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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第11章 We Are The Champions
210/219

11-7

引き続き、

第11章を投稿いたします。

最終章です。

どうか、よろしくお願いいたします。

カーマンライン手前 頂天号トップ・オブ・ザ・ワールド 操縦室

 星から宇宙空間へ出るということは、その星の重力、いわゆる引力を振り切らねばならない。

 エネルギーを推進力として、地表を走る、速度を上げる、あるいは空間を飛翔する。それとは違う、引力の名の通り、地表へと引き戻そうとする力に抗して、暴力的に振り切って初めて宇宙へと到達できるのだ。

 だから、ロケットなどは荒々しくも、美しく離昇するのだ。

 しかし、頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドは、抱えるエーテル炉が出力する魔力が桁違いであり、航空機が高度を上げるが如く、水平と地表方向への魔力噴射で大気圏と宇宙空間の境目であるカーマンライン手前へとたどり着いていた。

 もちろん、精密な高度計がないため、高度百キロメートルとされるカーマンラインに到達したとは断言はできないのだが、アキラの感覚としては宇宙空間の一歩手前まで迫っていると感じていた。

 すでに頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドの周囲は暗く、宇宙空間と見分けがつかない状態であったが、クオーツが告げる機体周囲の僅かな大気の存在のため、未だ大気圏内である事が分かる。

 空に線が引かれているはずもなく、クオーツが空気が観測出来ないと宣言したことによって、頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドは大気圏を脱出していたことになる。ただし、それでもまだ引力の影響を受けていることは間違いがない。たとえ、ダークが存在する衛星軌道へたどり着いたとしても、まだ引力の影響はあるのだから。

 そして、大気も観測出来ないだけであって、存在はしているのだろう。

 だが、大気と引力の存在が薄れて行くに従って、強まっているのがエーテルと魔力の存在であった。

 宇宙には、地表と違ってエーテルが満ちている。

 そして、エーテルから自然転換される魔力もだ。

 一気に下方へと噴射されている魔力を強く吹かして、ラインを突破することも可能であったが、エーテルによる干渉や抵抗に注意した方がよいとの、クオーツの提言を聞き入れ、アキラはゆっくりと高度を上げるようにレインへと指示していた。

「機首に、少し重みを感じます。これが宇宙(そら)のエーテル……」

 操縦桿を握るレインが、濃密なエーテルによって機体にかかる抵抗をその手で感じていた。

 もう少しでラインにたどり着くといった時に、ツキが声を上げた。

「地表方向から追ってくる物体二つあり。映像まわします」

 その言葉とともに、漆黒の宇宙を映していたガラス面の一部に、青い星が映し出された。その青を背景に二つの物体が見えた。

 それは白いドラゴンであるハクと、赤きドラゴンのロッサであった。

 もともとドラゴンは羽ばたいて空を飛んでいる訳ではなく、魔術的に空を飛んでいるので、空気の薄いこの場所であっても問題なく上昇をしていた。

「念話が来た。エーテル炉から伝声管につなぐ」

 どうやら、二体のドラゴンから音声が届いており、念話のラインを各々につなぐよりも、伝声管によって操縦室に流し、共有化した方が有益とクオーツは判断をしたようだ。

「よう!初宇宙、見送りにきてやったぜ」

 先ずは伝声管から、ロッサの声が聞こえてくる。遅れてハクの声も。

「我々も宇宙には出たことはないのですがね」

 それを聞いたロッサが要らない事は言わなくて良いんだと、ハクに抗議するが、そんな言葉もハクは知らぬ振りだ。

「ダークまで、距離があります。ご注意を」

 そのハクの言葉には、円盤を警戒するようにとの意味が込められている。

「わざわざありがとう。行ってくるよ。でも、リーネは……」

「心配すんなよ。我らの妹君はお前にぞっこんさ!」

「大丈夫だ」

 リーネは帰還を選択すると、アキラについてくると二体のドラゴンは太鼓判を押すが、映像の中の眼が笑っていない。

 泣かせたら、分かっているだろうな。

 そんな意志が眼を通して、びしばしとアキラに突き刺さってくるのだ。

「えーと、とにかく行くよ」

 改めて出立の挨拶をするアキラ。そして、早く二体のドラゴンから離れた方が良いかと、気を利かせたレインが上昇する速度を上げた。

 映像の中で、小さくなっていくドラゴン。

「俺たちは、制約があって、宇宙空間には出られない」

 アキラの疑問を感じたのか、ブルーが答える。

 そう、なぜドラゴン達はダークへと赴かないのか。あれほど大事にしていたリーネが居る場所だ。

「創造主は、俺たちに好き勝手させたくなかったんだろ」

「ブルーは、こうやって出ようとしているけど?」

「運ばれていく分には問題がないようだな」

 実は、ブルーとしては、その制約を心配をしていたのだが、特になにもなく、こうやって宇宙へと出て行こうとしている。どうやら、自身の力によってのみ制約を受けるようだ。

「大気の観測が出来ない」

 それはクオーツによる大気圏を出たという宣言。

「ようこそ、宇宙へ」

 そして、宇宙に長く住んでいたクオーツによる歓迎であった。


 頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドを見送っている二体のドラゴン。

『行ったか』

 ロッサが普段とは違って、静かに呟く。大気が希薄で、音声をハクへと伝えられずに、念話でわざわざ呟く。

『俺たちは、時の概念が希薄だ』

『それでも、長かった』

 ロッサの言葉にハクが応える。

 そして、二体はしばらく念話を止めて、上昇していく頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドを見つめていた。

 先に静寂を破ったのはハクだ。

『リーネは幸せになるだろうか』

『なるさ、きっとな。命令(プログラム)を超えたからな』

『だからこそ、心配だ』

 そのハクの言葉には、ロッサは応えない。

 再び沈黙が流れるが、今度破ったのはロッサだった。

『ルージュがさ、料理をまた教えてほしいってよ』

『……来るが良い』

『おし!戻ろうぜ!ルージュを連れてお前ん家行くぜ!』

 それだけを言い残して、ロッサは逆落としに地表へと落ちていく。魔術もなにもなく、ただ、重力に引かれていくが如く。

 見送るハクは、やれやれとばかりに首を左右に振ってから呟いた。

「恐らくは……」

 やはり、アキラに頼るしかないのかと、小さく呟き、大きく白い羽毛に纏われた翼を広げて、地表へと向かう。

 風を切り始めた音の中、ハクは杞憂に終わることを願うのであった。


わんわん:「地平線だろ、水平線だろ、じゃなんで空平線じゃないんだ」

社畜男:「そんなの無いからだ」

わんわん:「??」

社畜男:「空と宇宙を隔てる線なんて自然界には無いんだよ」

カーマンライン、

カルマン線(私はこっちを習った。発音が違うだけ)は、

人が勝手に決めたものです。


次回、明日中の投稿になります。


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