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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第11章 We Are The Champions
218/219

11-15

引き続き、

第11章を投稿いたします。

最終章です。

どうか、よろしくお願いいたします。

 アキラはチラリとリーネを見る。

 主砲の術式をいじっているのか、卓へと手をかざして集中をしていたリーネだが、アキラの視線に気づいて顔を向ける。

 視線を合わせるリーネとアキラ。

 魔術で攻撃するとなると、リーネが頼りだとアキラは考える。アキラ自身は、魔術を練習していて、どうにも精霊と相性が悪いと感じている。大気圏突入時に、多くの精霊が出迎えるようにして待ち構えていたが、それへと呼びかけるには、アキラは自分では力が足りないと。

 だからといって、リーネは制約が外れたばかりで、端から見るからには、どうにも不安定であり、アキラの感覚からすれば、あまり無理はさせたくは無い。

 かざしていた卓から手を外し、席を立ってリーネがアキラの側に歩み寄った。

 その赤い手袋を履いた手が、アキラの腕に添えられた。

「精霊達を信じて上げて。皆、自分達の弟あるいは兄を手伝いたがっている」

「それは大精霊が……」

「違う。大精霊も精霊なのを忘れてる?」

 そのリーネの問いかけの意味を、アキラは理解した。

 生まれ方は違えど、母は一緒なのだと。

「だけど、今まで呼びかけにあまり応えてくれなかったんだが」

 よく応えてくれたのは、翻訳の精霊達とか、精霊馬達のごく僅かである。

 そのアキラの言葉に、リーネが眉を潜めてため息をついた。

「アキラを甘やかせるなって、皆に頼んだのよ」

 アキラの母が精霊に。その時が来るまでと。

 オベロンの一件もあったため、アキラは本格的にいらっとした。

「……親族には恵まれていないようだ」

「だね」

 そう言って、リーネはにかりと笑い、精霊達に呼びかけてあげて、アキラの、自分の姉妹達にと。

 リーネの言葉が届いたのか、頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドが纏う虹の流れが大きくたなびいた。

「上へ駆け上がれ!」

「はい、主様!」

 アキラの言葉にレインが、グイッと操縦桿を引くと、頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドの機首が天を向く。

 地表に向かって魔力の噴射が大きく咆哮を上げて噴射され、纏う精霊が生み出す虹が揺らめいた。


円盤 司令室

 目前にいたはずの頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドに照準を付けようとしていたアレースの精霊が、自分の目をこする。

 その機動により、放つ光線の照準を付ける事が難しく、手当たり次第放っていたのだが、それすら出来ない事になった。

 照準のために映されていた画像から、その特徴的な流線型が突然に機首を上に向けたかと思うと、その姿を消したのだ。

 すぐさま、その機首の方向から、上昇したと判断したアレースの精霊は、画像を上へと向ける。

 すでに、頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドは結界近くまで上昇を終えており、反転をして、上下を入れ替えていた。

 そして、その機体周辺に、数多くの魔方陣が浮かび上がるのを目撃した。


蒼龍の守護地スカイドラゴンフィールド ホームタウン近郊 森

 木々の狭間から、それはローダンにも見る事が出来た。

 機首を下に向けた頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドの周囲に浮かび上がる魔方陣の数々を。

 さくりとした音が近づいてくる。

 ローダンが視線を向けると、それは下生えを踏むリータとノーミーであった。

 三体の大精霊が狭間から空を見上げる。

 まぶしくて、眼を細める。

 リータは光りを遮るように、手でひさしを作って見上げている。

「時が来たのね」

「ああ、長い間待ったな」

 ローダンの呟きにリータが嬉しそうに言葉を返して、さらに続けた。

「オベロンの馬鹿、見てみろ。立派になったぜ」

 そんな言葉に、リータは幼子のアキラを思い出す。

 生まれて間もない赤子に、魔術で負荷をかけるオベロンの姿。そして、その負荷に耐えかねて泣きわめく赤子。はらはらと見守る大精霊達。手出しすることは、星の精霊から禁じられていた。

 その光景が脳裏に映るだけで、リータの奥歯が鳴る。

「好きにしたら良いんだ。何を守り、何を愛すか。期待や思惑なんか無視しちまえ」

「始原の精霊よ……」

 そのローダンの言葉に、何だとばかりに晴れやかな顔で視線を向けるリータ。

 敢えてその名で呼んだ。

「彼は、この星を、生命を守るのでしょうか」

「知らね」

 あっさりと応えるリータに、ローダンは絶句する。

 再びリータが空を見上げる。

 頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドが纏う、精霊の虹が、魔方陣がその機首に集結を始め、全ての色が混じり合い、黒くて球形に積層された魔方陣へと変わる。

 それへと視線を向けて、リータが眼を細めた。

「いざとなったら、姉ちゃん達を頼れってアキラ。皆ずっと待ってたんだ」

 可愛い弟が、姉を頼ってくれる日が来ることを。

 逞しい兄が、妹に頼む日が来ることを。

「おかえり、坊や」

 黒の魔方陣が収縮して、六条の黒い光線を放った。


頂天号トップ・オブ・ザ・ワールド 操縦室

 精霊の歓喜がアキラには手に取るように判った。

 円盤だけを撃つために、周囲はリーネとツキ達が大事にしている場所。一辺たりとて傷を付けたくは無い。

 そのアキラの思いを精霊達は受け取った。

 機体に纏った虹と、そして描かれた魔方陣が機首へと集約され、黒色で球形の魔方陣へと変化した。

 全ての色が混じり合ったのだ。

 光りであれば白だが、色であれば黒。

 精霊達の虹は、純粋な色であった。

私たちの住む場所(MyHometown)を守って」

 アキラの腕にすがりつくリーネ。

 更には、銀色の後光を背負ったツキがアキラの側にやって来た。その手がアキラの肩を掴む。

「高みに、手を伸ばして」

 その言葉に導かれるように、アキラが機首の魔方陣へ向かって手を伸ばした。

「ここから、出て行け」

 アキラの言葉をきっかけに、機首の積層された魔方陣が小さくなり、六条の黒い光線が放射された。

 その光線の先に、小さな黒い翼がある事に気づいたのは、アキラとリーネ、そしてツキだけであった。

 光線は六機の円盤全ての中心に命中し、その瞬間に円盤は黒い光りに覆われた。

 画像と、自ら放射した魔力でそれを観察していたクオーツが言葉を上げた。

「まさか、転移……」

 その言葉が発せられるとともに、黒い光りとともに円盤の姿が消え失せていた。

 覆われた結界を無視して、円盤が転移した。

 その結界も、円盤の消失とともに消え失せている。

 何が起こったのか。自らが転移することは大精霊が良く使用する魔術だが、他者を転移する魔術などは無いはずなのだと、かつて複数の大精霊に尋ねた時の知識がクオーツの中にはデータとして残っていた。

「……不可能とされていたはず」

 そんな呟きに、アキラ達はクオーツを振り返って、笑顔を見せた。

「姉妹達が、頑張ってくれたようだ」

 そんなアキラの言葉に、リーネとツキは嬉しそうに微笑むのだった。

 そんな中、床に寝転んでいたブルーが、やれやれとばかりに、顎を自分の前脚に乗せて、眼をつぶるのだった。

「何か、拗ねてる?」

 リーネがブルーのもとにやってきて、その首筋に抱きついた。

「拗ねてない」

「ふふーん、拗ねてるね」

 そのリーネの言葉に、ふんとばかりに顔を背けるブルーの耳元で、小さく言葉が呟かれる。

 お兄ちゃん、と。そして、ありがとう。


蒼龍の守護地スカイドラゴンフィールド ホームタウン

 結局、六機の円盤がどこへ転移したのかは分からなかった。

 魔力を追跡していたクオーツは、星の外への可能性があると考えているようだが、あくまでも推測に過ぎないと皆には告げていた。

 リータが大精霊のネットワークを使って、円盤を見かけなかったかを尋ねて回ったが、それも無駄に終わる。どの大精霊も目撃はしていないとの返事しかない。

 夕食を終えた食堂では、襲撃を受けて撃退した興奮からか、技術者達がローダンが持ってきていた酒の残りを飲んで騒いでいた。

 そんな喧噪を避けるかのように、アキラはリーネとツキを連れて、以前にブルーのログハウスが建っていた場所へとやって来ていた。

 今は片付けられてむき出しの地面があるだけだ。僅かに、成長の早い雑草が、ところどころに生えていた。

 アキラは空を見上げる。

 それにつられて、リーネとツキも同じく空を見上げた。

 暗い夜空に、月が二つ浮かんで並んでいる。

 一つは銀色。ツキの生まれた場所のシルバー。

 一つは黒色。リーネが長く眠っていた場所のダーク。

 しばらく、言葉も無く夜空を見上げていると、土を踏む音がアキラの耳に届く。

「これから、どうする」

 それはブルーの言葉。

 アキラの視線は未だ夜空を向いている。

 少しの沈黙。

 そして、アキラは手を空に向かって伸ばした。

「分からん」

 えっという視線をアキラに向けるツキ。

 きょとんと驚くようなリーネ。

 微笑むブルーが地面へと座る。

 気づくといつの間にか、猫の外装を着たクオーツがアキラの足に纏わり付いていた。

「沢山いる姉妹達に相談するさ」

 空に視線を向けたままのアキラに、全員が柔らかな表情で、ゆっくりと頷き返すのだった。


帰還篇 おわり

Fly Me To The Moon

皆様、

一応は帰還篇として終わります。

続きがあるのかは未定です。

恐らくタイトルは変更になります。


では皆様、

お付き合いいただきまして、

ありがとうございました。


とはまいりません。

Appendixを一編用意しています。

一時間後に投稿いたします。

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