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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第2章 My Hometown
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2-6

引き続き、第2章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 翌朝起きると、ブルーが周囲をうかがっている。

 顔と手を洗ったアキラがたずねても、生返事が帰って来るばかり。

 昨晩の残りを朝食としているときに、改めてたずねる

「ほんの僅かだが、精霊の反応がおかしい」

 近くの場所で、精霊が非常に少なくなっていると。

 もちろん、すべての場所で、均一に精霊が存在するわけではなく、少ない場所があるのは事実だ。

「もしかすると、精霊喰いが発生したかもな」

 一行は周囲を警戒しつつ進むことにした。

 歩きながらのブルーの説明だと、精霊は分裂や合体を行う。分裂は数を増やすため。合体は、より高位の精霊になるために行われる。この合体時に、高位の精霊となって、実体化する場合がある。もちろん精霊も注意して、周囲に気をつけてから合体するのだが、ごく偶然の出来事で、その実体化の場所に人や獣人、獣がいることがあって、混じり合ってしまうことがある。本当にごく希に起こる事。

 人や獣人と精霊が混じってしまった場合には、精霊憑きと呼ばれる。これが獣の場合には、精霊喰いとなる。名称が違うだけで、どちらも精霊を捕食する存在だ。

 ただし、精霊憑きの場合は、人や獣人の社会で生まれるため、対応が素早く行われる。捕縛、その後監禁されるのだ。これが精霊喰いの場合、自然の中で発生するため、精霊を捕食することによって、より強い存在へと変貌している場合が多い。

 そして、精霊憑きと精霊喰いが、精霊の次に好んで捕食するのが、魔力を纏う人、獣人である。口があるのは、口から捕食するから注意しろと。

「精霊達は精霊喰いから逃げ出すから、その周辺では精霊が少なくなる」

 当然、魔術も発動しづらい、あるいはしない。リーネの補助は当てにするなと。さらには、魔力を纏っているから、斬った際に気をつけろ。リーネの指示を仰げ。

 そして、どんな強力な獣と混じったのか分からないため、注意しろと。

「それと、精霊喰いは精霊と合体しているからと言って、精霊ではない。出会ったときには遠慮なく、斬れ」

 アキラは、そのブルーの言葉を噛み締め、ゆっくりうなずいた。

 歩き進めていくうちに、だんだんと、精霊がいなくなっていくと、リーネが不安な表情を浮かべる。

 それはアキラにも感じる事が出来た。今まで、不可視であっても周囲に居るといった感覚があった。しかし、嫌な感じではなく、どこかそれが当たり前であり、安心できる物だったからだ。それが薄れていく。

 目前に三叉路が見えてきた。

「曲がり角がある」

 交差する道などないという思い込みで、アキラがつぶやいた。それに、ブルーが王国と財団(ファウンデーション)の伝書使が使ってるようだと返す。

 ゆっくりと三叉路へ近づく。

「精霊、いなくなったよ」

 これで、自分は魔術の行使ができないと、リーネが宣言した。

 三叉路の真ん中で、全員が足を止めた。

 周囲は深い森。

 太い吠え声が響き渡った。

 木管楽器の低い、ビブラートが効いたような音。

 素早く、アキラは背の荷物を下ろし、腰だめにレインを構える。だが、握った柄から怯えのような震えを感じた。

 ツクモガミとはいえ、レインは精霊の一種。特殊な精霊であっても精霊喰いは、天敵のようで恐ろしい。

「レイン、俺を手伝ってくれ」

 その言葉に、ピタリと震えが止まった。

『無様をさらしました。お許しを』

 良いんだとばかりに、アキラは左手親指で鍔を押す。切った鯉口、準備は整った。

 木々をへし折り、薙ぎ倒す音とともに、それは掻き分けるように姿を現した。

 頭頂までの体高、人の背丈の倍。巨大な頭部が天を仰ぎ、参上を宣するごとく、吠え声を上げた。

「ティラノサウルス!」

 アキラは記憶にある暴竜の姿を思い出し、吐き出すようにつぶやく。だが、それをブルーが否定する。

「亜竜だ!トゥースピック!」

「精霊喰いに成ってる。気をつけて!」

 リーネが小声で皆に告げた。

 三叉路真ん中に立つ一行に対して頭を下ろし、左右に見回すトゥースピック。人の小ささに、あざ笑うかのごとく、鼻息を吹いた。

 生臭い息を浴びせかけられ、アキラは抜き打ち、物打ちで目前の鼻面に切りつけた。だが、その手応えはぐにゃりと、柔らかい物が阻んだ感触。シールドを斬りつけた時の、硬質なものとは違う。

「魔力が!けど、削れた!」

 今まで、一刀で魔力を剥がしてきたアキラだが、このトゥースピックは削るに留まった。

 痛みを感じぬまま、何かしたかと改めて鼻息が吹かれる。

「斬撃強化、出来るか!」

『私だけですと、僅かになりますが、行きます!』

 返す刀、二の太刀で切り裂く。さすがに不味いと思ったのか、トゥースピックは顔を後ろに下げる。

「覆ってる魔力が多いな。だいぶ精霊を食ってるぞ」

 アキラの脇に控えたブルーが告げる。守護地(フィールド)で精霊が増えている今、それが悪い方向へ振れたなとも。

 ツキがアキラの背に、手の平を当て注意を引く。

「削るばかりでは、すぐに魔力は戻ります。引き剥がさないと」

「どうやって……」

 アキラとツキが言葉を交わす中、巨大な頭が横に振りかぶられた。明らかに叩きつけるための予備動作。

「左へ避けろ!」

 後ろは森、そちらへ避ければ逃げ場を失う。

 素早く、全員が左へ飛んだ。

 目標を失い、地面に叩きつけられる頭。地響きとともに、巻き上がる砂塵。

 叩きつけた勢いを殺さず、更に頭を振り上げていく。

「少しだけの間、あいつの動きを止める。目を突け」

 次に頭が叩きつけられたとき、やるぞとブルー。ドラゴンの力を失っている今、どれほどの時間を保たせられるか分からん、注意しろと。

 抜き身の白刃を、切っ先前にして、水平に構える。肘を折り、柄頭をこめかみまで引き寄せた。

 再び振り下ろされてくるトゥースピックの頭。

 腰を落とし、バネに力をため込むように、後ろに引いた足底で地を掴んだ。

「アキラ!」

 ブルーの言葉に、すぐさま反応。

 目前でピタリと止まる、トゥースピックの頭、その中の目。そこだけを見て、そこだけしか見えない。

 引いた左足、その足底で地を掻き、前に出した右足を踏み込んだ。半身から腰を回して、その力を伝え、腕を伸ばす。すべての力が切っ先に乗る。さらには、レインが切っ先に斬撃強化を集中させた。

『主様、受け取って!』

 レインの叫びがアキラの脳裏で響く。それに、アキラは排気の声で応える。

「はぁーーーーー!」

 ゼリーの表面を突いた感触。だが、すぐにつぷりと切っ先が沈む。そこからは一気に押し込む。

 魔力を剥がす、いや、魔力を貫いて、切っ先が(まなこ)にズブリと突き刺さった。だが、それで勢い衰えず、切っ先はズブリズブリと沈んでいった。

 切っ先が脳に達した感触。素早くアキラは刃を捻って、与えるダメージを増やしていく。

 ほんの僅かの一瞬、止まっていたトゥースピックの頭が動いた。

 太い、悲鳴のような吠え声を上げたトゥースピックは、レインから逃れるように頭を引いた。

 持って行かれようとするレインの柄に力を込めて、アキラが刃を引いた。

 すると、ゴボリという音と共に、えぐり取られた眼球が刃に刺さったまま。

 引き抜いた刃を持ち、アキラは後ろに飛び退いた。

 トゥースピックが痛みのあまりか、顔を左右に振る。まぶたから、亜竜の血しぶきが舞い散った。それを頭から浴びつつ、アキラは視線はトゥースピックに釘付けたまま。

 残った目で、アキラを睨み付けたトゥースピックは、くるりを翻って森の中へと駆け込んでいった。

 じっと、その背を見つめ、姿が消えてもそのままのアキラ。

 肩に優しく手が置かれた。ツキが優しくなでる。

「もう、大丈夫です。魔力を貫く、良くやりました」

 肩口越えて、ツキへと振り返る。目が合う。ツキはゆっくりとうなずいた。

 力を抜き、アキラは納刀しようとしたとき、刃に刺さった眼球に気づいた。

「えっ、これキモいんだけど」

「捨てるなよ、精霊喰いの一部だ。ローダン商会へ持って行こう」

 ブルーが告げた言葉に、不満げな声をあげたアキラは、ツキが差し出す布に眼球をくるんだ。

 鞄を拾い上げ、嫌そうに眼球を入れたアキラが、改めて自分の姿を見回した。

恐らく、心の中で思っていたかもしれないこと。

幼女もどき:「役立たずで申し訳ない」

銀髪:「同じく」

わんわん:「俺は解説役だ!」

社畜男:「犬のくせに、生意気な」

犬だものby○○田○つ○


次回、明日中の投稿予定になります。

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