10-18
引き続き、
第10章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
「はっ?俺、それともクソ爺に出資?経営権は?」
アキラとしては訳も分からずに、出資を受け取ることはない。これは正しく愛花の教えであった。無償とか無料とかが一番怖いんだぞという教え。商社にいた時に、赴任国で政商まがいのことをしていたのも大きい。
「まぁ、それは冗談だけど、ドラゴン達が金銭を貯め込んでいたのは、今回のことのためなのよ」
ロッサを締め上げて吐かせたとローダンは言うが、最強と言われるドラゴンを、大精霊がよくも暴力に訴えて勝てたものだとアキラは感心する。もちろん、ロッサには制約があったからであろうが。
それを聞いて、驚くのはアキラだけではなく、ミュールもであった。
「だから、返す必要もないし、必要な金は存分に使ってくれって、三体のドラゴンからの伝言」
それはドラゴンの資産状況を知るミュールにとっては驚きだった。確かにドラゴンが資金を出すとは聞いていたが、それが無制限だとは思わなかったからだ。いや、そもそもドラゴンの蓄財がこの時のためと知って、なおさら驚いていた。
驚いたのか、呆れたのか、アキラは口を開けて返事も出来なかった。
ローダンの話しを聞いて、ミュールが考え込んでいた。当初より、莫大な予算規模の資金が動くと聞かされていたが、今の話しであれば、湯水の如く資金が市場へとなだれ込むこととなる。
恐らく、大きく経済が動くとミュールは判断し、資材の購入などはよほど慎重に行う必要があると考え、更には自国の経済まで考えなければならない。ただ、国家としては、事前に多額の資金が動く事が知れたのは良かったと、ミュールはそちらに関しては胸をなで下ろすのだった。
ミュールが経済のシミュレーションを頭の中で実施している間に、ローダンは計画の内容を、ほぼアキラに説明を終えていた。
アモンからの依頼により、宇宙港の建設、並びに一万人の兵士の駐留可能な都市建設。そして、これが一番難しいであろう、兵士達を養うための十万人にも及ぶ住人の確保。
そう説明をしたローダンであったが、まず宇宙港というものが、よく理解出来ていない。アモンが伝えたのは、アキラならイメージ出来ると言われただけだ。更には、兵士一万と言うが、その兵士がどのようなものなのかも伝えられていない。歩兵だけなのか、重装兵なのか、あるいは騎兵部隊なのか諸兵科連合なのかすら分からないのだ。
兵士に関しては、アモンもローダンに対して、口を濁していた。ローダンが問い詰めたところ、どうやらアモンもよく分かっていない様子であった。ただ、数だけが判明しているのだと言うばかりであった。
予算的には問題がないであろうから、ローダンはミュールと相談して、とりあえずは十万人が養える規模の都市を建設する事を方針に定めた。とはいっても、いきなりの十万人ではなく、そこは順序立てて増やしていく予定としていた。
「都市建設は良いのよ、経験があるから。それより、問題は宇宙港だわ。どんな施設が必要かすら、見当もつかない。船の港と一緒でいいのかしら」
「いや、かなり特殊なものになるから」
そもそも、宇宙港といっても、垂直発射台が必要なのか、水平発進が全て可能なら、必要なく、それでは滑走路はどれほどの距離が必要なのか。
とにかく、頂天号や仰天号が存在する訳で、それを参考にするしかなかった。また、艦載機ながら、F-3も参考にできると、アキラは共和国への協力を申し入れるべきかと悩む。
「クソ爺が、丸投げしやがって」
「仕方ないわよ、表に出る訳にはいかない人だし」
「そうなのか?」
あのクソ爺がと意外そうなアキラだが、仰天号だけではなく、頂天号を作り上げたとなると、各国が放っておかないであろう事に思い至る。紛れもなく、頂天号そのものが、この世界では異質で、いわゆるオーバーテクノロジーだ。
「資材の購入から、人材収集、あらゆることを隠してやらないと、とんでもないことになるわ」
「だからの守護地なのかもしれないな」
アキラの言葉に、ローダンが大きく頷いた。
「都市に関しては、ミュールが縄張りを初めているから、坊やは宇宙港の構想を始めてちょうだい」
「分かった、前の世界の創作物を参考に考える」そして、ミュールに視線を向けて「都市のインフラ計画を後で聞かせてくれ。都市を造るなら、その辺から考慮していこう」
アキラからの呼びかけに、あわてて注意を向けたミュールが頷く。ミュールにしても先進的な都市と考えていたために、願ったり叶ったりであった。
どうやら、他の世界の知識が取り込めそうで、アキラやローダンは心躍るものを感じるのだった。
ただ、アキラの心配は頂天号の整備であった。
もちろんアキラはリーネを迎えに行くつもりであった。もちろんリーネが戻る事を了承すればの話しだが、先ずはアキラがダークへと行く必要があり、そのためには頂天号が必要であった。
ツキ達は頂天号は星間飛行が可能な機体であると言うが、それはアモンがそう主張しているに過ぎないのだ。
気密や機関などを調べて、実際に可能なのか、改造などで手を入れる必要があるのか調べる必要があった。さらにはディアナやペノンズの手を借りる必要もあり、それをしたが為に、学術的興味心からどこまで横道に逸れるであろうか。
その手間と時間に、リーネと再び会えるのはいつになるだろうかと、アキラは肩を落とす。
そんな時、ひょこりとレインが入り口から顔を覗かせた。
「主様、何をお悩みですか?」
そう言いながら、レインは会議室に入ってきたのだが、後ろにはツキがついて来ており、続いて中へと入ってきた。
ツキとレインは風呂上がりなので、とても良い匂いがするので、アキラはそちらに興味が向きそうになるが、そんな場合でもないので、頭を振って振り払う。そんなアキラの様子を、ツキとレインは不思議そうに眺めている。
「頂天号を宇宙へと上げるのに、どうすれば良いのか考えていたよ」
それを聞いたレインが、きょとんと更に不思議げに頭を傾げた。
「そのための機体ですよ。改造すら必要ありません」
大体、もともとからして、あの機体を大気圏内戦闘に使用することの方がおかしいのですと憤る。
「でも、それはクソ爺が言ってるだけだろ」
「それがそうでもなくて……」
ツキが言いにくそうだ。
珍しく口ごもり、腕を伸ばして、組んだ両手を振りつつ、ツキは続けた。
「……どうやら、宇宙へは上がった事はあるようです。エーテル炉にログが残っていました。その一部にテキストで『一番乗りはわしじゃ』だと」
「あのクソ爺……」
別に宇宙への一番乗りを、アキラは果たしたいわけではないが、いらっとしたのは事実であった。
「恐らくは試験飛行の一環だったと思いますが、現在ではエーテル炉や機関の制御をクオーツが担当していることから、より確実に宇宙へは上がれます」
クオーツそのものが宇宙で長い時を過ごしてきたのだ。いわばもと来た場所へと帰るに過ぎないのだ。猫を被っているだけではないのだ。
「なるほどな。それじゃツキは物資のリスト作成と積み込みを。レインはそれを補佐してくれ」
「分かりました、アキラはどうします?」
「俺か?俺は宇宙港の想像図でも描くさ」
頂天号を見るつもりであったアキラだが、どうやらクオーツにでも任せれば大丈夫だと知り、手持ち無沙汰を埋めるかのように答えた。
黒の月 ダーク ????の広間
浮遊感の中、光りに包み込まれたかと思った瞬間の後に、目を開いたリーネは大きな空間に立っていることに気づいた。
周囲を確認しようとするリーネだが、それよりも自分の前で平状する、人間サイズの黒いドラゴンに気づいた。背中の羽根はリーネと同じ形をしている。
「ただいま戻りました、保守竜」
異常はないですかとリーネはそのドラゴンへと尋ねる。
「姫様不在の間、何事もございません」
それを聞いて、ため息をつくリーネ。いかに定めとはいえ、オベロンが睡眠槽ごとリーネをここから持ち出して、その時には何もしなかった保守竜達。保守はしても保安は担当外なのだろうかと、心の中で毒づくリーネ。
しかし、しっかりとオベロンから取り戻したドラゴン三体はさすがと言えようと、リーネはよくやってくれた兄達よと心の中で褒める。
そこで、リーネがふと気づいた。
記憶がデータとして蘇ってきた。今はまだ全てではないが、必要な記憶が戻ってきていた。というか、必要な時に戻ってさえくれれば問題はないのだ。
そして、振り返ったリーネが見たもの。
それは一万体もの竜兵が眠る、一万の大小様々な睡眠槽であった。
ここは、人でも精霊でもない竜が眠る、ドラゴンの広間であった。
「さて、アキラを出迎える準備を始めましょう」
深々と拝跪する保守竜を前にして、うれしそうな様子は、まさしく迎えに来る騎士を待つ、姫様そのものであった。
ただし、その破壊する力は、姫と呼ばれるものではないのだが。
これで第10章が終了いたしました。
次回からは第11章となります。
どうか引き続き、
よろしくお願いいたします。
次回、明日中の投稿になります。




