10-15
引き続き、
第10章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
頂天号 操縦室
先ずはその威力に驚き、放った側である頂天号の操縦室は静まり返り、いや否、リーネだけが不満げな声を上げていた。
「最小の出力だと、あんまり良くないなぁ」
アキラは釘付けになっていた、前方の円盤の惨状を映した映像から、機械仕掛けのように、かくかくとした動きで首を回してリーネに視線を向けた。
「あれで最小出力だと?」
「アキラが、威力は最小にしてくれって言うから」
リーネはやはり不満そうだ。
慌てたアキラが、首を回して後方に座るクオークを見るが、リーネの言うとおりと頷きを返す。
「最大威力で撃っていた時の予測は?」
「多分だけど、円盤全部が蒸発していたと思う」
円盤後方の陸地とかに影響が出るから、お薦めしないとリーネが告げた。
アキラは自分が手にしたその装備の威力に、今度は畏れではなく恐怖を感じる。そして、最小威力で放った自分を褒めてやりたいとも思う。
「敵、隠蔽されます。かなり高度な魔術を使用しています」
アキラとリーネとの会話には加わらず、敵である円盤を観測していたツキが、その変化を報告する。
前方の映像に、改めて視線をやったアキラは、その中で円盤達の姿が移動しながら薄れ、見えなくなることを確認した。
「ただの隠蔽ではないです。光り、魔術、全てのものから逃れる魔術行使ね」
ツキが、自分の計器盤を使用し、その結果を伝えてくる。
消え去る前の円盤達は移動を開始していたが、頂天号から遠ざかる方向であったために、ツキは逃走を図る模様と続けた。
「追いますか?」
当てずっぽうになりますがとレインが問いかけてくる。
「いや、無駄になると思うから、止めておこう」
「魔王艦隊はどうします」
「攻撃も救出もしない」
救出などは、魔王の自己責任で勝手にしてもらうおうとアキラが告げると、レインがそれでは帰投しますかと尋ねてきたので、頷きを返した。
そして、アキラは自分の放った主砲について、詳しく話しを聞こうと、リーネに視線を向けた時、それを見た。
リーネの身体が薄れていく。
「リーネ!」
その叫びの大きさに、何事かと操縦室にいた者全員ばかりでなく、後方の部屋に下がっていたスノウとノーミーまでが操縦室にやってくる。
「リーネの姿が消えていく!」
リーネの様子に気づき、驚きのあまりにスノウが口に両手を当てて言葉を放つ。眼は見開き、消えゆくリーネを見ていた。
スノウの慌て高ぶる感情を抑えるように、眼を濡らしたままのノーミーが、その身体を脇から抱きしめる。
「……お別れなんだ」
ぽつりとノーミーが呟いた。
更にノーミーは言葉を続けていたが、それ以上は聞きもせずに、アキラは席を立ち上がり、リーネのもとに駆け寄ろうとするが、それを阻んだのはツキだった。
背後から羽交い締めにされたアキラは放せと叫ぶ。力任せに逃れる事も出来たが、その時にはツキに怪我を負わせるかもしれない。そう考える余裕はまだアキラにはあった。
「本来の役割を果たすためなのです」
「役割、なんだそれ!」
「ダークに残されたもの。それの先頭に立つのがリーネの役割なのです」
ダークと呼称される黒い月。
しかし、アキラはそこに何があるのかは知ることもないが、ただそこへとリーネが行く様を見ているだけでいられるはずもない。
薄れていくリーネの背に、大きな大きな獣の黒い翼が広がった。
ばさりと羽根を一振り、そしてリーネは席から立ち上がる。
足が床から離れた。
アキラは、羽交い締めるツキの手を取り、そっと引き剥がすと、ゆっくりとリーネに近づく。
リーネはアキラを見て、赤い手袋に包まれたその手を差し出した。
抱くように、その手をとるアキラ。
「スプライトとスピリットに砲の制御は教えておいたから」
「今はそんな話しはいい!」
「大事なことだよ。必ず、アキラには必要になるものだから」
握る手の感覚が薄れていく。リーネが消えていく感覚に恐怖を抱くアキラ。
いや、何か大事なものが失われていく喪失感。
「まだ、俺は大事なことを伝えていない……」
「いいよ、分かってるから」
その時、リーネとアキラを見ていたレインが、ふと気づいて外の映像を見た。
「ダークが……」
それは昼には昇らない月。
砂漠が作る地平線から、真っ黒な月が姿を現していく。
それはまるで、リーネを迎えに来たが如きの光景。
レインの言葉に、映像に目を向けてしまったアキラの顎に手が添えられる。
暖かな感触。
再びの口づけ。
静かに浮き上がるリーネが、アキラとの距離を作る。
アキラはリーネの身体を抱きしめようと手を伸ばす。
だが、にこりとリーネが笑う。
光りが生まれて操縦室を満たすが、それはすぐにリーネの席の上へと集積し、消え去った。
そして、リーネの姿が消えていた。
「沈んでいく……」
それはレインの言葉。
映像には、地平線へと沈む黒い月があった。
何気なくダークを見ていたレインだが、その姿に気づく。
「ドラゴンです!」
映像の端を見え隠れしていた姿、それはドラゴンであった。
ツキは自分の席へと戻り、前方を映す映像を、上方へと切り替えた。
その映像には、頂天号よりも上の高度で、ドラゴン二体が旋回をしていた。
黒い衛星?
衛星を回る衛星?
気にしないでください。
独り言です。
次回、明日中の投稿になります。




