜には、微かに波が引いたり寄せたりを繰り返していた。
「わー、こんなところあったんだー」
リーネが先頭切って湖面へと駆け寄った。そのまま水に入る勢いに、慌ててツキが追っていく。
「変なもの、いないよな」
「いても、大丈夫だよ」
先のトゥースピックとの出会いで、疑心暗鬼にかられるアキラ。精霊に頼る気まんまんのブルー。
「それではあちらへ、私たちは行きますので」
目隠しとなる岩場の影へと、ツキはリーネを引きずっていく。ジタバタと抵抗するリーネ。あちらにも湖面はありますよと、問答無用でツキは引きずっていった。
それを見送ったブルーとアキラ。
「俺たちも、さっさとするか」
「そうだな、洗ってくれ」
はいはいと応えるアキラだった。
荷物を下ろし、レインをそこに立てかける。
女性二人がいないのだ、構いやしないと素っ裸になったアキラは、そのまま湖面に飛び込む。あまり沖へと行くと、岩陰の向こうを覗いてしまうかもしれず、砂浜近く、注意深く水中に沈んだ。
脳裏で、青髪銀目の少女が、『はぁ~ん、主様の……』とくねくねしていたが、気にせずにおいた。
ブルーが犬かきで近づいてきた。
「犬かきは止めろよ」
「他にどういう泳ぎ方があるんだ!」
「犬っぽいぞ」
「犬だよ!」
ごしごしとブルーを洗ってやるアキラ。
「洗う前に、ブラシ掛けた方が良かったな。今度ローダンに用意してもらおう」
「犬扱いやめろ!」
「どっちだよ!」
なんとかブルーを洗い終わったアキラは、自分もと、全身を洗う。頭についた血が固まっていて苦労したが、なんとかさっぱりとはした。
砂浜にブルーと上がったアキラの、「俺の近くでぷるぷるしないでくれよ」との言葉を無視して、ブルーは全身を振った。飛び散る水滴から逃れたアキラは、文句を言いつつ、服を洗い始めた。さすがに裸は不味いと、下着とズボンは履いたが。
拾ってきた棒を深く突き刺し、簡易の物干しを作って洗ったものを干す。アキラとブルーは砂浜に寝転んだ。正確には、ブルーは伏せた。
「戻っても大丈夫ですかー」
アキラは「良いですよー」とツキに応える。
しばらくして、二人は戻ってきた。乾ききっていない髪が、なんともいい雰囲気だ。
そして、アキラの目はツキの姿に釘付けとなる。
水着ではないだろう、持ってきてはいないはずだし。裸で来るはずもないし。アキラは砂浜で寝転びながら、いろいろと想像していたが、それは裏切られた。
「そ、そ、そんな服も、き、着るんですね」
「ええ、何着か持っていて……」
頬をうっすらとピンクに染めるツキ。
着ているのは、白いロングのワンピース。
言葉が出ないアキラに、「あまり似合っていなくて」ツキが恥じ入る様子。
「いえ、出来れば、今後はその服でいてください」
そのアキラの言葉に、一瞬きょとんとしたツキだが、すぐに耳まで顔を赤くして、「はい……」と小さく応えた。
「私はー」
「えっ、リーネはいつものだよな」
「ぶー、デザインが違う!」
その言葉に、アキラはじっとリーネを観察。
「あっ、襟がある」
確かに前はなかった。
「やっと気づいた……」
「ごめん。だけど、その色好きだねー」
襟のあるなしだけで、色は全く同じ薄い水色だった。リーネは不満げな顔を、笑顔に変えた。
「あれ、服は?」
「精霊に乾かしてもらったよ」
アキラもそうすれば良かったかと考えたが、昼食の用意を始めたツキをみて、この日差しなら、食べてる間に乾くだろうと思った。
昼食を食べ終えて、皆で砂浜に座り込んでくつろぐ。今後の予定を相談しながら。とりあえず、キムボールと会うことは決定済みだが、その後についてツキが提案した。
「いろいろとなくなったので、ローダン商会へ行きませんか」
その言葉に、すこしだけリーネの顔が暗くなった。
「首輪とか、散歩用のリードを買う必要もありますし」
「ツキっ、お前まで犬扱いか!」
暗かった顔を消し、けらけらと笑うリーネ。それを見たアキラは、適わないなと思い、一緒に笑うのだった。
いろいろと時間を食ったので、ペースを上げようと、ブルーが立ち上がった。砂を払い落とし、荷物を持って、皆はブルーの後に続く。
道へと戻り、ペースを上げたため、全員大丈夫かと、幾度も振り返るブルー。大丈夫と返す、アキラ、リーネ、ツキ。
その後、二回野宿をして、何事もなく、境界にたどりついたが、キムボールは、まだ到着していなかった。
俺を待たせるつもりかと、暴れるブルーを、日にちは約束していなかったと、なだめるツキ。放っておけばいいかと、アキラは周囲を見回した。
もうすぐ夕方になる。
キムボールがいつ頃来るのか分からないが、そろそろ野宿は避けたい。テントでもあればいいのだがとアキラは思案に暮れる。
ふと気づいて、キャリアーに視線を送る。
「リーネは、キャリアーに入ったことはあるのか?」
「ないよ。ここに来ても、すぐに帰っちゃうから」
実は王国の使者と会うことがあり、竜の巫女姫としてブルーに同行するのだと。顔がばれると面倒なので、精霊に変装を頼んでいたそうだ。髪色は金、目の色は青に変え、顔はそれほど変えなかったとリーネ。
「それは、それで見てみたい気がするけど」
「ほんと!今、やってみせようか」
その言葉に、じっと、リーネを見るアキラ。
はにかみ、少し顔を伏せ上目遣いでアキラを見る。腕は後ろで組んで、腰をもじもじさせるリーネ。
「いや、やっぱり、その髪色と目が、俺はいいな」
たとえ、忌み色と言われようと。
「わかったー!」
リーネは両手を天に突き上げ、にっこり笑った。
ふむとうなずいたアキラは、未だに暴れるブルーをなだめているツキに、キャリアーを見てくると告げた。
「一緒に行くか?」
「行くー!」
元気よく返事するリーネだった。
キャリアーに向かいつつ、精霊が保存していると、ブルーが言っていたことを思い出し、リーネにどういうことかをたずねる。
「物は放っておくと、腐ったり錆びたりするよね?」
頷くアキラに、リーネは刀はどうなってると聞く。
あっと声をあげ、納得するアキラ。
確かに、鞘に納めた刀は錆びや汚れを、精霊達が取り除いてくれる。
一応、アキラも時間があるときには、紙で拭いたり、ツキから貰ったオイルを薄く塗ったりはしている。だが、これは手入れというよりも、レインが喜ぶからと言うことの方が大きい。レインを渡されたとき、ツキが言っていた手入れとは少し違うかと思う。
「なるほど、時間を停滞させたりするんではなく、純粋に手入れをしていたのか」
一通り、リーネを連れて、キャリアーの外周を回る。確かに、錆びなどは浮いていないが、古びた様子は隠せていなかった。
運転席の後部、荷室にドアがあったため、開けて覗くと、片側の壁に寄せて、二段式ベッドが取り付けてあった。
「わー、ベッドだ」
積載量が減ってアキラの感覚では無駄だが、馬車が通る街道でも、宿泊施設などが未整備なのだろう。必要なコストというわけだ。
上のベッドに登ったリーネが、取り付けられた窓を開け閉めしていたが、戻ろうと促し、外へと出た。
暴れていたブルーをなだめ終わったのか、ツキが夕食の準備を始めている。
夜はキャリアーで、リーネとツキは眠るようにとアキラが告げると、ツキは自分たちだけというのは申し訳ないと言い出した。夕食をとりつつ、その遠慮はアキラとブルーで押し切った。
片付けも終わり、皆でたき火を囲む。
ブルーが背負い続けてきた、水晶をくるんでいた布をほどく。
「これは何だろうな」
そのアキラの言葉に、全員が首を捻る。
たき火の揺らめきが、水晶を照らし、きらきらと輝かせている。
ただの結晶体であるならば、きれいだね、で済むのだが、ツクモガミのレインが生きていると言うのだ。そうすると、どこから来て、どうやって来て、何しにきたのかが問題になる。
何の手がかりもないのだ。
「しばらくは、持ち歩くしかないな」
ブルーがローダンに見せてみると決めた。
とりあえずは、再び布でくるんでおく。何かあったときのために、リーネが精霊に夜番を頼み、旅で疲れていることから早くに眠る事にした。キムボールも朝一番には来ないであろうから、ゆっくりするようにと、ブルーが皆に告げるのだった。
皆が多分思っていた。
幼女もどき:「……臭い」
銀髪:「……臭い」
わんわん:「…………(言葉に出来ない)」じたばた
犬の嗅覚は人の数千~一億倍優れていると言われている。
社畜男:「俺は悪くない」
次回、明日中に投稿いたします。