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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第2章 My Hometown
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2-5

引き続き、第2章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 先頭に立って歩いているのは、リーネとブルーだ。

 楽しそうに、拾った枝を振りつつリーネは歩いていた。その後をツキが、最後尾はアキラが行く。別にこれは周囲を警戒して、バックアタックに注意するために、そんな理由でアキラが最後尾を歩いているわけではない。リーネとツキは、ショルダーバックをたすき掛けしており、それが、アキラにとっては、目の毒であったから。

 歩き始めた当初は、ツキと並んで、話しながら歩いていたのだが、ふと横を見て気づいてしまった。

 これは駄目だと、徐々に歩みを遅らせ、今に至っている。

 朝の襲撃のおかげで、昼からの出発になってしまい、それほど距離を稼げたわけではないが、夕方というには早い時間に、野営準備をしようと、ツキが提案した。

 暗くなると、準備が出来ないことは、先のログハウスへ戻る道中で、アキラも経験しているので、提案に従うことに。

 歩ける時間が少なかった上、途中でブルーが鹿のような獣を見つけて、狩りをしたため更に進む距離は少なくなってしまった。

 身体に縦縞模様があったため、縞鹿とでも呼ぶのかと、名をブルーにたずねてみたら、案の定ストライプディアーと言うとのことだった。

 狩りはブルーがうまく後方へ回り、吠えてアキラの前に追い立て、すれ違いざまに首を落とし、仕留めていた。獲物を持って歩くわけにもいかず、その場で魔術を併用して、素早く捌いた。ツキいわく、おいしい部分だけを草の葉に包み、アキラの背負い鞄に入れた。

 残った肉は、その場に残して、他の獣たちへのプレゼントとした。

 鹿と言えば、肝臓がおいしいことを思い出したアキラは、ツキに言おうとしたときには、すでに葉にくるまれて、鞄に入れているところだった。

 生で食べると、特にうまいとアキラが言ったときは、他の全員が微妙な表情をしていたが。

 生食の習慣はあるが、好みがあるとの事だ。女性のリーナとツキが拒絶ぎみなのは分かるが、ドラゴンのブルーまでも嫌そうな顔をしていたのは、アキラは納得出来なかった。

 しかし、ブルーの追い込み方が絶妙で、狩猟犬としてやっていけるんじゃないかと、アキラが褒めると、次はやらないと、拗ねてしまった。

 たき火をおこし、仕留めた肉を魔術で出した水、持ってきた香草や調味料で炊き込み、肉ばかりのスープで夕食にした。

 食べ終えて、食器を精霊が洗い終わる頃には、もうすでに日は落ちており、あたりは暗くなっていた。幸い、森の中といっても、雲がなく、星とシルバーの明かりが周囲を照らしている。

「何度見ても思うけれど、月と星の光だけでも明るいものだな」

「アキラが居たところはどうだったの」

 バッグにくくり付けてあった毛布にくるまったリーネが、アキラの隣に座っていた。そういえば、こんな話しをするのも初めてだったなと。電車や自動車、ビルなどの話しはしても、自然の話しはしていなかった。

 空を見上げていたアキラが応える。

「これほど明るくはなかった。空気そのものが、汚れていたからね」

 実家がある場所は、田舎であったため、光害もなく、まだ星空と空気もきれいだった。アパートのあった日本の都会や、対策の遅れていた海外の赴任地では、夜空を見上げても、まばらにしか星は見られなかった。特に海外では、喘息を患っている子供も多かった。

 元いた世界が汚れていたと告げて、軽蔑されないだろうかと、アキラは不安を覚える。

「汚れていたって?」

「魔術と違って、元の世界で使っていた技術は、自然を汚すんだ」

 幸い、それに気づいた人々が、きれいにしようと努力しているけれどと、アキラは告げる。だから、魔術で手伝ってくれる精霊は、大事にしてあげようとも。

 世界を汚すのは簡単なことをアキラは知っている。だから、このきれいで美しい世界は、このままでいてほしいと。

「前に、聞いたことがあるけれど、精霊にお願いするんじゃなくて、強制的に使役することで、もっと生活が楽になるって。そんなことを言う人がいるって」

 膝を折って、胸に抱き込んだリーネが悲しそうに、でも、精霊は何も人に求めていない。ただ、純粋に人や獣人が好きだから、手伝うことに喜びを感じているんだよと口にする。

 その言葉で、アキラは悟った。なぜ、リーネが強力な魔術師であるか。

 普通の人々が魔術を行使するとき、精霊に願うだけで発動はする。より強力な願いは、精霊が魔方陣を生み出し支え、強い威力の魔術を発動させる。アキラはリーネが魔術の基準になっているため、ひょいひょい簡単に現れる魔方陣を見ても驚くことはない。

 しかし、魔方陣を一つ出せるだけで魔術師は名乗れる。同時に二つ出せれば優秀で、三つともなれば、最上級クラス。四つ以上は規格外、世界に何人いるのか指折り数えられるほどとなる。この規格外の位置にリーネは属するのだ。大精霊はもっとすごいらしいが。

 精霊への感謝、それをリーネは忘れないだろう。その強い感謝が、規格外となるのだろう。

 そして、それをどこまでも、大事にしてほしいと、アキラは口には出さずに思った。うまく言葉にできないし、言葉にすべきではないと感じたから。

 周囲が何か、ざわめく。不快なものではなく、胸の奥底が暖かくなる感じ。

 リーネがにこりと笑みをアキラに向けた。

「精霊が喜んでる。アキラ、良かったね」

 照れくさくなったアキラは、自分の毛布を顔まで掻き上げ、ごろりと横になるのだった。。

 その光景を、たき火の番をしていたツキが、水晶(クオーツ)の脇で寝転ぶブルーが、微笑ましげに眺めていた。


 朝、昨晩多めに作っておいたスープを朝食にして、日が昇ると同時に歩き始める。

 昨日とは違って、最後尾を歩くアキラの横にはリーネがいた。しかも、腕を絡めている。微妙に歩きにくい上、ツキが時折振り返っては微笑み、ブルーが不機嫌に、背中の水晶(クオーツ)を大げさに揺らしながら先頭を歩いているのを見て、アキラは勘弁してほしいと思う。

 途中、昨日狩ったストライプディアーやウッドボアを見かけたが、すでに肉は十分にあるため、見逃すことに。どちらも食べておいしいので、普段ではあり得ないことだ。

 昼には、食休みの時に、リーネが花を摘んで、自分やツキの髪に飾ったり、ブルーの耳に挟んで、皆で大笑いした程度にとどめて、距離を稼ぐことにした。

 夜は寝る前に、改めてツキから貨幣について、アキラは学んだ。

 貨幣は上から、金、銀、銅、石となっており、アキラの感覚からすると、金貨が10万円、銀貨が1万円、銀板が千円、銅貨が百円位。魔術刻印が施された石貨が10円、これはすごい大量の石貨を、一度の魔術で刻印するそうだ。石貨を半分にした割れ貨が5円で最低となっている。では、割れ貨以下はどうするのかというと、基本、それ以下の金額で取引はしないそうだ。商品の量などで調整するのだと。

 貨幣の発行、造幣は各国で行われているが、ほぼ同じ価値らしい。たまに、経済状況が悪く、含有量を減らした悪貨を発行する国があるが、大抵、国家連合に攻められて、滅びるそうだ。

 商人や国家間では、為替も盛んに使われており、巨額になれば、大精霊が刻印を押すなどして、信用を担保している。

 ツキやリーネは個人的な財産はないらしく、ブルーが適当に渡しているそうだ。ただ、その適当が、一回に金貨10枚、日本円で100万円単位で、ぽんと渡してくるらしい。ツキがどうしても欲しい刀を見つけ、それを買うときには300枚ほど渡されて困ったそうだ。ただ、その困った理由が、持ち運び出来ないだったが。

 それで、そのブルーはどうしているかと聞けば、ローダン商会に預けているとのことだ。ツキの刀も以降は、ローダン商会が購入代行することにした。で、はしたなくも、アキラは預けている金額を聞くと、「知らん」と返ってきた。なくなれば、言ってくるだろうと。

「俺のいた世界では、ドラゴンは光り物とか、価値のある物が好きで、ため込んでいるといった物語があったけど、ブルーもそうなのか?」

「ローダンは、運用してるとか言ってたぞ」

 なるほど。恐らく、精霊いや大精霊のローダンが運用しているのだ。使った額以上が増える事はあっても、減ることはないのだろうと、アキラは納得した。為替操作とかしてなきゃいいがとも思いながら、アキラは寝ることに。


女性陣の反応はこうだったと思う。

社畜男:「鹿の肝臓は、生でごま油をかけて食うと美味い!」

幼女もどき:「…………生?」

銀髪:「…………無理……」

わんわん:「生で食えるか!」

社畜男:「犬が生意気言うな!」

生、美味いんだぞ。


次回、明日中の投稿を予定しています。

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