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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第1章 天使(エンジェル)
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誤字脱字、直しつつ始めて行きます。

どうか、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

 その言葉を合図に、アキラは抜刀。剣速、今までになく早く、剣先ばかりでなく、刀身そのものがアキラにも見えなかった。だが、太刀筋は自分のもの、見えずとも分かる。

 スローモーションで襲いかかってきた先頭の兵を、馬上で切り裂く。つづけて、アキラだけが常と同じ速度の足運びで、続く兵たちを切り裂いていった。魔力の剥がれた兵たちが次々と落馬していく。

 不可視の刀身が振るわれるたび、その太刀筋のあとには小雨が降ったように雫が舞い散る。

 歩を進め、無人の野を行くがごとく、しかし、周りの兵たちは落馬を続けていた。

 そして、たどり着く。

 落馬した、カロニア伯爵の首元には、びっしりと水滴のついた刀身が押しつけられていた。魔力は剥がれており、アキラが少し力をこめれば、その首切り裂き、頭は地に落ちるであろう。

 ここで、時間が切れたのか、レインが止めたのか、アキラと周囲の時間が同調した。

「双方、兵を納めよ。スカイドラゴンに代わり、申しつける」

 ぎょろりと目を剥いたカロニア伯爵が、アキラをにらむ。

「貴様、いつぞやのローダン商会にいた小僧か。無礼だぞ!」

「無礼はお前だ!ここは(いにしえ)よりドラゴンが守る地だぞ」

 目で殺せればとばかりに、血走る眼で見るカロニア伯爵。それに眼を細めてにらみ返すアキラ。

 ここで、帝国の総指揮官が追いついた。状況を目にした総指揮官であるエリオットは、一瞬にして状況の不利を悟る。ドラゴンは身を小さくしつつあるが、目前のアキラは想定外だ。

 若く見えるが、これほどの剣士がいようとは。エリオットの目前には、帝国と王国の兵士、百以上が地面でうめいていた。それもエリオットが戦場に駆け寄る、馬上で見ただけの光景。

 動き、足運び、太刀筋、すべて見ることすら出来なかった。ただ、エリオットの前では、小雨が舞い散るだけで、次々と兵たちが落馬、地面に倒されていく姿を見るだけだった。

 この時とばかりに、キムボールが動いた。

「王国の兵士よ、王子のキムボールである。全兵士たち、我の指揮に入れ!」

 その言葉に、弾かれたように兵士たちが動き始める。

 キムボールの前に兵士たちは陣取りはじめ、それはキムボールの後ろにいるツキやブルー、リーネを守る形となった。

 乱戦となった跡には、帝国兵と、その中にいるカロニア伯爵とアキラだけがいた。そして、それを見るエリオット。

「何を呆けている!態勢を整えよ!」

 その言葉に、帝国兵たちは下がり、エリオットの周りを固める。

 カロニア伯爵とアキラを真ん中にして、対峙する王国兵と帝国兵。

 しばしの静寂。

 カロニア伯爵の首筋から刀身を離したアキラ。カロニア伯爵を地面に突き飛ばして立ち上がり、すっと周囲を見回した。

「双方、ここより出て行け」

 アキラはふいと刀を振る。ついていない血を払うかのように。振るった刃からは水滴が舞い、虹を写す。

「行かないなら、俺が相手だ」

 たった一人の剣士。その一人に、二つの国の兵たちが震え上がった。


モス帝国 帝都ロンデニオン ロンデニオン城 秘密の小部屋

 シルは一点を見つめていた。

 見つめる方角は、蒼龍の守護地スカイドラゴンフィールドの一点だ。

 両腕を広げ、まぶたを閉じて視線をきる。

 それはどこか祈り、願いにも見える。

「さてはて、始まったね」

 腕を下ろしたシルは、ソファーに座り、自分でポットを傾けて茶を入れる。

「しかし、ブルー(あいつ)怒ってるかな」

 盟約で仕方がないとはいえ、ばらしてしまったからな。

 怒鳴り込んできたら面倒だと。

 カップを傾け、一口含む。

「……、決めた。隠れよう」

 その後、城内、帝室が大騒ぎになったのは言うまでもない。


ブセファランドラ王国 王都パリス ローダン商会 会頭執務室

 ローダンは椅子から立ち上がり、まぶたを閉じながらも、一点を見つめていた。蒼龍の守護地スカイドラゴンフィールドのある一点である。

 閉じていたまぶたを開け、広げていた腕を下ろす。

 疲れたように、自分に仕立てた椅子へと座り込んだ。

 天を仰ぎ、額に手を当てる。

「さて、大丈夫だとは言ったけれど……。まぁ、準備を始めよう」

 机にあったベルを、ローダンは軽く振り、店員を呼び出すのだった。


ブセファランドラ王国 王都パリス 王城 どこにもないどこかの部屋

 ディーネは窓の外を見ていた。

 視線の先にあるのは、蒼龍の守護地スカイドラゴンフィールドの一点だ。

 何かを見届けたように、まぶたを閉じて、腕を下ろし、ため息をついた。

「もう、本当に困った人がいるものね」

 窓の縁に手をつき、もう一度ため息をついた。

「なにか、面倒を押しつけられるかも」

 あの馬鹿王子がとつぶやき、「でも、手伝ってあげようかな」

 その言葉は、小さな笑みとともにあった。あの子の役にも立ちたいし、ともつぶやく。

 そして、それにしても、あれはなんだったんだろうと、水晶(クオーツ)を脳裏に浮かべていた。


財団(ファウンデーション) 商都リアルト 炎の庭園

 広げていた腕を下ろしたリータが、大きなソファーに飛び込んだ。寝そべり、力を込めて伸びをする。

「近々、様子見に行ってやるか」

 ブルーがどうなったか、見ておきたいともつぶやく。あいつもいるしとも。

 心配、とは違い、野次馬根性であろう。

「大きくなってるかな……」

 それは野次馬とは違う、心安らかな笑みと共につぶやかれた。

 ソファーに寝転んだまま、まぶたを閉じ、足を掲げて高く組む。衣装の裾がはだけて、非常に扇情的だ。

 リータの耳に、扉が荒々しく開かれる音が届いた。けっして人には届かぬ距離ではあったが。

 足音高く近づいてくる。それが誰だか知るリータは、寝転んだままだ。

 ソファーの脇で足音は止まった。

守護地(フィールド)で何があった!」

 ミュールが何時にない言葉をリータに投げつける。

 高く掲げ、組んだ足の一方をふりふり、リータが応えた。

「教えてやれない。というか、想像は出来てんだろ」

「ドラゴンに何かが起こった」

 正しいとも何も、リータはミュールに応えない。だがそれで、ミュールは自分の考えが正しかったことを知った。

「帝国の軍が、一部王国の国境へ向かったかと思うと、突然進路を変更して、守護地(フィールド)に突っ込んだ。そこで戦闘が発生したが、それは、ドラゴンとではない、王国の軍とだ」

 これでは、相手していた財団(ファウンデーション)は道化ではないかと。ミュールは手にしていた資料を、床へとたたきつけた。普段のミュールを知る者からすれば、驚くような行動だった。

 息を荒げたミュールは、ドサリとリータの足の近くに腰を下ろした。

「帝国は、エリオットは何がしたい。大体、奴は学生の時でもそうだ。共同論文発表の直前に、修正したいと言ってきたり、歴史学者になりたいとか。馬鹿か、どう見たって政治家向きだ。生粋の王族だよ」

 後半は、どう聞いていても、今回の事とは関係はないが、ミュールにとっては、関連付けされているのだ。

 どうどう、落ち着けとばかりに、リータはミュールの腕を引っ張り、自分の体の上に寝かせた。頭を胸に抱き寄せ、抱きしめてやる。

「シル姉が前に言ってたけどよ、あの男はあいつなりに頑張ってんだとさ。こういう言い方も変だけどよ、お前も頑張れ」

「……そうだな」

 落ち着きを取り戻したのか、静かな声でミュールは応え、力を抜いてリータの胸に顔を預けた。

 髪をなでてやるリータ。ミュールはまぶたを閉じ、されるがままだった。


次回、明日午前中に投稿予定です。

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