11-15
引き続き、
第11章を投稿いたします。
最終章です。
どうか、よろしくお願いいたします。
アキラはチラリとリーネを見る。
主砲の術式をいじっているのか、卓へと手をかざして集中をしていたリーネだが、アキラの視線に気づいて顔を向ける。
視線を合わせるリーネとアキラ。
魔術で攻撃するとなると、リーネが頼りだとアキラは考える。アキラ自身は、魔術を練習していて、どうにも精霊と相性が悪いと感じている。大気圏突入時に、多くの精霊が出迎えるようにして待ち構えていたが、それへと呼びかけるには、アキラは自分では力が足りないと。
だからといって、リーネは制約が外れたばかりで、端から見るからには、どうにも不安定であり、アキラの感覚からすれば、あまり無理はさせたくは無い。
かざしていた卓から手を外し、席を立ってリーネがアキラの側に歩み寄った。
その赤い手袋を履いた手が、アキラの腕に添えられた。
「精霊達を信じて上げて。皆、自分達の弟あるいは兄を手伝いたがっている」
「それは大精霊が……」
「違う。大精霊も精霊なのを忘れてる?」
そのリーネの問いかけの意味を、アキラは理解した。
生まれ方は違えど、母は一緒なのだと。
「だけど、今まで呼びかけにあまり応えてくれなかったんだが」
よく応えてくれたのは、翻訳の精霊達とか、精霊馬達のごく僅かである。
そのアキラの言葉に、リーネが眉を潜めてため息をついた。
「アキラを甘やかせるなって、皆に頼んだのよ」
アキラの母が精霊に。その時が来るまでと。
オベロンの一件もあったため、アキラは本格的にいらっとした。
「……親族には恵まれていないようだ」
「だね」
そう言って、リーネはにかりと笑い、精霊達に呼びかけてあげて、アキラの、自分の姉妹達にと。
リーネの言葉が届いたのか、頂天号が纏う虹の流れが大きくたなびいた。
「上へ駆け上がれ!」
「はい、主様!」
アキラの言葉にレインが、グイッと操縦桿を引くと、頂天号の機首が天を向く。
地表に向かって魔力の噴射が大きく咆哮を上げて噴射され、纏う精霊が生み出す虹が揺らめいた。
円盤 司令室
目前にいたはずの頂天号に照準を付けようとしていたアレースの精霊が、自分の目をこする。
その機動により、放つ光線の照準を付ける事が難しく、手当たり次第放っていたのだが、それすら出来ない事になった。
照準のために映されていた画像から、その特徴的な流線型が突然に機首を上に向けたかと思うと、その姿を消したのだ。
すぐさま、その機首の方向から、上昇したと判断したアレースの精霊は、画像を上へと向ける。
すでに、頂天号は結界近くまで上昇を終えており、反転をして、上下を入れ替えていた。
そして、その機体周辺に、数多くの魔方陣が浮かび上がるのを目撃した。
蒼龍の守護地 ホームタウン近郊 森
木々の狭間から、それはローダンにも見る事が出来た。
機首を下に向けた頂天号の周囲に浮かび上がる魔方陣の数々を。
さくりとした音が近づいてくる。
ローダンが視線を向けると、それは下生えを踏むリータとノーミーであった。
三体の大精霊が狭間から空を見上げる。
まぶしくて、眼を細める。
リータは光りを遮るように、手でひさしを作って見上げている。
「時が来たのね」
「ああ、長い間待ったな」
ローダンの呟きにリータが嬉しそうに言葉を返して、さらに続けた。
「オベロンの馬鹿、見てみろ。立派になったぜ」
そんな言葉に、リータは幼子のアキラを思い出す。
生まれて間もない赤子に、魔術で負荷をかけるオベロンの姿。そして、その負荷に耐えかねて泣きわめく赤子。はらはらと見守る大精霊達。手出しすることは、星の精霊から禁じられていた。
その光景が脳裏に映るだけで、リータの奥歯が鳴る。
「好きにしたら良いんだ。何を守り、何を愛すか。期待や思惑なんか無視しちまえ」
「始原の精霊よ……」
そのローダンの言葉に、何だとばかりに晴れやかな顔で視線を向けるリータ。
敢えてその名で呼んだ。
「彼は、この星を、生命を守るのでしょうか」
「知らね」
あっさりと応えるリータに、ローダンは絶句する。
再びリータが空を見上げる。
頂天号が纏う、精霊の虹が、魔方陣がその機首に集結を始め、全ての色が混じり合い、黒くて球形に積層された魔方陣へと変わる。
それへと視線を向けて、リータが眼を細めた。
「いざとなったら、姉ちゃん達を頼れってアキラ。皆ずっと待ってたんだ」
可愛い弟が、姉を頼ってくれる日が来ることを。
逞しい兄が、妹に頼む日が来ることを。
「おかえり、坊や」
黒の魔方陣が収縮して、六条の黒い光線を放った。
頂天号 操縦室
精霊の歓喜がアキラには手に取るように判った。
円盤だけを撃つために、周囲はリーネとツキ達が大事にしている場所。一辺たりとて傷を付けたくは無い。
そのアキラの思いを精霊達は受け取った。
機体に纏った虹と、そして描かれた魔方陣が機首へと集約され、黒色で球形の魔方陣へと変化した。
全ての色が混じり合ったのだ。
光りであれば白だが、色であれば黒。
精霊達の虹は、純粋な色であった。
「私たちの住む場所を守って」
アキラの腕にすがりつくリーネ。
更には、銀色の後光を背負ったツキがアキラの側にやって来た。その手がアキラの肩を掴む。
「高みに、手を伸ばして」
その言葉に導かれるように、アキラが機首の魔方陣へ向かって手を伸ばした。
「ここから、出て行け」
アキラの言葉をきっかけに、機首の積層された魔方陣が小さくなり、六条の黒い光線が放射された。
その光線の先に、小さな黒い翼がある事に気づいたのは、アキラとリーネ、そしてツキだけであった。
光線は六機の円盤全ての中心に命中し、その瞬間に円盤は黒い光りに覆われた。
画像と、自ら放射した魔力でそれを観察していたクオーツが言葉を上げた。
「まさか、転移……」
その言葉が発せられるとともに、黒い光りとともに円盤の姿が消え失せていた。
覆われた結界を無視して、円盤が転移した。
その結界も、円盤の消失とともに消え失せている。
何が起こったのか。自らが転移することは大精霊が良く使用する魔術だが、他者を転移する魔術などは無いはずなのだと、かつて複数の大精霊に尋ねた時の知識がクオーツの中にはデータとして残っていた。
「……不可能とされていたはず」
そんな呟きに、アキラ達はクオーツを振り返って、笑顔を見せた。
「姉妹達が、頑張ってくれたようだ」
そんなアキラの言葉に、リーネとツキは嬉しそうに微笑むのだった。
そんな中、床に寝転んでいたブルーが、やれやれとばかりに、顎を自分の前脚に乗せて、眼をつぶるのだった。
「何か、拗ねてる?」
リーネがブルーのもとにやってきて、その首筋に抱きついた。
「拗ねてない」
「ふふーん、拗ねてるね」
そのリーネの言葉に、ふんとばかりに顔を背けるブルーの耳元で、小さく言葉が呟かれる。
お兄ちゃん、と。そして、ありがとう。
蒼龍の守護地 ホームタウン
結局、六機の円盤がどこへ転移したのかは分からなかった。
魔力を追跡していたクオーツは、星の外への可能性があると考えているようだが、あくまでも推測に過ぎないと皆には告げていた。
リータが大精霊のネットワークを使って、円盤を見かけなかったかを尋ねて回ったが、それも無駄に終わる。どの大精霊も目撃はしていないとの返事しかない。
夕食を終えた食堂では、襲撃を受けて撃退した興奮からか、技術者達がローダンが持ってきていた酒の残りを飲んで騒いでいた。
そんな喧噪を避けるかのように、アキラはリーネとツキを連れて、以前にブルーのログハウスが建っていた場所へとやって来ていた。
今は片付けられてむき出しの地面があるだけだ。僅かに、成長の早い雑草が、ところどころに生えていた。
アキラは空を見上げる。
それにつられて、リーネとツキも同じく空を見上げた。
暗い夜空に、月が二つ浮かんで並んでいる。
一つは銀色。ツキの生まれた場所のシルバー。
一つは黒色。リーネが長く眠っていた場所のダーク。
しばらく、言葉も無く夜空を見上げていると、土を踏む音がアキラの耳に届く。
「これから、どうする」
それはブルーの言葉。
アキラの視線は未だ夜空を向いている。
少しの沈黙。
そして、アキラは手を空に向かって伸ばした。
「分からん」
えっという視線をアキラに向けるツキ。
きょとんと驚くようなリーネ。
微笑むブルーが地面へと座る。
気づくといつの間にか、猫の外装を着たクオーツがアキラの足に纏わり付いていた。
「沢山いる姉妹達に相談するさ」
空に視線を向けたままのアキラに、全員が柔らかな表情で、ゆっくりと頷き返すのだった。
帰還篇 おわり
Fly Me To The Moon
皆様、
一応は帰還篇として終わります。
続きがあるのかは未定です。
恐らくタイトルは変更になります。
では皆様、
お付き合いいただきまして、
ありがとうございました。
とはまいりません。
Appendixを一編用意しています。
一時間後に投稿いたします。




