11-8
引き続き、
第11章を投稿いたします。
最終章です。
どうか、よろしくお願いいたします。
周回軌道 頂天号 操縦室
アキラ達は真っ直ぐダークへと向かった訳ではない。
実のところ、ツキやレインはすぐさまダークへと向かう事を主張していたが、アキラとしては、何も用意なく宇宙へ出たのである。頂天号を操縦する練習は地上でも時間を見つけて実施していたが、宇宙空間はやはり別物だとして、周回軌道にてしばらく留まり、大気圏内との違いを確認することにしたのだ。
というのはアキラの建前で、実は宇宙酔いを危惧していたのだ。
そのアキラの危惧は当たることになる。ただし、アキラがではなく、レインがその症状を現したのだ。どうやら、人や獣人でなくとも、船酔いのような症状を起こすようだ。
「宇宙酔いじゃありません!」
レインはそう主張するが、その後にすぐさまえずいてトイレへと駆け込んでいた。
出てきたレインは、食べ物が良くなかったと言いだし、それを準備したツキに睨まれる事になり、あわてて撤回していたが、あくまでも宇宙酔いではないといった主張を繰り返していた。
「ツクモガミでも酔うんだ?」
「さあ、私は全然問題ありませんが」
そう言えば、ツキはシルバーから落ちてきたのだと、今更ながらに思い出すアキラだ。宇宙空間は二度目なのだ、ツキにとっては。
とりあえずアキラはレインの主張を去なして、もっとも宇宙空間で過ごした時間が長いクオーツを教師にして、しばらくは微小重力下での操縦の習熟に励むのだが、その間、する事もないので、ブルーと同じサイズの精霊馬達が、機内を徘徊しており、パカパカと音を鳴らしているのだった。
蒼龍の守護地 ホームタウン
アキラ達が、未だに周回軌道上でもたもたとしている間に、ホームタウンにはF-3が着陸しようとしていた。
頂天号が旅立つその日のうちにもノーミーがエンに交渉をして入手していたのだ。さすがに言葉通りにシオダに談判をするような事はせず、権限がありそうなエンと会ってまで、ノーミーは頼んでいたのだ。
最初は技術流出を危惧して渋っていたエンだが、ノーミーが技術秘匿と、改良データの共有を約束したことから提供が実現したのだ。どうやら、守護地内にて運用することになるので、ブルー達ドラゴンにも連絡が行ったらしいが、詳細をスノウは知らされていない。
ただ、スノウにはエンから念話で、技術流出に注意するように、こんこんと話を聞かされていた。
頂天号が飛び立ったその日のうちに、ホームタウンでは新たな飛行体がやってくることになった。
性能的には、頂天号とは比べることは出来ないものだが、ホームタウンで働く精霊工学士や鍛冶師などの技術者にとっては充分に興味引かれるものであった。
さっそく、ノーミーがホームタウンの頂天号が駐機していた場所にF-3を降ろそうと降下してきた時には、技術者達が集まって、その着陸する様を見つめている。
その目は、まさしく新たな玩具がやってきた子供の目のように輝いていた。
仕事へと戻るように、懸命にミュールが声を張り上げていたが、誰一人としてその場から去ろうとはしないので、やがて、諦めることになるのだが。
すでに、着陸してくるF-3の後席はスノウであると知られているのか、出迎えに来たはずのスノウは、技術者達に囲まれて、質問攻めにあっていた。しかし、エンから技術的なことはあまり明らかにしないように言い聞かせられているため、返答に困るスノウだ。
そんな、スノウが地上で立ち往生をしている時に、F-3は無事に地面に降り立ち、さっと風防が開けられたかと思うと、ノーミーが飛び降りてきた。
さすがに大精霊であるノーミーには遠慮があるのか、また、それを出迎えに来ているスノウも技術者達から解放されて、機体の下で顔をあわせることになった。
「何か、すごいことになってるし」
「航空甲板で、頂天号が駐機している時を思い出します」
そうだねー、笑い合うスノウとノーミーだが、周囲では、技術者達のギラついた視線が機体を舐め回していた。
さすがにこのままでは不味いと、また、技術者達をいつまでもお預け状態にしておく事も出来ないので、ため息をついたミュールが前に進み出た。
「それで、その機体はどうするのかな?」
「改造しようと思うのさ~」
そのノーミーの言葉にミュールは頭を抱える。
なぜなら、技術者達が歓声を上げて、騒ぎ始めたからだ。
資材ならば、ふんだんに揃っている。そして、それを管理しているディアナとペノンズが進み出た。
「任せて貰おうかのう」
すでに、空母に乗り込んでいた時から構想していたのか、ペノンズが舌なめずりをして、一日二日で充分と言う。
「くふふ、腕がー、鳴りますねー」
ディアナとペノンズは怪しい笑顔をあげ、スノウを怯えさせ、ノーミーを満面の笑顔にさせるのだった。
衛星軌道 頂天号 操縦室
慣熟飛行を終えた頂天号は、周回軌道を離れて、瞬く間の内に衛星軌道にたどり着いていた。
ダークはシルバーの外側の軌道に乗っていたので、途中その軌道を横切ることになり、遠く銀に輝くその姿を見ることが出来た。
その映像にじっと眼を凝らしているツキに、アキラは声をかける事が出来なかった。
何を話せば良いのか。
そんな事を考えている内に、宇宙酔いからあり得ない時間で回復をしたレインが張り切って速度を上げていたために、瞬く間にダークの軌道についていたわけである。
映像の中で、近づくダークはその名の通り、光りすら吸収しているかと思えるほど、黒い表面を露わにしていた。
だが、その黒が近づくにつれて明らかになる。
「鋼なのか?」
「いや、金属であるのは確かだが、鋼とは断定出来ん」
アキラの質問に、クオーツが答える。
それほどダークの表面は滑らかで、金属である事を示していた。そして、それは大きさから大気など存在していないと考えられるダークの表面に、隕石が落下した形跡がないことを教えている。いや、落下はしたが、その傷をすぐさま修復しているシステムが存在、あるいは落下などさせない機構の存在を伺わせる。
ダークは正体不明の金属に結界を張られる形で存在をしていた。その結界が隕石の落下を防いでいたのか。
「結界はどんな感じだ?」
「強力な、としか言いようがないな」
クオーツでは、結界の性質までは正確に読み取ることが出来ないと言うのだ。魔術の術式まで、正確に見抜くことの出来るリーネとの違いがここにある。
「突っ込んでみるか?」
「いや、それは止めた方が良い。それより、私に考えがある」
クオーツの提案とは、魔力を波動の形でダークに向けて放ち、その反射を観測する事で、結界の内容やダークの構造が多少でも分かるのではないかというものであった。
「……、無難そうな方法だな。やってみよう」
アキラの許可を得たクオーツが、周囲の観測をしているツキの協力を得て、機首から魔力を波動にして照射した。
だが、ここでクオーツとしては想定外なこと、アキラとしては忘れていた事が起こった。
魔力を波動で照射するということは、いわゆるレーダー波を照射するのと同義。クオーツにとっては調査の為の、当たり前の手法であるが、アキラがいた元の世界では、レーダー波の照射は攻撃準備と捉えられる。
「魔力の反応増大、魔方陣が現れている!」
ツキが叫ぶ内容は、前方の映像からも明らか。
ダークの地表に、幾つもの巨大な魔方陣が浮かび上がってきた。
「回避!」
それを攻撃のためと察したアキラが叫び、レインがすぐさま反応して、頂天号を反転、最大の魔力噴射でダークから離れた。
先ほどまで頂天号がいた場所を、幾条もの光線が貫いていた。
それを見たアキラが唇を噛む。
予測しておくべきであったと。
光線は頂天号の船殻であれば弾いたかもしれないが、ダークに敵対していると思わせてしまったことが問題であった。
「すまない、軽率だった」
「仕方がないよ。俺も注意が足りなかった」
しかしである。アキラとしては気に掛かるのが、リーネはダークを司っているはずだが、全体は掌握出来ていないのであろうかということである。頂天号である事は分かっているはずなのに、攻撃を仕掛けてくるとは。
「しかし、今の照射で分かったことがある」
「術式が読めました」
ツキとクオーツがうなずき合う。
どうやら、同じ結論に至っているようだ。
「何者も通すことはない上に、攻性の防御術式だ」
そのために、魔力の波動を攻撃と判断して、反射的に照射元へと攻撃を行った。
「それじゃ、自動反応ということか?」
ダークのどこかにいるはずのリーネは関係がないのかと、アキラが問うが、それに対してツキの表情が陰る。
「……、残念ですが、自動ではなかった様子です」
それを聞き、アキラは衝撃を受ける。
リーネが自らの意志で頂天号を攻撃したというのだ。
「嘘だろう……」
重苦しい空気が操縦室を支配した。
社畜男:「犬も船酔いするんだよな」
わんわん:「犬扱いするな!」
車酔いもするそうで。
気をつけてあげてください。
次回、明日中の投稿になります。




