11-14
引き続き、
第11章を投稿いたします。
最終章です。
どうか、よろしくお願いいたします。
頂天号 操縦室
ダークを発信した頂天号は、夜側から大気圏に突入した。
一度周回軌道に乗ってからなどは論外、ホームタウン上空へ至るための突入可能である窓なども一切考慮せずに、逆落とすかのように、ダークの軌道から大気圏へと真っ直ぐに突入をしたのだ。
大気に突入する際に、頂天号ほどの機体が、しかも高速であれば、進行方向の空気が圧縮されて、かなりの高温となるのだが、頑丈な船殻が燃焼を防ぎ、機体内部への影響を重力も含めて除去する魔術が、断熱まで行うために、操縦室は平常と違いはなかった。
幸い、宇宙空間にいたために、エーテル炉が変換した魔力の貯蔵は十分だ。
レインとアキラが操る頂天号は迷う事無く最大推力で夜の面を突き進み、瞬く間に守護地上空へとやって来たのだ。
様子を探るために、速力を落とす頂天号。
「結界が張られていますが……、入るのと外への念話を禁じていることしか分からないわ」
観測が役割のツキが言うが、それを受けてリーネがニッコリと笑う。
「あの術式、アレースのものだよ。ツキが見慣れないのも無理ないから」
「リーネは分かるのか」
「今ならね」
リーネはダークへ転移する事によって、最後の制約を解除され、全ての記憶が戻っていた。もちろん、銀河の精霊が仕掛けていた命令を超えて。そして、自身が人ではなく、精霊でもない、銀河の精霊に創造されたドラゴンであることを思い出していた。
兄と慕っていたブルーを筆頭とした三体のドラゴンは、本当の意味での兄だったのだ。
もちろん、そう易々とブルーを兄と呼ぶリーネではないので、その時を楽しみにしていたブルーは操縦席の隅でいじけている。
リーネが語るには、ブルー達と同様に制約はあるものの、精霊に呼びかけることなく、自身で魔術が使用出来るようになった。ただ、記憶の回復がまだ完全では無いため、全ては無理であるが、術式の原典である銀河の精霊が使用するものに準ずる術式を使用するため、その流れを汲むアレースの術式であっても、その解読は容易だと。
そう、ドラゴンを精霊とするならば、太陽の精霊さえ凌駕する上位の精霊であるのだ。ただ、その性能を恐れたニアの頼みにより、大きな制限をかけられているのだが。
その末姫がリーネである。そんなリーネがクオーツに声をかける。
「クオーツ、主砲への魔力充填をさせてくれる?」
「分かった、制御をそちらの卓へとまわす」
その返事に、リーネが自分の前にある計器盤の一角に手をかざす。それだけで、操作が可能なのだ。物理的な接続では無く、魔力を仲介としてリーネは頂天号のエーテル炉の制御式と自らを接続している。
主砲の魔力室への魔力充填を実施しながら、リーネはアキラと精霊馬達に主砲の発射準備を頼んでいた。
だが、魔力室への魔力の充填を監視していたクオーツが驚きの声を上げる。
「……魔力室に魔方陣が……」
その言葉に、リーネが頷く。
「結界解除の魔方陣を撃ち出すから」
通常は魔方陣を生み出すのは小さな精霊の技であり、その上位存在である大精霊は必要ないために、滅多に行わない。いや、行わないために魔方陣を描くことを苦手にしている大精霊も多い。そのために大精霊が精霊に呼びかけるなどという事が起きるのだが。
そして、魔方陣が魔術の発動の起点となるのだが、その魔方陣そのものを撃ち出すというのだ。
「術式が違うから、ちょっと複雑なんだ」
そう簡単に言い捨てるリーネだが、自身が精霊に準じた存在であるツクモガミのレインが身震いをしていた。そんな事が可能なのかと。
「発射準備終わったよ。いつでも大丈夫」
すでに、リーネが言うように、精霊馬達は銃身を用意しており、アキラはトリガーを迫り出して握っている。
「魔方陣が命中したところに穴が開くからね」
「分かった」
リーネの言葉に、アキラは頷く。
アキラの左手には主砲のトリガー。そして、もう一方の手には操縦桿。
トリガーが絞られて、魔方陣が目にもとまらぬ速度で発射されて、結界へと命中した。
「開口確認しました」
「レイン、全力で突入だ」
「分かりました!」
頂天号がツキが示す結界の開口部へと飛び込む。
そして、その目前には、リータとF-3改を攻撃している円盤があった。
「今の攻撃で、主砲は使用に時間がかかる」
エーテル炉を制御しているクオーツが、魔力量の現在を見て、主砲へ回せるほどの量がないと言う。たとえ回したとして副砲並みの威力しか期待できないと。
「機動には問題はない」
クオーツの最初の言葉に、機動まで支障が出るのかと、アキラはぎょっとするが、しかし、そちらへは問題がないとする言葉にほっと胸をなで下ろす。だが、眉をしかめているのはリーネだ。
「想定以上の魔力が引っ張り出された」
「引っ張り出された?」
円盤の攻撃を避け、レインがリータとF-3改の盾なるべく機動する中、アキラがリーネに尋ねる。
「薬室に充填していた以上の魔力が、貯蔵槽から持って行かれたの」
どうやら、リーネが考えているほど、主砲の完成度は高くないようだ。まだまだ改善が必要だと呟くリーネ。
その呟きに、手伝える事はないと判断、アキラは主砲はリーネに任せるとして、副砲を円盤へと向けて撃つ。
弾かれることは想定していたので、最初から徹甲弾の形状で撃ち出したのだが、先の戦いと違ってそれも弾かれてしまう。
「やはり、対策はしているか」
それが、むき出しの外壁なのだろうとアキラは悔しげに奥歯を噛んだ。
幾条も発射されている光線と、断続的に放たれる雷撃の回避はレインに一任しているために、アキラには考える余裕があったのだが。
「もう、めちゃくちゃだよ!」
ツキから脳裏へと直接送られる射線の予測に基づいてレインは回避を行っているのだが、六機もの円盤から乱れ撃つ光線を避けきるのは至難の技であった。
「魔力の供給、遅い!」
「バイパスの数が少ない。これが限界だ」
レインの泣き言に、冷静に耐えろとクオーツが応える。クオーツとて、最大限に性能を引き出せるようにエーテル炉からの魔力の流れを制御しているのだ。それはレインも理解しているのだが、泣き言の一つも言いたくなるような状況だった。
「リーネ、念話は?」
「大丈夫、使えるよ」
「それじゃ、ノーミーとリータは引かせろ」
このまま守りながらの戦いは不利を背負い込んだままとなる。もちろん、そのまま伝えると傷つけることになるのはリーネも理解しているので、魔力の噴出に支障を来たすと適当な嘘をついて伝えたのだが、それを信じたのか、後方で追随していたF-3改とリータが攻撃を回避しつつ距離を取っていく。
「魔力の貯蔵は?」
「宇宙空間とは違って、やはり地表はエーテルが薄い」
アキラの問いかけに、クオーツが演技交じりにぼやく。魔力量は先ほどとは変わらない。
そうなれば、主砲は使用出来ず、副砲ないしは魔術で攻撃するしかないのだが。
幼女もどき:「魔力の貯蔵は十分か!」
にゃ~にゃ~:「すかっすかっす」
まぁ、
星間飛行用の機体だからね。
次回、本日の一時間程度の後に投稿いたします。




