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誤字脱字、直しつつ始めて行きます。
どうか、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。
ブルーとキムボールが境界で出会う前になる。一人の伝令が天幕に飛び込んだ。天幕には、豪華な床机に腰掛けたカロニア伯爵がいた。
伝令からの報告を受け、下がらせたカロニア伯爵は、いらつきのあまり、手にした剣の鞘先で地面を打った。
「殿下は近衛の一部を連れて守護地へ向かっただと」
つぶやき、王子の意図を読む。
ふむ、と一言つぶやき、副官を呼び寄せた。
「連れてきた部隊すべてを、守護地境界と帝国との国境が交わる点まで移動させるのに、どの程度かかるか?」
「兵糧などは後送するとしまして、騎馬を先行、歩兵を後詰めとしまして、発令後半日もかからぬかと」
他国の侵攻を止めようかという部隊だ、それなりの規模を動かすのに、副官は迷いなく答えた。すでに、あり得ることと予測し、計画を立てていたのだ。その対応にカロニア伯爵は満足げにうなずく。
また、新たな兵が天幕へと入ってきた。戦時であるとのカロニア伯爵の宣言で、面倒な誰何はされていない。
次の報告にカロニア伯爵は顔をしかめる。
「財団国境の兵が一部動いたと、こちらへとか」
「はっ、宿営地より、西へと進発。目的地、数は不明。師団規模と思われます」
兵は手に小さな紙を持っていた。
この世界、通信は伝令などの人ばかりでなく、鳥や獣を用いた遠距離通信の方法が確立されていた。ただし、それ専門の部隊が必要であるため、手間もコストもかかり、軍事にしか用いられていないが。
もちろん、精霊を通じた通信魔術もあったが、ただでさえ希少な魔術師で、さらにはその魔術師の中でも使えるものが少なく、模索している段階であった。そして、大精霊同士を使用した通信は、国家の中枢クラスのみが使えるに過ぎない。
そのため、どうしても情報量が少なくなってしまう。
カロニア伯爵は考える。万が一、こちらへの国境線に来たとして、師団規模の増援であれば、平時の守備部隊でも、侵攻は十分に支えきれるであろう。
「殿下の目的は、移動してくる部隊、あるいは財団の国境紛争への介入か」
恐らくは、王子のもとへも部隊移動の情報は届いているはず。そして王子は、自らの勝手な判断で、財団との条約に従い、守護地をぬけて救援へ赴こうとしているはず。目的地は移動してくる部隊の迎撃か、それとも初期目標どおり、財団の国境か。
王子からは伝令すら来ていないのがもどかしい。おそらくは、王からの命令ではなく、自分の勝手な判断であるからであろうが。
なぜ王命が待てぬかと、カロニア伯爵は憤慨するが、それも一瞬のことだった。
カロニア伯爵は考えを巡らせる。目付役を自ら任じているからには、王子のフォローをしたいと考える。しかし、王からの指示は国境の防衛。
「指示の拡大解釈は可能か」
にやりと笑うカロニア伯爵。それには目付役も、防衛行動もすべて自分のためであると分かる悪い笑みであった。自己のことしか考えぬ笑みであった。
「兵を動かす。まずは守護地境界へ向かう!」
号令の元に、天幕内部が慌ただしく動き始めた。
「殿下を助けられれば良し、帝国部隊の脇腹を攻めるも良し。トカゲの親玉に、何を気遣う必要があるか」
周囲が慌ただしくする中、己が手柄のためよ、王子も愚かよなと、一人つぶやくカロニア伯爵であった。
会長補佐室ではミュールが報告書を眺めて、考えにふけっていた。
「帝国が師団規模で部隊を動かした。しかも、こちらに向けてではなく、西へ?王国へか?」
二正面で戦うつもりかと、しかし、それでは帝都から軍を送り出した方が良い。そして、王国を攻めるのも、牽制以上の意味はないと思われる。
現在、帝国と財団には食料、その先に来るであろう飢饉を防ぐという事案が存在するが、王国と事を構える理由がない。しいて上げれば、財団の同盟国である王国からの救援を牽制する程度のこと。
地図を引き寄せたミュールが、一点を見つめる。
「まさか、私の知らぬ情報で何かが」
リータの態度も気にかかる。
帝国の侵攻に裏があるとは考えていた。しかし、この部隊の移動は、さすがに虚をつかれた。
ミュールは帝国に、本格的な侵攻の意思はないと考えていたが、それは違っていたかと思い直す。
では、国境を挟んでの膠着はなぜだ。時間を稼ぐためか。いや、ならば、なぜ部隊を西へと、王国方面へ動かす。戦力の抽出は戦力低下につながる。
末端の兵、いや子供でも分かることだ。
移動した部隊の目的目標が読めない。
増援は送ってある。バス指令は攻守に優れた傭兵だ。任せて逆侵攻も有りか。いや、それでは侵攻した部隊が袋だたきに遭う。
「少し、見守るとしようか」
ふと考える。キムボールはどうしているだろうかと。
動いてくれているとは思う。わずかな兵であっても、合流出来れば、内外にアピール出来る。武の一点だけでも、キムボール一人いれば戦術的な劣勢は覆せるほどだ。うまく立ち回れば、今回のことを収められるかもしれない。敵となっている今でも、エリオットは交渉に乗ってくると信頼できた。性格はよく知っている。
連絡がとれないのがもどかしかった。
次回、明日中には投稿いたします。