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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第11章 We Are The Champions
207/219

11-4

引き続き、

第11章を投稿いたします。

最終章です。

どうか、よろしくお願いいたします。

蒼龍の守護地スカイドラゴンフィールド 中心改めホームタウン

 以前、ドラゴンの住処や守護地(フィールド)の中心地は、便宜上ホームタウンと名付けられた。今後、十万人の住民が住む都市となる予定であり、名前が必要であったからだ。

 ブルーは、自分が守ってきた土地であることだし、蒼龍(ブルー)と名付けることを主張したが、被って分かりにくいということで、あっという間に皆から却下され、しばらくの間はいじけていた。

 もちろん、この土地の正式な持ち主であることが明らかになったため、領主名であるアキラと名付けることが複数名から、その中で声が最も大きかったのはレインであるが、主張されたが、すぐさまアキラによって却下された。

 しばらくの間の議論のはてに、アキラが主張する、いつでもアキラやリーネ、ツキ、そしてブルーが帰ってくる場所ということで、ホームタウンと名付けられたのだ。

 ローダンやミュールからは、都市の名前としては平凡に過ぎると言われたが、そこは将来相応しい名前があれば改名すれば良いと、アキラは押し切った。

 やはり、アキラの心の中には、この地を名付けるのに、リーネがいない事をさみしく思い、早くここに連れ帰りたいという思いが強かったのだ。

 ただ、アキラには不安があった。

 現在、リーネは自分が司る場所であるダークにいるのだが、その場から離れたくはないのだとしたら。だが、それをここで考え込んでいても答えは出ない。アキラ自身がダークへと向かい、リーネがどうしたいのか、尋ねる必要があるのだ。

 実は、試しにレインやツキ、更にはスノウやクオーツなどの念話を使える者が、リーネへと念話を試みたのだが、誰一人としてリーネと会話出来た者はいなかった。大精霊であるノーミーや、解析能力に優れるクオーツによれば、ダークそのものに結界が張ってあり、念話や転移を阻んでいるのだと。

 もちろん、結界は全てのものを弾くわけではない。条件が揃えば開くのだ。そうでなくては、リーネが戻ることも出来なかったであろう。

 そんな都市の名付けをしたり、頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドの点検調整をしたり、宇宙港の構想をしたりと、アキラはダークへと行くという、逸る気持ちを抑えつつ過ごしていたのだった。


 会議室の一角、アキラはテーブルに向かってメモを取っていた。昔読んだ小説や漫画、見ていた映画やアニメなどを思い出して、宇宙港に必要なものを書き出していたのだ。

 この直前には、ミュールと一緒にホームタウンを回って、予定地を示す地面に張られた縄を確認し、上下水などのインフラの設置について打ち合わせをしていた。ミュールとしては、アキラが語る以前いた世界の都市に設置されていたインフラの話しを聞くのは驚きの連続であった。

 財団(ファウンデーション)の商都リアルトも、都市計画を念入りにして建設した都市であったが、それ以上に衛生にも気を配った設計はミュールを感心させるほどであった。

 また、ある時には、ブルーの許可を得て、キムボールやエリオットなどの訪問もあり、その相手をするのもアキラの役目とあって、無聊を託つなど言っている場合ではなく、時間が過ぎていく。

 メモをとっていた手を休めたアキラは、カップに手を伸ばそうとするが、それを横から伸ばされた手により、奪われてしまう。

「冷めているので、入れ替えますね」

「びっくりした」

 何時からいたのかと尋ねるアキラに、少し前からと答えるツキ。

「気がつかなかった」

 そんなアキラの言葉に、ポットを手にしたツキが微笑んだ。

「よほど集中していたようですね」

「みたいだ。若返っても、本当の年齢相応に記憶は衰えているのかな?」

 それを聞いたツキはクスリと笑い、さあ、どうでしょうと言いながらポットを傾ける。そんなツキの様子に、アキラが尋ねた。

「積み込みは?」

「終了しました。クオーツが点検を終えれば、いつでも」

 ツキはこれを告げに来たのだ。恐らく、クオーツの点検も今日にでも終わるであろう。

 ダークへと向かう時が来たようだ。

 ツキが入れてくれたカップを受け取り、それを両の手で挟み込んで弄ぶアキラ。少しずつ口に含んでいく、その暖かさを感じながら。

 ポットをテーブルに置いたツキは、アキラの前にテーブルを隔てて座り、茶を喫する姿を眺めていた。

 何も話さない。だからといって、気まずいわけではない。

 アキラとツキはしばし静寂を楽しむ。

 やがてカップが空になった。

 テーブルにカップを置いたアキラが、口を開いた。

頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドを見に行かないか?」

「ええ、行きましょう」

 二人は並んで会議室を後にした。


 露天の、仮初めの駐機、下生えは草だけの場所に頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドは佇んでいた。急ごしらえであるが、機体を格納するハンガーを作ろうかとノーミーがアキラに提案したのだが、それよりも町作りを進めているミュールとブルーを手伝って欲しいと断ったのだ。

 露天でも大丈夫な頂天号トップ・オブ・ザ・ワールドの事より、今は優先すべきはそちらであろうと。

 すでに、船殻に描かれていた呪紋は、クオーツがエーテル炉を調整して、自らを塗装するかのように薄い船殻を一枚生み出して覆い隠していた。その自己再生能力には、アキラは大いに驚かされたが、クオーツによれば魔術による物質創成に過ぎないとのことだ。それと、クオーツはその薄い船殻に色々と機能を施したと告げていた。

 アキラとしては、頂天号トップ・オブ・ザ・ワールド疑似精霊(イミテーション)であることを改めて思い知らされたことになる。

 滑らかな船殻に手を伸ばしたアキラは、この機体が自分のものである事が、未だに信じられなかった。しかも、制作したのがアモンであることも驚きであった。

「剣士じゃなかったのかよ」

「剣聖ではありましたが、精霊とも相性がよかったようです」

 そうなのかと、アキラは振り返って一緒に来たツキに首を傾げる。

「もともと、自らの剣は自分で作る、そんな考えがあって、魔術を利用しての鍛冶もされていたようです。精霊工学も学ばれていたとか」

「それでも、この機体をクソ爺がつくったというのは信じられない」

 いかに、以前いた世界の知識があったとしても驚きだ。もちろん、魔術を利用してのものなのだろうが。

 アキラはツキと会話をしつつ、船殻をなぞって開いたハッチへと向かうと、気配を感じたのか、白い大型の猫、クオーツが顔をのぞかせた。

「点検を終えるのは、もう少し時間が欲しい。今日には終える」

「もちろんだ、しっかりとお願いするよ」

「明日、行くのか?」

 そのつもりだと、クオーツの言葉に頷きを返すアキラ。それを決定と捉えたツキが、皆に知らせてくると、その場を離れていった。それをアキラはクオーツとともに見送る。

「アキラはこの機体、いやエーテル炉によほど好かれているようだ」

 そのクオーツの言葉に、首を傾げるアキラ。

「いや、恐らくほとんどの者は感じられないほどの、微弱な反応なのだがな」

「好かれやすいのさ」

 ほら、ツキとかレインとかと、アキラは言う。

「そういった意味では、私も該当するのかな?」

「クオーツはツクモガミではなくて、生命体だろう?」

「そうなのだがな……」

 珍しく、歯切れの悪いクオーツに、どういうことだとアキラは首を傾げる。しかし、クオーツはそんなアキラに、気にするなと言って話題を変える。

「さて、明日出発となれば、皆は夕食で騒ぐのだろうな」

「そうだろうな、付き合ってくれよ」

「もちろんだ」

 本来、食事をする必要のないクオーツだが、今晩は同席してくれるようだ。

 出発の時が近づいている。


わんわん:「飲めないから、酔えないだろう」

にゃ~にゃ~:「確かに」

わんわん:「酔ったりしたくないのか?」

にゃ~にゃ~:「そんな時は、円周率を計算することにしている」

わんわん:「……そんなの、小数点以下二桁で充分だろう」

同意。


次回、明日中の投稿になります。

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