11-5
引き続き、
第11章を投稿いたします。
最終章です。
どうか、よろしくお願いいたします。
明日、ダークへと出発すると、アキラが決めた事は、瞬く間にホームタウンはもちろんのこと、念話が使える者達を通じて、周囲の国々へと伝えられた。
先ずやって来たのは各国の大精霊達。
シルとディーネは、各々の国の王子からの手紙を携えており、そこには出発の際に見送り出来ぬ事を詫びており、安全な航海を願うと双方同じことが書かれていた。
航海とは大げさなと思うアキラだが、僅かの間で親睦が深められていたことに、暖かな気持ちになるのだった。
エンは、シオダからの手紙を託されており、艦隊の整備は順調で、再びくつわを並べることが待ち遠しいと記されていて、勇将、猛将と呼ばれるシオダらしいとアキラは微笑む。
サインは転移してくるなり、ノーミーに抱きつかれ、スノウやライラと静かながら会話を交わし、リータはミュールに存分にやれているかと、豪快に尋ねてミュールを赤面させていた。姉とも母とも慕うリータの豪快な様子を恥じての赤面だが、その内の一部は誇らしくもあったのだ。
そして、ローダンは肉を筆頭にしての食料品と、何と酒を持って登場した。こちらは転移ではなく、定期便に便乗する振りをしてだ。恐らくアキラの出発を知り、途中で合流したのだろう。
いかに許可を得ているとはいえ、守護地へ入ってくるのだ。そんな定期便を運営しているのはローダン商会でも信頼のおける、ローダンの腹心中の腹心で固められており、ローダンが大精霊である事は知っていたため、目前に突然転移したとしても問題はない。
ローダンとしても、商人として何かを持参すべきであろうと考え、定期便の中身を確認して、それを手土産とすることにした。
酒は、ツキがしぶしぶながら許可を出し、ブルーを代表にして喜びの声をあげることになった。食事等に関して、絶対の権限を有するツキは、ローダンが手土産を持って登場するまで、がっつりと禁酒政策を固持していた。
ローダンとミュールが集めた、この守護地で働く工学士や鍛冶師の技術者達は、頂天号の出発を聞き、最初はその技術的なイベントを喜び、期待して騒いでいたのだが、続々と集まり始めた、肖像画でしか見たことのないような各国の大精霊達に、驚き畏れて静まり返り始めた。大精霊が頻繁に出入りする場所である事は、理解していたつもりでもだ。
ドラゴンが守る地だけに、何か秘密の会談、国家間の密談でも始めるのだろうかと勘ぐる者までいる始末。
そんな事は慣れているのか、大精霊達は手分けしてあちらこちらを回って、緊張をほぐし、気にせずに騒ぐようにと場を解きほぐしていくのだった。普段あまり喋らないサインまでが頑張っている姿は微笑ましい。
そうなると、技術者の集団である。ローダンとミュールが選りすぐって集めた優秀な者達だ。
各所では、大精霊と直接会話出来るこの機会にと、大精霊を交えて魔術談義を始め、特に開放されている頂天号の周辺で活発に行われている。
社交に優れているシルなどが人気であったが、その態や言動から敬遠されるかと思われたノーミーが、意外と技術系に詳しい、特にブルーに鍛えられた建築系が詳しいとあって、人を集めていつもの言葉で活発に議論を交わす様子がおかしかった。
ツキが、ローダンが持参した肉が焼けたと、運んで来た時には大いに盛り上がったものだ。
そんな騒ぎをアキラとブルーはエールを飲み交わしながら眺めていた。
普段はアルコールは口にしないアキラだったが、こんな時だと、ブルーに言われて口にしている。
ブルーの横では、木組みの上に置かれたエールの樽を、魔術で冷やしながらレインが控えていた。空になったジョッキと深皿にエールを注ぐ役目も兼ねていた。周囲の喧噪の輪に比べて、退屈な役割だと思われているが、レインとしては主であるアキラを世話できて、とても幸せそうである。ブルーはついでといったものか。
そんな、エールを満たしたジョッキを持ってきたレインだが、テーブルに置いた際にその腕をアキラに掴まれる。突然のことに驚くレインが声を上げようとするが、アキラの目配せに口を慌てて閉じた。
「今から見る事は、口外禁止だ」
それと一杯ジョッキをと告げたアキラに頷いて、レインはその場を離れて樽の置かれた場所へと向かった。
アキラとブルーが並んで座るテーブル向かい側に、どかりと座る人物がいた。
先にアキラに命じられていたために、レインが運んで来たジョッキがその人物の前に置かれた。
一気に飲み干されて、空になるジョッキ。レインが呼び寄せられ、おかわりを要求する。
「やはり、エールよりも、あの世界のビールの方が美味かったのう」
「そうだな」
アキラは自分のジョッキに口を付けて湿らせる。まるで、そうしなければ舌が回らないとでもいうようだ。
「それで、何しに来たんだ?クソ爺」
アキラの前で、腰を下ろし、ジョッキに口を付けているのはアモンであった。
アキラの言葉には応えず、アモンは二杯目に口を付ける。先の一杯目とは違い、少しずつ口に含んでいた。
二杯目が半分になるまで、アモンとアキラは口を開かず、黙ってジョッキを傾ける。アキラの横に座るブルーも黙って、自分の深皿を舐めていた。
「親から引き離したわしを恨んでおるか?」
「何を今さら。そうしなければならない理由があったんだろ」
それくらいは理解出来る、分別の出来る年齢にはなっているとアキラは応えた。
「……育てて貰った恩、それは感謝しているさ」
「そう言って貰えるとな、わしは気が楽じゃ」
そう言って、アモンは地面に置かれていた鞄をテーブルに乗せた。
「俺のアタッシュケースじゃないか」
「入っていたパンは、食わせてもらった」
「捨てずにいて、何よりだ」
そう言って、アキラは自分の仕事に使用していたアタッシュケースを開く。中身はアモンが言うように、パンはなくなっていた物の、アキラが記憶しているものが全てそのままになっていた。
「何故これを?」
「一応な、荷物は全て盗るつもりであったが、お前さんが戻るのが早くて、それだけしか回収できんかった」
できれば、以前いた世界のものはできる限り、回収して、この世界で混乱を生みたくなかったのだとアモンは説明するが、無用な心配であったと。破壊者におかしな電子デバイスが伝わり、技術格差が生まれては大変だと。
「コンピュータでも入っとるかと思ったが、電子機器が携帯だけとは」
お前、大丈夫かと問いかけるアモン。流行に乗れておったのかと。
「うるさいな、盗られる場合が多いから、持ち歩かなかっただけだ」
「それで、やたらと書類が多かったのか」
どうやら、アモンは中身を探ってはいたようだ。
「鞄を返しに来たわけじゃないだろ」
アタッシュケースを閉じたアキラが、アモンを睨み付ける。
勢いを付けるかのように、アモンが二杯目のジョッキに残ったエールを飲み干した。
「リーネとツキを頼む」
「おい、それは俺が言うべきことだ!お前が言うな!」
今まで、一言も発していないブルーが、突然横から苛立ちを含んで口を挟む。
「分かっておるよ。しかし、息子と嫁が迷惑をかけたのは事実。それを孫に尻拭いさせようと言うんじゃ。余計とはいえな、一言だけでも孫に言いたくなるもんじゃ」
それを聞いたブルーが顔を背ける。アモンのことなど知ったことかと言いつつ。
「まあ、そういうことだ。後は頼んだぞ」
その一言を残し、アモンの姿は消える。どこかに転移したようだ。
「……逃げやがったな、クソ爺」
もっと言ってやりたいことがあったアキラだが、恨み辛みを言うのも育ててくれた恩でチャラにするかと、ため息をつくのだった。
「俺が言うのも何だが、あまり責めてやるな」
アキラが生まれた時、オベロンは本気で殺す勢いで鍛えようとしていたから、それを恐れて、異世界で時間をかけて鍛えるために、アモンはアキラを担いで逃げたのだから。
「オベロンは本当に馬鹿だから。馬鹿の天辺だ」
「父親らしいんだが、俺は分からないけど、そんなに馬鹿なのか。それより、幼子の俺をどうやって鍛えようとしたんだ」
剣なんか振れないだろうとアキラ。
「肉体に魔術を使って負荷をかけるんだ」
「何とか養成ギブスかよ。そんな古い概念使うのか!現代ではやっちゃ駄目だと言われてるぞ!挟むと痛いと思う!」
「何を言っているか分からん!身体を覆う魔力を増やそうとしてたんだよ!」
それを聞いて、ようやく納得するアキラだが、それをすると本当に肉体にとんでもなく負荷がかかり、大人でも七転八倒する苦しみなのだと、死に至る場合なぞざらにあるとブルーが続けた。
「本当に父親か?」
「だから、馬鹿の天辺」
なるほどと頷くアキラであった。
わんわん:「何とか養成ギブスってなんだ?」
社畜男:「バネ状のものを、上半身に巻き付ける」
わんわん:「ますます分からん!」
重いこんだら。
こんだら=整地ローラーの名称。
っていうネタもありました。
友よ、信じていたなんて……
次回、明日中の投稿になります。




