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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第2章 My Hometown
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2-4

引き続き、第2章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 地面に倒れた謎の物体は、皆が見守る中で、じゅくじゅくと泡立ち、形が崩れ、不定型なゼリー状態から液体へと変わっていく。液体は地面に吸い込まれていき、やがて跡形もなくなるであろう。

「で、何だったんだこれ?」

 異世界だから、こんなものまでいるのかと、アキラは気軽に聞くが、ブルーからは意外と戸惑ったような言葉が返ってきた。

「馬鹿みたいに長く生きてる俺も、初めて見るな。この世界(ほし)のものなのかね?」

「どっかから、転移してきたのか?」

「いや、そんな痕跡はないが、こことは別の場所に転移して来て、そこで長く潜伏か眠っていたなら、分からん。お手上げだ」

 そうやって、ブルーが器用に後ろ足で立ち、前足を上げた。

「それ、何の芸だ?」

「芸ではない!ジェスチャーだ!犬扱いやめろ!」

「だって、犬やん」

「それより、家が!」

 その言葉を残して、リーネがすべて崩れ落ちたログハウスへ駆けていく。それ扱いされたブルーが肩を落として見送った。アキラがツキに向かって「リーネをお願いします」と声をかけると、分かったとうなずき、リーネの後を追った。

 二人を見送ったアキラの顔が引き締まる。

「で、何が目的だったと思う?」

「……お前か、水晶(クオーツ)だろうよ。理由は皆目見当つかん」」

 言いながら、背中の水晶(クオーツ)を揺するブルー。

「もし俺が目的なら、ここに転移してきたのは、偶然じゃないのかもな」

 なぜか応えようとしないブルー。

「……何か、知ってるのか」

「今度な、そのときが来たらな」

「分かった。頼む……」

 言葉を濁したブルーに、問い詰めるでもなく、アキラはログハウスへと歩き始めた。それに続いたブルーは、誰にも聞こえぬ小さな声で、「くそったれめ!」と吐き出した。

 皆、何かに対して口を閉ざしている、語らぬ言葉がある。ブルーはそのときと言った。ならば、信じて待とう、アキラは心の中で決めた。いつか来るときを。

 崩れ落ちたログハウスの側では、膝をついたリーネが大声を上げて泣いていた。幼子のように、すべての(なり)を捨てて。

 手でこすっても、こすっても、涙が地面に落ちる。

「ブルーの、私たちの家がー!」

 バサリと、黒いコウモリの翼が広げられる。ゆるやかに、リーネの悲しみに共鳴するかのように羽ばたいた。

 何も言わず、言えずにツキはリーネの肩を横から抱いていた。

 ツキとは逆の側に、追いついたブルーが座る。一度ログハウスへ視線を送り、リーネの頬に顔を寄せ、涙を一つ舐め取る。

 しゃくり上げるリーネがブルーを見る。

 ぐりぐりと、ブルーは額をリーネの肩に擦り付けた。

「また建てればいいさ。俺、建てるの好きだし」

 ひくりと一つだけしゃくり上げたリーネが、ブルーを見た。

「……でも、犬だし……」

 やっぱり駄目だー、とさらに泣き声をリーネは上げた。

「ずっと、犬じゃねーよ!」

「オチつけてどうするよ」

 立ってログハウスを見ていたアキラがつぶやいた。つられたツキが、クスリと笑った。レインもクスリと思念で皆に笑みを送るのだった。


 残骸となったログハウスを探り、壊れていないもの、使えそうなものを取り出して集めていく。

 ツキは、リーネに座っていなさいと気遣った。それに首を横に振ったリーネも、皆と一緒に探していた。目を真っ赤に腫らしながらも、懸命に残骸を避けたり、隙間をのぞき込んだり。

 さすがに、物を持ったりするのは無理なブルーは、水晶(クオーツ)を背負ったまま、あちらこちらに鼻面を突っ込んでは探していた。ますます犬ぽいなと、アキラは思ったが、ここは言わないでおく。いわゆる、空気を読んだというのである。

 この程度かと集めて切り上げた。どこかで止めないと切りがなさそうだったためだ。

 一カ所に集めた物の上に、雨よけのため、奇跡的に破れていなかった、見つけたターフをかぶせて、四隅を固定する。

 この土地、ログハウス周辺だけであれば、精霊に頼み、魔術で雨が降らぬような天候操作も可能なのだが、ブルーがそれを断固拒否したため、見張りだけを頼んでおいた。

 恐らく、というか当然盗む者そのものがいないはずだが、心の平安を得るためである。主にアキラの。

 作業を終えたのは、昼頃。

 これまた奇跡的に無事だった、見つけたパンだけで昼食をして、出発をしようと、皆が立ち上がった。

「帰ってくるよね」

 リーネがぽつりとこぼす。

「もちろん、用事が済んだらすぐにでも」

 ツキがリーネを抱きしめる。

「ここは、私たちの住む場所(MyHometown)なのだから」

 胸に顔を埋めたリーネが、「そうだね」とつぶやき返した。

 小さく、鼻を鳴らしたリーネが、ぱっと後ろへ飛んで、ツキから離れた。

「行こう!出発!」

 真っ赤に目が腫れ上がっていたけれど、花咲くようなリーネの笑顔。

 その言葉を合図にして、一行は歩き始めた。

 振り返ることなく。

 戻ってくるのだからと。


蒼龍の守護地スカイドラゴンフィールド 境界内の道

 守護地(フィールド)内の道は、森を切り開き、草原をかき分けて作られていた。特に道標があったり、石畳が敷かれている訳ではない。小石や雑草を取り除き、大きなくぼみが埋めてある程度の整備しかなされていない。

 そう、この道は人が作った物ではない。精霊が作り、管理しているものだ。

 基本的に、定規で引いたような直線であったが、途中には勾配が急であったり、崖があったり、急流があるなど、通過が困難な場所は、曲げて避けていた。精霊は歩くことに理解が深いわけではないので、そのような場所はブルーが指示して直させているそうだ。

 ただ、守護地(フィールド)内の道は、そう頻繁に人や獣が歩くものではない。いや逆に、人や獣が通ったことがある道の方が少ない。

 一本の例外があった。

 精霊が作り、整備した道であるが、人が利用する道。王都パリスから守護地(フィールド)を経由して商都リアルトへ至る道。もちろん、出発点が商都リアルトである場合も。

 この道は、お互いの国家から発せられる伝書使が通る。非武装で、たった一人で。ドラゴンから隠れ、獣の襲撃を避けつつ進む危険な道。

 ただし、ブルーは黙認していたが。

 理由は、対応していたら「いちいち面倒」だから。

 実際、賢者と呼ばれる人々が、知識を求めて、ドラゴン達の守護地(フィールド)に侵入してくる場合は多々ある。慣例的に見逃しているのだが、伝書使はこれと同様に扱っている。

 もちろん、偶然出会ってしまった場合には、見て見ぬ振りもできないため、不幸な出来事として処理されるのだが。処理と言っても、運が良ければ目的地側から、悪ければ、道を戻って、出発側から外へ追い出されるのだ。

 この伝書使がたどる道だが、王国側の守護地(フィールド)への入り口は、キャリアーが置かれている場所となっている。今も、一人の伝書使が入り口から入って、三叉路へとたどり着いていた。

 このまま真っ直ぐ進めば、ログハウスへと至り、左につまり東側へ折れれば、財団(ファウンデーション)側の出口へと至る。

 三叉路は深い森の中にあった。

 伝書使は迷うこと無く、左へ折れようと一歩足を踏み出した。

 これが、この伝書使の最後となった。


たぶん、こんなことを考えていたと思う。

幼女もどき:「けっ、犬が家を建てるなんて無理なんだよ!」

わんわん:「頑張れば、何とか出来るはず!」

いえ無理です、ありがとうございます。


次回、本日の夕方ないしは夜に投稿予定です。

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