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第2章を投稿開始いたします。
皆様、どうかよろしくお願いいたします。
蒼龍の守護地 ログハウス
守護地の北端、帝国との境界、王国と帝国そしてアキラ達が戦った場所からログハウスへ戻るのに、8日間をほぼ費やした。
もともと予測では、10日間程度としていたため、道なき道で2日間の短縮は優秀だと言えよう。
これは、先頭に立ったブルーのおかげであった。
実は出発に際して、自分の管理する土地であるから、ブルーが道案内をすると皆が思っていたが、「普段、空を飛んでいる俺が、地べたの道を知ってるわけないだろう」と宣った。
そうそうに、先頭に立つことを拒否したブルーは、寝転がって我関せずを決め込んでしまう。
しかし、アキラの感覚からして、まず地図が無い、方位磁石がない、この状況では迷うこと明白である。ただ、この時点でアキラは気づいていなかったが、磁石で方位が測れるとは限らないことであった。この天体の持つ磁力線が、南北を指すとは限らない。いや、そもそも、この世界の天体は球形をしているのか。
とりあえず、困ったときの精霊頼りで、大体の方角は分かったものの、精霊に先導させようにも、地形の概念があまりないため、いきなり目前に崖や滝が出てきたりする。普段から、空間を飛び越えたり、地に潜ったり、水の中をくぐったりで、歩くという行為が理解出来ないのだ。よくも、道の管理が出来ているものだと、アキラは変な感心をしていた。
ちなみに、精霊への呼びかけは、ツキとリーネそしてアキラはブルーからの管理委託者指定みたいなものをしてもらったので問題はない。試したところ、守護地内で、魔術は発動できた。アキラも指定されていて、仲間扱いされているようで、安心した。
移動を開始して最初の日、ログハウスへは向かっている様子だが、右往左往するのにブルーが切れた。
だから2日目の朝からは、ブルーが先頭に立った。ここで役だったのが、帰巣本能であった。もちろん、ブルーがそう主張するだけで、本当かどうかは分からないのだが、アキラは実に犬らしいと思う。
途中、食料を狩りや採取で得たり、野宿で眠る時は、精霊が夜番をしてくれたので、十分な睡眠が取ることが出来たのは幸いと言えた。
とりあえず、ログハウスが見えた時、リーネが「戻ったー」と駆け寄る程度の体力は残して帰る事ができたのだ。結構つらい道のりだったが、アキラにとっては皆との親密度が増した気がして、良かったかなと思っている。居候の自覚があるため、やはり気は遣うのだ。
まずは風呂ということで、ツキとリーネが荷物を片付けている間に、アキラが用意した。水を引いている訳でもなく、かまどもないため、水を入れて沸かすのも精霊に頼んだ魔術だのみであった。リーネ曰く、「魔術の練習になるから」とずいぶん前からアキラの役割になっていた。
戻る途中で川などがあった場合、もちろん水浴びをしていたのだが、リーネとツキには不満だった。やはり、しっかりと身体を洗いたいのだ。当然、アキラが事故を起こして、二人の水浴び姿を見てしまうことがあり、ブルーに噛まれて怒られることとなってしまう。実に犬らしい反応であった。
全員が風呂を使い、ちなみにブルーはアキラが洗った、ほっこりとした表情で食堂に集まる中、ツキが入れてくれた冷たい果実水を飲みつつ、テーブルに乗せられた水晶を眺めていた。
アキラにとって、図鑑やネットでよく見る形で、一本の六角柱状の結晶であった。意外にも、ブルーたちは見たことがないという。大きさはアキラが抱きかかえる事が出来る程度、赤ん坊ほどだ。
最初は皆と一緒に、興味深く見ていたリーネだが、今では床で寝始めたブルーを枕に、舟を漕いでいる。
「生きているかもって言ってたけど、なんでツキはそう思うんだ」
「理由を問われると、答えに困りますが。ただ、命の持つ存在感などが感じられるのです」
感覚的な、捉えようのない答えであったので、アキラもどう反応して良いやらで困っていた。記憶によれば、人や獣は炭素系の生物であり、ケイ素系の生物が発生する可能性はありうるということであった。ただし、ケイ素は化合物が少ないため、生命が発生するには非常に困難を伴う事が予測されるとも思い出したりした。
魔術があるから、なんでもありかとも思う。
しかし、気になるのは、ローダンは宙から降ってきたと言っていたこと。これは星見の者が実際に観測しているので、確実と思われる。
アキラとしては、天体外からの来訪者、つまり異星人であるかもと考えていた。
「きちんと、コミュニケーションもとれないし、しばらくはこのままにしておこう」
その言葉に、ツキは頷く。
「生命だとするなら、何を食べるのでしょう」
「食料っていうか、エネルギーぽいけどね」
もうそこまで行くと想像の埒外であるため、放っておくしかないと、飢えたら騒ぐだろうと、アキラは投げ出す。
『主様、その水晶なるものは、生きております』
突然、レインが言葉を発した。とは言っても、アキラの頭の中だけで聞こえているのだが。
「うおっ、目が覚めたのか」
『目は覚めておりましたが、状況を見まして、声をおかけしても邪魔になると判断して、黙っておりました』
ログハウスまでの8日間、レインは黙りこんでいたため、寝ているもの、活動停止しているものと思われていた。ただ、今の理由を聞けば、確かにあの移動時に声をかけられても困っていたとアキラは思う。
そう考えれば、空気の読める、実に主思いのツクモガミと言えよう。
アキラの様子から、レインと会話している事がわかったツキがたずねる。
「もともと物であるレインでしたら、何か分かるかもしれません」
ツキの言葉が届いたのか、レインはツキへも思念を飛ばす。ラインをつなげるのだと。ついでに、寝ているリーネやブルーにもつないでおいてもらう。
『人や精霊でないのは確かです。ただ、人や精霊と同様な存在感がございますし、内部でなにやら、やっています』
レインの答えもツキと同じであった。ただ、アキラの感じた波動や、内部で何かをしている事が気にかかる。
何ら新たな事は判明しなかったが、同じ意見がでたことによって、生命体である可能性が高いとした。特に、ツクモガミであるレインの言葉には信憑性があった。
「でも、どうしようもないから、しばらくはこのままだな」
アキラに頷くツキ。
こうして、水晶はしばらく、食堂のテーブルに置かれたオブジェとされた。
ちなみに、レインは何か食べるのかとアキラに問われ、耳まで真っ赤になった顔でアキラの脳裏に現れた。
『主様に手入れいただくだけで、満たされます……』
とのことであった。
本当かどうか、でも、多分こんなかも知れない想像
レイン:『ああ~ん、主さま~』
夜、皆が寝静まってのことだった。
次回、明日の午前中に投稿予定です。




