11-11
引き続き、
第11章を投稿いたします。
最終章です。
どうか、よろしくお願いいたします。
ダーク 管制施設内部 頂天号 操縦室
破口を抜けて、ダークの一部、恐らくはこの星を管制している施設に飛び込んだ頂天号は、トンネル状の通路を飛んでいた。何かの飛行体の発進にでも使用されるのか、高速で飛ぶ頂天号でも充分に余裕のある大きさだ。
前方の映像の一部に、施設の地図が映し出されており、施設の奥に動かぬ光点とそこへと向かって動いている光点を瞬かせている。
もちろん、動いているのが頂天号。動かぬのはリーネの位置だ。
「前方、魔力反応」
地図に新たな赤い光点が灯る。ツキが反応位置を示したのだ。
それは、トンネルから、広い広場、恐らくは格納庫であろう場所を隔てる位置であった。
高速で飛ぶ頂天号は、すぐに目視できる場所まで移動していた。
目前で格納庫の扉が閉じていく。
ためらいなく副砲のトリガーを引くアキラ。
扉を数発の魔力弾で破壊し、更にはその周囲にも撃ち込んでいく。迎撃火器の存在を予測したためだ。
一気に視界が開けた。
窮屈なトンネルから逃れた喜びを表すように、レインは格納庫の床から離れて、機体を傾けて次なる通路を目指す。
ツキが再び魔力の反応を見つけ、その赤い光点を頼りに、アキラが副砲にて破壊する。
破壊され、漏れ出す魔力を潜って、次なる通路へと飛び込む頂天号。
「レイン、飛ばせ。壁への接触なんか気にするな。俺が避けてやる」
「分かりました、主様!」
魔力の出力を操作するレバーを引き、更に速度を上げるレイン。アキラは右手に副砲のトリガー、左手には操縦桿を握っている。
レインには進路を保たせ、壁に接触しようとする機体を、アキラがスラスターで避ける。すでに、アキラがレインに命じてからは、言葉には頼っていない。
そう、レインが刀であった時のように。
一体となっていた。
思考がつながり、脳裏で交わすのは一瞬のこと。思考の速度が身体速度を超えていく。
それはツキも同様であった。
アキラの脳裏に攻撃すべき場所が瞬時に示されるようになる。
反射のように副砲のトリガーを絞る。
トンネルの内部にまき散らされる虹の火花。
魔力の残滓の中を、頂天号は軽快に駆け抜けていく。
ダーク 指揮管制室
この星、ダークの全て制御している部屋の、一段高い場所にて椅子に座るリーネは、思わず親指の爪を噛もうとして、それを赤い手袋に阻まれる。
脱ぎ捨ててやろうか思うが、何故かそれが出来ない。
代わりに、床へ何度も踵を叩きつける。
「竜兵は、まだまだ覚醒は無理ね」
「すでに覚醒シークエンスは開始していますが」
側に控える保守竜がリーネに応える。
ただ、一体だけが急速に、しかも自ら目覚めようとしていると保守竜が告げる。
各所に配置された精霊達が、監視カメラの如く通路を高速で飛び続ける頂天号の映像をリーネに見せていた。
あの狭い空間、何故にあれほど高速で飛び続けられるのか。そして、通路に用意された迎撃用の魔力弾使用の火器を、何故にあれほど正確に撃ち抜ける。
リーネが持つ迎撃の手段は、ほとんど自動化された火器しかない。今動けるのはリーネ以外には保守竜だけであった。その名の通り、保守竜とは保守のための存在であり、迎撃に使用するなど出来ないのだ。
リーネは直接出向くことも考えるが、映像の片隅に示されている施設内図から、しばらくすれば、あの敵はここにやってくるであろうことが分かる。
ならば、待とうではないかと、リーネは椅子に身体を沈めるが、身体を受け止める椅子から受ける違和感からは逃れられなかった。
蒼龍の守護地 ホームタウン
魔術による隠蔽を解いた円盤達の外壁は、グロテスクな様相をしていた。
硬質ではあるが、どこか生物を思わせるが、明らかに機械設備であることが見て取れるのだ。
組み立てられた機械ではなく、そうなるように生み出された機械であるかのよう。
存在すべきはずの継ぎ目や留め具などが一切見当たらないのだ。
「そうか、そんなやり方もあったよね……」
普段からは想像出来ない言葉で、ノーミーが側をパスした円盤達を見て呟いた。言葉が震えていることにスノウが気づいた。
ノーミーの歯がきしむ。
円盤達から離れ、反転をする間にスノウが尋ねる。
「どういう意味?」
「あれは、魔術で生んだ生物、疑似生物なんだよ」
「……あまり、よろしくない物のようですね」
そのスノウの言葉にノーミーが無言で頷く。
この星の精霊達は命の輝きを見るのが大好きだ。
だから、ノーミーが今目にしている命なき生物は好きではなかった。輝きを放つものすらないのだから。
「消し去ってあげたいけど、六機もあると厳しいよね」
「どうします?」
「守るって言ったしさー」
先ほどとは違って、元の言葉に戻ったノーミーがにやりと笑ったのが、契約者であるスノウには、見えずとも分かった。
「呼べって言ってたし」
「なるほど」
聞いたスノウもにやりと笑う。
蹴り上げられたように、F-3改が金属音を立てて、急上昇を始めた。
慌てたかのように、円盤達がそれを追おうとするが、いち早く加速し角度を垂直にして機体を立てたF-3改に追いつくことができない。
「それでも、数は減らしておくし」
ノーミーが何て親切な私と、自画自賛をして、それを聞いたスノウが頭を抱える。
ノーミーが操る機体が、上昇に使用していた魔力の噴射を絞る。必然、重力に引きずられて、垂直に上昇していた機体の速度が落ち、やがてほとんど慣性で上昇していた力と、引きずり下ろそうとしている重力が釣り合い、一瞬だが静止するかのような状態となった。
それを、円盤達は失速したかと捉え、重力に抗して推力を上げて追いつき攻撃を加えようとした。
くるりと、ノーミーは天を向いていた機首と尾部を入れ替える。
意図を悟ったスノウが、すぐさま精霊に呼びかけ、機体外に魔方陣が描き出された。
尾部が天を向いた瞬間、魔力の噴射が再開される。
F-3改が逆落としに、重力ばかりでなく、魔力の噴射も使用しての降下を行った。その加速に円盤は対応できず、ノーミーの操る機体を見失ったのか、速度を落とすが、それを見逃すスノウでは無い。
スノウは円盤達とすれ違う直前、その上方にて魔方陣から多量の土の弾丸をばらまいた。
機体の加速が加わった弾丸が、円盤達にスコールのように降り注ぐ。
円盤の外殻を貫くことは出来なかったが、その速度と質量によるエネルギーに抗しきれずに、多くの損傷を受ける。それは外殻ばかりでなく、むき出しになっていた装置にも損傷を与え、半分に当たる三機がふらつき高度を落としていった。
「半分片付けば充分かな?」
「ええ、大丈夫です」
魔力を噴射したまま降下していては、地表に激突をしてしまう。
ノーミーが操縦桿を力一杯引き寄せ、機首を上げて機体を水平に戻そうとする。
スノウの身体が重力加速度により、席に押しつけられて肺から空気が漏れて、喉から苦悶の音として漏れた。しかし、それでもスノウは風防の外を見続けた。
「来た!」
そのスノウの言葉に、ノーミーは敵の攻撃を感じ取り、水平に戻りつつあった機体で、ロールを打って射線から逃れた。
上方からの圧力ばかりでなく、左右に身体を振り回されるスノウ。以前、アキラに教わった血液が下がるとはこのことかと、スノウの脳裏によぎる。呼び出した精霊に下半身を締め付けさせて重力加速に対するスノウ。
機首が水平を向くが、更に持ち上げていくノーミー。下がりすぎた高度は、位置エネルギーを利用出来ない。
だが、動きが少し緩慢に感じたスノウが絞り出すように、叫ぶ。
「私に構わず、機体を攻撃位置へ!」
スノウは自分に気にせず攻撃をと主張する。
「駄目さ。限界ぽい」
ノーミーの言葉に反論が出来ないスノウ。これがただの相手であれば強がりも通用するのだろうが、相手は契約している精霊である。スノウの身体の状態などすでに把握しているだろう。
これが獣人としての限界なのかと、スノウは唇を噛む。
「言っとくけどさー、今のは普通の獣人だったら内臓破裂なのよ」
さらに機首を上げつつ話すノーミーに、えっとばかりにその席の後部に視線を向けるスノウ。
「契約の効果っての!」
完全に機首が天を向いた。魔力を全開にして、機体は再び天に向かう。再度の上昇に、円盤達が追いかけているが、脱落した三機は地上近くでふらついて停止している。
どうやら、森の中から攻撃を受けているようで、外殻に受けた土の弾丸や雷撃、水撃を弾いていた。反撃をしていないのは、何らかの不具合が内部で発生しているからか。だが、その外殻の傷が塞がりつつあった。
自己修復をしているのだ。
時間をおけば戦線に復帰してくるだろう。
「効果って、肉体にも?」
「もちろんろん!」
「羽根が生えるだけじゃなかったんですね」
精霊の羽根は魔力に依存する。だから、スノウは身体には変化はないものと考えていたのだ。
ちゃうし、そんな反論がノーミーから返ってくるが、機体は上昇に転じながらも速度を上げていく。ノーミーは機体を左右に振り、バレルを打って円盤達の射線から逃れている。
上昇を続けるF-3改。
ノーミーは次の手を打つつもりだ。スノウもそれを察する。
今度は推力を絞る気配はない。
スノウとノーミーが機体と繋がる。それは目に見えないパイプ。さらに、スノウは精霊に呼びかけて魔方陣を機体外に描き出す。
機首が結界にぶつかり、機体の上昇を阻む。その衝撃にスノウの身体が前方に投げ出されそうになるが、席についたベルトがそれを阻む。しかし、ベルトと身体の接触部分に負荷が集中してスノウの身体を傷つける。
「魔力、供給して!」
その言葉に、ノーミーとスノウは機体へと魔力を送り込む。
その魔力を利用して推力を増す。
「破壊して!」
その言葉を合図に、機首へと魔方陣が走り、結界へとぶつかる。
F-3改の機首から圧力を加えられていた結界が、その破壊の魔術でガラスが破壊される音とともに割れた。
結界は突き破られたが、すぐさま推力を絞った機体は落下を始める。
ばらまかれる念話。
そして、真っ先に受け取った一体が姿を現すが、その瞬間結界が修復されてしまう。
転移してきたのは一体。
宙にあらわれたその姿は、躊躇無く円盤の上に落下した。
『来たぜ!ノーミー!』
『やっちゃえ!リータ!』
そのノーミーの声に、笑って歯を剥き出したリータは、業火を纏った拳を円盤の外殻に叩きつけた。
「肉弾かよ」
そうノーミーとスノウは同時に呟いた。
J○?もどき:「やっちゃえ!リータ!」
妹狼:「……二回目ですか」
だよな。
次回、明日中の投稿になります。




